【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那

文字の大きさ
上 下
45 / 66
第4章

35・宰相の妻は初めての社交場へ行く

しおりを挟む

 私がリシャルト様の屋敷にやってきて22日目。
 先日リシャルト様から話があったように、フォート公爵家主催の茶会へ行く日がやってきた。

「奥方様、頑張ってくださいね」

「リシャルト様、しっかりフォローなさるんですよ」

「お気をつけて」

 謹慎処分が無事に終わったメイドさんたちは、玄関先で見送ってくれる。

「ありがとう」

 私は、いつもより豪華目なドレスに内心ドキドキしていた。
 私が着ているのは、大人っぽい印象の薄花色のドレスだ。フリルとレースがついているものの控えめで美しい。同じ色のミニハットまで頭に載せられた。すごくオシャレをした気分。
 
 私を茶会に行くためのドレスに着付けてくれたのは当然メイドさんたちだ。
 久々に表へ立つことを許された彼女たちはとても嬉しそうだった。

「謹慎処分が明けたばかりだと言うのに、お前たちは……」

 メイドさんたちの隣でハーバーさんは頭を抱えている。
 この一週間、本当に裏方で頑張っていたみたいだから、謹慎処分明けの今日くらいはさすがに許してあげて欲しい……。
 一瞬私の脳裏に、2日前の地下の作業場で見た、目に光のないメイドさんたちの姿が浮かんだ。あんな元気のないメイドさんたちはもう見たくない。

「ではキキョウ、行きましょうか」

 リシャルト様が私に手を差し伸べてくる。
 正装をしたリシャルト様は、隙がなくてかっこいい。この間の夜、ブランデーの入ったホットミルクを一口飲んだだけで見事に酔っ払った人とは同一人物に思えない。
 あれはあれで可愛かったけども。
 
 「はい」

 あの可愛い姿を見るのは、私だけがいい。
 私は密かにそう思いながら、リシャルト様の手を取って馬車に乗り込んだ。

「リシャルト様、奥方様。行ってらっしゃいませ。」
 

 ◇◇◇◇◇◇


 茶会が行われるフォート公爵のお屋敷は王都にある。
 馬車で小一時間ほど揺られたどり着いたそこは、リシャルト様の屋敷とはまた雰囲気が違った豪邸だった。
 リシャルト様のお屋敷は全体的にアンティーク調というか、レトロな印象を受ける。それに対してフォート公爵のお屋敷は、白を基調としたもの。爽やかでこれもまた美しい屋敷だ。
 
「キキョウ、僕の腕をしっかり持っていてくださいね」

 馬車を降りるとリシャルト様はそう言った。

「はい」

「本当はあなたと手を繋ぎたいのですが……」

 リシャルト様はどこか歯がゆそうだ。
 いつもなら手を繋ぐのだろうが、さすがにこの茶会の場ではマナー違反なのだろう。
 私はそっとリシャルト様の腕に自分の手を回した。
 
「……新鮮です」

 手を繋ぐよりも密着度が高いし、なおかつ大人っぽい気がして、少しだけ照れくさい。
 私がそう呟いてリシャルト様を見上げると、リシャルト様の頬がほんのりと赤くなっている気がした。どうしたのだろう。
 私の視線に気づくと、リシャルト様は咳払いをして顔を逸らした。

「そうですね、新鮮ですね。…………あなたとこうして密着できるなんて、幸せすぎます…………」

「?」
 
 後半、何やら早口でぶつぶつ言っていたが、リシャルト様が口元を手で覆っていたせいかよく聞き取れなかった。


「リシャルト様、並びに奥方様。ようこそおいでくださいました」

 私たちがやって来たことに気づいたのか、複数の使用人さんたちがやってくる。
 出迎えてくれたフォート公爵家の使用人さんたちは、私たちにお辞儀をしてくれた。
 
 そのまま、会場となる庭へと案内される。

 ……庭?

 私はリシャルト様にこそっと尋ねた。

「すみません、今更な質問なんですけど……。今日のお茶会って庭でするんですか……?」

 リシャルト様から茶会の話を聞いたのは一昨日のことだ。
 一昨日も昨日も、リシャルト様は当然仕事で忙しそうですっかり聞くのを忘れていた。
 一応茶会の作法の復習はしてきたが、ハーバーさんにでも、具体的に聞いておくべきだったと私は後悔している。
 なんかヘマしそうで怖い。
 
「あれ、言っていませんでしたっけ。すみません」

 リシャルト様は不思議そうにしている。茶会について私とほとんど話していないことに気づいたらしく、申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「今日はガーデンティーパーティーの形式なんですよ」

 ガーデンティーパーティー。
 言葉から察するにそのままの意味だろう。
 庭でするお茶会。

 今世では見るのは初めてだが、前世ではテレビを通して見たことがあった。

「な、なるほど……」

 テレビで見たのは確か、外国の女王様が広い庭でティーパーティーを開いている様子だ。今回招待されているお茶会は、それとはまた違うのだろうが……。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。フォート公爵はフランクな方ですし、今日の茶会はそこまで格式ばったものではありません」

 リシャルト様は私を安心させるようににこっと笑う。
 だが、私はリシャルト様と違い一般庶民。今までアルバート様の婚約者だったとはいえ名ばかりで、こういう社交場へ招待されたことなどなかった。なんなら、これが初めての茶会である。
 
 ヘマしそうで怖い。
 
 

 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

処理中です...