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第3章
23・宰相の妻は着せ替え人形中
しおりを挟むそうして翌日の昼すぎ。
リシャルト様の住まうフォルスターの屋敷に、大量の試着用ドレスが届いたのは想像に難くないことだった。
ですよね。リシャルト様の今までの言動からしたら、そうなりますよね。
大量の箱にふんわりと詰められているのは、様々なデザインのウェディングドレスだ。
それを一つ一つメイドさんたちがせっせと取り出してはハンガーやトルソーにかけていく。
空き部屋だった屋敷の一室はあっという間に純白に埋め尽くされ、ドレスショップのような有様に変貌した……。
フレアの広がりが美しいお姫様のようなドレスや、シルエットが大人っぽいマーメイドドレス、長い裾のロングトレーン、カジュアルなミニドレスなどなど。
こうやって並べられると、ウェディングドレスって思ったよりも種類があるのだなーと感心してしまう。
「すごいですね……」
私がほぅと見とれながら呟きをこぼすと、ティアラやネックレスなどの小物を並べていたメイドさんの一人がこちらを振り返った。
「早速着てみますかー?」
「着てみましょう! 奥方様!」
「坊っちゃまが帰ってくるまでに、ある程度候補を見つけましょ!」
「え、ええー……?」
ドレスを飾り終わったほかの二人のメイドさんも、次々に賛成してくる。
結局、三人の押しの強さには勝てるわけもない。私は勧められるまま、ウェディングドレスを試着することになった。
◇◇◇◇◇◇
5時間後……。
メイドさんたちによって何着もウェディングドレスを着せ替えられ、私はぐったりしていた。着せ替え人形も楽じゃない……。少なくとも10着は着たと思う。
「き、今日はこれで最後にしましょう……?」
午後6時頃に一度部屋へハーバーさんがやってきたのだが、とっっっても楽しそうに私を着せ替えているメイドさんたちの様子を見て、静かに部屋を出ていった。無言で逃げるなんて酷い。
部屋の隅にある時計をちらりと見やると、もう午後の7時を過ぎようとしていた。
夕日はとっくに沈んでいる。窓の外は薄暗くなり始めているし、そろそろリシャルト様が仕事から戻られるだろう。
「もう時間も遅いですし……。ね?」
必死に訴える私に、メイドさんたちはさすがに勘弁してくれたようで「分かりました」と残念そうに言った。
「仕方がありません。次で最後にしましょう」
「坊っちゃまが1番好きそうなのをとっておきましたので、これだけは着てください」
「坊っちゃま……。空気を読んだ時間に戻ってきてくださいまし……」
何を言っているのかよく分からないが、とりあえず次に着るドレスで最後にしてくれるらしい。助かる……。
そうして30分ほどかけて、次のドレスに着せ替えられた。
この5時間、色々なデザインのドレスを試着してきたが、今日最後に着るこのドレスは特に刺繍が美しいものだった。ふんわりと広がったレースに花の刺繍が繊細に施されていて、とてもかわいい。
鏡に映る自分の姿を見る。何となく、今のところこのドレスが1番しっくりくる気がする。
私は修道院を出たあの日から首に下げている青い雫のネックレスに無意識に手を伸ばしていた。
そういえばこのネックレスもリシャルト様に貰ったものになるのか。
未だに、あの時の少年と今のリシャルト様が同一人物だとはなかなか信じ難い。
「素敵です、奥方様」
「可愛いです、奥方様」
「あ、ありがとう」
今日一日だけで、このメイドたちから何度褒めてもらっただろう。お世辞ではなく本気で言ってくれているのが伝わってくるから、何度でも照れてしまうし、嬉しくなる。
「ぜひ坊っちゃまに見せてあげてください……」
「た、確かにリシャルト様には見てもらいたいな、とは思うけど」
ドレスを手配してくれたのも、お披露目パーティーで私の隣に立つのもリシャルト様だ。だからリシャルト様の意見は伺いたいのだけど、いかんせんまだ屋敷に戻ってこないのだから仕方がないだろう。
と、私が続きの言葉を言おうとしたとき、ちょうどその人の声が部屋の中にかけられた。
「僕が、どうかしました?」
はっと声のした方を見る。部屋の入口の方には、扉を少し開けてこちらの様子を伺っているリシャルト様がいた。
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