【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那

文字の大きさ
上 下
25 / 66
第2章

20・宰相の妻(一応)は指輪を選ぶ②

しおりを挟む

「……この指輪が気になりますか?」

「え、あ……は、はい」
 
 すぐに指輪から目を逸らしたつもりだったのに。どうやら私が指輪を見ていたことに、リシャルト様は気づいていたらしい。
 さすがというかなんというか……。
 ここで「気になりません」と否定するのもおかしい気がして、私はどもりながら肯定した。

「この指輪のモチーフで使われている花の名前が、私の名前と同じなので気になってしまって……」

 私が言うと、リシャルト様はガラスケースの中を覗き込む。

「なるほど。綺麗な花ですね。あなたと同じ名前の花なのですか。……これも贈りましょうか?」

「い、いやいやいや! それはさすがに申し訳ないです!」

 私は大きくぶんぶんと、顔の前で手を振った。
 たしかに気になってはいたし、後で買いに来ようかな、と迷うくらいだった。だが、リシャルト様に買ってもらうのはなんか違う。
 それでなくとも、さっき結婚指輪を買ってもらったばかりだ。
 リシャルト様は宰相閣下で次期公爵という身分だから、指輪の一つや二つを買ったところでなんともないのかもしれない。
 だが、いくら一応リシャルト様の妻という立場とはいえ、私はリシャルト様にねだったりたかったりするつもりは毛頭ないのだ。
 前世でも今世でも、周りからの助けを受けながらも一応自立して生きてきた。寄りかかるだけは嫌だ。

 そもそも二人で付ける結婚指輪なのだから私もお金を払った方がいいのではないか?
 
「むしろ、指輪代とか、今までのお礼とか、私の方が何か返さないといけないくらいで……!」

 わたわたと言う私に、リシャルト様は少し困ったような顔をする。
 リシャルト様の申し出を断ったからだろうか。
 言ってから、しまった、と私は思う。
 そんな困ったような顔をさせたいわけではなかったのだ。

「指輪代は僕に払わせてください。こちらはあなたにかっこいいところを見せたいのですから」

 リシャルト様はうーんと口元に指を当てて考える仕草を見せた。

「でしたら、一つわがままを言ってもいいですか」

「はい! よろこんで! なんでもどうぞ!」

 おお! やっと今までのお礼ができる!?

 待ってました、とばかりにどこぞの居酒屋ばりの返事を私がすると、リシャルト様はもう一度店主を呼びつけた。

「今度はなんだい」

「すみませんが、デザイン変更をお願いしてもよろしいですか?」

「いいけど、納期と値段が変わっちまうよ」

「かまいません。先ほどお願いした指輪に、この花飾りのデザインを追加で」

 目の前でリシャルト様と店主の会話がどんどん進んでいく。私は呆気に取られてしまって二人を見守るしかなかった。

 
 ◇◇◇◇◇◇

 
 店から出ると、もう日が落ち始めようとしていた。西の空が赤く燃えている。
 
「勝手にデザインを変更してすみません」

 宝飾店を後にして、貴族街の静かな道を歩きながらリシャルト様が私に謝ってきた。

「え? いや、それは別に構いませんし、むしろありがたいですけど、リシャルト様のワガママって結局なんですか?」

「言いましたよ」

「え?」

 リシャルト様、別にわがまま言ってなくない?
 私の好きなデザインを指輪に取り入れようとしてくれた。むしろ結果的にわがままを叶えてもらったのは私の方だ。

「僕は、あなたがあのデザインの指輪をつけているところを見たいと思いました。いけませんか?」

「い、けなくはないですけど……」

 ストレートに言われるものだから、こちらとしては参ってしまう。
 なんなんだほんと、この宰相様は……!
 よくこんなすらすらと甘い言葉を吐けるものだ。

「ああそうだ。最後に寄りたい場所があるのですが、いいですか?」

「はい、もちろんです」

 思い出したように言ったリシャルト様の言葉に、私は頷いた。
 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

処理中です...