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第2章
15・宰相の妻(一応)はデート準備中②
しおりを挟む部屋に入ってきたリシャルト様は、デート仕様に仕立てあげられた私に視線を向けるやいなや、ものの見事に固まった。
え、なに。メイドさんたちが手伝ってくれたから、そんな変な格好じゃないはずだけど……。
私を見たと思ったらすぐにリシャルト様が動きを止めたものだから、いささか不安になる。
私が着ているのはシンプルな白のワンピースだった。
長い私の黒髪は、ポニーテールをくるりんぱしてロール状にお団子を作る髪型、いわゆるギブソンタックにしてもらった。三つ編みまで編み込まれてて可愛い。この上に、帽子をかぶる予定だ。
私は『黒髪黒目の聖女』として国民に知られているし、リシャルト様は宰相閣下だ。
そのままの状態で行っては否が応でも目立つ。
今回のお出かけは一応お忍びということになるので、派手なものは避けようとメイドさんたちが考えてくれたらしい。
私を取り囲んでいたメイドさんたち三人はすすっと移動すると、今度はリシャルト様を取り囲む。
してやったり、とメイドさんたちはにやにやしていた。
「どうです? リシャルト様。完璧でしょ」
「……完璧です」
「あたしたち、これでもリシャルト様の好みを把握してますので」
「さすがです。これほどまでに美しいキキョウを見ることができるとは……。生きててよかった。褒美に、あなた方のお眼鏡に叶いそうな独身貴族の男を数名見繕っておきます」
「さすがリシャルト様。話が分かりますね」
待て待て待て。なんか上手い具合にメイドさんたちの交渉のダシにされた気がしてならない。
前世で私が盛大に触れてきたゲームやアニメ、漫画、ラノベなどの二次元コンテンツでは、メイドさんという属性をもったキャラは数多くいた。
だがしかし、現代日本にまがい物のメイドさんはいても、本物の二次元のようなメイドさんはいない。いたとしても、せいぜいハウスキーパーや家政婦などだろう。
さすが、この世界はラノベの世界に近い異世界なだけはある。
この世界には、二次元のメイドさんみたいな職業は存在しているが……。ただ、一般的な主人とメイドの関係って絶対こんな、リシャルト様とメイドさんたちのような感じではないと思う。
「キキョウ」
「はい」
メイドさんたちと話し終えたらしいリシャルト様が、鏡台の前に座ったままだった私の方へ近付いてきた。優しく名前を呼ばれる。
リシャルト様は普段着なのか、宰相として働いている時よりは軽装だった。前は腰の長さ、後ろは長い裾の貴族然としたコートがよく似合っている。
というか、かっこいい。
私は思わず見とれてしまった。
「よく似合っていますね。かわいいです」
面と向かってリシャルト様にそう言われ、首から上の温度が急激に上がる。
目を細めているであろうリシャルト様の顔を直視することができなくて、私は俯いた。
「り、リシャルト様も、よく似合っています、よ」
「ありがとうございます」
どうにか褒め言葉を返す。だが、私はまだ顔を上げられそうになかった。
相手の顔を見ることができないほど恥ずかしく感じるのなんて、初めてだ。
「そろそろ出発なさらないと遅くなりますよー」
メイドさんたちが私たちの様子を見かねてか、声をかけてくれる。
「そっ、そうですね! リシャルト様、行きましょう!」
私はぱっと顔を上げると、リシャルト様に赤くなっていることがバレないようにそう言った。
リシャルト様は、微笑ましそうにくすっと笑いをこぼした。
なんだか、バレているような気がしてならない。
「ええ。行きましょうか」
優しく差し出されたリシャルト様の手に、私は少しドキドキしながら自分の手を重ねた。
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