【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那

文字の大きさ
上 下
18 / 66
第2章

13・宰相の妻(一応)は忙しい

しおりを挟む

 私がリシャルト様の屋敷に来てから1週間後。

「つっ……かれたぁ……」

 私は与えられた自室のベッドにへたり込んでいた。
 というのも、ハーバーさんにみっちり勉強させられていたのだ。
 
 これでも一応アルバート王太子殿下の元婚約者だったので、一通りの礼儀作法は教えこまれてはいると思っていた。だが、それは勘違いだったようだ。どうやら私は、今までは聖女であったがためにいろいろ見逃されていた部分があったらしい。
 
 食事作法や会話術、ダンス、使用人たちへの指示の出し方に、いずれリシャルト様が継ぐ予定のフォルスター公爵家の歴史について、などなどなど……。
 ハーバーさんによって、私の予定はみっちりスケジューリングされた。

 リシャルト様は「そんなことしなくていいですよ」と言ってくれたが、そうもいかないだろう。
 これはある種、私が自由を求めた結果とも言えるのだ。
 面倒くさいアルバート様の婚約者であることや、聖女の激ハードな責務から解放されたその代わりに、私は自由を手に入れた。はずだ。
 みっちりレッスンがスケジューリングされてはいるものの、しっかり休憩時間は取られているし、9時から17時までという常識的な範囲内だ。あ、感動して泣きそう……。

 今までが普通ではなかったもんなぁ……。

 前世はブラック企業の社畜で、連勤24日を達成。休憩時間? 何それ。連勤で血走った瞳をした上司の「我々は会社の下僕だ! 寝る間も休む間も惜しんで全ていのちをささげるのだ!」という言葉は迷言だ。多分あの人も、連勤のし過ぎで壊れてたんだと思う。
 今世は今世で、休日という概念もなく、朝から晩までぶっ続けで治癒作業。1人につき治癒にかかる時間は約半日。いつ死にそうな負傷者が運び込まれてくるかも分からず、夜中に叩き起されることもしばしばあった。

 それに比べたら、今は遥かに天国だ……!

 無事に1週間も終わったことだし、少し気分転換に散歩でもしてこようかな。

 私は起き上がるとドレスを整えた。今着ている滑らかな純白の生地に金の飾りが付いたこの服は、私がこの屋敷に来た次の日にリシャルト様から頂いたものだ。
 あれから仕事が忙しいのか、リシャルト様とまともに話していないが元気にしているのだろうか?


 ◇◇◇◇◇◇


 庭に出ると、真っ赤に燃える夕日が西へ沈もうとしていた。咲き誇る花々が茜色に輝いている。

「ん?」

 どこからか、馬車の走る音が聞こえてくる。
 私が門の方へ視線をやると、ちょうど門番が鉄扉を開き、馬車が入ってくるところだった。
 キャリッジにはたかを模した紋章がついている。
 
 あっ、これ、さっきハーバーさんに教えてもらったやつだ!

 前世で有名だった、どこぞの通信教育のフレーズに近いものが頭に浮かぶ。
 鷹を模したこの紋章は、フォルスター家のもの。ということは、中に乗っているのはリシャルト様だろう。

 馬車は玄関の前で止まる。程なくしてリシャルト様が降りてきた。

「リシャルト様、おかえりなさいませ」

 ちょうど近くにいたので、私はリシャルト様に近寄りながらそう話しかけた。
 リシャルト様は驚いたように振り返る。
 だがすぐに、嬉しそうに相好を崩した。

「ただいま戻りました。庭に出ていたのですか? 帰って1番にキキョウの顔を見ることが出来て嬉しいです」

「少し、散歩を。……リシャルト様」

「はい?」

「もしかして、お疲れ、ですか?」

 なんとなく、本当になんとなくだが、リシャルト様が疲れているように思った。
 前に会った時よりも、青い瞳に力がないような気がする。
 リシャルト様は少しだけ目を見開いた。

「よく、わかりましたね」

「なんとなくですよ。なにかあったんですか?」

 私が聞くと、リシャルト様は渋い顔でこめかみを押さえる。

「ええまぁ……。国王陛下がアルバート様とエマ様に怒り狂っておりましてね……。なだめて国政を回すのに一苦労で……」

 あっ、察しました。
 宰相という仕事は大変そうだ……。

 
「……これは想定よりも早く、エルウィン様を担ぎあげなくてはならないかもしれません……」

 
「? 今、なにか言いました?」

 大きく風が吹いて、リシャルト様の声がよく聞こえなかった。
 私が聞き返すと、リシャルト様はにこりと微笑みを向けた。
 
「いえ、何も」

 何か言っていたような気がしたのは気のせいだったのだろうか。
 リシャルト様が屋敷の入口を開ける。
 私もリシャルト様の後を追って、室内に入った。
 歩きながら、リシャルト様が振り返る。
 
「それよりもキキョウ。明日はお暇ですか?」

「はい? ええと、レッスンの予定はありませんが……」

 ちょうど明日はなんの予定も入っていない日だった。1週間前に今後のスケジュールを渡された時、休日があることに驚く私に対して「休むことも立派な仕事です」とハーバーさんに言われたことは忘れない。嬉しくて泣きそう。
 
「ならよかったです」

「何かあるんですか?」

 尋ねると、リシャルト様が足を止めて私の方へ向き直った。そっと両手を握られる。なにごと?

「結婚指輪を買いに行きましょう」
 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

処理中です...