【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那

文字の大きさ
上 下
15 / 66
第2章

10・お飾り妻は夜の散歩中

しおりを挟む

 私はネグリジェにカーディガンを羽織って、リシャルト様の後をついていく。
 リシャルト様はいつの間にやら私の手を握っていた。いちいち動きがスマートすぎる。

 赤い絨毯の敷かれた廊下を歩く中、リシャルト様は無言だった。
 ちらとリシャルト様の横顔を盗み見る。廊下の明かりが、端正なリシャルト様の顔を照らしていた。
 
「どうかしましたか?」

 私の視線に気づいたリシャルト様が歩きながら視線をこちらに向けてくる。
 私は慌てて視線を逸らした。

「い、いえ、お戻りが遅かったのって、何かあったのかなーと……」

 適当に誤魔化すようにそう言うと、リシャルト様は「ああ」と声を上げた。

「実は少し店を回っていましたら遅くなってしまいまして……」

 リシャルト様はどこか気恥ずかしそうに言う。

「店?」

 なんの店を回っていたのだろう。
 私が小首を傾げた時、ちょうど玄関の前まで着いてしまって話が中断される。リシャルト様が扉を開けてくれた。
 庭に出て、薔薇の咲き誇る一角までやってくると、リシャルト様は私の方へ振り返った。

「あなたに贈る、結婚指輪をみていたのですよ。どんなのが似合うかな……と」

「え……」

 ざああ、と風が吹いて赤い薔薇の花びらが何枚か風に乗って飛んでいく。
 私はリシャルト様の言葉に、時が止まったように感じてしまった。

「今度の休みに、一緒に見に行きませんか? あなたが気に入るものを贈りたいのです」

「……あ、ありがとう、ございます」

 指輪を贈ってもらう、だなんて。前世でも経験がない。
 緊張で口がカラカラになっているのが分かる。

 リシャルト様は本当に優しくしてくれる。
 前世も今世も過労で倒れるわ、今世では前世よりも聖女として働き詰めだわな私にとって、彼はご褒美みたいな人だ。
 言葉も仕草も柔らかくて、どこぞの王子様よりも王子様のよう。例えるなら、女の子が一度は夢見るような絵本の中の王子様みたい。

「リシャルト様、本当に色々とありがとうございます。ですが、私はリシャルト様にここまで良くしていただく理由が思い当たらなくて……」

 他に好きな女性がいるのだろうが、それにしても優しすぎる。
 私の言葉に、リシャルト様は穏やかな表情で微笑んだ。

「ありますよ。あなたは昔僕を助けてくれた」

「……?」

「あなたのことを幸せにしたいのです」

「……っ」

 そんな甘やかな顔で、夢みたいな言葉をかけられたら、勘違いしてしまいそうになる。恋に落ちてしまいそうになる。
 落ち着け。落ち着くんだ、キキョウ……! 

「ですが、リシャルト様には大切な女性がいるのでしょう? ハーバーさんから少し聞きました」

「うん?」

「私は、その方と結ばれるためのお飾りの妻なのですか……?」

 もしそうなら、早めに教えて欲しい。
 うっかりリシャルト様を本気で好きになってしまう前に。

 勇気をだして尋ねた私に、リシャルト様は盛大なため息をついてその場にしゃがみ込んだ。
 
「なぜそんな勘違いをしているんですか……」

「え? えーと?」

 勘違い? 何がだろう。

「ハーバーから何を聞いたのかは知りませんが、僕がずっと大切に思っている女性というのはあなたですよ。キキョウ」

「…………はい?」

 にわかには信じられないリシャルト様の言葉に、私はぱちぱちと目を瞬かせた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

処理中です...