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第1章
4・お飾り聖女は宰相の手を取る
しおりを挟む結婚!? いや私はこの人と付き合ってないし! どういうこと!?
生まれて初めてのプロポーズと目の前の金髪の美形男子に、混乱して目が回りそうだ。なんなら本気でクラクラする。
「ど、どういうことだ! リシャルト!」
「どういうことも何も……。アルバート殿下は聖女様との婚約を破棄なさるんでしょう? でしたら、僕が聖女様にアプローチしても何ら問題ないかと」
リシャルトと呼ばれた男性はにこりと優雅な微笑みを浮かべて、慌てふためくアルバート様の方へ視線だけを向けた。
そして私にまた向き直る。
私の戸惑いを察してか、リシャルト様は私に差し出していた手をそっと下ろしてくれた。
代わりにその手を胸に当て、柔らかく目を細める。
「聖女様、突然のご無礼をお許しください。思わず求婚してしまうほど、あなたが魅力的だったのです」
……うさんくさい。
リシャルト様はにっこりと綺麗な笑顔を称えている。街の乙女ならば、きゃあと黄色い声でも上げたかもしれない。
しかし。完璧で、全く隙のない彼の笑みは、前世で2次元の男子たちを見すぎた私にとっては裏があるとしか思えなかった。
こういう柔和なキャラほど、裏切ったり、腹黒かったり、何か抱えてたりするもんなんだ。知ってる。
そして私は、そういう柔和系のキャラが大好物だったのである。
何この状況。最高に面白そうな展開だ。
内心ワクワクが止まらない私に追い打ちをかけるように、リシャルト様が私にそっと顔を近づけてきた。
「あなたにとって、そう悪い話では無いと思いますよ。僕なら、あなたに自由を与えることが出来る」
ひそりと。
誰にも聞こえないように小声で囁かれたリシャルト様の言葉に、私の心は秒で決まった。
「その求婚、お受けします!」
「ありがとうございます」
私がリシャルト様に手を差し出すと、そっと手を握り返してくれた。
中性的な見た目に反して、リシャルト様の手は大きく硬い。その事に、私の心臓がどきりと跳ねる。
前世を含め、私には男性経験がほとんどなかった。まともに男性の手を握ったのなんて、何年ぶりだろう。保育園時代ぶりか……?
傍から見れば手を取り合い見つめ合う私たちに、
「おい! 勝手に話を進めるな!」
アルバート様は何故か怒り、
「むぅ」
エマ様はぷぅと頬を膨らませ、
「素敵です……」
ニコラは、両手を組んで夢見る乙女のような状態だった。
三者三様すぎて面白い。
そしてリシャルト様はというと……。
「改めまして、聖女様。僕はリシャルト・フォルスター。まだ若輩者ではありますが、この国の宰相をつとめております。よろしくお願いいたしますね」
と言って、私の手をとったまますっと跪いた。
え、この人宰相閣下……!? そりゃ見覚えあるわけだ! そう言われて思い返せば、国王陛下に謁見した時にいつも金髪の男性が近くに控えていたことに気づく。
驚いたのもつかの間。リシャルト様は、私の指先を掴んだまま、くいと引き寄せてきた。優しく手の甲に口付けられる。
はい……!?
まるで忠誠を誓う騎士のような仕草に、私はぴしりと固まってしまった。
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