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第十三章 屍鬼(したい)置き場でロマンスを
助勢と有効利用
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「じゃ……ジャスミンさん、大丈夫ですかっ?」
瓦礫に埋もれたジャスミンを慌てて引きずり出しながら、パームは、彼に声をかける。
「お……パーム……。オッサンはともかく、お前も生きてたのか……」
「……何ですか、お前“も”って……」
ジャスミンの傷口に左手を翳しながら、頬を膨らませるパーム。
そんな彼を見て、ジャスミンは苦痛に顔を歪めながらも、ニヤリと薄笑みを浮かべる。
「いやいや~、他意は無いよー。ただ、相手が相手だったから、正直、サクッと殺られちまったかと思ってたぜ。……特にお前はさ」
「酷っ……!」
ジャスミンの歯に衣を着せぬ言葉に、その目元をひくつかせるパーム。
と、ワイマーレとガッチリと組み合ったヒースが、笑い出した。
「ガッハッハッ! そりゃあ、酷え言い草だぜ、色男! つーかよ、実質的に死神を倒したのは、坊っちゃんの方だぜ」
「え、嘘、マジで? こんな、女ヅラしたもやしっ子が?」
ビックリして、思わず跳ね起きるジャスミン。パームは、不機嫌そうに片目を眇める。
「何ですか、もやしっ子って……あータイヘンだー。もう僕の雌氣が尽きてしまう―。ジャスミンさんのケガの治療が出来ないなー困ったなー」
「ちょ、おまっ! ……ウソウソ! ジョーダンだって~! さすがパームさん! やれば出来る子だと思ってましたよ~、ボクは!」
眉間に皺を寄せて、ジャスミンに翳していた手を放そうとするパームに、慌ててフォローを入れるジャスミン。――それでも、信じられないと言いたげに首を捻る。
「……でもさ、マジな話、どうやって倒したんだ、あの“銀の死神”をさ?」
「――倒してはいませんよ。……しばらくの間は動く事も出来ないとは思いますが」
「あ、そうなんだ……て、いやいや。それでもスゲえって! あんなバケモノを、どうやって?」
興味津々で訊いてくるジャスミンに、苦い笑いを浮かべながら、パームは答えた。
「ノリトという浄化法を用いて、エネルギー源として彼女の中に貯えられていた、喰べられた人たちの魂を浄化していっただけです。……あと、バケモノなんかじゃ無かったですよ、あの人は……」
そう言うと、パームは言葉を切り、目を閉じると、囁くような声で付け加えた。
「――ただの、可哀相な女性でした」
「……そうか」
彼の言葉の響きで、ジャスミンも色々と察したのか、先程までのふざけた態度を改め、真面目な顔で頷いた。
と――、
「ば――馬鹿な! 出任せを言うな、この三流神官が!」
部屋の奥で、上ずった怒声が上がった。パームとジャスミンが顔を向けると、異相を更に歪めたフジェイルが、顔色を赤くしたり蒼くしたり白くしたりして、歯を剥き出していた。
「あ――あの、“銀の死神”が、お前のような神官見習い如きに倒されるはずが無いだろう! あれは、旧文明が創り出し、滅んだ原因にもなった、お前たちの言う“神話世界”の遺物だぞ! そんな世迷い言……信じられるかッ!」
「信じるも信じないもねえよ」
フジェイルの言葉に応えたのは、ワイマーレと組み合ったままのヒースだ。
「――ただ、死神とやり合った俺たちふたりが、生きてこの場に立っている。――それが何よりの証拠だと思うがね」
「……チッ!」
フジェイルは、ヒースの言葉に、苦々しい表情で舌を打つと、ワイマーレに向けて指を鳴らした。
「――ええい、ワイマーレ! 何をしている! 枷は既に外した! その忌々しい者たちを、早く八つ裂きに――」
『火を統べし フェイムの息吹 命の炎! 我が手に宿り 全てを燃やせッ!』
「――ッ!」
フジェイルの言葉は、聖句と共に放たれた、炎鞭の一撃によって遮られる。
「――アザレアァッ!」
「貴方は、自分の命の心配だけしていなさいっ! 『地を奔る フェイムの息吹 命の火! 我が手を離れ 壁を成せっ!』」
「――ええいっ! 邪魔だ、鬱陶しい!」
フジェイルは、己の足元に屹立しようとする炎の壁を、間一髪で後方へ跳んで避けざま、
『ダレムノチ ワケテフクミシ シカバネヨ ワレノメイモテ ヨミガエルベシ!』
と呪句を唱え、パチンと指を鳴らした。
次の瞬間、アザレアの足元の床が盛り上がり、突き破って無数の手が伸びてくる。
今度は、アザレアの方が、飛び退いて避ける番だった。
アザレアに躱された無数の手たちは、床にその掌をつける。そして、冥界の底から這い上がってきたように、無数の腐りかけた屍達が、ノロノロと床に開いた穴から這い出てきた。
屍達は、いずれも粗末な胴丸を身につけ、眼窩から腐り落ちかけた眼球をギョロギョロと廻らしながら、獲物をその視界に捉えると、手にした錆び付いた刀や槍を振り上げ、彼女に迫る。
「う――!」
アザレアは、その醜悪な様子と、その強烈な腐臭に、思わず口を押さえる。生理的嫌悪感と倫理的嫌悪感を込めた軽蔑の視線を、炎の壁で薄ら笑いを浮かべる火傷塗れの顔に向けた。
「……まさか、これって――」
「――ご明察」
フジェイルは、炎に照らされた顔を哄笑に歪めて、愉快そうに言った。
「彼らは、ワイマーレ騎士団との戦いで、騎士達に斃された我々の同胞だよ。あたら朽ちさせるのも勿体ないと思ってね。……結局、タダの一体も屍人形にはなり得なかった訳だが、屍鬼としては充分だね。まぁ――所謂ひとつの……有効利用ってヤツさ」
瓦礫に埋もれたジャスミンを慌てて引きずり出しながら、パームは、彼に声をかける。
「お……パーム……。オッサンはともかく、お前も生きてたのか……」
「……何ですか、お前“も”って……」
ジャスミンの傷口に左手を翳しながら、頬を膨らませるパーム。
そんな彼を見て、ジャスミンは苦痛に顔を歪めながらも、ニヤリと薄笑みを浮かべる。
「いやいや~、他意は無いよー。ただ、相手が相手だったから、正直、サクッと殺られちまったかと思ってたぜ。……特にお前はさ」
「酷っ……!」
ジャスミンの歯に衣を着せぬ言葉に、その目元をひくつかせるパーム。
と、ワイマーレとガッチリと組み合ったヒースが、笑い出した。
「ガッハッハッ! そりゃあ、酷え言い草だぜ、色男! つーかよ、実質的に死神を倒したのは、坊っちゃんの方だぜ」
「え、嘘、マジで? こんな、女ヅラしたもやしっ子が?」
ビックリして、思わず跳ね起きるジャスミン。パームは、不機嫌そうに片目を眇める。
「何ですか、もやしっ子って……あータイヘンだー。もう僕の雌氣が尽きてしまう―。ジャスミンさんのケガの治療が出来ないなー困ったなー」
「ちょ、おまっ! ……ウソウソ! ジョーダンだって~! さすがパームさん! やれば出来る子だと思ってましたよ~、ボクは!」
眉間に皺を寄せて、ジャスミンに翳していた手を放そうとするパームに、慌ててフォローを入れるジャスミン。――それでも、信じられないと言いたげに首を捻る。
「……でもさ、マジな話、どうやって倒したんだ、あの“銀の死神”をさ?」
「――倒してはいませんよ。……しばらくの間は動く事も出来ないとは思いますが」
「あ、そうなんだ……て、いやいや。それでもスゲえって! あんなバケモノを、どうやって?」
興味津々で訊いてくるジャスミンに、苦い笑いを浮かべながら、パームは答えた。
「ノリトという浄化法を用いて、エネルギー源として彼女の中に貯えられていた、喰べられた人たちの魂を浄化していっただけです。……あと、バケモノなんかじゃ無かったですよ、あの人は……」
そう言うと、パームは言葉を切り、目を閉じると、囁くような声で付け加えた。
「――ただの、可哀相な女性でした」
「……そうか」
彼の言葉の響きで、ジャスミンも色々と察したのか、先程までのふざけた態度を改め、真面目な顔で頷いた。
と――、
「ば――馬鹿な! 出任せを言うな、この三流神官が!」
部屋の奥で、上ずった怒声が上がった。パームとジャスミンが顔を向けると、異相を更に歪めたフジェイルが、顔色を赤くしたり蒼くしたり白くしたりして、歯を剥き出していた。
「あ――あの、“銀の死神”が、お前のような神官見習い如きに倒されるはずが無いだろう! あれは、旧文明が創り出し、滅んだ原因にもなった、お前たちの言う“神話世界”の遺物だぞ! そんな世迷い言……信じられるかッ!」
「信じるも信じないもねえよ」
フジェイルの言葉に応えたのは、ワイマーレと組み合ったままのヒースだ。
「――ただ、死神とやり合った俺たちふたりが、生きてこの場に立っている。――それが何よりの証拠だと思うがね」
「……チッ!」
フジェイルは、ヒースの言葉に、苦々しい表情で舌を打つと、ワイマーレに向けて指を鳴らした。
「――ええい、ワイマーレ! 何をしている! 枷は既に外した! その忌々しい者たちを、早く八つ裂きに――」
『火を統べし フェイムの息吹 命の炎! 我が手に宿り 全てを燃やせッ!』
「――ッ!」
フジェイルの言葉は、聖句と共に放たれた、炎鞭の一撃によって遮られる。
「――アザレアァッ!」
「貴方は、自分の命の心配だけしていなさいっ! 『地を奔る フェイムの息吹 命の火! 我が手を離れ 壁を成せっ!』」
「――ええいっ! 邪魔だ、鬱陶しい!」
フジェイルは、己の足元に屹立しようとする炎の壁を、間一髪で後方へ跳んで避けざま、
『ダレムノチ ワケテフクミシ シカバネヨ ワレノメイモテ ヨミガエルベシ!』
と呪句を唱え、パチンと指を鳴らした。
次の瞬間、アザレアの足元の床が盛り上がり、突き破って無数の手が伸びてくる。
今度は、アザレアの方が、飛び退いて避ける番だった。
アザレアに躱された無数の手たちは、床にその掌をつける。そして、冥界の底から這い上がってきたように、無数の腐りかけた屍達が、ノロノロと床に開いた穴から這い出てきた。
屍達は、いずれも粗末な胴丸を身につけ、眼窩から腐り落ちかけた眼球をギョロギョロと廻らしながら、獲物をその視界に捉えると、手にした錆び付いた刀や槍を振り上げ、彼女に迫る。
「う――!」
アザレアは、その醜悪な様子と、その強烈な腐臭に、思わず口を押さえる。生理的嫌悪感と倫理的嫌悪感を込めた軽蔑の視線を、炎の壁で薄ら笑いを浮かべる火傷塗れの顔に向けた。
「……まさか、これって――」
「――ご明察」
フジェイルは、炎に照らされた顔を哄笑に歪めて、愉快そうに言った。
「彼らは、ワイマーレ騎士団との戦いで、騎士達に斃された我々の同胞だよ。あたら朽ちさせるのも勿体ないと思ってね。……結局、タダの一体も屍人形にはなり得なかった訳だが、屍鬼としては充分だね。まぁ――所謂ひとつの……有効利用ってヤツさ」
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