129 / 176
第十一章 “DEATH”TINY
右掌と左掌
しおりを挟む
「な――何だ! 何が起こった……って、貴様ら!」
いつもは、虫の声さえ聞こえない重苦しい静寂に包まれているはずのダリア傭兵団本部に突如響き渡った轟音によって眠りを妨げられ、泡を食って音の源へと駆けつけた傭兵達。
彼らは、見るも無惨に崩れ落ちた牢舎の壁と、そこからのそのそと出てきた三人の影を見付けて、驚愕しながら叫んだ。
「やべっ! もう見つかった……っていうか、あんだけデカい音を立ててりゃ当然かぁ!」
と、しまったという顔で舌を出したジャスミンは、背後を振り返ってウインクをしてみせる。
「……つー事で、オッサン! 責任とってよね!」
「やれやれ。新しいボスは、人使いが荒いねえ」
「あ……待って下さい、ヒースさん……まだ、傷が塞がってなくて……」
立ち上がろうとするヒースを、左手を彼の額に翳しながら必死で押し止めるパーム。
彼が目を閉じて集中すると、左手から溢れる蒼い光が強まり、ヒースの額を濡らす傷口がみるみる塞がっていく。
「てめえらぁ! 何してくれてるんじゃぁあ!」
だが、傭兵達に、ヒースの治療を待ってやる理由も義理も無い。彼らは短剣やサーベルを抜き放ち、狭い廊下を一列になって、脱獄者たちへ向かって突進する。
「お……おい、来たぞ! マズいって……。俺、今、無ジンノヤイバ持ってねえんだぞ!」
そう、悲鳴を上げながら、素早くヒースの広い背中の陰へと隠れるジャスミン。
「じゃ……ジャスミンさん……、それは少しみっともない……」
「だってしょうがないじゃん! さすがに丸腰は無理無理無理のカタツムリ!」
ハラエを施しながら呆れ顔のパームに向かって、口を尖らせるジャスミン。
「やれやれ。しょうがねえなぁ」
ヒースは、苦笑いを浮かべると、足元の小さな瓦礫をいくつか拾い上げると、
「――ホラよっ!」
と、迫り来る傭兵達に向かって投げつけた。
「――ぶべらっ!」
カ――――ンと、乾いた音を立てて、何人かの傭兵の頭に瓦礫が命中し、傭兵達は白目を剥いて仰向けに倒れる。
「オイオイ、死んだんじゃないの、あの人たち……?」
ジャスミンが、ヒースの背中から顔だけ出して、思わず相手の安否を心配する。ヒースは、彼の言葉に対して、肩を竦めてみせた。
「いやいや、あれでも、最大限優し~く投げてやったぜ。あれくらいじゃ死なねえだろ……多分」
「オッサンの『優しく』は、常人にとってはぜ~んぜん優しくなさそうなんだよなあ……」
「――って、次、来ましたよ!」
パームの叫んだ通り、仲間の身体の陰に隠れて石礫の直撃を避けた傭兵が、昏倒する仲間の身体を飛び越えて、無謀を顧みずに突っ込んでくる。
「おっとっと……石、石……と」
ヒースは足元を探るが、手頃な瓦礫が見つからない。
「おい! オッサン、前、前っ!」
ジャスミンが悲鳴を上げて、慌ててヒースの背中の後ろに隠れる。
その時、
『ブシャムの聖眼 宿る右の掌 紅き月 集いし雄氣 邪気を滅するっ!』
ミソギの聖句が唱えられると同時に、真っ赤に輝く光球が、傭兵の方に向かって放たれ、彼の身体に到達するや、紅い光の衝撃波と化し、その身体を駆け巡った。
「が、ああああ……!」
傭兵は、くぐもった悲鳴を上げると、白目を剥いて、糸の切れた操り人形のように、その場に頽れる。
「……ふう」
安堵の溜息を吐いたパームは、左手はヒースの頭に翳したまま、“ミソギ”を放ち、仄かに紅く光るブシャムの聖眼が刻まれた右手を下ろした。
「ひゅ――、やるじゃん、パーム君! “ハラエ”しながら“ミソギ”をぶっ放すとか……成長したねえ~! 果無の樹海の頃とは見違えるわ!」
ジャスミンが、思わず口笛を吹いて、パームを絶賛する。パームは照れて、端正な顔の白い頬を真っ赤に染めた。
「……いや、からかわないで下さいよ、ジャスミンさん。――はい、ヒースさん。塞がりました……傷」
「お、すまねえな、坊ちゃん」
パームが翳した左掌をどけると、ヒースの額にパックリと開いていた傷は、嘘の様に消えていた。
「大したもんだな、坊ちゃん。負傷してなんか無かったみてえに、痛みが引いたぜ」
「もう……ヒースさんまで……」
パームは、耳の先まで顔を真っ赤にして照れている。
「――っと、いつまでもこんな所でマッタリしている訳にもいかない。……まずは、得物だ。ずっと石礫で戦う訳にもいかないからな……」
ジャスミンは、そう言うと、スックと立ち上がった。
「行こうぜ。牢舎の詰め所に向かうぞ。……アザリーが、言ってた通りにな」
いつもは、虫の声さえ聞こえない重苦しい静寂に包まれているはずのダリア傭兵団本部に突如響き渡った轟音によって眠りを妨げられ、泡を食って音の源へと駆けつけた傭兵達。
彼らは、見るも無惨に崩れ落ちた牢舎の壁と、そこからのそのそと出てきた三人の影を見付けて、驚愕しながら叫んだ。
「やべっ! もう見つかった……っていうか、あんだけデカい音を立ててりゃ当然かぁ!」
と、しまったという顔で舌を出したジャスミンは、背後を振り返ってウインクをしてみせる。
「……つー事で、オッサン! 責任とってよね!」
「やれやれ。新しいボスは、人使いが荒いねえ」
「あ……待って下さい、ヒースさん……まだ、傷が塞がってなくて……」
立ち上がろうとするヒースを、左手を彼の額に翳しながら必死で押し止めるパーム。
彼が目を閉じて集中すると、左手から溢れる蒼い光が強まり、ヒースの額を濡らす傷口がみるみる塞がっていく。
「てめえらぁ! 何してくれてるんじゃぁあ!」
だが、傭兵達に、ヒースの治療を待ってやる理由も義理も無い。彼らは短剣やサーベルを抜き放ち、狭い廊下を一列になって、脱獄者たちへ向かって突進する。
「お……おい、来たぞ! マズいって……。俺、今、無ジンノヤイバ持ってねえんだぞ!」
そう、悲鳴を上げながら、素早くヒースの広い背中の陰へと隠れるジャスミン。
「じゃ……ジャスミンさん……、それは少しみっともない……」
「だってしょうがないじゃん! さすがに丸腰は無理無理無理のカタツムリ!」
ハラエを施しながら呆れ顔のパームに向かって、口を尖らせるジャスミン。
「やれやれ。しょうがねえなぁ」
ヒースは、苦笑いを浮かべると、足元の小さな瓦礫をいくつか拾い上げると、
「――ホラよっ!」
と、迫り来る傭兵達に向かって投げつけた。
「――ぶべらっ!」
カ――――ンと、乾いた音を立てて、何人かの傭兵の頭に瓦礫が命中し、傭兵達は白目を剥いて仰向けに倒れる。
「オイオイ、死んだんじゃないの、あの人たち……?」
ジャスミンが、ヒースの背中から顔だけ出して、思わず相手の安否を心配する。ヒースは、彼の言葉に対して、肩を竦めてみせた。
「いやいや、あれでも、最大限優し~く投げてやったぜ。あれくらいじゃ死なねえだろ……多分」
「オッサンの『優しく』は、常人にとってはぜ~んぜん優しくなさそうなんだよなあ……」
「――って、次、来ましたよ!」
パームの叫んだ通り、仲間の身体の陰に隠れて石礫の直撃を避けた傭兵が、昏倒する仲間の身体を飛び越えて、無謀を顧みずに突っ込んでくる。
「おっとっと……石、石……と」
ヒースは足元を探るが、手頃な瓦礫が見つからない。
「おい! オッサン、前、前っ!」
ジャスミンが悲鳴を上げて、慌ててヒースの背中の後ろに隠れる。
その時、
『ブシャムの聖眼 宿る右の掌 紅き月 集いし雄氣 邪気を滅するっ!』
ミソギの聖句が唱えられると同時に、真っ赤に輝く光球が、傭兵の方に向かって放たれ、彼の身体に到達するや、紅い光の衝撃波と化し、その身体を駆け巡った。
「が、ああああ……!」
傭兵は、くぐもった悲鳴を上げると、白目を剥いて、糸の切れた操り人形のように、その場に頽れる。
「……ふう」
安堵の溜息を吐いたパームは、左手はヒースの頭に翳したまま、“ミソギ”を放ち、仄かに紅く光るブシャムの聖眼が刻まれた右手を下ろした。
「ひゅ――、やるじゃん、パーム君! “ハラエ”しながら“ミソギ”をぶっ放すとか……成長したねえ~! 果無の樹海の頃とは見違えるわ!」
ジャスミンが、思わず口笛を吹いて、パームを絶賛する。パームは照れて、端正な顔の白い頬を真っ赤に染めた。
「……いや、からかわないで下さいよ、ジャスミンさん。――はい、ヒースさん。塞がりました……傷」
「お、すまねえな、坊ちゃん」
パームが翳した左掌をどけると、ヒースの額にパックリと開いていた傷は、嘘の様に消えていた。
「大したもんだな、坊ちゃん。負傷してなんか無かったみてえに、痛みが引いたぜ」
「もう……ヒースさんまで……」
パームは、耳の先まで顔を真っ赤にして照れている。
「――っと、いつまでもこんな所でマッタリしている訳にもいかない。……まずは、得物だ。ずっと石礫で戦う訳にもいかないからな……」
ジャスミンは、そう言うと、スックと立ち上がった。
「行こうぜ。牢舎の詰め所に向かうぞ。……アザリーが、言ってた通りにな」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる