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第一章 サンクトルは燃えているか?
色事師と計略
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――と、その時、
ジャスミンの脳裏に電撃的な閃きが走った。
彼の端正な顔に、微かに笑みが浮かぶ。
その表情の変化には気づかなかったのか、モブは掌のナイフを見せつける様に弄んでみる。
「おう? どーした? 絶望してんのか、コラ? まだまだだぞ、このクソ野郎! これから『どうぞ殺してください』と、泣いて哀願したくなりそうな位の目に遭わせてやるからよぉ!」
「…………いやぁ~、カンベンしてくださいよ。SMの趣味は無いもんで、俺」
軽口を叩きながら、じりじりと後ずさりして、後ろで震えているパームに近づいていく。
「(……パーム、おい、パーム! 聞こえてるか?)」
パームの腕を掴み、囁き声で呼びかけるジャスミン。
その囁きを耳にして、恐怖でぐしゃぐしゃになった顔を上げるパーム。
「……な、何ですかぁ?」
「(よし! パーム、アレを奴らにお見舞いしてやれ!)」
「……あ、アレ? て、な、何ですか?」
訳が分からないといった表情のパーム。内心の苛立ちと焦りを押し殺して、ジャスミンは言葉を重ねる。
「(アレだよ、アレ! ほら、右手を翳して何か唱えて赤い光が出て――って)」
「……あ、アレって……『ブシャムの聖眼』の事――」
「そう、ソレ!」
その瞬間、彼の脳内で盛大な│ファンファーレ《祝福の鐘の音》が鳴り響いた! これでイケる!
――が、
「…………す、すみません……」
顔を俯かせて、今にも消え入りそうな声で詫びるパーム。
「……へ?」
彼の謝罪の言葉に、思わず首を傾げるジャスミンから逃げる様に、背をちぢこませる少年神官。
「……できないんです」
「……? 何が――」
「僕は、まだ神官に成りたてで……『ブシャムの聖眼』が撃てないんですぅぅぅ!」
ガコォーンと、顎が外れた様な顔になるジャスミン。パームは現実から逃避するように頭を抱えてへたり込んでしまった。
「……マジでか……?」
「……? 何コソコソ話してんだ、あぁ!」
呆然とするジャスミンに、苛立った声で恫喝するモブ。パームは頭を抱えて「すみません……すみません」と繰り返すばかり。
ジャスミンは瞑目した。深く息を吐き出し、パームの肩に手を置いた。
「……分かった、そうか」
おずおずと顔を上げたパームの目に映ったのは、茶髪の軽薄だったはずの男の優しい笑顔。
「……ジャスミンさん?」
「悪いな、パーム。俺としたことが、ちょっと期待しちゃったみたいだ。お前の能力以上の力を要求して、ゴメンな」
そう言って、持っていた通行許可証をパームの右手に握らせた。
「……え?」
「お前はこの通行証でサンクトルまで行ってきな。――悪いけど、俺は一緒に行けないわ」
「……! あ、ジャ、ジャスミンさ――」
「――あの~、ボブ様、一ついいですか?」
口を開こうとしたパームに背を向けて、ジャスミンは男に話しかけた。
「! モブだっつてんだろ、このボケぇ! てめえ、さっきから、ワザと言って――!」
「あー、すみませ~ん。ちょっと一つだけお願いがありまして。聞いてもらえませんかね~?」
「あぁ? 何だ? 言っておくが、命乞いは無駄だぞ。てめえの死は確定事項だ」
「やっぱり駄目ですよねぇ? 分かってますって。いや、それとは別なんですが――」
そう言うと、ジャスミンは背後のパームを指さした。
「この神官なんですが、コイツは別に関係無いんで、見逃してもらっちゃくれませんかね?」
「――え? あ、あの、ジャスミンさん!」
突然の話に眼鏡の奥の眼を丸くするパーム。
一方、モブはその顔に凄惨な笑みを浮かべた。
「……何だ、この生っちょろい神官の事か? 別にそいつはどうする気も無かったが、そんなに大事なオトモダチってんなら、てめえを殺す前の見せしめとして、目の前で膾にしてやるのもいいかもなぁ?」
「いや、大事とかそんなんじゃないですよ気色悪い何言ってんですか馬鹿じゃないですか死ねばいいのに」
口ではへらへらした笑みを浮かべているが、その眼は笑っていなかった。
「いや、むしろ俺はあなた達の身を案じて提案したんですがねぇ」
そう言いながら、彼はその目を細め、言葉を継ぐ。
「――考えてみても下さいよ。もしも、自分の神殿の可愛い部下が、見るも無惨な姿に成り果ててしまった時、あの大教主が抱く悲しみと怒りはどれほどの物か……って」
「!」
「この前の比じゃないと思いますよぉ? どんなモンなんですかねぇ? マジギレの大教主のフルパワーって……」
「……」
モブをはじめとする、周囲の無頼たちの顔色が、サーッと音を立てて蒼白になった。
「お願いっていうか、むしろ忠告ってヤツですかね? さあ、どうでしょう?」
「……ちょ、ちょっと待ってろ!」
顔面を蒼白にしたモブは、慌てた様子で手招きして、何人かの子分たちを呼び集める。
「も、モブ様、どうしやしょう……」
「……ま、まあ、確かにあの神官は関係無いしな……無駄な殺生というのも、なんだ、目覚めが悪いのは……ま、確かだしな」
「……そ、そうですね。あの大教主を本気で怒らせるのは、どう考えても得策では――」
「い、いや! 違うぞ! 俺は決してあの糞爺を恐れている訳じゃなくてだな――!」
ジャスミンとパームを遠巻きに取り囲んだまま、ひそひそと声を交わすモブ一味。
その時、
「――今だッ!」
ジャスミンが突然大きな声で叫んだ。
「パーム! 今だ! ぶちかませ! 『ブシャムの聖眼』を!」
「! ま、まさか!」
先程の「ブシャムの聖眼が放てない」というのは陽動か――!
慌ててへたり込んでいる少年神官に向けて身構えるモブ一味。
――が、
「――え、ええ? あ……そ、その……えーと」
一番驚いていたのは、他ならぬ眼鏡の神官。彼は、鳩が豆鉄砲を食らった顔そのままで、てきめんに狼狽えながら首を横にぶんぶんと振っている。
「「「…………?」」」
パームの表情に混乱するモブたち。……と
「…………なーんちゃって♪」
彼らの耳に届いたのは、人を小馬鹿にした、ジャスミンの軽薄な声。
「――! てめ……!」
状況を察したモブが、慌てて色事師の方に目を向けた時には――彼の姿は、既に視界から消えていた。
ジャスミンの脳裏に電撃的な閃きが走った。
彼の端正な顔に、微かに笑みが浮かぶ。
その表情の変化には気づかなかったのか、モブは掌のナイフを見せつける様に弄んでみる。
「おう? どーした? 絶望してんのか、コラ? まだまだだぞ、このクソ野郎! これから『どうぞ殺してください』と、泣いて哀願したくなりそうな位の目に遭わせてやるからよぉ!」
「…………いやぁ~、カンベンしてくださいよ。SMの趣味は無いもんで、俺」
軽口を叩きながら、じりじりと後ずさりして、後ろで震えているパームに近づいていく。
「(……パーム、おい、パーム! 聞こえてるか?)」
パームの腕を掴み、囁き声で呼びかけるジャスミン。
その囁きを耳にして、恐怖でぐしゃぐしゃになった顔を上げるパーム。
「……な、何ですかぁ?」
「(よし! パーム、アレを奴らにお見舞いしてやれ!)」
「……あ、アレ? て、な、何ですか?」
訳が分からないといった表情のパーム。内心の苛立ちと焦りを押し殺して、ジャスミンは言葉を重ねる。
「(アレだよ、アレ! ほら、右手を翳して何か唱えて赤い光が出て――って)」
「……あ、アレって……『ブシャムの聖眼』の事――」
「そう、ソレ!」
その瞬間、彼の脳内で盛大な│ファンファーレ《祝福の鐘の音》が鳴り響いた! これでイケる!
――が、
「…………す、すみません……」
顔を俯かせて、今にも消え入りそうな声で詫びるパーム。
「……へ?」
彼の謝罪の言葉に、思わず首を傾げるジャスミンから逃げる様に、背をちぢこませる少年神官。
「……できないんです」
「……? 何が――」
「僕は、まだ神官に成りたてで……『ブシャムの聖眼』が撃てないんですぅぅぅ!」
ガコォーンと、顎が外れた様な顔になるジャスミン。パームは現実から逃避するように頭を抱えてへたり込んでしまった。
「……マジでか……?」
「……? 何コソコソ話してんだ、あぁ!」
呆然とするジャスミンに、苛立った声で恫喝するモブ。パームは頭を抱えて「すみません……すみません」と繰り返すばかり。
ジャスミンは瞑目した。深く息を吐き出し、パームの肩に手を置いた。
「……分かった、そうか」
おずおずと顔を上げたパームの目に映ったのは、茶髪の軽薄だったはずの男の優しい笑顔。
「……ジャスミンさん?」
「悪いな、パーム。俺としたことが、ちょっと期待しちゃったみたいだ。お前の能力以上の力を要求して、ゴメンな」
そう言って、持っていた通行許可証をパームの右手に握らせた。
「……え?」
「お前はこの通行証でサンクトルまで行ってきな。――悪いけど、俺は一緒に行けないわ」
「……! あ、ジャ、ジャスミンさ――」
「――あの~、ボブ様、一ついいですか?」
口を開こうとしたパームに背を向けて、ジャスミンは男に話しかけた。
「! モブだっつてんだろ、このボケぇ! てめえ、さっきから、ワザと言って――!」
「あー、すみませ~ん。ちょっと一つだけお願いがありまして。聞いてもらえませんかね~?」
「あぁ? 何だ? 言っておくが、命乞いは無駄だぞ。てめえの死は確定事項だ」
「やっぱり駄目ですよねぇ? 分かってますって。いや、それとは別なんですが――」
そう言うと、ジャスミンは背後のパームを指さした。
「この神官なんですが、コイツは別に関係無いんで、見逃してもらっちゃくれませんかね?」
「――え? あ、あの、ジャスミンさん!」
突然の話に眼鏡の奥の眼を丸くするパーム。
一方、モブはその顔に凄惨な笑みを浮かべた。
「……何だ、この生っちょろい神官の事か? 別にそいつはどうする気も無かったが、そんなに大事なオトモダチってんなら、てめえを殺す前の見せしめとして、目の前で膾にしてやるのもいいかもなぁ?」
「いや、大事とかそんなんじゃないですよ気色悪い何言ってんですか馬鹿じゃないですか死ねばいいのに」
口ではへらへらした笑みを浮かべているが、その眼は笑っていなかった。
「いや、むしろ俺はあなた達の身を案じて提案したんですがねぇ」
そう言いながら、彼はその目を細め、言葉を継ぐ。
「――考えてみても下さいよ。もしも、自分の神殿の可愛い部下が、見るも無惨な姿に成り果ててしまった時、あの大教主が抱く悲しみと怒りはどれほどの物か……って」
「!」
「この前の比じゃないと思いますよぉ? どんなモンなんですかねぇ? マジギレの大教主のフルパワーって……」
「……」
モブをはじめとする、周囲の無頼たちの顔色が、サーッと音を立てて蒼白になった。
「お願いっていうか、むしろ忠告ってヤツですかね? さあ、どうでしょう?」
「……ちょ、ちょっと待ってろ!」
顔面を蒼白にしたモブは、慌てた様子で手招きして、何人かの子分たちを呼び集める。
「も、モブ様、どうしやしょう……」
「……ま、まあ、確かにあの神官は関係無いしな……無駄な殺生というのも、なんだ、目覚めが悪いのは……ま、確かだしな」
「……そ、そうですね。あの大教主を本気で怒らせるのは、どう考えても得策では――」
「い、いや! 違うぞ! 俺は決してあの糞爺を恐れている訳じゃなくてだな――!」
ジャスミンとパームを遠巻きに取り囲んだまま、ひそひそと声を交わすモブ一味。
その時、
「――今だッ!」
ジャスミンが突然大きな声で叫んだ。
「パーム! 今だ! ぶちかませ! 『ブシャムの聖眼』を!」
「! ま、まさか!」
先程の「ブシャムの聖眼が放てない」というのは陽動か――!
慌ててへたり込んでいる少年神官に向けて身構えるモブ一味。
――が、
「――え、ええ? あ……そ、その……えーと」
一番驚いていたのは、他ならぬ眼鏡の神官。彼は、鳩が豆鉄砲を食らった顔そのままで、てきめんに狼狽えながら首を横にぶんぶんと振っている。
「「「…………?」」」
パームの表情に混乱するモブたち。……と
「…………なーんちゃって♪」
彼らの耳に届いたのは、人を小馬鹿にした、ジャスミンの軽薄な声。
「――! てめ……!」
状況を察したモブが、慌てて色事師の方に目を向けた時には――彼の姿は、既に視界から消えていた。
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