田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良

文字の大きさ
上 下
48 / 73
第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編

田中天狼のシリアスな部室受領

しおりを挟む
 「うわ、ホントに一日で片付けたのか……?」

 柔道部の皆さんが、「お疲れっしたッ! 押忍ッ!」と言って帰っていった後、確認にやって来て、213号室を見た武杉副会長が、半分感心半分呆れた感じで言った。

「そ……そんな事より……、ネコは何処に……?」

 その武杉副会長の背中に、その長身を隠しながら、恐る恐る覗き込む行方会長。
 本当にネコに弱いらしい……。こんな姿を非公認ファンクラブの会員が見たらどう思うだろうか? やっぱり幻滅……はしないだろうなぁ。「会長ったら、あんなに素敵なのに、ネコには弱いんですかぁ? いや~ん、ギャップ萌えキター!」とか言って、卒倒しちゃうんだろうな……。
 ――なんて事を、俺は心中で考えながら、部室の隅の、何の変哲もない段ボール箱を指さす。

「あ、ネコはあそこに入ってます。名付けて『ニャンニャンホイホイ』」
「ネーミングは、あたしでーす」

 春夏秋冬ひととせがニコニコして手を挙げた。
 俺は咳払いをひとつすると、話を続ける。

「――この部屋に置いてあった古いバスタオルを敷いて、マタタビパウダーを振りまいて、チャイチョール入れた小皿を置いておいたら、5分で掛かりました」

 まるで俺の言葉に答えるように、“囚人”の「にゃ~ん」という鳴き声が、箱の中から聞こえてきた。――コイツ、まさか人語を解するのか……?

「い、今は、バスタオルに自分の匂いを付けたりとかで、忙しくリフォーム中なので、当分は出てこないと思いますよ」
「……そ、そうか。なら、大丈夫……か?」

 明らかにホッとした声の会長。

「じゃ、この部室貸借申請書に記入をお願いします」

 書記の黒木さんが、バインダーに挟んだ1枚の書類を、奇名部部長の矢的先輩に差し出す。
 矢的先輩は、「ハイハーイ♪」と、鼻歌を歌いながら、書類に必要事項を書き込む。

「……でも、大丈夫か? 幽霊はともかく不審者は存在していて、しかも、実際に入ってきたんだろう?」

 武杉副会長が、心配げな顔で尋ねてきた。

「ダイジョーブ、大丈夫! 一応、用心の為に鍵を替えてもらったし、夜の見回りも強化してくれるんだろ?」
「……ウチの部長の考えは、楽天的すぎるとは思いますけど、まあ、大丈夫だと思います。おそらく、アイツ・・・が動くとしたら夜中だと思うので……。部室棟に人が居る時間帯にだけ、部室を使うようにすれば、危険は無いと……思います」
「……そうか。矢的コイツが言うだけでは信用ならなかったが、田中君もそう言うのなら、大丈夫だろう」

 いつの間に、そんなに信頼篤くなったんだ、俺……?
 武杉副会長は、ポケットから真新しい鍵を取り出して、俺に手渡した。

「コレが、取り替え済みの、部室の鍵だ。もし無くしたりなんかしたら、再複製代で5万円を払ってもらうからな。くれぐれも紛失しないように」
「ちょっ、待てよスギ! そういうのは、部長の俺に渡すのがスジだろうが! 何でそのモブ部員Aに?」
「そりゃ、お前になんか渡したら、渡して5分で失くしそうだからに決まってるだろ」

 武杉副会長の、矢的先輩に対する言葉には、とりつく島も無い……その言葉には、諸手を挙げて賛同したいが。

「――本来なら、副部長の撫子くんに渡すのが筋なんだろうが……あの状態だからな」

 そう言って、武杉副会長は、入り口の扉に目を遣る。
 扉の裏から、顔半分だけ出して、恐る恐る様子を窺う撫子先輩の姿があった……。

「……だから、大丈夫だってばー、ナデシコ!」
「……分かってる。さっきも大丈夫だったし。頭では分かってるだけど……どうしても……」

 さっきは平気そうに、柔道部の人たちに指示しまくってたのになあ……。やっぱり、100パーセント恐怖を克服できた、という訳では無いらしい。

「まあ、それはおいといて……」

 武杉副会長はゴホンと咳払いすると、真剣な顔になって言った。

「とりあえず、職員会議ではもう報告を上げていて、さっき矢的が言っていた通り、当直の見回りの強化はして貰える事になった。防犯カメラの増設は……予算を組み次第になるので、少し時間が掛かるが――」
「……君たちも、何か不審な点や、不審な人物を目撃した場合には、遠慮せずに私や武杉に報告して欲しい。――何処の誰かも分からない者が、未だ野放しでどこかに存在しているという事は歴とした事実だからな。何をしようとしていたのかも分からない。くれぐれも油断は大敵だ」

 武杉副会長の言葉を、行方会長が引き継いで言った。

 その言葉を聞きながら、俺は――あの夜ドアを開けて入ってきた、フードを被った不審者の黒い影を思い浮かべていた。
 そして、引っかかる疑問を感じていた。


 ……一体、あの人物は、何の為にこの213号室に入ってきたのだろうか? 合い鍵まで用意して……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ファンファーレ!

ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡ 高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。 友情・恋愛・行事・学業…。 今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。 主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。 誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

AGAIN 不屈の挑戦者たち

海野 入鹿
青春
小3の頃に流行ったバスケ漫画。 主人公がコート上で華々しく活躍する姿に一人の少年は釘付けになった。 自分もああなりたい。 それが、一ノ瀬蒼真のバスケ人生の始まりであった。 中3になって迎えた、中学最後の大会。 初戦で蒼真たちのチームは運悪く、”天才”がいる優勝候補のチームとぶつかった。 結果は惨敗。 圧倒的な力に打ちのめされた蒼真はリベンジを誓い、地元の高校へと進学した。 しかし、その高校のバスケ部は去年で廃部になっていた― これは、どん底から高校バスケの頂点を目指す物語 *不定期更新ですが、最低でも週に一回は更新します。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

処理中です...