40 / 73
第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編
行方彩女のシリアスな体験談
しおりを挟む
行方会長は、お茶を一啜りすると、重い口を開いた。
「あの日――、私は残務があった関係で、一人この部屋に残って作業をしていた。大体――午後9時を回ったくらいかな……。やっと作業が終わって、下校しようとして、部活棟の前を通りかかったんだ」
生徒会室にいる者全員、咳ひとつせず、会長の言葉に耳を傾けている。
「ふと、部活棟を見上げたら、全生徒が下校していて、誰も居ないはずの部活棟の窓に、丸くて黄色い、ぼんやりしたひとつの光が見えたんだ。――2階の……213号室の窓だった」
誰かが、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
「私は、生徒の誰かが残って、部室棟で遊んでいるのか、或いは、良からぬ輩が校内に潜んで、悪事を働こうとしているのかと考えたんだ」
「――で、ひとりで見に行ったんですか、会長?」
「ああ――。もっとも、今考え直すと、無謀極まる愚挙だったと反省しているがね」
「まったくですよ、会長! いくらご自身がお強いからといって、たった一人で――」
武杉副会長が、憤然と言う。
「そう。武杉くんの言う通り、本当に愚かよ、彩女さん」
「君もか……手厳しいね」
「手厳しい事も言います。武道を嗜む者として、ね」
撫子先輩は、行方会長の目をジッと見据えて、蕩々と言い聞かせる。
「いくら腕が立つからといって、それに慢心して、危険な状況へ自ら飛び込むような真似をするのは、ただの蛮勇です。本当に“強い”者は、その境を見極めて、決して危地へは立ち入らないものなのですよ。――ましてや、貴女は女の子ではありませんか、彩女さん」
「女の子……いや、確かにそうだな」
会長は、苦笑した。
「いやあ、最近ではとんと女子扱いされなさ過ぎたせいで、自分でも忘れていたよ――」
「彩女さん! 常々思ってましたが、貴女には色々と自覚が足りません。貴女は、唯の17歳の女の子ですし、万が一貴女の身に何かあった時に心配する人も、悲しむ人も、沢山居るんです! 現に、ここ――!」
「いや、お小言は後にしてくれ、撫子。……これでも、散々武杉にお灸を据えられて、結構参っているんだ、今回の件でな」
会長は、立ち上がって言葉を荒げる撫子先輩を、手を上げて制する。
撫子先輩は、大きなため息を吐くと、不承不承ソファに腰を下ろした。
「――では、話を続けさせて貰うよ。と、ドコまで話したか……そうそう。――私は、その光の正体を確かめようと部活棟の中に入ったんだ。213号室のドアの前まで来たが、鍵は閉まっていた」
と、俺は、着ている制服の感触に違和感を感じた。ちらっと見ると、隣の春夏秋冬が、顔を強張らせながら、俺の制服の裾をしっかりと握っていた。
……俺は、さりげなく目を前に戻して、気付かないフリ。
――心臓はバクバク派手な音を立てていたけど……。
行方会長の話は続く。
「私は、部活棟に入る前に、生徒会室から部活棟の鍵束を持ち出していたから、213号室のキーを探してドアを開けた……。で、部屋の中に入ったのだが、さっき言ったように、室内は雑多な物でいっぱいで、中に進むのも一苦労といった感じだった」
「鍵は――かかっていました?」
「ああ。この生徒会室や、通常の教室と同じ引き戸タイプだが、鍵は――うん、しっかりと掛かっていたよ」
矢的先輩の問いに、行方会長は、思い出しながら答える。
「――私は、スマホのカメラライトを点けて、内部を照らしてみた。……室内の電気は、蛍光灯を取り外していた為に、点けられなかったからな。――と、突然、キラリと、光の玉が二つきらめいたかと思うと、フーッという、空気が吹き出すような音がして……」
「何かが私に飛びかかってきた!」
「キャ――ッ!」
「!」
突然、大声を上げた会長の声に、春夏秋冬が悲鳴を上げ、俺の腕にしがみついた! 会長の声と、左腕の柔らかい感触に、俺の心臓も跳ね上がった。
「…………で、その、何か、とは?」
ゴクリと生唾を飲みながら、矢的先輩が問う。その傍らでは、撫子先輩が――目をギュッと閉じ、耳を両手で固く塞いで、背中を丸めている……意外と恐がりだったんだ、撫子先輩……。
行方会長は、また一啜りお茶を飲むと、ブレザーのポケットからピンク色のスマホを取り出し、画面を表示させると、こちら側へ向けて差し出した。
「――その時、偶然シャッターを押していたようで、撮影された画像が――これだ」
俺と春夏秋冬、そして矢的先輩は、顔を見合わせると、行方先輩から受け取ったスマホを恐る恐る覗き込む。
「――――!」
画面いっぱいに、爛々と金色に光る目を飛び出さんばかりに見開き、牙を剥きだして飛びかかろうとしている、一匹の獣の顔が映っていたぁっ!
「こ……………………これって――――!?」
俺たちは、スマホから顔を上げると、行方会長に向かって一斉に叫んだ。
「「「ネコじゃんっ!!」」」
「あの日――、私は残務があった関係で、一人この部屋に残って作業をしていた。大体――午後9時を回ったくらいかな……。やっと作業が終わって、下校しようとして、部活棟の前を通りかかったんだ」
生徒会室にいる者全員、咳ひとつせず、会長の言葉に耳を傾けている。
「ふと、部活棟を見上げたら、全生徒が下校していて、誰も居ないはずの部活棟の窓に、丸くて黄色い、ぼんやりしたひとつの光が見えたんだ。――2階の……213号室の窓だった」
誰かが、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
「私は、生徒の誰かが残って、部室棟で遊んでいるのか、或いは、良からぬ輩が校内に潜んで、悪事を働こうとしているのかと考えたんだ」
「――で、ひとりで見に行ったんですか、会長?」
「ああ――。もっとも、今考え直すと、無謀極まる愚挙だったと反省しているがね」
「まったくですよ、会長! いくらご自身がお強いからといって、たった一人で――」
武杉副会長が、憤然と言う。
「そう。武杉くんの言う通り、本当に愚かよ、彩女さん」
「君もか……手厳しいね」
「手厳しい事も言います。武道を嗜む者として、ね」
撫子先輩は、行方会長の目をジッと見据えて、蕩々と言い聞かせる。
「いくら腕が立つからといって、それに慢心して、危険な状況へ自ら飛び込むような真似をするのは、ただの蛮勇です。本当に“強い”者は、その境を見極めて、決して危地へは立ち入らないものなのですよ。――ましてや、貴女は女の子ではありませんか、彩女さん」
「女の子……いや、確かにそうだな」
会長は、苦笑した。
「いやあ、最近ではとんと女子扱いされなさ過ぎたせいで、自分でも忘れていたよ――」
「彩女さん! 常々思ってましたが、貴女には色々と自覚が足りません。貴女は、唯の17歳の女の子ですし、万が一貴女の身に何かあった時に心配する人も、悲しむ人も、沢山居るんです! 現に、ここ――!」
「いや、お小言は後にしてくれ、撫子。……これでも、散々武杉にお灸を据えられて、結構参っているんだ、今回の件でな」
会長は、立ち上がって言葉を荒げる撫子先輩を、手を上げて制する。
撫子先輩は、大きなため息を吐くと、不承不承ソファに腰を下ろした。
「――では、話を続けさせて貰うよ。と、ドコまで話したか……そうそう。――私は、その光の正体を確かめようと部活棟の中に入ったんだ。213号室のドアの前まで来たが、鍵は閉まっていた」
と、俺は、着ている制服の感触に違和感を感じた。ちらっと見ると、隣の春夏秋冬が、顔を強張らせながら、俺の制服の裾をしっかりと握っていた。
……俺は、さりげなく目を前に戻して、気付かないフリ。
――心臓はバクバク派手な音を立てていたけど……。
行方会長の話は続く。
「私は、部活棟に入る前に、生徒会室から部活棟の鍵束を持ち出していたから、213号室のキーを探してドアを開けた……。で、部屋の中に入ったのだが、さっき言ったように、室内は雑多な物でいっぱいで、中に進むのも一苦労といった感じだった」
「鍵は――かかっていました?」
「ああ。この生徒会室や、通常の教室と同じ引き戸タイプだが、鍵は――うん、しっかりと掛かっていたよ」
矢的先輩の問いに、行方会長は、思い出しながら答える。
「――私は、スマホのカメラライトを点けて、内部を照らしてみた。……室内の電気は、蛍光灯を取り外していた為に、点けられなかったからな。――と、突然、キラリと、光の玉が二つきらめいたかと思うと、フーッという、空気が吹き出すような音がして……」
「何かが私に飛びかかってきた!」
「キャ――ッ!」
「!」
突然、大声を上げた会長の声に、春夏秋冬が悲鳴を上げ、俺の腕にしがみついた! 会長の声と、左腕の柔らかい感触に、俺の心臓も跳ね上がった。
「…………で、その、何か、とは?」
ゴクリと生唾を飲みながら、矢的先輩が問う。その傍らでは、撫子先輩が――目をギュッと閉じ、耳を両手で固く塞いで、背中を丸めている……意外と恐がりだったんだ、撫子先輩……。
行方会長は、また一啜りお茶を飲むと、ブレザーのポケットからピンク色のスマホを取り出し、画面を表示させると、こちら側へ向けて差し出した。
「――その時、偶然シャッターを押していたようで、撮影された画像が――これだ」
俺と春夏秋冬、そして矢的先輩は、顔を見合わせると、行方先輩から受け取ったスマホを恐る恐る覗き込む。
「――――!」
画面いっぱいに、爛々と金色に光る目を飛び出さんばかりに見開き、牙を剥きだして飛びかかろうとしている、一匹の獣の顔が映っていたぁっ!
「こ……………………これって――――!?」
俺たちは、スマホから顔を上げると、行方会長に向かって一斉に叫んだ。
「「「ネコじゃんっ!!」」」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ファンファーレ!
ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡
高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。
友情・恋愛・行事・学業…。
今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。
主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。
誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

AGAIN 不屈の挑戦者たち
海野 入鹿
青春
小3の頃に流行ったバスケ漫画。
主人公がコート上で華々しく活躍する姿に一人の少年は釘付けになった。
自分もああなりたい。
それが、一ノ瀬蒼真のバスケ人生の始まりであった。
中3になって迎えた、中学最後の大会。
初戦で蒼真たちのチームは運悪く、”天才”がいる優勝候補のチームとぶつかった。
結果は惨敗。
圧倒的な力に打ちのめされた蒼真はリベンジを誓い、地元の高校へと進学した。
しかし、その高校のバスケ部は去年で廃部になっていた―
これは、どん底から高校バスケの頂点を目指す物語
*不定期更新ですが、最低でも週に一回は更新します。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる