田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良

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第四章 田中天狼のシリアスな日常・奮闘編

田中天狼のシリアスな文化部対抗“障害物”リレー

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 文化部対抗リレー出場者全員による、多数決の結果は――言うまでもなく、種目変更賛成。
 反対は、奇名部部員の俺たちだけだった。

「異議あーり! これは不当な投票である! こんな不合理は許されな――いっ! 断固抗議するぅぅぅっっ!」

 当然、納得できない矢的先輩は、血相を変えて行方会長に詰め寄る。

「矢的っ! 諦めろ! もう決まった事だ!」

 二人の間に割り込んで、矢的先輩を押しとどめる武杉副会長。それを見て、慌てて俺も矢的先輩を止めに入る。

「矢的先輩、落ち着いて! しょうがないですって! 切り替えましょう!」
「ええい、離せぃ、離せえええぃ! 殿中でござる! 殿中でござるぞぉぉぉぉ!」
「……いや、それはどっちかというと、止めてる俺らの台詞です、先輩」

 ……緊迫した雰囲気が一気に崩れた。

「どうした、不満なのか、矢的」

 行方会長が、微笑みを浮かべて、男二人に羽交い締めにされている矢的先輩に話しかけてきた。

「不満も不満じゃないも無いっすよぉ、会長ぉぉぉ!」

 噛みつきそうな勢いで行方会長に詰め寄ろうとする矢的先輩。俺と武杉副会長は、必死で彼を止める。

「あたし達、今日まで一生懸命、リレーの練習をしてきたんです。それなのに、急に種目を変えちゃうって、酷いと思うんですけど!」

 いつの間に近づいてきたのか、春夏秋冬ひととせが、珍しく強い口調で会長に言った。

「――そうだな、確かに酷いかな、私は」

 春夏秋冬ひととせの言葉に、微かに眉を顰める会長。

「でもな、昨日の予選会を観た時に思ってしまったのだよ。――結果が見えててつまらないな……と」
「は――?」
「ぶっちゃけた話、今回の競技変更は、私や先生方やご来賓の皆様の『競ったスリリングな戦いを観たい――』というエゴの結果だという事だ。奇名部キミたちには本当に申し訳ない事なのだがね……」
「いや、ひっでえ話だな、そりゃ!」

 矢的先輩が、激高する。その言葉に、気まずそうに目を伏せる副会長。
 だが、行方会長は、ニヤリと笑って首を傾げてみせる。

「――そうだな。でも私は、君が――そして、君が率いる奇名部の諸君は、そんな逆境を跳ね返して、見事優勝して、我々に深い感動を与えてくれるものだと確信しているのだがね」
「え――――? ……あ、ああ、そうなんすか?」
「えと……ま、まあ、それ程の事は……あるケド」

 おいおい……先輩も、春夏秋冬ひととせも、そんなミエミエのお世辞に乗せられるなよ……。にやけてるぞ、顔!

「だって、そうだろ? 撫子がいて、アクアくんがいて、何より君がいる。競技変更くらい物ともしないポテンシャルを、君たちは持っていると思うのだがな――」

 あのー……、会長。一人だけ、名前が挙がってないですけど……。

「それとも、私の買いかぶりだったかな?」
「――分かったよ! 分かりましたよ! その期待、見事応えてやりましょうよぉ!」

 矢的先輩と|春夏秋冬は、目をギラギラと輝かせて叫んだ。

「「やってやんよおおおおおおっ!」」

 ――ああ、完全にノセられちゃったよ、この人たち……。

「そうこなくてはな!」

 そう言って、会長は破顔する。そして、入場門の向こうにいる奇名部の一人に声をかける。

「――で、君も賛成してくれるかな、撫子?」
「――賛成も何も」

 撫子先輩は、穏やかに――それでいて皮肉げに微笑する。

「貴女が、一度決めた事は決して翻す事が無いのを知っていますから。何を言っても、もう無駄でしょう、彩女さん?」
「さすが撫子! 私の性格をよく解ってくれているな!」
「ええ…………、色々・・ありましたからね……」

 ――何だろう、色々・・って?
 多分、この場に居合わせた人間の多くがそう思ったのだろうが、誰もそれを口にしなかった。
 深くツッコんだらヤバい……そんな雰囲気がプンプンしていた。
 誰だって、命は惜しい。

「――と、いう事だ!」

 行方会長は、大きく声を張り上げる。

「反対していた、奇名部全員の賛成も頂いた! 皆、整列してくれ! 『文化部対抗障害物リレー』を開始するぞ!」

 「おお――っ!」と、その場の全員が、会長の言葉に応える。――――俺以外。
 
 『奇名部全員・・』って…………俺だけスルーされてるんすけど(涙)。



 「いや~、災難だったねえ、矢的」

 トラックに並び、スタートの号砲を待つ対抗障害物リレーの第一走者。
 奇名部の第一走者である矢的先輩に、そう嫌みったらしく話しかけてきたのは、写真部の第一走者である十亀部長だった。

「いや、別に。リレーだろうが、障害物リレーだろうがカンケー無いっすよ」

 集中しているのか、前を見据えたまま、素っ気なく答える矢的先輩。

「それに、急に障害物リレーになって対応が難しいのは、他の部も一緒でしょ?」
「まあ、そうだよな……他の部はな・・

 十亀部長は、そう言うと、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。

「撮影会、楽しみだなぁ……」
「…………冗談じゃなかったんですか?」
「え? 何の・・とは言ってないぞ? フフフフ」
「……そういえば、ちゃんと掃除したっすか?」
「…………何の?」
「写真部の部室ですよ」

 そう言って、矢的先輩は、十亀部長を鋭く睨んで、それからニヤリと微笑った。

「すぐオレたち奇名部に引き渡せるよう、荷物をまとめておけよ、スダレロン毛!」
「――――な!?」

 十亀部長が、矢的先輩の言葉に驚いた次の瞬間、

 パ――――ンッ!

 スタートの号砲が、耳をつんざいた。
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