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第四章 田中天狼のシリアスな日常・奮闘編
行方彩女のシリアスな説得
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ミサイルのような勢いとスピードで、矢的先輩が運営本部のテントに突っ込んでいくのを、俺たちは呆然と入場門前から見ているしかなかった。
矢的先輩は、テントの中で長机をバーンと叩いて、何やら怒鳴っているようだ。机の向こうで彼に対応しているのは――やっぱり武杉副会長。
矢的先輩は、首をブンブン振ったり、腕をぐるぐる回してみたり、その場でダッシュするように激しく足踏みしてみたり、一生懸命(多分競技変更に対しての)抗議をしている。
あ、そういえば、昔よく放送してた『プロ野球珍プレー好プレー』での、某監督特集で、同じ様な場面を観た事あったなぁ……。
武杉副会長の方は、首を横に振ったり、腕をクロスさせて×にしたりして、断固として矢的先輩の抗議を認めないスタンスらしい。が、武杉副会長本人も、内心ではこの突然の種目変更には含むところがあるのだろうか、拒絶が幾分か弱い感じがする。
「何いつまでもやってるんだよ~」
「時間のムダだから、もう止めろよー矢的~!」
「つーか、暑っちいんだよ!」
「こっちは文化部対抗リレーなんてどうでもいいんだよ~!」
「そんなクレーマーなんか無視して、サッサと先進めろよ、運営~!」
長引く抗議に、生徒観覧席から、矢的先輩と運営本部へのブーイングが聞こえてきた。
と、運営本部のテントから、誰かが出てきて、入場門へ向かって颯爽と歩いてくる。あれは――
「な、行方会長だ……!」
入場門前の文化部メンバー達がどよめく。生徒観覧席からのブーイングはたちまち鳴り止んで、その代わりに、非公認ファンクラブ会員達が上げる、黄色い歓声が上がる。
突然の上長の御出座に、慌てた様子の副会長と、抗議の余韻冷めやらず、プンプンした様子の矢的先輩も、行方会長の後ろについて、こちらに向かってくる。
「えー! 文化部対抗リレー参加予定の諸君! 生徒会会長兼運営本部顧問の行方彩女だ!」
会長は、入場門前に仁王立ちになって、よく通る中性的な大音声で我々に声をかける。
ひとりでに、入場門前の全員がピンと背筋を伸ばし、姿勢を正した。さすが、無類のカリスマスキル持ち。
……あ、でも、会長のカリスマが効いていない人が一人……。矢的先輩は、会長の後ろで腕組みをして、不満顔でふんぞり返ったままだ。
「えー! 先程、ウチの武杉が放送で伝えたように、当初のプログラムだった文化部対抗リレーを、文化部対抗障害物リレーに変更する事になった! 突然の変更となってしまい、参加する文化部の諸君には大変申し訳ない事になってしまった! この通り、私からもお詫びさせて頂く!」
そう言って、行方会長は深々と頭を下げた。
観覧席からは、
「止めてええええええ!」
「頭を上げてくださあああああいっ!」
「何、アヤメ様に頭を下げさせてんのよぉぉぉぉっ! 文化部死ねえええええっ!」
「ついでに、武杉も死ねえええええっ!」
と、黄色い悲鳴と怒号が上がる……。
文化部メンバー達の間にも動揺が広がる。
「――で、ここの奇名部部長より、今回の急遽の変更に対する強い抗議を受けた訳なのだが、私自身、確かに彼の不満ももっともであると思った。そこで、参加メンバー諸君の意見を広く伺いたいと思って来た次第だ!」
行方会長は、そこで言葉を止め、ぐるりと見回した。
「皆はどうだろうか? ここで、『普通のリレーがいい』という意見が多数を占めるのであれば、私の権限において、あの障害物を取り払い、通常通りのリレー方式に戻そうと思う!」
文化部メンバーの間でどよめきが湧く。皆、顔を見合わせる。
と、会長はニヤリと笑う。
「でも――いいのか? 通常リレー方式で?」
「「「「へ――?」」」
会長の問いかけに、メンバーの間に当惑の表情が浮かぶ。
「私も、昨日の予選会を観ていたが……、結果は見えていると思うぞ。即ち、奇名部の圧勝だ!」
「……………………」
「ポテンシャル・練度・チームワーク……どれをとっても、奇名部に敵う部は無いように感じたぞ」
「いやいや~。それ程でもぉ……あるけど♪ もう、さすが行方会長サマったら、お・じょ・う・ず! 見る目は確かですねぇ~」
行方会長の言葉に、満更でもない様子でニマニマする矢的先輩――いや、そんなに脳天気に喜んでる場合じゃ……。
「――マズいわね、この流れだと……」
俺の隣で、撫子先輩が呟き、唇を噛む。どうやら、俺と同じ事を考えているようだ。
行方会長は、もう一度周りを見回し、言葉を継いだ。
「単に走って、スピードを競うだけの普通のリレーでは、君たちに勝ち目は無い……でも、様々な要素が絡む、障害物リレーなら……? 奇名部以外の文化部にもチャンスが――優勝を狙えるかもしれないぞ――!」
「…………そうだ! その通りだ! 会長のおっしゃる通りだ!」
と、大きく拍手をして声を張り上げたのは――雰囲気イケメンこと写真部部長十亀敦雄!
――――繋がった!
俺の脳細胞に、閃きの稲妻が走った。
昨日、『つまらない』とクレームを入れた一般生徒というのも、そして、競技種目変更を、裏で校長達に働きかけたのも――!
……だが、真実が見えても、時既に遅かりし。
「……た、確かに!」
「それなら、俺たちにも勝目が――!」
「優勝できる――できるんだ!」
会長の話と十亀の扇動に煽られた、奇名部以外の文化部の面々の意気は大いに上がり、場の流れは競技種目変更容認へと完全に傾いた――。
「では、これから諸君らの決を採りたいと思う! 即ち『通常リレー方式』か『障害物リレー形式』か。どちらかに挙手してくれ! いくぞ――――!」
……もう、多数決を採るまでも無かった――。
矢的先輩は、テントの中で長机をバーンと叩いて、何やら怒鳴っているようだ。机の向こうで彼に対応しているのは――やっぱり武杉副会長。
矢的先輩は、首をブンブン振ったり、腕をぐるぐる回してみたり、その場でダッシュするように激しく足踏みしてみたり、一生懸命(多分競技変更に対しての)抗議をしている。
あ、そういえば、昔よく放送してた『プロ野球珍プレー好プレー』での、某監督特集で、同じ様な場面を観た事あったなぁ……。
武杉副会長の方は、首を横に振ったり、腕をクロスさせて×にしたりして、断固として矢的先輩の抗議を認めないスタンスらしい。が、武杉副会長本人も、内心ではこの突然の種目変更には含むところがあるのだろうか、拒絶が幾分か弱い感じがする。
「何いつまでもやってるんだよ~」
「時間のムダだから、もう止めろよー矢的~!」
「つーか、暑っちいんだよ!」
「こっちは文化部対抗リレーなんてどうでもいいんだよ~!」
「そんなクレーマーなんか無視して、サッサと先進めろよ、運営~!」
長引く抗議に、生徒観覧席から、矢的先輩と運営本部へのブーイングが聞こえてきた。
と、運営本部のテントから、誰かが出てきて、入場門へ向かって颯爽と歩いてくる。あれは――
「な、行方会長だ……!」
入場門前の文化部メンバー達がどよめく。生徒観覧席からのブーイングはたちまち鳴り止んで、その代わりに、非公認ファンクラブ会員達が上げる、黄色い歓声が上がる。
突然の上長の御出座に、慌てた様子の副会長と、抗議の余韻冷めやらず、プンプンした様子の矢的先輩も、行方会長の後ろについて、こちらに向かってくる。
「えー! 文化部対抗リレー参加予定の諸君! 生徒会会長兼運営本部顧問の行方彩女だ!」
会長は、入場門前に仁王立ちになって、よく通る中性的な大音声で我々に声をかける。
ひとりでに、入場門前の全員がピンと背筋を伸ばし、姿勢を正した。さすが、無類のカリスマスキル持ち。
……あ、でも、会長のカリスマが効いていない人が一人……。矢的先輩は、会長の後ろで腕組みをして、不満顔でふんぞり返ったままだ。
「えー! 先程、ウチの武杉が放送で伝えたように、当初のプログラムだった文化部対抗リレーを、文化部対抗障害物リレーに変更する事になった! 突然の変更となってしまい、参加する文化部の諸君には大変申し訳ない事になってしまった! この通り、私からもお詫びさせて頂く!」
そう言って、行方会長は深々と頭を下げた。
観覧席からは、
「止めてええええええ!」
「頭を上げてくださあああああいっ!」
「何、アヤメ様に頭を下げさせてんのよぉぉぉぉっ! 文化部死ねえええええっ!」
「ついでに、武杉も死ねえええええっ!」
と、黄色い悲鳴と怒号が上がる……。
文化部メンバー達の間にも動揺が広がる。
「――で、ここの奇名部部長より、今回の急遽の変更に対する強い抗議を受けた訳なのだが、私自身、確かに彼の不満ももっともであると思った。そこで、参加メンバー諸君の意見を広く伺いたいと思って来た次第だ!」
行方会長は、そこで言葉を止め、ぐるりと見回した。
「皆はどうだろうか? ここで、『普通のリレーがいい』という意見が多数を占めるのであれば、私の権限において、あの障害物を取り払い、通常通りのリレー方式に戻そうと思う!」
文化部メンバーの間でどよめきが湧く。皆、顔を見合わせる。
と、会長はニヤリと笑う。
「でも――いいのか? 通常リレー方式で?」
「「「「へ――?」」」
会長の問いかけに、メンバーの間に当惑の表情が浮かぶ。
「私も、昨日の予選会を観ていたが……、結果は見えていると思うぞ。即ち、奇名部の圧勝だ!」
「……………………」
「ポテンシャル・練度・チームワーク……どれをとっても、奇名部に敵う部は無いように感じたぞ」
「いやいや~。それ程でもぉ……あるけど♪ もう、さすが行方会長サマったら、お・じょ・う・ず! 見る目は確かですねぇ~」
行方会長の言葉に、満更でもない様子でニマニマする矢的先輩――いや、そんなに脳天気に喜んでる場合じゃ……。
「――マズいわね、この流れだと……」
俺の隣で、撫子先輩が呟き、唇を噛む。どうやら、俺と同じ事を考えているようだ。
行方会長は、もう一度周りを見回し、言葉を継いだ。
「単に走って、スピードを競うだけの普通のリレーでは、君たちに勝ち目は無い……でも、様々な要素が絡む、障害物リレーなら……? 奇名部以外の文化部にもチャンスが――優勝を狙えるかもしれないぞ――!」
「…………そうだ! その通りだ! 会長のおっしゃる通りだ!」
と、大きく拍手をして声を張り上げたのは――雰囲気イケメンこと写真部部長十亀敦雄!
――――繋がった!
俺の脳細胞に、閃きの稲妻が走った。
昨日、『つまらない』とクレームを入れた一般生徒というのも、そして、競技種目変更を、裏で校長達に働きかけたのも――!
……だが、真実が見えても、時既に遅かりし。
「……た、確かに!」
「それなら、俺たちにも勝目が――!」
「優勝できる――できるんだ!」
会長の話と十亀の扇動に煽られた、奇名部以外の文化部の面々の意気は大いに上がり、場の流れは競技種目変更容認へと完全に傾いた――。
「では、これから諸君らの決を採りたいと思う! 即ち『通常リレー方式』か『障害物リレー形式』か。どちらかに挙手してくれ! いくぞ――――!」
……もう、多数決を採るまでも無かった――。
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