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CASE1 ホウレンソウは欠かさずに

CASE1-16 「良かったら、私と遊ばない?」

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 マイスとイクサは、半人族ハーフヒューマーの集団に囲まれながら、彼らの集落へと連行されてきた。縄で縛られこそはしなかったものの、矢を番えた弓と、刃が緩やかに湾曲した短刀を突きつけられ、物々しい監視を受けながらであった。
 マイスとイクサ、そして、半歩下がったところで尾いてくるドヴェリクの三人は、集落の中央に建つ、一番大きな藁葺きの建物の中に通された。
 大きな部屋に通され、その床に直接座らされる。
 壁面には、武器を携えた半人族の男たちが並んで立っている。――何か妙な真似をしたら、容赦なく抜く。彼らの敵意に満ちた目は、雄弁にそう語っていた。

「ええと……歓迎……は、されてなさそうですね」

 イクサが、居並ぶ半人族の顔を眺めながら、青ざめた顔で呟いた。
 一方のマイスは、至って涼しい顔だ。

「そりゃあね……。突然訪ねてきた人間の背負っていた荷物に、物騒なものがたんまり入っているんですもの……。半人族の人たちも怖いでしょうよ」
「いや……それは、あくまで半人族に売り込む武器類のデモ機ですし、そんな疚しい理由は無いじゃあないですか――?」
「関係無いわよ。『人間』が『武器』を持ってきた、っていう事実は同じだし。私達がそう言っても、彼らがどう考えるのかは、彼ら次第――」
「……すみマセン……。ワタしがいるノニ、こんナ目にあわせテシマって……」

 後ろに控えるドヴェリクは、神妙な面持ちで、申し訳なさそうに頭を下げる。

「ドヴェリク……彼らにちゃんと説明してくれたのか?」

 イクサが、やや咎めるようにドヴェリクに問い質す。
 ドヴェリクは、額の汗を拭きながら、

「はイ……。ワタしからモ、話ヲしたンですケド……なかなカ、聞き届ケテもらエマせん……」

 と、口惜しそうに答えた。

「こら、イクサくん。ドヴェリクさんに当たらないの! ここまで来たら、あーだこーだ言ってもしょうがないわ。もうどっしりと構えていなさい」
「……そ、そうは言っても……」

 マイスにやんわりとした注意を受けても、イクサの不安げな表情は晴れない。
 それはそうだろう。
 ここまで見事に誤解されてしまっているのだ。しかも、言葉の壁によって、直接の意思疎通も困難ときた。最悪、害意を持って訪れたと誤解されたまま、問答無用で処刑されてしまう可能性も無くはないのだ。
 先程から、イクサの頭の中には不穏な想像ばかりが流れ、グルグルとエンドレスで回転し続けている……。
 と、

「――ドヴェリク! カ! ハリ!」

 粗末な木の扉を開けて、髭面の半人族の男が顔を出し、ドヴェリクの事を手招きした。

「――! ヤ!」

 呼ばれたドヴェリクは、顔を緊張で強張らせて頷くと、マイスの方へ向き直って言った。

「……マイスさン。ワタし、呼ばれタから、行ってきマス」
「うん。私達の事、ちゃんと伝えてね。宜しく!」
「た……頼んだよ、ドヴェリク!」
「――モチろんでス」

 ふたりの言葉に小さく頷くと、ドヴェリクは髭面の男の後に続いて部屋から出ていく。
 広い部屋に、マイスとイクサ、そして監視の半人族だけが残った。

「…………」
「…………」

 ――緊張で息が詰まる。
 沈黙に堪りかねたイクサは、横目でマイスをチラ見する。
 彼女は目を閉じて、何やら考えているようだ。

(……キレイだなあ)

 彼は、マイスの横顔に暫し見惚れていた。
 ――優しく照らす太陽の光のように明るい金髪を後ろで束ね、露わになったうなじにかかる後れ毛に、何とも言えない色気がある。
スラリと伸びた鼻稜のラインに、柔らかなカーブを描く顎のライン。形の良い唇は瑞々しく、それはまるで――、

「……どうしたの? 何を見ているのかしら?」
「へ――あ! いや……そ、その……!」

 突然マイスが声を上げ、心の中で彼女の横顔を激賞していたイクサは、完全に不意を衝かれて覿面に狼狽えた。しどろもどろながら、何とか言い訳をしようとする。
 が、

「どうしたの? こっちにいらっしゃい」
「……へ? えええ……と?」

 驚いたイクサがマイスの顔を見返すと、彼女の視線は、部屋の隅の小さな扉に向けられていた。
 そこには、粗末な服を着た半人族の子供達が小さな身体を更に縮こまらせて、じっと観察するようにコチラを凝視している。

「あ、あの子達に言ってたんですね……」
「……? そうだけど。――何の話?」
「あ! いや……何でもないっす!」

 マイスの紫色の瞳に見つめられ、ドギマギしながらイクサは頭を振った。彼は、自分の自意識過剰っぷりに、コッソリ赤面する。
 マイスは「変なの」と呟いて、半人族の子供の方に視線を戻すと、ニッコリと優しい微笑を浮かべながら声を掛けた。

「――ねえ! 良かったら、私と遊ばない? ずっと待ってるのも暇だから……一緒に遊んでくれると、お姉ちゃん嬉しいなっ」
「――!」

 子供達は、明らかに動揺した様子で、お互いの顔を見回している。
 その様子を見たマイスは、少し考え込む表情をすると、スカートの隠しに手を入れた。

「! ウェ! ノ! ノ!」

 彼女の動きを見た見張り役の男が、血相を変えて腰に差したナイフの柄に手をかける。

「ま、マイスさん!」
「大丈夫よ、ほら。――怪しい物じゃないわ」

 マイスは、そう言うと、ポケットから取り出した物を見張りとイクサの両方に見せた。それは――、

「か、カード……ですね、ソレ」
「そ、タダの種も仕掛けもないカードでーす」

 マイスは、花のような笑顔と共に、カードを広げ、ふたりと部屋の隅で固まっている子供たちに向けて掲げて見せた。
 彼女は、悪戯っ子のような表情を見せると、カードを素早くシャッフルし始め、高らかに宣言した。

「じゃあ、ここで、稀代の超魔術師すーぱーまじしゃんマイス・L・ダイサリィの、“みらくるマジックショー”を開演しま~す!」
「は? い? え……ええええ~?」

 イクサは、突然発せられた上司の言葉に仰天した。
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