60 / 77
第五章 NYAH NYAH NYAH
第六十話 異状と犯人
しおりを挟む
「ニャ……?」
「かなみさんが攫われた」という俺の言葉を聞いたハジさんは、その金色の瞳を飛び出さんばかりに見開いた。
そして、血相を変えて俺に詰め寄る。
「ニャんじゃと? それは本当かッ? か、かなみが……攫われたじゃとッ?」
「う……うん」
俺は、ハジさんの剣幕に気圧されながら、おずおずと頷いた。
そして、道路の真ん中で転がってるかなみさんのカバンをチラリと見て、思わず「……ていうか」と首を傾げる。
「この状況を見たら、普通に攫われたって思いそうなもんだけど……」
「いや、ワシャてっきり、かなみが不埒な事をしようとしてきたおミャえさんを思いっ切りブッ叩いて逃げた跡ニャんじゃと思うたんじゃが……」
「いやいやいや! んな訳無いでしょうがッ!」
ハジさんの答えを聞いて、俺は思わず声を荒げた。
「俺が、かなみさんにそんな事するような酷い男に見えるんすか、ハジさんはッ?」
「まあ……言われてみればそうじゃのう」
「でしょ?」
「ヘタレでネクラなおミャえさんに、女子を手籠めにしようとする度胸ニャんぞある訳ないわニャあ」
「そうそ……いや、そっちかよッ!」
ハジさんの言葉に思わず頷きかけた俺は、慌てて首を激しく左右に振りながら叫ぶ。
……だが、すぐにそんな事を言っている場合じゃない事に気付き、顔を青ざめさせた。
「……って、それよりも! か、かなみさんの事が……!」
「おお、そうじゃった……!」
ハジさんも、俺の声に真剣な表情を浮かべる。
俺は、途方に暮れながら、キョロキョロと周囲を見回した。
……見る限り、路地の様子はいつもと変わらない。それだけに、道の真ん中に忽然と落ちているかなみさんのショルダーバッグの非日常さが際立っていた。
――と、
「……そういえば」
俺は、ふと違和感に気付いた。
――より正確に言えば、さっき感じた違和感が無くなっている事に気付いた。
「ハジさん! 軽バン……そこに停まってた白の軽バンがいなくなってる!」
「……軽バンじゃと?」
ハジさんは、上ずった俺の言葉を聞くや、訝しげにヒゲをヒクヒクと動かしながら首を傾げる。
「ワシがここに来た時には、そんな車停まってニャかったが……」
そう、戸惑い混じりに呟いたハジさんは、かなみさんのショルダーバッグの周りで匂いを嗅いでいるハジ軍団の三匹に向けて「にゃああぁ~?」と、間延びした鳴き声で尋ねかけた。
すると――、
「にゃあぁ」
「みゃう……」
「ふにゅう~……」
ハジさんの鳴き声に応えるように、三匹の猫たちは三者三様の鳴き声を返す。
それを聞いたハジさんは、表情を曇らせながら、俺に向かって首を左右に振った。
「うむぅ……どうやら、こやつらがここに来た時点で、車はいなかったようじゃニャ」
「そうなのか……」
半ば予想通りのハジさんの答えに、俺は落胆する。
――それと同時に確信した。
「――じゃあ、やっぱりあの軽バンだ! あの車で、かなみさんは攫われたんですよ、ハジさんッ!」
「どうしてそう言い切れる?」
訊き返すハジさんに、俺はあの時の事を思い返しながら答える。
「俺が何か棒みたいなもので頭を殴られて気を失ったのは、ここに停まっていた白の軽バンを避けて通り過ぎたすぐ後だったんですよ! 多分……俺が通り過ぎた後でこっそり車から降りて、邪魔な俺を背後からぶん殴って気絶させた後で――」
「……かなみの事を捕まえて、その車の中に押し込んで連れ去った……そういう事か!」
俺の説明に納得したハジさんは、激しい怒りで全身の毛を逆立てた。
「おニョれ! ワシの可愛い孫娘を拐しおるとは……ふてえ野郎が! 一体どこのどいつニャ、その罰当たりモンはぁっ?」
「あ……それはハッキリ覚えてます」
怒りに打ち震えるハジさんに、俺も険しい表情を浮かべながら言う。
「意識が飛ぶ寸前、かなみさんが叫んでいるのが聞こえました……“タクミ”って!」
「タクミ……はて、誰ニャったかのう?」
「忘れたんすかッ? アイツですよ! この前、家まで押しかけてきたかなみさんの元カレです!」
「あ……あぁ~! アレか、あの勘違いキノコ頭かぁっ!」
ようやく記憶が蘇ったらしいハジさんが、牙を剥き出しながら怒声を上げた。
「あのモヤシ元カレ……初めて見た時もヤバそうな奴だと思っておったが、やっぱりろくでもない事をしでかしおったっちゅう訳かッ!」
「みたいですね……」
怒りに震えるハジさんを前に、俺も唇を噛む。
「最近はおとなしくしてるってかなみさんが言ってたので、油断しちゃってました……。俺がついていながら、むざむざ攫われちゃうなんて……クソッ!」
「うむ……それは確かにそうじゃのう」
「……」
ハジさんの肯定の言葉に、俺は無言で項垂れた。ハジさんに何を言われても、俺には返す言葉も無いし、言葉を返すつもりもない……。
「……じゃが」
と、その時、ハジさんがおもむろにハッとした俺の顔をじっと見上げながら、言葉を継ぐ。
「今はそんニャ事を悔やんでおる場合じゃニャい。反省する暇があるニャら、かなみを見つけ出す事に費やすんニャ。一分でも一秒でも早く、ニャ!」
「……そうっすね」
ハジさんの言葉に、俺は大きく頷き、決意を新たにする。
「こうなったら……絶対にかなみさんを助け出して、あのキノコヤローの事をぶっ飛ばしてやりますよ!」
「かなみさんが攫われた」という俺の言葉を聞いたハジさんは、その金色の瞳を飛び出さんばかりに見開いた。
そして、血相を変えて俺に詰め寄る。
「ニャんじゃと? それは本当かッ? か、かなみが……攫われたじゃとッ?」
「う……うん」
俺は、ハジさんの剣幕に気圧されながら、おずおずと頷いた。
そして、道路の真ん中で転がってるかなみさんのカバンをチラリと見て、思わず「……ていうか」と首を傾げる。
「この状況を見たら、普通に攫われたって思いそうなもんだけど……」
「いや、ワシャてっきり、かなみが不埒な事をしようとしてきたおミャえさんを思いっ切りブッ叩いて逃げた跡ニャんじゃと思うたんじゃが……」
「いやいやいや! んな訳無いでしょうがッ!」
ハジさんの答えを聞いて、俺は思わず声を荒げた。
「俺が、かなみさんにそんな事するような酷い男に見えるんすか、ハジさんはッ?」
「まあ……言われてみればそうじゃのう」
「でしょ?」
「ヘタレでネクラなおミャえさんに、女子を手籠めにしようとする度胸ニャんぞある訳ないわニャあ」
「そうそ……いや、そっちかよッ!」
ハジさんの言葉に思わず頷きかけた俺は、慌てて首を激しく左右に振りながら叫ぶ。
……だが、すぐにそんな事を言っている場合じゃない事に気付き、顔を青ざめさせた。
「……って、それよりも! か、かなみさんの事が……!」
「おお、そうじゃった……!」
ハジさんも、俺の声に真剣な表情を浮かべる。
俺は、途方に暮れながら、キョロキョロと周囲を見回した。
……見る限り、路地の様子はいつもと変わらない。それだけに、道の真ん中に忽然と落ちているかなみさんのショルダーバッグの非日常さが際立っていた。
――と、
「……そういえば」
俺は、ふと違和感に気付いた。
――より正確に言えば、さっき感じた違和感が無くなっている事に気付いた。
「ハジさん! 軽バン……そこに停まってた白の軽バンがいなくなってる!」
「……軽バンじゃと?」
ハジさんは、上ずった俺の言葉を聞くや、訝しげにヒゲをヒクヒクと動かしながら首を傾げる。
「ワシがここに来た時には、そんな車停まってニャかったが……」
そう、戸惑い混じりに呟いたハジさんは、かなみさんのショルダーバッグの周りで匂いを嗅いでいるハジ軍団の三匹に向けて「にゃああぁ~?」と、間延びした鳴き声で尋ねかけた。
すると――、
「にゃあぁ」
「みゃう……」
「ふにゅう~……」
ハジさんの鳴き声に応えるように、三匹の猫たちは三者三様の鳴き声を返す。
それを聞いたハジさんは、表情を曇らせながら、俺に向かって首を左右に振った。
「うむぅ……どうやら、こやつらがここに来た時点で、車はいなかったようじゃニャ」
「そうなのか……」
半ば予想通りのハジさんの答えに、俺は落胆する。
――それと同時に確信した。
「――じゃあ、やっぱりあの軽バンだ! あの車で、かなみさんは攫われたんですよ、ハジさんッ!」
「どうしてそう言い切れる?」
訊き返すハジさんに、俺はあの時の事を思い返しながら答える。
「俺が何か棒みたいなもので頭を殴られて気を失ったのは、ここに停まっていた白の軽バンを避けて通り過ぎたすぐ後だったんですよ! 多分……俺が通り過ぎた後でこっそり車から降りて、邪魔な俺を背後からぶん殴って気絶させた後で――」
「……かなみの事を捕まえて、その車の中に押し込んで連れ去った……そういう事か!」
俺の説明に納得したハジさんは、激しい怒りで全身の毛を逆立てた。
「おニョれ! ワシの可愛い孫娘を拐しおるとは……ふてえ野郎が! 一体どこのどいつニャ、その罰当たりモンはぁっ?」
「あ……それはハッキリ覚えてます」
怒りに打ち震えるハジさんに、俺も険しい表情を浮かべながら言う。
「意識が飛ぶ寸前、かなみさんが叫んでいるのが聞こえました……“タクミ”って!」
「タクミ……はて、誰ニャったかのう?」
「忘れたんすかッ? アイツですよ! この前、家まで押しかけてきたかなみさんの元カレです!」
「あ……あぁ~! アレか、あの勘違いキノコ頭かぁっ!」
ようやく記憶が蘇ったらしいハジさんが、牙を剥き出しながら怒声を上げた。
「あのモヤシ元カレ……初めて見た時もヤバそうな奴だと思っておったが、やっぱりろくでもない事をしでかしおったっちゅう訳かッ!」
「みたいですね……」
怒りに震えるハジさんを前に、俺も唇を噛む。
「最近はおとなしくしてるってかなみさんが言ってたので、油断しちゃってました……。俺がついていながら、むざむざ攫われちゃうなんて……クソッ!」
「うむ……それは確かにそうじゃのう」
「……」
ハジさんの肯定の言葉に、俺は無言で項垂れた。ハジさんに何を言われても、俺には返す言葉も無いし、言葉を返すつもりもない……。
「……じゃが」
と、その時、ハジさんがおもむろにハッとした俺の顔をじっと見上げながら、言葉を継ぐ。
「今はそんニャ事を悔やんでおる場合じゃニャい。反省する暇があるニャら、かなみを見つけ出す事に費やすんニャ。一分でも一秒でも早く、ニャ!」
「……そうっすね」
ハジさんの言葉に、俺は大きく頷き、決意を新たにする。
「こうなったら……絶対にかなみさんを助け出して、あのキノコヤローの事をぶっ飛ばしてやりますよ!」
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!
虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん><
面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる