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第二章 Boy Meets Girl Meets Cat.
第二十五話 来客と目的
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「は――初鹿野さんっ?」
扉の向こうからの声に、俺は仰天した。
(な、なんで? 何でかなみさんが? もう、引っ越し作業は終わったじゃん……?)
と、見開いた目でドアを見ながら、頭の中でたくさんのクエスチョンマークが飛び交う俺。
その時、ふとある可能性が浮かんだ。
(……ひょ、ひょっとして、引っ越し作業で何かやらかしちゃったか、俺?)
家具の設置位置を間違えたり、知らないうちに壁に穴でも開けちゃったりしたのかもしれない……。
そう考えた俺は、居ても立ってもいられなくなって、慌ててドアノブを握った。
と、その時、ハジさんが慌てた様子で声を上げる。
「……て、オイ! おミャえ、その格好――」
が、俺はその声に構わず、勢いよく扉を開け放った。
「お、お待たせしました! 何でしょ――」
「あ、三枝さん。こんな時間にすみま……」
ドアの向こうに立っていたかなみさんは、ドアを開けた俺ににこやかな微笑みを向け――かけて、その表情が凍りつく。
「せ……あ、そ……その……えっと……!」
「……? どうしました?」
急に真っ赤に染まった顔を両手で覆ったかなみさんに、きょとんとした顔で俺は尋ねた。
すると、彼女は目を固く瞑ったままで片手を伸ばし、おずおずと俺の身体を指さす。
「へ……?」
俺は、彼女の指先に沿って視線を動かし、自分の身体を見下ろした。
――パンツ一丁の自分の裸体を。
「……あ。あ……あああああああっ!」
ようやく彼女の反応の理由と事態の深刻さを把握した俺は、素っ頓狂な絶叫を上げる。
「すッ、スミマセンッ! す、すぐ着替えてきますんで! 初鹿野さん、どうぞ中で待っ……いや、な、中じゃマズいから、ちょ、ちょっとそのままお待ち下さいっ!」
「あっ! お、お気遣いな……あ、いえ、分かりました! 待ってますッ!」
動転する俺に負けず劣らず混乱している様子のかなみさんが、ヘッドバンキング並みの勢いで首を縦に振ったのを見て、俺は大急ぎで扉を閉めた。
そして、タンスの中からTシャツとズボンを引っ張り出して着替えながら、呆れ顔で傍観しているハジさんにヒソヒソ声で文句を言う。
「ちょ、ちょっと、ハジさん! ドア開ける前に止めて下さいよ!」
「ニャ~に言っとるんじゃ」
俺の抗議の言葉を聞いたハジさんは、不機嫌そうにヒゲを逆立てながら言い返した。
「ワシャ、ちゃんと止めようとしたわい。それも聞かずに、盛りのついたネコみたいな勢いでドアを開けたのはおミャえさんじゃろうが。ワシャ悪くない」
「う……」
ハジさんにド正論を言われた俺は、ぐうの音も出ない。
そんなこんなでそそくさと服を着ながら、俺は何故かなみさんがこんな時間にこの家を訪れたのかを考えてみた。
(なんか、片付けしてる時に見つけて困ってるとか?)
(ゴキブリ……うん、あり得るかも。このアパート古いからなぁ。リフォームしたって言っても、根絶は無理だろうし)
(……ひょっとして、ひとり暮らしになって最初の夜だから、寂しくなって俺と一緒に居たくなった……とか?)
「――いや、さすがにそれは無いよなぁ……」
「ん? 何がニャ?」
「アッイエ、な、何でもないっす!」
思わず声に出してしまった最後の妄想をハジさんに聞きつけられた俺は、慌てて否定しながらズボンを穿き、無いと否定した最後の妄想が現実のものになる事を秘かに期待しつつ、玄関へと向かう。
そして、潜めた声でハジさんに「おとなしくしてて下さいよ!」と釘を刺してから、
「お、お待たせしました~……」
と言いつつ、恐る恐る扉を開けた。
「あ……はい……」
俺が着替える間、扉の前で律儀に待っててくれていたらしいかなみさんは、伏し目がちで頭を下げる。その動きは、どことなくぎこちない。
そんな彼女を前に、俺も気まずい思いを抱きながら、深々と頭を下げた。
「す、スミマセンッした! なんかその、……お見苦しいものをお見せしてしまって……」
「あ、い、いえ……大丈夫デス……」
かなみさんは、俺の言葉に慌てた様子で首を横に振る。
「こ……こちらこそ、こんな時間に突然来てしまって、すみませんでした」
「い、いえいえ! 初鹿野さんが謝る事じゃ全然無いっすよ!」
かなみさんの謝罪に、俺は更に慌ててかぶりを振った。
そして、微かに首を傾げながら、おずおずと訊ねる。
「え、え~っと……それで、ウチに何のご用で……?」
「あ、そ、そうでした!」
かなみさんは、俺の問いかけにハッとした顔をして、急いで腕にかけていたレジ袋を俺に向けて差し出した。
「……これは?」
唐突にレジ袋を目の前に差し出された俺は、思わず目をパチクリさせながらかなみさんに尋ねる。
それに対して、彼女は照れくさそうにしながら、小さな声で答えた。
「えっと……その、引っ越しそば……です」
「……引っ越しそば?」
彼女の口から出た意外な答えに、俺は当惑しながらレジ袋の中を覗き込む。
……確かに、中には乾麺タイプの即席そばの袋と、500mlの麺つゆのボトルが入っていた。
「あ、あの、違うんです!」
思わずポカンとしてしまった俺に、かなみさんは必死の顔で声を上げる。
「ほ、ホントはちゃんと料理したおそばをアパートの皆さんにお配りしようと思ったんですけど、お鍋とかお皿が入ってる段ボールが見つからなくて……多分、山積みになってる段ボールの下の方にあるとは思うんですけど……」
「ああ……」
「なので……しょうがないので、材料だけをお渡しして、あとは皆さんに料理してもらおう……って」
そう言うと、彼女は再び深々と頭を下げた。
「せっかくの引っ越しそばがこんな感じで、本当にごめんなさい!」
「あ、い、いえ!」
我に返った俺は、頭を下げたかなみさんに向けて、慌ててかぶりを振った。
「とんでもないっす! そのお気持ちだけで嬉しいっす、マジで!」
「そうですか……良かったぁ」
俺の答えを聞いたかなみさんが、安堵の息を吐く。
「何だか、三枝さんが浮かない顔をなさってたみたいで……」
「い、イエイエ! そんな事は無いですよ~っ!」
秘かに……『ひとりで寂しいから、三枝さんのお家に泊めて下さい! ついでに、一緒に寝て下さいっ!』という展開を、ほんのちょおおおおおっとだけ期待していた俺は、知らぬうちに曇っていたらしい顔を、慌てて引き攣った笑顔に切り替えるのだった……。
扉の向こうからの声に、俺は仰天した。
(な、なんで? 何でかなみさんが? もう、引っ越し作業は終わったじゃん……?)
と、見開いた目でドアを見ながら、頭の中でたくさんのクエスチョンマークが飛び交う俺。
その時、ふとある可能性が浮かんだ。
(……ひょ、ひょっとして、引っ越し作業で何かやらかしちゃったか、俺?)
家具の設置位置を間違えたり、知らないうちに壁に穴でも開けちゃったりしたのかもしれない……。
そう考えた俺は、居ても立ってもいられなくなって、慌ててドアノブを握った。
と、その時、ハジさんが慌てた様子で声を上げる。
「……て、オイ! おミャえ、その格好――」
が、俺はその声に構わず、勢いよく扉を開け放った。
「お、お待たせしました! 何でしょ――」
「あ、三枝さん。こんな時間にすみま……」
ドアの向こうに立っていたかなみさんは、ドアを開けた俺ににこやかな微笑みを向け――かけて、その表情が凍りつく。
「せ……あ、そ……その……えっと……!」
「……? どうしました?」
急に真っ赤に染まった顔を両手で覆ったかなみさんに、きょとんとした顔で俺は尋ねた。
すると、彼女は目を固く瞑ったままで片手を伸ばし、おずおずと俺の身体を指さす。
「へ……?」
俺は、彼女の指先に沿って視線を動かし、自分の身体を見下ろした。
――パンツ一丁の自分の裸体を。
「……あ。あ……あああああああっ!」
ようやく彼女の反応の理由と事態の深刻さを把握した俺は、素っ頓狂な絶叫を上げる。
「すッ、スミマセンッ! す、すぐ着替えてきますんで! 初鹿野さん、どうぞ中で待っ……いや、な、中じゃマズいから、ちょ、ちょっとそのままお待ち下さいっ!」
「あっ! お、お気遣いな……あ、いえ、分かりました! 待ってますッ!」
動転する俺に負けず劣らず混乱している様子のかなみさんが、ヘッドバンキング並みの勢いで首を縦に振ったのを見て、俺は大急ぎで扉を閉めた。
そして、タンスの中からTシャツとズボンを引っ張り出して着替えながら、呆れ顔で傍観しているハジさんにヒソヒソ声で文句を言う。
「ちょ、ちょっと、ハジさん! ドア開ける前に止めて下さいよ!」
「ニャ~に言っとるんじゃ」
俺の抗議の言葉を聞いたハジさんは、不機嫌そうにヒゲを逆立てながら言い返した。
「ワシャ、ちゃんと止めようとしたわい。それも聞かずに、盛りのついたネコみたいな勢いでドアを開けたのはおミャえさんじゃろうが。ワシャ悪くない」
「う……」
ハジさんにド正論を言われた俺は、ぐうの音も出ない。
そんなこんなでそそくさと服を着ながら、俺は何故かなみさんがこんな時間にこの家を訪れたのかを考えてみた。
(なんか、片付けしてる時に見つけて困ってるとか?)
(ゴキブリ……うん、あり得るかも。このアパート古いからなぁ。リフォームしたって言っても、根絶は無理だろうし)
(……ひょっとして、ひとり暮らしになって最初の夜だから、寂しくなって俺と一緒に居たくなった……とか?)
「――いや、さすがにそれは無いよなぁ……」
「ん? 何がニャ?」
「アッイエ、な、何でもないっす!」
思わず声に出してしまった最後の妄想をハジさんに聞きつけられた俺は、慌てて否定しながらズボンを穿き、無いと否定した最後の妄想が現実のものになる事を秘かに期待しつつ、玄関へと向かう。
そして、潜めた声でハジさんに「おとなしくしてて下さいよ!」と釘を刺してから、
「お、お待たせしました~……」
と言いつつ、恐る恐る扉を開けた。
「あ……はい……」
俺が着替える間、扉の前で律儀に待っててくれていたらしいかなみさんは、伏し目がちで頭を下げる。その動きは、どことなくぎこちない。
そんな彼女を前に、俺も気まずい思いを抱きながら、深々と頭を下げた。
「す、スミマセンッした! なんかその、……お見苦しいものをお見せしてしまって……」
「あ、い、いえ……大丈夫デス……」
かなみさんは、俺の言葉に慌てた様子で首を横に振る。
「こ……こちらこそ、こんな時間に突然来てしまって、すみませんでした」
「い、いえいえ! 初鹿野さんが謝る事じゃ全然無いっすよ!」
かなみさんの謝罪に、俺は更に慌ててかぶりを振った。
そして、微かに首を傾げながら、おずおずと訊ねる。
「え、え~っと……それで、ウチに何のご用で……?」
「あ、そ、そうでした!」
かなみさんは、俺の問いかけにハッとした顔をして、急いで腕にかけていたレジ袋を俺に向けて差し出した。
「……これは?」
唐突にレジ袋を目の前に差し出された俺は、思わず目をパチクリさせながらかなみさんに尋ねる。
それに対して、彼女は照れくさそうにしながら、小さな声で答えた。
「えっと……その、引っ越しそば……です」
「……引っ越しそば?」
彼女の口から出た意外な答えに、俺は当惑しながらレジ袋の中を覗き込む。
……確かに、中には乾麺タイプの即席そばの袋と、500mlの麺つゆのボトルが入っていた。
「あ、あの、違うんです!」
思わずポカンとしてしまった俺に、かなみさんは必死の顔で声を上げる。
「ほ、ホントはちゃんと料理したおそばをアパートの皆さんにお配りしようと思ったんですけど、お鍋とかお皿が入ってる段ボールが見つからなくて……多分、山積みになってる段ボールの下の方にあるとは思うんですけど……」
「ああ……」
「なので……しょうがないので、材料だけをお渡しして、あとは皆さんに料理してもらおう……って」
そう言うと、彼女は再び深々と頭を下げた。
「せっかくの引っ越しそばがこんな感じで、本当にごめんなさい!」
「あ、い、いえ!」
我に返った俺は、頭を下げたかなみさんに向けて、慌ててかぶりを振った。
「とんでもないっす! そのお気持ちだけで嬉しいっす、マジで!」
「そうですか……良かったぁ」
俺の答えを聞いたかなみさんが、安堵の息を吐く。
「何だか、三枝さんが浮かない顔をなさってたみたいで……」
「い、イエイエ! そんな事は無いですよ~っ!」
秘かに……『ひとりで寂しいから、三枝さんのお家に泊めて下さい! ついでに、一緒に寝て下さいっ!』という展開を、ほんのちょおおおおおっとだけ期待していた俺は、知らぬうちに曇っていたらしい顔を、慌てて引き攣った笑顔に切り替えるのだった……。
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