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第十四章 戦士たちは、来たるべき戦いに向け、何を想うのか
第十四章其の玖 決意
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「え? それって、要するに……」
「……そういう事か」
ドリューシュの言葉を聞いて、その意味を掴みかねて戸惑う碧とは対照的に、ハヤテは苦々しい表情を浮かべて、唇を噛んだ。
「つまり……今回、イドゥン王があなたに命じたこの戦いの真の目的は、“森の悪魔”討伐などではなく――」
そこまで言うと、ハヤテは大きく息を吐き、まるで睨みつけるかのような鋭い視線をドリューシュに向け、言葉を継いだ。
「――フラニィの命を奪う上での最大の障害となる、俺とあなたを体よく排除する事にある……という事か!」
「……恐らく。――いや、ほぼ間違いないでしょう」
ハヤテの問いかけに、ドリューシュも沈痛な表情で応えた。
「現在まで、あの兄上がフラニィを生かし続けている理由はただひとつ。……自分がフラニィの身を確保している限り、“オチビト”の強大な力を持つハヤテ殿が、猫獣人――いや、自分自身に反旗を翻す事は無いと考えているからです」
「……何それ」
ドリューシュの言葉に、怒りを圧し殺した声で呟いたのは、碧だった。
「それってつまり、ハヤテさんに対する人質としてってだけの理由で、フラニィさんを生かしてるって事?」
「……そういう事です。そして――」
「逆に言えば……俺と、兄弟たちの中で唯一のフラニィの理解者であるドリューシュ王子さえ居なくなれば、彼女の命を生き永らえさせる理由は無くなるという事だ」
「何よそれっ!」
碧は、眉を吊り上げて叫んだ。
「じゃあ、王様がフラニィさんを殺したくて仕方ないから、邪魔なハヤテさんと王子様を危険な戦いに行かせて、死んでもらおうとしてるって事?」
「……そういう事だと――」
「頭おかしいんじゃないの、その王様ッ!」
ハヤテの答えを遮り、碧はますます声を荒げる。
「ていうか、もし私たちと王子様が死んじゃったら、ミアン王国はどうなるの? それこそ、森の中からオチビトが攻めてきた時に、装甲戦士と、ピシィナの中で一番強い王子様が居なかったら、あいつらを防ぐ事が出来ないじゃないの?」
「それは……確かに」
碧の言葉に、ドリューシュは深く頷いた。
「ですが……僕にも分かりませんが、兄上には確信があるのだと思います。僕たちが居なくても、森の悪魔たちに攻め込まれはしないという確たる自信が。……それは、血を分けた兄弟として、長い間を共に過ごしてきた経験から、ハッキリと言い切れます」
「……っ」
ドリューシュの断言に、碧とハヤテは口を噤んだ。肉親としてのドリューシュの言葉には、理屈以上の説得力があったからだ。
と、
「――ご理解いただけましたか」
ふたりが沈黙したのを見たドリューシュが、静かに言った。
「王都で軟禁されているフラニィの身が、いかに危険な状況下に置かれているか。だから、僕は貴方にお願いしたのです。『フラニィを救出してほしい』――と」
「だ……だったら!」
落ち着いた口ぶりのドリューシュに食ってかかる様に、碧が声を上げる。
「だったら! 私たちだけじゃなくて、王子様やこの軍隊のみんなもいっしょに――」
「……この大人数で王都に向かったら、目立ちすぎます。兄上が我々の動きに気付いたら、僕たちが“凱旋ノ門”を潜る前に、フラニィは処刑されてしまうでしょう。……それに」
と、一旦言葉を切ると、ドリューシュは複雑な感情が入り交じった表情を浮かべた。そして、ハヤテと碧の顔をじっと見つめながら、静かに言葉を継いだ。
「……僕は、ファスナフォリック家の男で、軍人ですから。どんな理不尽なものであっても、主君の命に背く訳にはいかないんです。おふたりには、『くだらない』と一蹴されてしまうかもしれませんが……」
「「……!」」
ドリューシュの目を見た瞬間、ふたりは悟った。――どんな言葉を尽くそうとも、彼の決意を止める事は出来ない事を。
そして、二人に向かって、ドリューシュは穏やかな微笑みを浮かべて言った。
「――という事で、おふたりとはここでお別れです」
「……」
「おふたりは、僕たちが出立した後に、来た道を引き返して下さい。そして、夜になるのを待って、その“王家の血”で結界を通り、王都に潜入したら、北郭の別館に居るフラニィを救い出して下さい。手段はお任せします」
「……ドリューシュ王子は、どうするんですか?」
「もちろん、戦いますよ。“森の悪魔”と」
「ダメだ!」
ドリューシュの答えに、ハヤテは激しい声で叫んだ。
「ダメだよ、それは! こう言っては失礼になるかもしれないが……あなた達猫獣人だけでは、あいつらを全員倒す事なんて……出来ない!」
「――分かってますよ、そんな事は」
ハヤテの言葉に、ドリューシュは穏やかに頷いた。
「だったら――」
「先ほども言った通りです。僕は……いや、僕たちは軍人ですから」
「……はい」
ドリューシュに倣って、言葉少なに頷いたのは、ヴァルトーだった。
ふたりの瞳に、決して揺らがぬ強い決意を見たハヤテと碧は思わず気圧され、言葉を失う。
――と、
「……ハヤテ殿」
無言で立ち竦むハヤテに歩み寄ったドリューシュは、その肩にポンと手を乗せ、彼の目を真っ直ぐに見つめながら、静かに訊ねた。
「フラニィの事、貴方にお願いしてもよろしいですか?」
「……はい」
彼の問いに、ハヤテは小さく頷く。
そして、ドリューシュの目を見返して、ハッキリと答えた。
「――フラニィの事、俺が必ず守り抜きます。任せて下さい」
「……ありがとう」
ハヤテの答えを聞いて、満足げな笑みを浮かべたドリューシュは、躊躇うような素振りを見せた後、「……あの」と、言葉を続けた。
「フラニィに伝えてほしいのですが……『ミアン王国の事など忘れて、幸せになってくれ』と」
「……はい。分かりました」
「――あと」
「はい……?」
言い淀むドリューシュの態度に訝しげな表情を浮かべながら、ハヤテは尋ねかける。
すると、ピンと立っていた耳を伏せ、頻りに目を瞬かせながら、ドリューシュは口を開いた。
「あと、もう一言だけ。……『愛しているよ』と――」
「……そういう事か」
ドリューシュの言葉を聞いて、その意味を掴みかねて戸惑う碧とは対照的に、ハヤテは苦々しい表情を浮かべて、唇を噛んだ。
「つまり……今回、イドゥン王があなたに命じたこの戦いの真の目的は、“森の悪魔”討伐などではなく――」
そこまで言うと、ハヤテは大きく息を吐き、まるで睨みつけるかのような鋭い視線をドリューシュに向け、言葉を継いだ。
「――フラニィの命を奪う上での最大の障害となる、俺とあなたを体よく排除する事にある……という事か!」
「……恐らく。――いや、ほぼ間違いないでしょう」
ハヤテの問いかけに、ドリューシュも沈痛な表情で応えた。
「現在まで、あの兄上がフラニィを生かし続けている理由はただひとつ。……自分がフラニィの身を確保している限り、“オチビト”の強大な力を持つハヤテ殿が、猫獣人――いや、自分自身に反旗を翻す事は無いと考えているからです」
「……何それ」
ドリューシュの言葉に、怒りを圧し殺した声で呟いたのは、碧だった。
「それってつまり、ハヤテさんに対する人質としてってだけの理由で、フラニィさんを生かしてるって事?」
「……そういう事です。そして――」
「逆に言えば……俺と、兄弟たちの中で唯一のフラニィの理解者であるドリューシュ王子さえ居なくなれば、彼女の命を生き永らえさせる理由は無くなるという事だ」
「何よそれっ!」
碧は、眉を吊り上げて叫んだ。
「じゃあ、王様がフラニィさんを殺したくて仕方ないから、邪魔なハヤテさんと王子様を危険な戦いに行かせて、死んでもらおうとしてるって事?」
「……そういう事だと――」
「頭おかしいんじゃないの、その王様ッ!」
ハヤテの答えを遮り、碧はますます声を荒げる。
「ていうか、もし私たちと王子様が死んじゃったら、ミアン王国はどうなるの? それこそ、森の中からオチビトが攻めてきた時に、装甲戦士と、ピシィナの中で一番強い王子様が居なかったら、あいつらを防ぐ事が出来ないじゃないの?」
「それは……確かに」
碧の言葉に、ドリューシュは深く頷いた。
「ですが……僕にも分かりませんが、兄上には確信があるのだと思います。僕たちが居なくても、森の悪魔たちに攻め込まれはしないという確たる自信が。……それは、血を分けた兄弟として、長い間を共に過ごしてきた経験から、ハッキリと言い切れます」
「……っ」
ドリューシュの断言に、碧とハヤテは口を噤んだ。肉親としてのドリューシュの言葉には、理屈以上の説得力があったからだ。
と、
「――ご理解いただけましたか」
ふたりが沈黙したのを見たドリューシュが、静かに言った。
「王都で軟禁されているフラニィの身が、いかに危険な状況下に置かれているか。だから、僕は貴方にお願いしたのです。『フラニィを救出してほしい』――と」
「だ……だったら!」
落ち着いた口ぶりのドリューシュに食ってかかる様に、碧が声を上げる。
「だったら! 私たちだけじゃなくて、王子様やこの軍隊のみんなもいっしょに――」
「……この大人数で王都に向かったら、目立ちすぎます。兄上が我々の動きに気付いたら、僕たちが“凱旋ノ門”を潜る前に、フラニィは処刑されてしまうでしょう。……それに」
と、一旦言葉を切ると、ドリューシュは複雑な感情が入り交じった表情を浮かべた。そして、ハヤテと碧の顔をじっと見つめながら、静かに言葉を継いだ。
「……僕は、ファスナフォリック家の男で、軍人ですから。どんな理不尽なものであっても、主君の命に背く訳にはいかないんです。おふたりには、『くだらない』と一蹴されてしまうかもしれませんが……」
「「……!」」
ドリューシュの目を見た瞬間、ふたりは悟った。――どんな言葉を尽くそうとも、彼の決意を止める事は出来ない事を。
そして、二人に向かって、ドリューシュは穏やかな微笑みを浮かべて言った。
「――という事で、おふたりとはここでお別れです」
「……」
「おふたりは、僕たちが出立した後に、来た道を引き返して下さい。そして、夜になるのを待って、その“王家の血”で結界を通り、王都に潜入したら、北郭の別館に居るフラニィを救い出して下さい。手段はお任せします」
「……ドリューシュ王子は、どうするんですか?」
「もちろん、戦いますよ。“森の悪魔”と」
「ダメだ!」
ドリューシュの答えに、ハヤテは激しい声で叫んだ。
「ダメだよ、それは! こう言っては失礼になるかもしれないが……あなた達猫獣人だけでは、あいつらを全員倒す事なんて……出来ない!」
「――分かってますよ、そんな事は」
ハヤテの言葉に、ドリューシュは穏やかに頷いた。
「だったら――」
「先ほども言った通りです。僕は……いや、僕たちは軍人ですから」
「……はい」
ドリューシュに倣って、言葉少なに頷いたのは、ヴァルトーだった。
ふたりの瞳に、決して揺らがぬ強い決意を見たハヤテと碧は思わず気圧され、言葉を失う。
――と、
「……ハヤテ殿」
無言で立ち竦むハヤテに歩み寄ったドリューシュは、その肩にポンと手を乗せ、彼の目を真っ直ぐに見つめながら、静かに訊ねた。
「フラニィの事、貴方にお願いしてもよろしいですか?」
「……はい」
彼の問いに、ハヤテは小さく頷く。
そして、ドリューシュの目を見返して、ハッキリと答えた。
「――フラニィの事、俺が必ず守り抜きます。任せて下さい」
「……ありがとう」
ハヤテの答えを聞いて、満足げな笑みを浮かべたドリューシュは、躊躇うような素振りを見せた後、「……あの」と、言葉を続けた。
「フラニィに伝えてほしいのですが……『ミアン王国の事など忘れて、幸せになってくれ』と」
「……はい。分かりました」
「――あと」
「はい……?」
言い淀むドリューシュの態度に訝しげな表情を浮かべながら、ハヤテは尋ねかける。
すると、ピンと立っていた耳を伏せ、頻りに目を瞬かせながら、ドリューシュは口を開いた。
「あと、もう一言だけ。……『愛しているよ』と――」
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