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第十四章 戦士たちは、来たるべき戦いに向け、何を想うのか
第十四章其の参 歓迎
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――その日、オシス砦は喧騒と緊張に包まれていた。
朝方に王都キヤフェを出立したドリューシュ率いる“森の悪魔討伐隊”百名が、夕方にオシス砦に着到したからだ。
討伐隊は、数日この地に留まり、砦の守備隊兵との連携訓練を行った後、そのまま守備隊兵を編成に組み込み、森の悪魔”が潜伏するエフタトスの大森林へと進攻する予定となっている。
とはいえ、丘の上に築かれたオシス砦は小さく、元々収容兵数が多くない上、以前から続けられている改築もいまだ完了していないので、百名もの兵を宿泊させるキャパシティは無い。
その為、討伐隊の兵たちは、丘の麓でテントを張り、野営する事にしたのだった――。
◆ ◆ ◆ ◆
その日の夜、オシス砦の主郭に建てられた、他の建物よりは幾分か大きくしっかりした作りの小屋の中で、第一王太子ドリューシュを歓迎する宴が催された。
宴とは言っても、出席者は主賓であるドリューシュと砦の責任者であるヴァルトー中隊長、そしてオチビトである焔良疾風と香月碧の四名だけという、ささやかなものだった。
「ドリューシュ殿下……、ようこそ御出で下さいました――と申し上げて宜しいのでしょうかな」
と、マタタビ酒の杯を掲げたヴァルトー中隊長が、上座に座ったドリューシュに向かって苦笑交じりに言った。
彼の言葉に、ドリューシュも困り笑いを浮かべ、それから小さく頷いた。
「――まあ、ね。でも、経緯はともかく、再び君やハヤテ殿と会えた事は嬉しいよ」
「俺もです、ドリューシュ王子」
ドリューシュの言葉に大きく頷きながら、その顔に柔和な笑みを浮かべたのは、ハヤテだった。
彼は、しみじみと言う。
「お元気そうで、何よりです」
「それは、僕の方のセリフですよ、ハヤテ殿……」
ハヤテの労いに対し、灰色の毛皮に覆われた顔に穏やかな笑みを浮かべながら穏やかに答えたドリューシュは、くいっと杯を傾けてマタタビ酒を飲み干し、言葉を続ける。
「このオシス砦に移られてからのご活躍は、聞き及んでおります。三人もの“森の悪魔”と対峙し、それを悉く退けられたとか。さすがですね」
「はあ……いえ……」
ドリューシュの賛辞に対し、ハヤテは面映ゆそうに頭を掻く。
「そうは言っても、いずれも紙一重のところでした。正直なところ、ヴァルトーさんをはじめとした猫獣人のみんなや香月さんの力が無ければ、俺は彼らにやられていたと思います。俺ひとりの力だけで勝てた訳ではありません」
「ハヤテ殿……」
ハヤテの言葉に、ヴァルトーは思わず瞳を潤ませる。
ドリューシュも、満足そうに頷いたが、ふと顔を上げると、その場に座っているもう一名の顔を見た。
「で――その、“コウヅキさん”と仰るのが……貴方ですか?」
「へ、ふぁ、ふぁイ!」
鳥もも肉の丸焼きに齧りつこうとする寸前で、突然王太子に声をかけられた碧は、目を白黒させつつ、コクコクと首を縦に振った。
そんな彼女を、興味半分警戒半分という目で見つめながら、ドリューシュは言葉を続ける。
「貴方のお話も報告で受けております。何でも……ハヤテ殿と同様、我々に力を貸していただけるという……」
「え、ええ……」
ドリューシュの問いかけに対し、碧は仄かに頬を染めながら頷いた。
「わ……私は別に、石棺の破壊がどうのとかには興味が無いので……。ヴァルトーさんや、ここのみんなは優しくていい人……って、人じゃなくて猫か――だし。それに……」
そこまで言うと、彼女は一旦言葉を止め、僅かに目を逸らしてから続けた。
「……この前、ここに攻めてきたスオーの奴の言ってた事より、ハヤテさんが言ってる事の方が、私的にはしっくり来たって言うか……。だから、私はハヤテさんに付いていこうかな――って」
「……香月さん」
「! ――って、ご、誤解しないでよね!」
思わずハヤテが漏らした声を聞いて、ハッとした様子を見せた碧は、顔を真っ赤にしながら大きく頭を振った。
「わ、私がいいなって思ったのは、あなたの考え方に対してだけだから! べ、別にあなた自体がどうのこうのっていうのは、全然考えてないんだから、変な誤解しないでよねっ!」
「い、いや……俺は別に、そんな事なんて……」
「――ぷっ!」
一気に捲し立てる碧と、その剣幕にタジタジとなっているハヤテの顔を交互に見ていたドリューシュが、思わず噴き出した。
「ははははは……! これは、あいつも大変ですな。強力なライバルが現れてしまったようだ」
「あ、あいつ? ライバル?」
「あ……これは失敬。こちらの話です。ははは……」
眉間に皺を寄せた碧に、引き攣り笑いを浮かべつつ、頭を振るドリューシュ。
そして、彼はおもむろに席から立ち上がると、碧に向かって深々と頭を下げて言った。
「……ともあれ、ニンゲンである貴方が、共に戦って頂けるとは……実に心強い限り。この、ミアン王国第一王太子ドリューシュ・セカ・ファスナフォリック、心より御礼申し上げます。――ありがとうございます、コウヅキアオイ殿」
「え? あ……え、えっと……」
王太子直々に感謝の言葉を伝えられた碧は、目を瞬かせながらキョロキョロと周りを見回し、それからおずおずとお辞儀を返す。
「こ……こちらこそ、よ、宜しく……お願いします……」
「「……ぷっ」」
「って! そこのふたり! 何笑ってんのッ!」
「あ……す、すまない。つい……」
「いや……何だか、いつものアオイ殿らしからぬ素直なご様子に……思わず」
顔を朱に染めて激昂する碧を前に、慌てて口元を押さえて謝るハヤテとヴァルトーだったが、その肩は小刻みに震えていたのだった……。
朝方に王都キヤフェを出立したドリューシュ率いる“森の悪魔討伐隊”百名が、夕方にオシス砦に着到したからだ。
討伐隊は、数日この地に留まり、砦の守備隊兵との連携訓練を行った後、そのまま守備隊兵を編成に組み込み、森の悪魔”が潜伏するエフタトスの大森林へと進攻する予定となっている。
とはいえ、丘の上に築かれたオシス砦は小さく、元々収容兵数が多くない上、以前から続けられている改築もいまだ完了していないので、百名もの兵を宿泊させるキャパシティは無い。
その為、討伐隊の兵たちは、丘の麓でテントを張り、野営する事にしたのだった――。
◆ ◆ ◆ ◆
その日の夜、オシス砦の主郭に建てられた、他の建物よりは幾分か大きくしっかりした作りの小屋の中で、第一王太子ドリューシュを歓迎する宴が催された。
宴とは言っても、出席者は主賓であるドリューシュと砦の責任者であるヴァルトー中隊長、そしてオチビトである焔良疾風と香月碧の四名だけという、ささやかなものだった。
「ドリューシュ殿下……、ようこそ御出で下さいました――と申し上げて宜しいのでしょうかな」
と、マタタビ酒の杯を掲げたヴァルトー中隊長が、上座に座ったドリューシュに向かって苦笑交じりに言った。
彼の言葉に、ドリューシュも困り笑いを浮かべ、それから小さく頷いた。
「――まあ、ね。でも、経緯はともかく、再び君やハヤテ殿と会えた事は嬉しいよ」
「俺もです、ドリューシュ王子」
ドリューシュの言葉に大きく頷きながら、その顔に柔和な笑みを浮かべたのは、ハヤテだった。
彼は、しみじみと言う。
「お元気そうで、何よりです」
「それは、僕の方のセリフですよ、ハヤテ殿……」
ハヤテの労いに対し、灰色の毛皮に覆われた顔に穏やかな笑みを浮かべながら穏やかに答えたドリューシュは、くいっと杯を傾けてマタタビ酒を飲み干し、言葉を続ける。
「このオシス砦に移られてからのご活躍は、聞き及んでおります。三人もの“森の悪魔”と対峙し、それを悉く退けられたとか。さすがですね」
「はあ……いえ……」
ドリューシュの賛辞に対し、ハヤテは面映ゆそうに頭を掻く。
「そうは言っても、いずれも紙一重のところでした。正直なところ、ヴァルトーさんをはじめとした猫獣人のみんなや香月さんの力が無ければ、俺は彼らにやられていたと思います。俺ひとりの力だけで勝てた訳ではありません」
「ハヤテ殿……」
ハヤテの言葉に、ヴァルトーは思わず瞳を潤ませる。
ドリューシュも、満足そうに頷いたが、ふと顔を上げると、その場に座っているもう一名の顔を見た。
「で――その、“コウヅキさん”と仰るのが……貴方ですか?」
「へ、ふぁ、ふぁイ!」
鳥もも肉の丸焼きに齧りつこうとする寸前で、突然王太子に声をかけられた碧は、目を白黒させつつ、コクコクと首を縦に振った。
そんな彼女を、興味半分警戒半分という目で見つめながら、ドリューシュは言葉を続ける。
「貴方のお話も報告で受けております。何でも……ハヤテ殿と同様、我々に力を貸していただけるという……」
「え、ええ……」
ドリューシュの問いかけに対し、碧は仄かに頬を染めながら頷いた。
「わ……私は別に、石棺の破壊がどうのとかには興味が無いので……。ヴァルトーさんや、ここのみんなは優しくていい人……って、人じゃなくて猫か――だし。それに……」
そこまで言うと、彼女は一旦言葉を止め、僅かに目を逸らしてから続けた。
「……この前、ここに攻めてきたスオーの奴の言ってた事より、ハヤテさんが言ってる事の方が、私的にはしっくり来たって言うか……。だから、私はハヤテさんに付いていこうかな――って」
「……香月さん」
「! ――って、ご、誤解しないでよね!」
思わずハヤテが漏らした声を聞いて、ハッとした様子を見せた碧は、顔を真っ赤にしながら大きく頭を振った。
「わ、私がいいなって思ったのは、あなたの考え方に対してだけだから! べ、別にあなた自体がどうのこうのっていうのは、全然考えてないんだから、変な誤解しないでよねっ!」
「い、いや……俺は別に、そんな事なんて……」
「――ぷっ!」
一気に捲し立てる碧と、その剣幕にタジタジとなっているハヤテの顔を交互に見ていたドリューシュが、思わず噴き出した。
「ははははは……! これは、あいつも大変ですな。強力なライバルが現れてしまったようだ」
「あ、あいつ? ライバル?」
「あ……これは失敬。こちらの話です。ははは……」
眉間に皺を寄せた碧に、引き攣り笑いを浮かべつつ、頭を振るドリューシュ。
そして、彼はおもむろに席から立ち上がると、碧に向かって深々と頭を下げて言った。
「……ともあれ、ニンゲンである貴方が、共に戦って頂けるとは……実に心強い限り。この、ミアン王国第一王太子ドリューシュ・セカ・ファスナフォリック、心より御礼申し上げます。――ありがとうございます、コウヅキアオイ殿」
「え? あ……え、えっと……」
王太子直々に感謝の言葉を伝えられた碧は、目を瞬かせながらキョロキョロと周りを見回し、それからおずおずとお辞儀を返す。
「こ……こちらこそ、よ、宜しく……お願いします……」
「「……ぷっ」」
「って! そこのふたり! 何笑ってんのッ!」
「あ……す、すまない。つい……」
「いや……何だか、いつものアオイ殿らしからぬ素直なご様子に……思わず」
顔を朱に染めて激昂する碧を前に、慌てて口元を押さえて謝るハヤテとヴァルトーだったが、その肩は小刻みに震えていたのだった……。
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