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第十章 襲い来る魔石の戦士に、如何に立ち向かうのか
第十章其の壱拾壱 暴龍
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大木を薙ぎ払い、地上へ降り立ったテラは、ゆっくりと頭を廻らし、自分の攻撃を間一髪で避けたジュエルに気付くと、
「ウォォオオオオオオオオオッ!」
と、再び咆哮する。
そして、背中から伸びる長い龍の尾を撓らせるや、鋭い一撃をジュエルに向かって放った。
「――くっ!」
ジュエルは咄嗟に身を捻って、紙一重のところで龍尾の打擲を躱す。
鋭い尾の先端が、一瞬前までジュエルが蹲っていた地面を深く穿った。
次の瞬間、ジュエルは手を伸ばし、突き立った龍の尾に触れる。
「……樹氷の拘束」
彼の声がかかった瞬間、その掌から猛烈な冷気が噴き出し、大気中の水分によって、黒光りする金属製の龍の尾がみるみる凍結し始めた。
――が、
「ガァアアアアアアッ!」
テラが激しい怒声をあげながら、凍りつきかけた龍の尾を無理やり動かし、表面を覆う樹氷の拘束を無理やり振り払う。
そしてそのまま、龍の尾をジュエルの横っ面に叩きつけた。
「がっ――!」
強烈な一撃を頬に受けたジュエルは、真横に二十メートルほども吹き飛ばされた。
「ぐ……!」
首と横面にひどい痛みを感じながら、ヨロヨロと立ち上がるジュエル。――と、
「く……! ただの殴打なのに、何て威力だ……!」
自分の視界の異常に気付いたジュエルは、思わず唇を噛む。
今の一撃だけで、ホワイトアンタ―クチサイトスタイルのマスクが破損し、無数の亀裂が入っていたのだ。
「ウオオオオオオオオオオッ!」
テラが更に咆哮し、大気が激しく揺れた。
その禍々しい叫び声と剥き出しの殺気に、ジュエルは慄然としながらも、呆れたように呟く。
「まったく……完全に理性を失っているようだね。装甲ユニットの同時稼働という凄まじい負荷に、脳が耐え切れていないのか……」
そして、ゆっくりと両腕を横に伸ばし、弓手で氷の和弓、馬手で三本の氷の矢を創り出す。
「――ならば、これはどうだいッ!」
ジュエルはそう叫ぶや、右手の指の間に三本の矢を挟み込み、そのまま和弓に番えた。
そして、ギリギリまで引き絞った矢を一気に放つ。
「トリプル・アイシクル・アローッ!」
三本の氷の矢は、キラキラと光を反射しながら、猛るテラに向かって一直線に飛び、
「――拡散!」
ジュエルが握った拳を開いた瞬間、三本の矢は縦に裂け、十数本の小さな矢へと姿を変えた。
十数本の氷矢は、広がりながらテラに迫る。
先程とは違い、広い空間に拡散した氷の矢の全てを龍の尾の一振りで払い落とす事は不可能。
――その時、
「ウオオオオオオオオオオ――ッ!」
テラは先程に倍する咆哮をあげる。
その絶叫に応える様に、やにわに彼の足元の空気が波立ち、彼の身体を取り巻くように噴き上がる。
爆発的に広がり、勢いを呼ぶ暴風の前に、十数本の氷の矢は悉く弾き飛ばされた。
――が、ジュエルはその反応を読んでいる。
「……そう来ると思ったよ、テラ! まあ、さすがに数本は通るかと思ったんだがね」
氷の矢を放った瞬間に魔石を換え、再びアクアブルーエディションの姿になったジュエルが、水三叉槍を振りかざしながらテラの間合いに接近していた。
氷の矢に気を取られていたテラは、その後ろから間合いを犯すジュエルには気付いていない。
ジュエルは、暴風の隙間を見極め、水三叉槍をテラの胸元目がけて突き入れようとした。
――その瞬間、
「ウ……ォォオオオッ!」
テラは唸り声を上げながら、体を捻り、背中から生える尻尾の付け根に右手を伸ばす。
「――龍尾ノ剣」
彼の口からくぐもった声が紡がれ、それと同時に、だらりと垂れていた黒い尻尾が一瞬で縮んだ。
そして、テラは縮んだ尻尾を毟り取るように背中から外す。
「な――ッ!」
それを見たジュエルが、水三叉槍を突き入れつつ、驚愕の叫びを漏らした。
「尾が……黒い長剣に……!」
「ウオオオオオオオオオオッ!」
ジュエルの放った突きを黒い長剣――龍尾ノ剣で下から弾いたテラは、返す刀で彼に斬りつける。
そして――ジュエルの肩口に入った龍尾ノ剣は、彼の身体を容易く両断した。
「――ぐぅっ!」
二つに斬り裂かれ、苦悶の声を上げたジュエルは、その場に頽れ――夥しい水へと姿を変える。
「「残念――それは、水分身さ!」」
嘲る様なジュエルの声が、テラの左右から上がった。
「……っ!」
ハッとした様子で、首を巡らせるテラ。
――その目に飛び込んできたのは、彼を挟むように左右から迫りくる、水三叉槍を振りかざしたふたりのジュエル!
「「隙ありっ!」」
ふたりのジュエルは同時に叫び、テラの左右から水三叉槍を繰り出す。
――その時、
「――龍尾ノ鞭剣」
テラが掠れた声で言うと同時に、黒い長剣の刀身が幾節にも分かれ、まるで鞭のように形状を変えた。分かれた刀身は、細いワイヤー状のもので繋がれている。
「ウオオオオオオオオオオ――ッ!」
テラは鞭剣を振るい、自身の周囲を薙ぎ払う。
「「ぐ……ハァ――ッ!」」
鞭剣によって腹を斬り裂かれたジュエルは苦悶の声を上げ、右側の一体が水へと戻り、周囲に飛び散った。
そして、もう一体――本体のジュエルも、粉々になった腹部装甲と鮮血を撒き散らしながら、ゴロゴロと草原を転がる。
「く……じゃ、蛇腹剣か。――くそ、私ともあろう者が……ゆ……油断した……ね」
血に塗れた腹部を押さえながら、ヨロヨロと立ち上がるジュエル。彼は、今しがたテラに斬り裂かれた腹部に目を落とす。
幸い、ダメージの大半は腹部装甲で相殺されたらしく、出血こそ夥しいものの、傷はそこまで深くないようだ。
――だが、
「――っ!」
ジュエルが安堵するには、まだ早かった。
彼の目は、背中の翼を広げ、今まさに飛びかからんと身を屈める黒い暴龍の姿を捉えていた――!
「ウォォオオオオオオオオオッ!」
と、再び咆哮する。
そして、背中から伸びる長い龍の尾を撓らせるや、鋭い一撃をジュエルに向かって放った。
「――くっ!」
ジュエルは咄嗟に身を捻って、紙一重のところで龍尾の打擲を躱す。
鋭い尾の先端が、一瞬前までジュエルが蹲っていた地面を深く穿った。
次の瞬間、ジュエルは手を伸ばし、突き立った龍の尾に触れる。
「……樹氷の拘束」
彼の声がかかった瞬間、その掌から猛烈な冷気が噴き出し、大気中の水分によって、黒光りする金属製の龍の尾がみるみる凍結し始めた。
――が、
「ガァアアアアアアッ!」
テラが激しい怒声をあげながら、凍りつきかけた龍の尾を無理やり動かし、表面を覆う樹氷の拘束を無理やり振り払う。
そしてそのまま、龍の尾をジュエルの横っ面に叩きつけた。
「がっ――!」
強烈な一撃を頬に受けたジュエルは、真横に二十メートルほども吹き飛ばされた。
「ぐ……!」
首と横面にひどい痛みを感じながら、ヨロヨロと立ち上がるジュエル。――と、
「く……! ただの殴打なのに、何て威力だ……!」
自分の視界の異常に気付いたジュエルは、思わず唇を噛む。
今の一撃だけで、ホワイトアンタ―クチサイトスタイルのマスクが破損し、無数の亀裂が入っていたのだ。
「ウオオオオオオオオオオッ!」
テラが更に咆哮し、大気が激しく揺れた。
その禍々しい叫び声と剥き出しの殺気に、ジュエルは慄然としながらも、呆れたように呟く。
「まったく……完全に理性を失っているようだね。装甲ユニットの同時稼働という凄まじい負荷に、脳が耐え切れていないのか……」
そして、ゆっくりと両腕を横に伸ばし、弓手で氷の和弓、馬手で三本の氷の矢を創り出す。
「――ならば、これはどうだいッ!」
ジュエルはそう叫ぶや、右手の指の間に三本の矢を挟み込み、そのまま和弓に番えた。
そして、ギリギリまで引き絞った矢を一気に放つ。
「トリプル・アイシクル・アローッ!」
三本の氷の矢は、キラキラと光を反射しながら、猛るテラに向かって一直線に飛び、
「――拡散!」
ジュエルが握った拳を開いた瞬間、三本の矢は縦に裂け、十数本の小さな矢へと姿を変えた。
十数本の氷矢は、広がりながらテラに迫る。
先程とは違い、広い空間に拡散した氷の矢の全てを龍の尾の一振りで払い落とす事は不可能。
――その時、
「ウオオオオオオオオオオ――ッ!」
テラは先程に倍する咆哮をあげる。
その絶叫に応える様に、やにわに彼の足元の空気が波立ち、彼の身体を取り巻くように噴き上がる。
爆発的に広がり、勢いを呼ぶ暴風の前に、十数本の氷の矢は悉く弾き飛ばされた。
――が、ジュエルはその反応を読んでいる。
「……そう来ると思ったよ、テラ! まあ、さすがに数本は通るかと思ったんだがね」
氷の矢を放った瞬間に魔石を換え、再びアクアブルーエディションの姿になったジュエルが、水三叉槍を振りかざしながらテラの間合いに接近していた。
氷の矢に気を取られていたテラは、その後ろから間合いを犯すジュエルには気付いていない。
ジュエルは、暴風の隙間を見極め、水三叉槍をテラの胸元目がけて突き入れようとした。
――その瞬間、
「ウ……ォォオオオッ!」
テラは唸り声を上げながら、体を捻り、背中から生える尻尾の付け根に右手を伸ばす。
「――龍尾ノ剣」
彼の口からくぐもった声が紡がれ、それと同時に、だらりと垂れていた黒い尻尾が一瞬で縮んだ。
そして、テラは縮んだ尻尾を毟り取るように背中から外す。
「な――ッ!」
それを見たジュエルが、水三叉槍を突き入れつつ、驚愕の叫びを漏らした。
「尾が……黒い長剣に……!」
「ウオオオオオオオオオオッ!」
ジュエルの放った突きを黒い長剣――龍尾ノ剣で下から弾いたテラは、返す刀で彼に斬りつける。
そして――ジュエルの肩口に入った龍尾ノ剣は、彼の身体を容易く両断した。
「――ぐぅっ!」
二つに斬り裂かれ、苦悶の声を上げたジュエルは、その場に頽れ――夥しい水へと姿を変える。
「「残念――それは、水分身さ!」」
嘲る様なジュエルの声が、テラの左右から上がった。
「……っ!」
ハッとした様子で、首を巡らせるテラ。
――その目に飛び込んできたのは、彼を挟むように左右から迫りくる、水三叉槍を振りかざしたふたりのジュエル!
「「隙ありっ!」」
ふたりのジュエルは同時に叫び、テラの左右から水三叉槍を繰り出す。
――その時、
「――龍尾ノ鞭剣」
テラが掠れた声で言うと同時に、黒い長剣の刀身が幾節にも分かれ、まるで鞭のように形状を変えた。分かれた刀身は、細いワイヤー状のもので繋がれている。
「ウオオオオオオオオオオ――ッ!」
テラは鞭剣を振るい、自身の周囲を薙ぎ払う。
「「ぐ……ハァ――ッ!」」
鞭剣によって腹を斬り裂かれたジュエルは苦悶の声を上げ、右側の一体が水へと戻り、周囲に飛び散った。
そして、もう一体――本体のジュエルも、粉々になった腹部装甲と鮮血を撒き散らしながら、ゴロゴロと草原を転がる。
「く……じゃ、蛇腹剣か。――くそ、私ともあろう者が……ゆ……油断した……ね」
血に塗れた腹部を押さえながら、ヨロヨロと立ち上がるジュエル。彼は、今しがたテラに斬り裂かれた腹部に目を落とす。
幸い、ダメージの大半は腹部装甲で相殺されたらしく、出血こそ夥しいものの、傷はそこまで深くないようだ。
――だが、
「――っ!」
ジュエルが安堵するには、まだ早かった。
彼の目は、背中の翼を広げ、今まさに飛びかからんと身を屈める黒い暴龍の姿を捉えていた――!
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