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第十章 襲い来る魔石の戦士に、如何に立ち向かうのか

第十章其の肆 推理

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 ジュエルの前に姿を現した、テラのもうひとつの装甲モード――タイプ・マウンテンエレファント。
 だが、その装甲は、既にボロボロの状態だった。
 ツールズとの激闘で激しい損傷を受けたからだ。
 戦闘で損傷を受けた装甲は、戦闘後に解除して元の装甲アイテムに戻ってから、徐々に自動修復される。
 ――だが、修復には相応の時間がかかる。
 時を経ずに再装着したら、修復は不完全なままである。
 実際、今のテラの姿は――左肩の装甲にツールズのトゥーサイデッド・ソーによって付けられた、生身にまで届く深い斬撃の痕が残り、仮面のビッグノーズも、トゥーサイデッド・ソーに巻き付かせて無理矢理回転を止めたせいで、その外装がまるでササラの様にささくれ立っていた。
 それ以外にも、体のあちこちに細かい亀裂や凹みがある。

「……ふふ」

 テラの姿を見たジュエルは、含み笑いを漏らした。

「どうやら、敗北したといえ、ツールズもそれなりの意地を見せたようだね。せっかく装甲を換えたというのに、既に満身創痍じゃないか?」
「……」

 ジュエルから嘲りの言葉を浴びせられても、今のテラには言い返す余力が無い。ブラッディ・ファウンテンを受けた際に喪った血の量が、少し多すぎた。

(正直、このまま立っているだけでも、辛い――)

 ややもすると意識が遠ざかりかける。襲い来る猛烈な眠気を必死で振り払いながら、やっとの思いで立っているテラを、ジュエルは油断の無い目で観察する。
 そして、小さく頷きながら「ふむ」と唸った。

「なるほどね。それが君の持つ、二つ目の装甲モードか。確か、“マウンテンエレファント”と言ったかな? 、象をモチーフにした典型的なパワータイプの装甲のようだね――」
「……っている?」
「ん?」

 テラが発した言葉を聞き取り損ね、ジュエルは首を傾げた。

「何か言ったかい、テラ? 良く聞こえなかったのだが」
「……ら聞いた?」
「え? もう少し大きな声で頼むよ」
「――誰から聞いた? 俺の……タイプ・マウンテンエレファントの事を――!」
「……!」

 ようやくテラの言葉を聞き取ったジュエルだったが、彼はその問いかけには応えない。
 ただ、不気味な沈黙を保っていた。
 テラは、微かに震える声で、言葉を続ける。

「オチビト達の中で、タイプ・マウンテンエレファントを実際に見たのは、三人だ。――シーフと、Z2。――そして、ツールズ」
「……それが、どうしたんだい?」

 テラの言葉に、ジュエルは微かに首を傾げてみせた。
 そんなジュエルをじっと見据えながら、テラは更に言葉を紡ぐ。

「だが――ツールズがこの姿を見たのは、アンタがここに現れる前だ。彼は、すぐに別の装甲戦士アームド・ファイター……確か“ハーモニー”に抱えられてこの場を去ったから、アンタにマウンテンエレファントの事を伝える暇など無かった」
「……そうだね」
「シーフも不可能だ。彼は、俺が装甲を破壊し、無力化させた直後……自害したからな」
「……」
「そうなると、Z2から聞いた可能性しか残らないんだが――」

 そこまで言って、いったん言葉を切ったテラは、大きく息を吐いてから話を続ける。

「……俺は、キヤフェに押し入ったツールズを迎撃する為にZ2……健一を木に縛りつけ、フラニィを見張りに残してあの場を立ち去った。――その後、何かを察知した健一に頼まれたフラニィが、異常を伝える為にキヤフェへと向かい、その報せを受けたツールズ……薫が戻って来た時には、健一は既に亡くな――……」
「……」
「そうなると……アンタが健一からマウンテンエレファントの事を聞き出せるタイミングは、フラニィが彼から離れ、薫が戻ってくるまでの間しか無い」
「……」
「……つまり、アンタは生きている健一と会話を交わした最後の人間という事になる」
「――何が言いたいんだい?」

 そう問い返すジュエルを前に、テラは一瞬口ごもるが、キッと顔を上げると、ジュエルに指を突きつけ、毅然とした声で言った。

「有瀬健一を殺したのは――お前じゃないのか? 装甲戦士アームド・ファイタージュエル……いや、牛島聡!」
「……」

 テラの告発に、しばらくの間沈黙を保っていたジュエルだったが、やがて両手を身体の前に掲げると、散漫に打ち鳴らした。

「いや、見事な推理だね。――正解だよ、テラ。健一くんの命をのは、この私だよ」
「――ッ!」

 あっさりと健一殺害を認めたジュエルの事を睨みつけたテラは、非難の声を上げる。

「……何故だ! 何故、まだ子供だった健一を殺すなんて、非道な真似を――」
「非道? 私の施したを非道と言うのかい、君は?」
「な――?」

 己の糾弾に、その声に憤懣すら込めてジュエルに訊き返されたテラは、あまりの衝撃で言葉を失う。
 が、すぐに気を取り直し、厳しい声を上げた。

「じ……慈悲? アンタこそ、人を……年端もいかない子供を殺した事を、慈悲だというのかッ?」
「慈悲だよ。間違い無く、ね」

 ジュエルは、テラの非難の声を一笑に付す。
 そして、先ほどとは逆に、まっすぐ伸ばした指をテラに向けて突きつけ、

「むしろ、慈悲が無いのは、君の方なんじゃないかい? 装甲戦士アームド・ファイターテラ――いや、焔良疾風くん」

 ――と、冷たい声で言い放ったのだった。
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