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第九章 灰色の象は、憎しみに逸る戦士を退けられるのか
第九章其の肆 対話
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「あぁっ? 何余裕こいてやがるんだテメエ! ブチ殺すぞゴラァ!」
ハヤテの言葉を聞いた途端、こめかみに青筋を立てて吠える薫。
そんな薫の粗暴な態度を目の当たりにしたハヤテは、思わず眉を顰めた。
「……何だ? 『話がある』と、わざわざ俺を呼びつけたのは、お前の方じゃないのか?」
「そ……そうだけどよ! その、テメエの舐め腐った態度がムカつくんだよ!」
「……ガキかよ」
薫の答えに呆れたハヤテは、彼には分からないように溜息を吐く。
(そういえば……日本でバイトしてる時にも、コイツと似たようなテンションのクレーマーがいたなぁ……)
と、どこか懐かしい感覚に苦笑しかけるハヤテだったが、すんでのところで自分を取り巻く現在の状況を思い出して表情を引き締め、薫に尋ねた。
「で――、何なんだ、お前の“用件”っていうのは?」
「……」
ハヤテの問いかけに、薫は表情を変える。
彼は、先ほどまでとは一変した、冷たい氷の様な光を宿した瞳でハヤテを睨みつけながら、圧し殺した声で言った。
「テメエに、ひとつ聞きたい事がある」
「……何だ?」
「――健一を……」
そこで、薫は一瞬言葉を詰まらせ、それから僅かに唇を戦慄かせながら、血を吐くような声で叫ぶ。
「――健一を殺したのは、テメエかッ! 装甲戦士テラァッ!」
「……ッ!」
薫の怒声を聞いた瞬間、ハヤテの目が驚愕で大きく見開かれた。
彼は、呆然とした表情を浮かべ、うわ言の様に呟く。
「あ……アイツの装甲アイテムが“光る板”に戻った時から薄々そうじゃないかと思ってたが……やはり死んだのか? アームドファイターZ2――有瀬健一は……」
「何だ、テメエ! まるで他人事みてえに!」
ハヤテの反応に激昂した薫は、足元の石を蹴り上げた。
「テメエなんだろうが! 健一を、あんなに無残に殺したのは……なあ、そうなんだろ、オイ?」
と、ハヤテに向かって叫びながらも、薫は、どこか祈るような気持ちでもいた。
(――頼む。そのまま素直に頷いてくれ)
心の中で、ハヤテに向かって懇願すらしていた。
(頼む……認めてくれ。健一を殺ったのが自分だと。――そうすれば、オレは、この肚の中で煮え滾っている恨みや怒りやモヤモヤを、お前に全てぶつけてスッキリできるんだ!)
――心の中で、もうひとりの自分が(そうじゃないだろ?)と叫んでいるのを無視する。
(健一を殺したのはテラで、コイツさえ殺して仇を討てば、これからも今まで通り、オレはオッサンとうまくやっていける……。それが、一番スムーズなんだ。――だから……認めろ!)
そう考えながら、薫は血走らせた目をハヤテに向けて、じっと答えを待った。
だが――、
「……いや」
そんな薫の願いとは裏腹に、ハヤテは首を横に振る。
「――確かに、Z2と戦い、重傷を負わせはしたが……彼に止めは刺していない。ただ、身動きが取れぬよう、木に縛りつけただけ――」
「嘘だッ!」
ハヤテの言葉を半ばで遮り、薫は荒げた声を上げた。
「嘘つくんじゃねえ! あの時、Z2と戦ったのはテメエだろうが! テメエ以外に、健一を殺せる奴はいないんだよ……!」
「――だが、俺じゃない」
「だから、それが嘘――」
「嘘じゃない!」
今度は、ハヤテが強い口調で薫の怒声を遮る。
その絶叫に思わず気圧された薫の目を真っ直ぐに見据えたハヤテは、シャツのポケットをまさぐり、ある物を取り出した。
「……お前も見ただろう?」
「それは……!」
ハヤテが持つ“光る板”を目にした薫は、思わず言葉を詰まらせる。
薫の呟きにハヤテは小さく頷き、静かに言葉を続けた。
「そうだ。これは……あの時俺が健一から取り上げたZバックルだった“光の板”」
「……」
「お前も見ただろう? 俺が持っていたZバックルが、“光る板”に戻る瞬間を……」
ハヤテは、取り出した“光る板”を再び仕舞いながら、噛んで含めるような口ぶりで薫に言う。
「“光る板”は、装甲アイテムの持ち主が絶命するまでは、元の板には戻らないはずだ。……だったら、あの時あの瞬間まで、健一は生きていたって事だろう?」
「ぐ……」
「――そして、その瞬間、俺はキヤフェの街で、お前と戦っている最中だった。……であれば、あのタイミングで俺が健一を殺す事は不可能だ」
「そ……そうとは限らねえだろうッ?」
ハヤテの説明に、納得しかかっている自分がいる事を薄々感じながら、それでも薫は反駁した。
「お……お前の、そのテラの能力に、遠隔操作で人の命を奪えるものがあるのかもしれないし……シーフの伝書鼠みてえな補助アイテムを隠し持っているのかもしれない――!」
「――テラに、そんな能力も補助アイテムも無い……と言っても、『装甲戦士テラ』の放送を観た事が無いお前には信じられないか……」
ハヤテは溜息を吐くと、表情を引き締め、薫の顔を真っ直ぐに見据え、きっぱりとした口調で言い切る。
「とにかく――、俺は、Z2――有瀬健一を殺してはいない」
「うるせえ! 嘘ばっかついてんじゃねえぞ、この仲間殺しの裏切り者が!」
薫は、ハヤテの言葉から顔を背けるようにしながら半狂乱で怒鳴り返すと、ポケットから素早く取り出したツールサムターンを左手に嵌めたツールズグローブの窪みに嵌め込んだ。
「――チッ!」
それを見たハヤテも、小さく舌打ちすると、腰につけた袋の中からコンセプト・ディスク・ドライブとマウンテンエレファントディスクを取り出す。
「出来れば、話し合いで穏便に済ませたかったが……!」
「ケッ! 何を生温い事をほざいてやがる。オレ達は、装甲戦士だぜ!」
顔を歪ませるハヤテをせせら笑う様に、薫は叫んだ。
「結局は、コイツで解り合うしか無えんだよ! お互いにな!」
――『それは違くね?』と首を傾げる、心の中にいるもうひとりの自分から意識を背けながら。
「行くぞ!」
薫は、迷いを振り払うように叫ぶと、一気にツールサムターンを回した。
「……くそっ!」
ハヤテも歯噛みしながら、イジェクトされたトレイにマウンテンエレファントディスクを載せ、一気に本体の中に押し込む。
「アームド・ツール、換装ッ!」
「装甲戦士、装着ッ!」
ふたりが同時に叫んだ叫びに合わせ、各々の装着アイテムから眩い光が発し、ふたりの身体を包み込んだ。
数瞬後、ふたりを包み込む光が一気に弾ける。
『装甲戦士ツールズ・シャープネイルスタイル、スタート・オブ・ワーク!』
『装甲戦士テラ・タイプ・マウンテンエレファント・完装ッ!』
「「うおおおおおっ!」」
異形の鎧を身に纏ったふたりの戦士は、雄叫びを上げながら、同時に地を蹴った――!
ハヤテの言葉を聞いた途端、こめかみに青筋を立てて吠える薫。
そんな薫の粗暴な態度を目の当たりにしたハヤテは、思わず眉を顰めた。
「……何だ? 『話がある』と、わざわざ俺を呼びつけたのは、お前の方じゃないのか?」
「そ……そうだけどよ! その、テメエの舐め腐った態度がムカつくんだよ!」
「……ガキかよ」
薫の答えに呆れたハヤテは、彼には分からないように溜息を吐く。
(そういえば……日本でバイトしてる時にも、コイツと似たようなテンションのクレーマーがいたなぁ……)
と、どこか懐かしい感覚に苦笑しかけるハヤテだったが、すんでのところで自分を取り巻く現在の状況を思い出して表情を引き締め、薫に尋ねた。
「で――、何なんだ、お前の“用件”っていうのは?」
「……」
ハヤテの問いかけに、薫は表情を変える。
彼は、先ほどまでとは一変した、冷たい氷の様な光を宿した瞳でハヤテを睨みつけながら、圧し殺した声で言った。
「テメエに、ひとつ聞きたい事がある」
「……何だ?」
「――健一を……」
そこで、薫は一瞬言葉を詰まらせ、それから僅かに唇を戦慄かせながら、血を吐くような声で叫ぶ。
「――健一を殺したのは、テメエかッ! 装甲戦士テラァッ!」
「……ッ!」
薫の怒声を聞いた瞬間、ハヤテの目が驚愕で大きく見開かれた。
彼は、呆然とした表情を浮かべ、うわ言の様に呟く。
「あ……アイツの装甲アイテムが“光る板”に戻った時から薄々そうじゃないかと思ってたが……やはり死んだのか? アームドファイターZ2――有瀬健一は……」
「何だ、テメエ! まるで他人事みてえに!」
ハヤテの反応に激昂した薫は、足元の石を蹴り上げた。
「テメエなんだろうが! 健一を、あんなに無残に殺したのは……なあ、そうなんだろ、オイ?」
と、ハヤテに向かって叫びながらも、薫は、どこか祈るような気持ちでもいた。
(――頼む。そのまま素直に頷いてくれ)
心の中で、ハヤテに向かって懇願すらしていた。
(頼む……認めてくれ。健一を殺ったのが自分だと。――そうすれば、オレは、この肚の中で煮え滾っている恨みや怒りやモヤモヤを、お前に全てぶつけてスッキリできるんだ!)
――心の中で、もうひとりの自分が(そうじゃないだろ?)と叫んでいるのを無視する。
(健一を殺したのはテラで、コイツさえ殺して仇を討てば、これからも今まで通り、オレはオッサンとうまくやっていける……。それが、一番スムーズなんだ。――だから……認めろ!)
そう考えながら、薫は血走らせた目をハヤテに向けて、じっと答えを待った。
だが――、
「……いや」
そんな薫の願いとは裏腹に、ハヤテは首を横に振る。
「――確かに、Z2と戦い、重傷を負わせはしたが……彼に止めは刺していない。ただ、身動きが取れぬよう、木に縛りつけただけ――」
「嘘だッ!」
ハヤテの言葉を半ばで遮り、薫は荒げた声を上げた。
「嘘つくんじゃねえ! あの時、Z2と戦ったのはテメエだろうが! テメエ以外に、健一を殺せる奴はいないんだよ……!」
「――だが、俺じゃない」
「だから、それが嘘――」
「嘘じゃない!」
今度は、ハヤテが強い口調で薫の怒声を遮る。
その絶叫に思わず気圧された薫の目を真っ直ぐに見据えたハヤテは、シャツのポケットをまさぐり、ある物を取り出した。
「……お前も見ただろう?」
「それは……!」
ハヤテが持つ“光る板”を目にした薫は、思わず言葉を詰まらせる。
薫の呟きにハヤテは小さく頷き、静かに言葉を続けた。
「そうだ。これは……あの時俺が健一から取り上げたZバックルだった“光の板”」
「……」
「お前も見ただろう? 俺が持っていたZバックルが、“光る板”に戻る瞬間を……」
ハヤテは、取り出した“光る板”を再び仕舞いながら、噛んで含めるような口ぶりで薫に言う。
「“光る板”は、装甲アイテムの持ち主が絶命するまでは、元の板には戻らないはずだ。……だったら、あの時あの瞬間まで、健一は生きていたって事だろう?」
「ぐ……」
「――そして、その瞬間、俺はキヤフェの街で、お前と戦っている最中だった。……であれば、あのタイミングで俺が健一を殺す事は不可能だ」
「そ……そうとは限らねえだろうッ?」
ハヤテの説明に、納得しかかっている自分がいる事を薄々感じながら、それでも薫は反駁した。
「お……お前の、そのテラの能力に、遠隔操作で人の命を奪えるものがあるのかもしれないし……シーフの伝書鼠みてえな補助アイテムを隠し持っているのかもしれない――!」
「――テラに、そんな能力も補助アイテムも無い……と言っても、『装甲戦士テラ』の放送を観た事が無いお前には信じられないか……」
ハヤテは溜息を吐くと、表情を引き締め、薫の顔を真っ直ぐに見据え、きっぱりとした口調で言い切る。
「とにかく――、俺は、Z2――有瀬健一を殺してはいない」
「うるせえ! 嘘ばっかついてんじゃねえぞ、この仲間殺しの裏切り者が!」
薫は、ハヤテの言葉から顔を背けるようにしながら半狂乱で怒鳴り返すと、ポケットから素早く取り出したツールサムターンを左手に嵌めたツールズグローブの窪みに嵌め込んだ。
「――チッ!」
それを見たハヤテも、小さく舌打ちすると、腰につけた袋の中からコンセプト・ディスク・ドライブとマウンテンエレファントディスクを取り出す。
「出来れば、話し合いで穏便に済ませたかったが……!」
「ケッ! 何を生温い事をほざいてやがる。オレ達は、装甲戦士だぜ!」
顔を歪ませるハヤテをせせら笑う様に、薫は叫んだ。
「結局は、コイツで解り合うしか無えんだよ! お互いにな!」
――『それは違くね?』と首を傾げる、心の中にいるもうひとりの自分から意識を背けながら。
「行くぞ!」
薫は、迷いを振り払うように叫ぶと、一気にツールサムターンを回した。
「……くそっ!」
ハヤテも歯噛みしながら、イジェクトされたトレイにマウンテンエレファントディスクを載せ、一気に本体の中に押し込む。
「アームド・ツール、換装ッ!」
「装甲戦士、装着ッ!」
ふたりが同時に叫んだ叫びに合わせ、各々の装着アイテムから眩い光が発し、ふたりの身体を包み込んだ。
数瞬後、ふたりを包み込む光が一気に弾ける。
『装甲戦士ツールズ・シャープネイルスタイル、スタート・オブ・ワーク!』
『装甲戦士テラ・タイプ・マウンテンエレファント・完装ッ!』
「「うおおおおおっ!」」
異形の鎧を身に纏ったふたりの戦士は、雄叫びを上げながら、同時に地を蹴った――!
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