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第八章 装甲戦士たちは、何を求めるのか

第八章其の拾 起源

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 二十世紀後半から二十一世紀初頭にかけて、小さな子供たちはもちろん、子供たちの母親や大人の男性たちからも絶大な人気を得た特撮番組『装甲戦士アームド・ファイター』シリーズ。
 毎年のように新シリーズが放送され、テレビ放送だけではなく、映画やマンガや演劇、更にはテレビゲームにも及ぶ多彩なメディアミックス展開がなされ、2000年代には押しも押されぬキラーコンテンツのひとつとなった。

 その原点といえるのが、1971年に放送された『アームドファイター』である。
 悪の秘密結社“ベクスター”に囚われ、改造手術を施された後にアジトから脱走した若者・本里尊もとさとたけるが、自身の復讐と世界の平和を守る為、ベクスターが放つ怪人たちと戦う――という熱いストーリーで、当時の子供たちを熱狂させた。
 番組は実に三年近くも放送され、関連のおもちゃの売り上げも良く、「アームドファイターは、世界と一緒におもちゃメーカーも救った」と笑い話にされるほどだった。
 そのあまりの人気ぶりは、元々単発の番組だった予定だったにも関わらず、急遽続編『アームドファイターZ2』が制作される程であり、その後数度の中断と放送局変更を経ながらも、2020年に到るまで、その系譜は脈々と受け継がれていた――。

 その初代『アームドファイター』の主役が、今牛島の目の前で悠然と座っている、鬼の顔を模った仮面を被り、甲冑をモチーフにした蒼い鎧を身に纏う“アームドファイター”その人であった。
 シリーズ初代である彼の名は、シンプルに『アームドファイター』だったが、彼以降に多数の“アームドファイター”“装甲戦士アームド・ファイター”を冠する戦士が誕生した為、彼は便宜上“起源オリジン”と呼ばれている――。


「……相変わらずですね、オリジン」

 悠然と胡坐をかく鬼面の装甲戦士を見下ろしながら、牛島は薄い笑みを浮かべながら言った。

「貴方は、今でも常に装甲を纏ったままで過ごしているのですね」
「ああ、そうだが。何か、問題でも?」
「……いえ」

 オリジンから問い返された牛島は、僅かに戸惑いを見せながら、首を横に振った。

「……ただの興味ですよ。私の記憶が正しければ、貴方は私がここに居た頃から常にその装甲を身に纏い続けていらっしゃいました。――楽じゃないでしょう? 常に装甲形態を保持し続けるのは……」
「まあ、そうだな」

 牛島から尋ねられたオリジンは、左手で右腕の手甲を擦りながら、軽く頷く。

「――装甲形態は、常に装着者の体力と気力を消費するからな。さすがに、ずっとこのままなのは疲れるな」
「……なら、何故です?」

 と、牛島は、首を傾げて問いを重ねた。

「ならば、どうして貴方は装甲を纏い続けるのですか?」

 ――つと、その目が鋭くなる。

「……ひょっとして、怖いのですか? 我々の前に、生身を晒すのは……」
……?」

 牛島の、挑発するような物言いに、オリジンは首を僅かに上げた。そして、その赤く光るアイユニットで、ジロリと牛島の顔を睨め上げる。
 ――と、彼はフッと力を抜くと、おどけた仕草で肩を竦めてみせた。

「いや、今まで誰にも言った事が無いんだが……、僕は」
「……は?」

 予想外の答えに、唖然とする牛島。彼が、当惑した顔を見せるのは珍しい。
 牛島の表情の変化に、クックッと仮面の奥で笑いを噛み殺しながら、オリジンは言葉を継ぐ。

「実は……僕は顔にあんまり自信が無くてな。素顔を晒すと天音君に嫌われてしまいそうで、それが怖くて仮面を外せんのだ」
「へっ……? あ、あたしが……?」

 オリジンの言葉に仰天したのは、扉の前に控えていた天音だった。
 彼女は、慌てた様子で首を激しく左右に振る。

「そ……そんな! あ、あたしは別に、オリジンの素顔を見たってき、嫌いになんか……なりませんよッ!」
「ハッハッハッ。冗談だよ、天音君」

 顔を真っ赤にして反論する天音の言葉に、オリジンは高らかに笑い声を上げ、軽く手を振った。
 そして、その手を顎に当てると、言葉を続ける。

「……まあ、それでも、顔を見せたくないというのは本当だ。僕にも色々と事情があるのでな。詮索しないでもらえると助かる」
「そう言われると、尚更知りたくなりますね」

 と、牛島は言うが、微笑みを浮かべて軽く首を振って言った。

「――まあ、いいでしょう。今日は、そんな話をしに来たんじゃない」
「ふむ……」

 牛島の言葉に、オリジンはピクリと頭を上げた。

「そのようだな。天音君から聞いたが、僕に報告しに来たらしいな、牛島」
「……その通りです」

 オリジンの問いかけに牛島は頷き、舌で唇を湿す。
 そんな彼を、赤く光るアイユニットで見据えながら、オリジンは厳かな響きの声をかける。

「よし……ならば、話してみろ。半年前、お前が我々と離れてから今までに、一体何があったのかを」
「……はい」

 オリジンに促され、牛島は静かに言葉を継いだ。

「では……お話ししましょう。――この半年の間、私達が何を見、何をし、何を得て……何を失ったのか、をね」
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