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第七章 ふたつの凶行は、何によって下されたのか

第七章其の肆 凶報

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 「……な」

 手元でキラキラと輝く“光る板”を見つめながら、テラは茫然としながら、うわ言の様に呟く。

「何で……健一のZバックル装甲アイテムが、ブランクに戻ったんだ……?」

 自分が手にしている“それ”は、確かについさっきまで、Zバックルだった。――なのに、思わず目を瞑るほどの眩い光を放ったかと思った次の瞬間に、光る板へと姿を変えてしまった……。
 唖然とするテラの脳裏に、先日の記憶が蘇る。
 ――王宮に闖入した装甲戦士アームド・ファイターシーフと戦った時の記憶。
 そのさ中に、シーフが言っていた言葉――。

 ――『所有者が死んじまうと、装甲アイテムは再び元の光る板……ブランクに戻るんですよ』――

「……じゃ、じゃあ……、Zバックルが光る板に戻ったって事は――」
「ふ……ふざけんな!」
「――!」

 テラの呟きは、激しい怒声で遮られた。
 ハッとして振り返るテラを殺気に満ちた目で睨みつけながら、ツールズは声を張り上げる。

「ふざけんじゃねえぞ! な……何で、健一の装甲アイテムがブランクに戻ってるんだよ!」
「そ……それは……」

 ツールズの激しい剣幕の前に、テラは言い淀んだ。
 装甲アイテムが光る板に戻る理由――それは、ひとつしか無い……。

「それは……健一の命が――」
「そ……そんな訳、ある訳ねえだろ!」

 テラが言いかけた言葉の先を聞く事を恐れるかのように、ツールズは更に怒鳴り散らす。

「け……健一が、死……いや! そんな訳無え!」
「ツールズ……」
「だ……だってよぉ」

 ――突然、彼の語勢は弱まった。
 懇願するかのような声で、ツールズはテラに問いかける。

「お前……言ってただろ? 『健一の命に別状は無い』ってよ? ――なのに、何でソレがそんな事になってんだよ……?」
「そ……それは……」
「なあ……あれは、嘘だったのかよ? ……本当は、お前が……健一を――?」
「違う!」

 ツールズの言葉に、テラは激しく頭を振った。

「確かに……旋風ゲイル・アックスキックで、あいつを倒した事は事実だ! でも……あいつを殺しちゃいない! それも事実だ!」
「……じゃあ、その手に持っている光る板は何なんだよ!」

 ツールズはそう叫ぶと、テラの手に向けて指を突きつける。

「それが……健一が、死……死んじまったっていう、何よりも確実な証拠なんじゃねえのかよ! ええっ、どうなんだよ? ――答えろ、テラァッ!」
「……っ」

 鋭い追及の声に、テラは答える事が出来なかった。ツールズから顔を背け、呆然としながら、掌の光る板に目を落とす。
 ――その時、

「――ハヤテ様ぁっ!」

 荒れ果てた戦場にはそぐわない、女の金切り声が辺りに響いた。
 ハッとしたテラとツールズが声の方向に振り返り、それぞれ驚きの声を上げる。

「――! ふ……フラニィ?」
「テメエは……あの時の白猫女!」
「はぁ、はぁ……ハヤテ様……!」

 全速力でここまで疾走はしってきたのであろう。息も絶え絶えでこの場に現れたフラニィは、肩で息を吐きながら、テラに向かって必死に訴える。

「は……ハヤテ様……、あの子が……!」
「あの子……健一の事か?」

 テラの問いかけに、フラニィは大きく頷き、言葉を続けた。

「よ、良く分からないんですけど……あの子が……あの子が急にひどく怯えて……あたしに『早く逃げろ』って……」
「……『早く逃げろ』? 健一が、そう言ったのか?」

 彼女の言葉を、戸惑いながら訊き返すテラ。その問いかけに、フラニィは大きく頷き返す。
 ――と、ふたりのやり取りを見ていたツールズが、苛立ちの声を上げた。

「お、おい! そこのクソ猫女! テメエ、何を言ってやがる――」
「あたし……あなたに向けた、あの子からの伝言を預かってます!」
「な、何……だとッ?」

 フラニィの言葉を聞いて声を上ずらせたツールズが、大股でフラニィの元に詰め寄ろうとするが、戦闘態勢に入ったテラがそれを遮る。

「……チッ!」

 忌々しげに舌を打ったツールズは、思わず拳を振り上げようとするが、すんでのところで思い止まる。代わりに、慌ててテラの背後に隠れたフラニィをギロリと睨みつけながら、低い声で訊いた。

「で……。何なんだよ、俺への伝言ってのは……?」
「それは――」

 ツールズに促され、フラニィは一瞬だけ言い淀んで、それからハッキリとした声で、その言葉をを告げた。

「――『助けて、カオル』……って」
「――ッ!」

 フラニィから伝言を聞いた瞬間、ツールズが息を呑んだのが分かった。

「……畜生!」

 そう吐き捨てるや、すぐに彼はクルリと踵を返し、その場を足早に離れていく。

「ツールズ!」
「――テラ! テメエの息の根を止めるのは後回しだ! これからオレは、健一を助けに行く!」

 そう言い捨て、振り向きもせずに『凱旋ノ門』の外へ向かって駆け出した。
 周囲を取り囲み、ふたりのやり取りを固唾を呑んで見守っていた猫獣人兵たちが、慌てて道を開ける。
 ――と、

「待て、ツールズ! ……俺も、一緒に行く――!」

 ツールズの背中に向けて叫び、その後を追おうとしたテラだったが、

「ま……待たれよ、ハヤテ殿!」

 負傷した肩を押さえたドリューシュが、厳しい声でそれを呼び止めた。
 制止された事に苛立ちを隠せぬ様子で振り返ったテラは、怒気を露わにして叫ぶ。

「だけど……! 俺はこれ以上死んでほしくないんだ! アンタ達にも……彼らオチビト達にも――」
「そうじゃない!」
「――ッ?」

 自身の言葉を、更に厳しい声で遮られ、テラは息を呑んだ。ドリューシュの言葉の響きに、有無を言わせぬ切迫した雰囲気を感じたのだ。
 そして、ドリューシュの顔に浮かんだ表情を一目見て、尋常ならざる事態が発生した事を悟る。

「そうじゃない、ハヤテ殿。……い、今、王宮から報せが来たのだ――」

 ドリューシュは、微かに口を戦慄かせながら、上ずった声でその事を告げる。

「へ……陛下が……父上が……、敵の手にかかって……崩御なされた――と!」
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