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第七章 ふたつの凶行は、何によって下されたのか
第七章其の壱 土産
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「ぎゃあああああっ!」
家屋の密集するキヤフェの下町に、断末魔の叫びが響き渡る。
一瞬遅れて広がった衝撃波が、粗末な下町のあばら屋をいとも簡単に吹き飛ばし、折れた木材や土壁や猫獣人の身体の切れ端が道端に降り注いだ。
「ひゃっははははっ!」
その中心で仁王立ちし、甲高い哄笑を上げるのは、右腕の巨大なチェーンソーを高々と振り上げる装甲戦士ツールズ・パイオニアリングソースタイルだった。
彼は、傷つきながらも戦意に満ちた顔で回りをぐるりと取り囲む猫獣人兵たちを睥睨すると、そのアイユニットをギラリと光らせる。
「無駄だ無駄だ! テメエらクソ猫どもが束になってかかってきても、このオレに触れる事すらできねえよ! 死にたくなかったら、さっさと道を開けやがれ!」
「……そう言われて、素直に道を開けると思ってるのか、お前は!」
ツールズの恫喝に、凛と澄んだ声が反駁した。
「あぁ……?」
その勇ましい声を耳にしたツールズは、不機嫌そうな声を上げながら、声のした方に顔を巡らせる。
猫獣人兵たちの包囲の環の中から一歩進み出たのは、軽装鎧を纏った灰白色の毛皮の年若い猫獣人だった。
ツールズは、その猫獣人を睨みつけながら誰何する。
「何だ、テメエは?」
「……僕は、ミアン王国第二王子・ドリューシュ・セカ・ファスナフォリックだ!」
ドリューシュは、誇らしげに胸を張ると、堂々と名乗った。
彼は、手にした銀色に輝く手槍をツールズに擬すと、その青い瞳を爛々と光らせながら大音声で叫ぶ。
「おのれ、この悪魔め! 我らが王都で、これ以上の狼藉は許さない! 早々に立ち去れぃ!」
「……あぁ? 何このオレに命令してやがるんだ、このクソ猫が!」
ツールズは声を荒げると、右腕のツールズ・トゥーサイデッドソーを振り回した。それに合わせるようにソーチェーンが回転数を上げ、耳障りな音を立てる。
その悪魔の唸り声のような回転音に負けじと、ツールズは声を張り上げた。
「王子サマだか何だか知らねえが、オレの邪魔をしようってんなら容赦しねえぞゴラぁッ! 御大層な御託を並べてる暇があったら、さっさと光る板を持ってこいや! テメエらの手にある分、耳揃えて渡してくれりゃぁ、今日のところは大人しく帰ってやってもいいぜ! ヒャハハッ」
「……悪いが、それは出来ない。これ以上暴れても無駄だ」
「土産も無しで、タダで帰ってくれだぁ? そりゃ、いくら何でもムシが良すぎるってモンだぜ?」
ツールズは、ドリューシュに向けて嘲笑をぶつける。
「テメエらケダモノじゃどうだか知らねえけどよ? 人間様の世界じゃ、お客さんには土産を渡すのがジョーシキなんだぜ?」
「……その、ニンゲンとやらは、押し入り強盗の事を“客”と言うのか?」
「……ぷ、ハハハハハっ!」
ツールズは、ドリューシュの返答に、思わず噴き出した。
腹を抱えて愉快そうに笑いながら、ツールズはドリューシュに向かって何度も頷く。
「いや……、確かにそうだわ! 言わねえわな、強盗を客だなんてよ!」
「……」
腹を抱えて笑い転げるツールズを、ドリューシュは渋い顔で睨みつけた。
「ヒャハハハ! いやぁ、悪い悪い! そんな怖い顔で睨むなよ」
ようやく笑い飽きたらしいツールズは、左手を横に振りながら軽い調子で詫びる。
「猫のクセに、案外と気の利いた上手いツッコミを返してくるじゃねえか。――ほんのちょっとだけ、テメエらに対する好感度が上がったぜ、くくく……」
――と、突然、彼の周りの空気が、スーッと音を立てる様に一変した。
「……それで、だ」
「――ッ!」
その剣呑な殺気に満ちた低い声を聞いた瞬間、ドリューシュと全ての猫獣人兵たちは、己の全身の毛が一斉に逆立ったのを感じた。
すぐさま、手にした武器を握り直して前に掲げ、臨戦態勢を取る。
無数の銀色の閃きに囲まれながらも、ツールズの所作に緊迫感は見られない。……だが、純粋な殺意が、まるで黒い炎のように、彼の周りでちらついている。
彼は、ゆっくりと口を開いた。
「早く、光の板を渡せ」
「だから、それは――」
「……つべこべ言ってねえで、早く持ってこいっつってんだよ。――オレが、穏便に催促してやってる内がハナだぜ?」
「……それは、僕のセリフだ!」
ドリューシュは、ツールズの恫喝にも一歩も退かずに、王族の矜持を以て、毅然とした声を発した。
「貴様こそ、僕が実力行使に踏み切る前に、大人しく退散した方が身の為だぞ! このミアン王国一の技量を誇る、ドリューシュ・セカ・ファスナフォリックの槍が、貴様の血を吸う前にな!」
「……へっ! 猫王国一だか猫世界一だか知らねえが、所詮は野良猫のボスでしかねえだろうが! 人間様を前に、偉そうな口を叩いてんじゃねえぞゴラァ!」
ツールズは、忌々しそうに叫ぶと、もう一度周囲を見回した。
「……あぁもう! クソめんどくせえなぁ!」
彼はそう毒づくと、足元に転がった猫獣人の死骸を蹴り飛ばした。
「ここまで親切丁寧に、テメエらとオレとの力の差を教えてやってるっていうのに、まだ懲りずにオレの邪魔をしようってんなら――」
刹那――、
ツールズの姿が消えた。
……いや、周りを取り囲む猫獣人全てが、「消えた」と思うほどの速さで、彼は跳び上がったのだ――ドリューシュの頭上へと!
「――なッ!」
突然、自分の頭上に現れたツールズの姿に、驚愕の叫びを上げるドリューシュ。
ツールズは、中空で右腕のトゥーサイデッドソーを大きく振り上げながら、狂ったような声で叫んだ。
「――伐採するしかねえよなぁ! テメエらクソ猫共ごと――この街をよォっ!」
家屋の密集するキヤフェの下町に、断末魔の叫びが響き渡る。
一瞬遅れて広がった衝撃波が、粗末な下町のあばら屋をいとも簡単に吹き飛ばし、折れた木材や土壁や猫獣人の身体の切れ端が道端に降り注いだ。
「ひゃっははははっ!」
その中心で仁王立ちし、甲高い哄笑を上げるのは、右腕の巨大なチェーンソーを高々と振り上げる装甲戦士ツールズ・パイオニアリングソースタイルだった。
彼は、傷つきながらも戦意に満ちた顔で回りをぐるりと取り囲む猫獣人兵たちを睥睨すると、そのアイユニットをギラリと光らせる。
「無駄だ無駄だ! テメエらクソ猫どもが束になってかかってきても、このオレに触れる事すらできねえよ! 死にたくなかったら、さっさと道を開けやがれ!」
「……そう言われて、素直に道を開けると思ってるのか、お前は!」
ツールズの恫喝に、凛と澄んだ声が反駁した。
「あぁ……?」
その勇ましい声を耳にしたツールズは、不機嫌そうな声を上げながら、声のした方に顔を巡らせる。
猫獣人兵たちの包囲の環の中から一歩進み出たのは、軽装鎧を纏った灰白色の毛皮の年若い猫獣人だった。
ツールズは、その猫獣人を睨みつけながら誰何する。
「何だ、テメエは?」
「……僕は、ミアン王国第二王子・ドリューシュ・セカ・ファスナフォリックだ!」
ドリューシュは、誇らしげに胸を張ると、堂々と名乗った。
彼は、手にした銀色に輝く手槍をツールズに擬すと、その青い瞳を爛々と光らせながら大音声で叫ぶ。
「おのれ、この悪魔め! 我らが王都で、これ以上の狼藉は許さない! 早々に立ち去れぃ!」
「……あぁ? 何このオレに命令してやがるんだ、このクソ猫が!」
ツールズは声を荒げると、右腕のツールズ・トゥーサイデッドソーを振り回した。それに合わせるようにソーチェーンが回転数を上げ、耳障りな音を立てる。
その悪魔の唸り声のような回転音に負けじと、ツールズは声を張り上げた。
「王子サマだか何だか知らねえが、オレの邪魔をしようってんなら容赦しねえぞゴラぁッ! 御大層な御託を並べてる暇があったら、さっさと光る板を持ってこいや! テメエらの手にある分、耳揃えて渡してくれりゃぁ、今日のところは大人しく帰ってやってもいいぜ! ヒャハハッ」
「……悪いが、それは出来ない。これ以上暴れても無駄だ」
「土産も無しで、タダで帰ってくれだぁ? そりゃ、いくら何でもムシが良すぎるってモンだぜ?」
ツールズは、ドリューシュに向けて嘲笑をぶつける。
「テメエらケダモノじゃどうだか知らねえけどよ? 人間様の世界じゃ、お客さんには土産を渡すのがジョーシキなんだぜ?」
「……その、ニンゲンとやらは、押し入り強盗の事を“客”と言うのか?」
「……ぷ、ハハハハハっ!」
ツールズは、ドリューシュの返答に、思わず噴き出した。
腹を抱えて愉快そうに笑いながら、ツールズはドリューシュに向かって何度も頷く。
「いや……、確かにそうだわ! 言わねえわな、強盗を客だなんてよ!」
「……」
腹を抱えて笑い転げるツールズを、ドリューシュは渋い顔で睨みつけた。
「ヒャハハハ! いやぁ、悪い悪い! そんな怖い顔で睨むなよ」
ようやく笑い飽きたらしいツールズは、左手を横に振りながら軽い調子で詫びる。
「猫のクセに、案外と気の利いた上手いツッコミを返してくるじゃねえか。――ほんのちょっとだけ、テメエらに対する好感度が上がったぜ、くくく……」
――と、突然、彼の周りの空気が、スーッと音を立てる様に一変した。
「……それで、だ」
「――ッ!」
その剣呑な殺気に満ちた低い声を聞いた瞬間、ドリューシュと全ての猫獣人兵たちは、己の全身の毛が一斉に逆立ったのを感じた。
すぐさま、手にした武器を握り直して前に掲げ、臨戦態勢を取る。
無数の銀色の閃きに囲まれながらも、ツールズの所作に緊迫感は見られない。……だが、純粋な殺意が、まるで黒い炎のように、彼の周りでちらついている。
彼は、ゆっくりと口を開いた。
「早く、光の板を渡せ」
「だから、それは――」
「……つべこべ言ってねえで、早く持ってこいっつってんだよ。――オレが、穏便に催促してやってる内がハナだぜ?」
「……それは、僕のセリフだ!」
ドリューシュは、ツールズの恫喝にも一歩も退かずに、王族の矜持を以て、毅然とした声を発した。
「貴様こそ、僕が実力行使に踏み切る前に、大人しく退散した方が身の為だぞ! このミアン王国一の技量を誇る、ドリューシュ・セカ・ファスナフォリックの槍が、貴様の血を吸う前にな!」
「……へっ! 猫王国一だか猫世界一だか知らねえが、所詮は野良猫のボスでしかねえだろうが! 人間様を前に、偉そうな口を叩いてんじゃねえぞゴラァ!」
ツールズは、忌々しそうに叫ぶと、もう一度周囲を見回した。
「……あぁもう! クソめんどくせえなぁ!」
彼はそう毒づくと、足元に転がった猫獣人の死骸を蹴り飛ばした。
「ここまで親切丁寧に、テメエらとオレとの力の差を教えてやってるっていうのに、まだ懲りずにオレの邪魔をしようってんなら――」
刹那――、
ツールズの姿が消えた。
……いや、周りを取り囲む猫獣人全てが、「消えた」と思うほどの速さで、彼は跳び上がったのだ――ドリューシュの頭上へと!
「――なッ!」
突然、自分の頭上に現れたツールズの姿に、驚愕の叫びを上げるドリューシュ。
ツールズは、中空で右腕のトゥーサイデッドソーを大きく振り上げながら、狂ったような声で叫んだ。
「――伐採するしかねえよなぁ! テメエらクソ猫共ごと――この街をよォっ!」
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