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第六章 ふたりの装甲戦士は、何故互いに戦うのか
第六章其の肆 性能
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「――トルネード・スマッシュ!」
蒼い装甲に身を包んだ装甲戦士テラ・タイプ・ウィンディウルフが、その右腕を大きく前に突き出す。
たちまち、腕の周りの空気が渦を巻き始め、唸りを上げながら極小の竜巻と化した。
竜巻は、草や土砂を巻き上げながら、一直線に、正面に立つZ2に向かって近づいていく――が、Z2にたじろぐ様子は見られない。
「……フンッ!」
嘲るように鼻で笑ったZ2は、おもむろに右腕を引くと、地面に向けて振り下ろした。
刹那、Z2が殴りつけた地面が、まるで隕石でも落下してきたかのように大きく抉れて無数の砂礫と化し、彼の前方に噴き上がった。
――その“土砂のカーテン”に、テラの放った竜巻は遮られ、たちまち掻き消されてしまう。
難なくテラの攻撃を防いだZ2は、得意げに顔を上げる――が、
「うおおおおっ!」
「――っ!」
突然、舞い上がる土煙を突っ切って、目の前にテラの蒼い身体が現れた事に驚き、思わず身体を硬直させた。
その一瞬の隙を、テラは見逃さない。
彼は左腕を大きく振り上げると、その手を刃に擬し、
「ウルフファング・ウィンドッ!」
Z2の眉間目がけて振り下ろした。
テラの手刀から放たれた真空の刃が、Z2の仮面を真っ二つに引き裂く――
「――遅いよ、テラ!」
――直前で、Z2の姿が消えた。
――否。
正確には、消えたと思わせる程の速さで、素早く避けたのだ。
「ッ!」
手刀を振り下ろした体勢のまま首を巡らせて、見失ったZ2の姿を慌てて探すテラだったが、
「……こっちだよ、ノロマさん!」
「――グッ!」
背後から自分をからかう声が上がったと知覚した瞬間、凄まじい衝撃を受けたテラの身体は冗談のように前方へと吹き飛ぶ。
――いや、
「……チェッ! ボクの蹴りが届く寸前に、自分から前に跳んで、強引にキックインパクトのタイミングをずらしたのか!」
右足を大きく前に伸ばした体勢で、Z2は悔しそうに舌打ちした……が、直ぐに仮面の下で口角を上げる。
「……ま、そんな小細工をしたところで、ボクのキックのダメージは軽くないけどねぇ」
――Z2の言う通りだった。
「く……ごほっ……!」
二十メートル程も吹き飛ばされた後、ゴロゴロと地面の上を転がったテラは、苦しそうに咳き込みながら、ヨロヨロと立ち上がる。
彼の背部装甲の真ん中には蜘蛛の巣のような放射状のヒビが無数に入り、大きく陥没していた。言うまでもなく、Z2の蹴撃の痕だ。
(……強い。そして――迅い!)
激しい背中の痛みと、荒くなった呼吸で顔を顰めながら、テラは自分が対峙するZ2の小さな――そして、大きな圧力に満ちた佇まいに目を遣った。
(アームドファイターZ2――あれは、確か……)
必死で脳内をフル回転し、記憶を呼び覚ます。――己の知っているはずの、『アームドファイターZ2』の性能を。
(確か……パンチ力が5トン、キック力が12.5トン。走力は――100メートルを4.4秒……だっけか)
――翻って、自分の方は……
(タイプ・ウィンディウルフでのスペックは――パンチ力が3.5トン、キック力が10.7トン。 走力は100メートルを4.2秒……だったはず)
――走力では上回っているが、パンチ力・キック力では大きく劣っている。元々スピードタイプで、力が他のそれよりも劣っているタイプ・ウィンディウルフであるから、致し方ないところではあるのだが……。
一方のZ2は、全体的に高次元でバランスが取れているステータスだと言える。
その代わり、“二十世紀戦士”と呼ばれる第一期アームド・ファイターシリーズの中でも最初期作品の主人公であるZ2には、テラやツールズのような、いわゆる“二十一世紀戦士”とは違って、複数の装甲アイテムというものが無い。
Z2 (そして、“原点”と呼ばれる初代アームドファイター)は、ただ一つの装甲アイテムを以て、強大な敵組織である“ベクスター教団”“ノイエ・ベクスター”と戦い続け、遂に壊滅へと追い込んだのだ。
その実力と強さは、決して後の“二十一世紀戦士”に劣るものではない――。
(数字では知っているが、実際に戦うと、字面以上に凄まじい戦闘力だな……)
テラは、ゆっくりと息を整えながら、心中密かに感嘆の声を上げた。
今のウィンディウルフではスピード、その前のマウンテンエレファントではパワーが、それぞれZ2のカタログスペックを上回っているはずなのだが、いずれのタイプで戦っても、正直テラはZ2に後れを取っている。
……恐らくこれは、
(テラとZ2――いや、俺と健一の経験の差か……)
簡単な話だ。
ついこの前、この異世界に現れ、記憶も戻らぬままでガムシャラに戦っていた自分と、それよりずっと前にこの世界に堕ち、それからずっとアームドファイターZ2として戦ってきていた健一との、いわゆる“戦闘経験値”の差が、苦戦の理由なのだろう。
(――で、あれば……このままでは劣勢を覆す事は難しいって事か……)
そう考えたテラは、背中に冷たいものが伝うのを感じた。脳裏に、満身創痍になった自分がZ2の足元で転がっている状況が目に浮かぶ。
微かに脚が震え始めた――。
(――ダメだ!)
テラは、怖気づきかけた自分を叱咤すると、激しく首を左右に振る。
そして、両脚に力を込めて、大地を確りと踏みしめた。
(今更そんな臆病風に吹かれてどうするんだ!)
そして、前方に佇むZ2の姿を睨みつけながら、再び脳を目まぐるしく回転させ始める。
(考えろ――勝つ為に!)
テラは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
「……よし」
そして、大きく頷くと、右脚を僅かに引き、上体を僅かに屈める。
――もう一度深く息を吸い、半ば目を閉じた。
「――いくぞ」
と、小さく頷いたテラは――次の瞬間、仮面の下の目をカッと見開き、
「うおおおお――ッ!」
雄叫びを上げながら、前方に向かって大きく跳躍した!
蒼い装甲に身を包んだ装甲戦士テラ・タイプ・ウィンディウルフが、その右腕を大きく前に突き出す。
たちまち、腕の周りの空気が渦を巻き始め、唸りを上げながら極小の竜巻と化した。
竜巻は、草や土砂を巻き上げながら、一直線に、正面に立つZ2に向かって近づいていく――が、Z2にたじろぐ様子は見られない。
「……フンッ!」
嘲るように鼻で笑ったZ2は、おもむろに右腕を引くと、地面に向けて振り下ろした。
刹那、Z2が殴りつけた地面が、まるで隕石でも落下してきたかのように大きく抉れて無数の砂礫と化し、彼の前方に噴き上がった。
――その“土砂のカーテン”に、テラの放った竜巻は遮られ、たちまち掻き消されてしまう。
難なくテラの攻撃を防いだZ2は、得意げに顔を上げる――が、
「うおおおおっ!」
「――っ!」
突然、舞い上がる土煙を突っ切って、目の前にテラの蒼い身体が現れた事に驚き、思わず身体を硬直させた。
その一瞬の隙を、テラは見逃さない。
彼は左腕を大きく振り上げると、その手を刃に擬し、
「ウルフファング・ウィンドッ!」
Z2の眉間目がけて振り下ろした。
テラの手刀から放たれた真空の刃が、Z2の仮面を真っ二つに引き裂く――
「――遅いよ、テラ!」
――直前で、Z2の姿が消えた。
――否。
正確には、消えたと思わせる程の速さで、素早く避けたのだ。
「ッ!」
手刀を振り下ろした体勢のまま首を巡らせて、見失ったZ2の姿を慌てて探すテラだったが、
「……こっちだよ、ノロマさん!」
「――グッ!」
背後から自分をからかう声が上がったと知覚した瞬間、凄まじい衝撃を受けたテラの身体は冗談のように前方へと吹き飛ぶ。
――いや、
「……チェッ! ボクの蹴りが届く寸前に、自分から前に跳んで、強引にキックインパクトのタイミングをずらしたのか!」
右足を大きく前に伸ばした体勢で、Z2は悔しそうに舌打ちした……が、直ぐに仮面の下で口角を上げる。
「……ま、そんな小細工をしたところで、ボクのキックのダメージは軽くないけどねぇ」
――Z2の言う通りだった。
「く……ごほっ……!」
二十メートル程も吹き飛ばされた後、ゴロゴロと地面の上を転がったテラは、苦しそうに咳き込みながら、ヨロヨロと立ち上がる。
彼の背部装甲の真ん中には蜘蛛の巣のような放射状のヒビが無数に入り、大きく陥没していた。言うまでもなく、Z2の蹴撃の痕だ。
(……強い。そして――迅い!)
激しい背中の痛みと、荒くなった呼吸で顔を顰めながら、テラは自分が対峙するZ2の小さな――そして、大きな圧力に満ちた佇まいに目を遣った。
(アームドファイターZ2――あれは、確か……)
必死で脳内をフル回転し、記憶を呼び覚ます。――己の知っているはずの、『アームドファイターZ2』の性能を。
(確か……パンチ力が5トン、キック力が12.5トン。走力は――100メートルを4.4秒……だっけか)
――翻って、自分の方は……
(タイプ・ウィンディウルフでのスペックは――パンチ力が3.5トン、キック力が10.7トン。 走力は100メートルを4.2秒……だったはず)
――走力では上回っているが、パンチ力・キック力では大きく劣っている。元々スピードタイプで、力が他のそれよりも劣っているタイプ・ウィンディウルフであるから、致し方ないところではあるのだが……。
一方のZ2は、全体的に高次元でバランスが取れているステータスだと言える。
その代わり、“二十世紀戦士”と呼ばれる第一期アームド・ファイターシリーズの中でも最初期作品の主人公であるZ2には、テラやツールズのような、いわゆる“二十一世紀戦士”とは違って、複数の装甲アイテムというものが無い。
Z2 (そして、“原点”と呼ばれる初代アームドファイター)は、ただ一つの装甲アイテムを以て、強大な敵組織である“ベクスター教団”“ノイエ・ベクスター”と戦い続け、遂に壊滅へと追い込んだのだ。
その実力と強さは、決して後の“二十一世紀戦士”に劣るものではない――。
(数字では知っているが、実際に戦うと、字面以上に凄まじい戦闘力だな……)
テラは、ゆっくりと息を整えながら、心中密かに感嘆の声を上げた。
今のウィンディウルフではスピード、その前のマウンテンエレファントではパワーが、それぞれZ2のカタログスペックを上回っているはずなのだが、いずれのタイプで戦っても、正直テラはZ2に後れを取っている。
……恐らくこれは、
(テラとZ2――いや、俺と健一の経験の差か……)
簡単な話だ。
ついこの前、この異世界に現れ、記憶も戻らぬままでガムシャラに戦っていた自分と、それよりずっと前にこの世界に堕ち、それからずっとアームドファイターZ2として戦ってきていた健一との、いわゆる“戦闘経験値”の差が、苦戦の理由なのだろう。
(――で、あれば……このままでは劣勢を覆す事は難しいって事か……)
そう考えたテラは、背中に冷たいものが伝うのを感じた。脳裏に、満身創痍になった自分がZ2の足元で転がっている状況が目に浮かぶ。
微かに脚が震え始めた――。
(――ダメだ!)
テラは、怖気づきかけた自分を叱咤すると、激しく首を左右に振る。
そして、両脚に力を込めて、大地を確りと踏みしめた。
(今更そんな臆病風に吹かれてどうするんだ!)
そして、前方に佇むZ2の姿を睨みつけながら、再び脳を目まぐるしく回転させ始める。
(考えろ――勝つ為に!)
テラは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
「……よし」
そして、大きく頷くと、右脚を僅かに引き、上体を僅かに屈める。
――もう一度深く息を吸い、半ば目を閉じた。
「――いくぞ」
と、小さく頷いたテラは――次の瞬間、仮面の下の目をカッと見開き、
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