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第六章 ふたりの装甲戦士は、何故互いに戦うのか

第六章其の参 剛力

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 「――ッ!」

 夜風が吹きすさぶ草原で、剣呑な殺気を放つアームドファイターZ2と対峙していた装甲戦士アームド・ファイターテラは、微かな衝撃音を耳にして、思わず音のした方へ振り向いた。

「あれは――」

 キヤフェを囲う外壁の彼方で、赤熱した竜巻が瓦礫を巻き上げているのが微かに見え、テラは仮面の奥の目を見開く。

「あれは、ツールズ・クリムゾン・トルネード……!」
「あそこは……“凱旋ノ門”の方向――!」

 彼から少し離れたところで身を屈めていたフラニィが、呆然と呟いた。

「そ、そんな……! 門を破られてしまったら……」
「……チッ!」

 フラニィの震える声に、テラは思わず舌打ちをする。

(――こんなところで足止めを食らっている暇はない。一刻も早く、あの紅い竜巻の下にいる猫獣人たちを助けに行かないと……!)
「おやおや? よそ見してる余裕なんて、キミには無いだろう?」
「――ッ!」

 呆れ声と共に、風切り音がテラの鼓膜を打った。
 彼は、慌てて前に向き直って、両腕を掲げるが――、

「はぁッ!」
「ぐッ……!」

 掲げて防御の態勢を取った両腕の上からお構いなしに叩きつけられたZ2の拳の凄まじい威力に、テラの口から苦悶の呻きが漏れる。

「ほらぁっ! 油断してるから、ガードが下がったよっ!」
「――ガッ!」

 思わず緩んだ両腕の間にすかさず差し込まれた鋭い膝蹴りが鳩尾みぞおちを抉り、テラは思わず身体を折った。
 その頭を両手で掴んだZ2は、アイユニットを光らせながら、更に膝蹴りをその顔面に叩き込もうとする。

「くッ……!」

 テラは、鳩尾の痛みで意識が飛びそうになりながらも、咄嗟にマスクのビッグノーズを撓らせ、Z2の膝蹴りを弾いた。
 渾身の一撃を受けて体勢を崩したZ2に更なる追撃を加えようと、ビッグノーズをもう一度振り上げるが――、

「おっと、危ない危ない!」

 Z2は機敏な動きで飛び退き、ビッグノーズの鞭のような攻撃を紙一重で躱した。そのままフワリと宙を飛び、クルリと一回転すると、テラから十メートルほど離れた地面に柔らかく着地する。

「……くそッ!」

 それを見たテラは、仮面の下で舌を打つと、すかさずその強靭な脚で地を蹴った。
 そして、頭を振り、巨大な鼻を振り上げる。

「うおおおおおっ! ビッグノーズ・ラッソ投げ縄ーッ!」

 テラが叫ぶや、最大限まで伸ばしたビッグノーズの先端で輪を作った。
 そのまま勢いよく振り下ろし、作った輪の中にZ2の身体をすっぽりと入れる。

「――かかった!」
「……っ!」

 巨鼻の投げ縄にZ2を捕らえると同時にその輪をキュッと絞ったテラは、まるで獅子舞のように頭を大きく振った。
 その頭の動きに、ビッグノーズに身体を捕らえられたZ2の足が、僅かに宙に浮く。

「食らえ!」

 テラは、そのままZ2の身体を上空高く投げ上げ、タイプ・マウンテンエレファントの必殺技であるデブリ・フロー山津波・フォールズに繋げようとした――が、

「――ッ!」

 テラは驚愕して、言葉を失った。何故なら――、

「ふふふ、甘いよ、テラ」

 タイプ・マウンテンエレファントの怪力を以て、放り上げようとしたZ2の身体が、何故か持ち上がらなかった。

「――よりにもよって、このボク――アームドファイターZ2相手に力で対抗しようだなんて、身の程知らずもいい所だね」

 投げられそうになるや、腰を落として脚を踏ん張ったZ2は、巨象の怪力を前にしながらも耐え切ったのだ。

「……チッ!」

 瞬時に危機が迫っている事を察知したテラは、すかさず鼻の拘束を解いて、Z2から距離を取ろうとする。
 が――、

「おっと、逃がさないよ、テラッ!」
「……ッ」

 Z2の腕がビッグノーズを確りと握って、それを許さなかった。
 ビッグノーズを挟んで、ふたりの装甲戦士アームド・ファイターが、まるで綱引きのように対峙する。
 テラは、何とかZ2の腕の中からビッグノーズを引き抜こうと懸命に藻掻くが、Z2はそれを上回る膂力を以て巨大な鼻を抱え、決して離さない。
 たまらず、テラは呻くように叫んだ。

「く……は、離せ!」
「ふふ……やーだよ」

 テラの声に、Z2はクスクス嗤いながら、その腕に力を込めた。
 しなやかさと強靭さを誇るビッグノーズが、Z2の腕の中で、ミシミシと音を立てて軋む。

「……厄介だよねぇ、この大きな象さんの鼻」
「……っ!」

 呟く様なZ2の澄まし声に嫌な予感が過り、テラはビクリと身体を震わせた。
 そんな事は気にも留めぬ様子で、Z2は、締め付ける腕の力を徐々に強めていく。

「腕が一本増えたようなもんだもんね。防御にも使えるし、鞭みたいにしたり今みたいに輪っかにしたりして攻撃にも使える……便利だよねぇ」
「……くっ」
「こんなに厄介な鼻はさぁ――」

 そう、Z2は腕に渾身の力を込めながら叫んだ。

「へし折っておくに限るよね――ッ!」

 ――バキィッ!

 Z2の叫びと共に、嫌な音を立てて、ビッグノーズは――真っ二つに折れた!

「――くっ!」
「あはははははははっ!」

 切断面から火花を散らすビッグノーズを手に持って、ぶらぶらと振り回しながら、Z2は哄笑する。

「ざまあないね、鼻の無くなった象さん! 力比べでも敵わない上に、最大の武器をへし折られちゃってさぁ!」

 そう叫ぶや、彼は手で玩んでいたビッグノーズの切れ端をテラに向かって投げつけた。

「ぐっ――!」

 不意の攻撃に対処が遅れ、胸に自身のビッグノーズの残骸を胸に受けてしまったテラは、バランスを崩し、思わず仰向けに倒れる。

「クソっ! 油断した――」

 すぐさま起き上がり、Z2の姿を確認しようとするテラだったが――、

「……消えた――?」

 前方に立っていたはずのZ2の姿は、いつの間にか消えていた。
 ――と、その時、

「――ハヤテ様ッ! です!」
「!」

 フラニィの金切り声を聞き、テラは上空に目を向け――そこに、真っ暗な夜空にゆらゆらと揺れる深紅の炎を見る。
 その炎のようなオーラの輝きに、彼は見覚えがあった。

「あれは――Z2の必殺技……!」
「ははっ、当たりだよッ!」

 上空高く跳び上がったZ2は、両腕を真っ直ぐ横に伸ばした体勢で深紅のオーラを纏い、地上のテラ目がけて滑降しながら、技名を叫ぶ。

「さよなら、テラ! Z2十字架キ――ック!」

 その直後、更に加速したZ2が、全身を火の玉のようにしながら、テラに向けてその凄まじい蹴りを放った!

「は――ハヤテ様ァ――ッ!」

 フラニィの絶叫もたちまち掻き消されてしまう程の凄まじい轟音が鳴り響き、夥しい土砂が朦々と辺りに立ち込める。
 だが――、

「……ちぇっ!」

 轟音と土煙の中心でゆっくりと立ち上がったZ2は、苛立たしげに舌打ちをした。
 そして、ゆっくりと背後を振り返る。

「……そうだったね。キミは、そのフォームも持っていたんだっけね」

 土煙の向こうにぼんやりと見える人影に憎々しげな視線を向けながら、彼は静かな声で言う。

「Z2十字架キックが炸裂する一瞬前に、スピードに優れたその装甲へチェンジして間一髪で避けるとはね……。やるじゃないか、装甲戦士アームド・ファイターテラ――!」

 彼が顔を向けた先には、蒼い狼の仮面の装甲戦士アームド・ファイターが立っていた――。
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