装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜

朽縄咲良

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第五章 闖入せし悪魔たちは、何を望むのか

第五章其の参 当千

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 キヤフェの城壁の方から立ち上る土煙は、みるみる大きくなり、馬によく似た動物の背に跨った猫獣人たちが、その眼をギラギラと光らせているのが分かるほどに接近した時、

「――食らえッ!」

 マルチプル・ツール・ガンを構えた装甲戦士アームド・ファイターツールズ・シャープネイルスタイルが、そのトリガーを立て続けに引いた。
 同時に、真っ白に輝く光の釘が次々と銃口から飛び出し、甲高い音を立てながら、一直線に馬上の猫獣人へと飛んでいく。
 が、

「はぁっ!」

 猫獣人たちは、手にした短槍や長剣を振り回し、襲い掛かる光の釘を次々と叩き落とした。

「……チッ!」

 自分の放った光釘がすべて防がれたのを見たツールズが、仮面の下で舌打ちをする。

「猫のクセに、生意気な野郎どもだぜ! 大人しく貫かれてろってんだよ、クソが!」
「いや……。そりゃ、あんな長距離から、キラキラ光って目立ちまくる光の釘なんか撃っても、そりゃ防がれるでしょうが……。そんな釘鉄砲じゃなくて、もうちょっと威力の高い射撃武器とか技とか無かったのかい、キミは?」

 と、白け声で言うアームドファイターZ2に向かって「うるせえ!」と怒鳴りつけるツールズ。

「あるんだよ! ツールズの中間フォームの一つに! ……でも、まだゲットしてねえんだよ、畜生が!」

 そう叫ぶや、ツールズはマルチプル・ツールガンを頭上に掲げた。

「――ネイルスピアモード!」

 ツールズの声と共に眩い光を放ったマルチプル・ツール・ガンが、たちまちのうちに細身の槍へと姿を変える。
 そして、

「うおおおおおおっ!」

 ツールズは雄叫びを上げながら地を蹴り、近付いてくる騎馬の一団に向かって疾走し始める。
 スーツの生み出す常人離れした脚力で瞬く間に騎馬の集団に肉薄したツールズは、

「ヒャッハーッ!」

 と奇声を上げるや、小さくジャンプし、手にしたネイルスピアを閃光の如き速さで繰り出した。

「ぐ――ッ!」

 集団の先頭を走っていた猫獣人が、馬上でグラリと体勢を崩し、そのまま地上へと落ちる。
 その顔面には――文字通り風穴が開き、後頭部の向こう側の景色が見えていた。

「――ッ!」

 仲間の惨死を目の当たりにした猫獣人の兵が、ギョッとした顔をして、慌てて乗騎の手綱を引く。

「ヒャハハハハハッ!」

 ツールズは、なおも哄笑しながら、手にしたネイルスピアを、目にも止まらぬ速さで幾度も突き出した。

「あああああっ!」
「ぐぼぁ……!」
「ごふ……ッ」

 数人の猫獣人兵の口から、断末魔の声が漏れる。
 数瞬遅れて、身体のどこかに大穴を開けた猫獣人の骸が、バタバタという音を立てながら馬の背から次々と転落した。
 周囲に、生臭い、血と臓物の匂いが垂れ込める。
 そのただ中で、猫獣人たちの鮮血を浴びて真っ赤に染まったツールズが、怖気づいて遠巻きに囲む騎馬兵たちの真ん中で、狂ったような高笑いを上げた。

「ヒャハハハハ――ッ! やっぱ戦いって面白ぇや! ――さあ、かかってこいや、クソ猫ども! オレはまだまだ殺れるぜぇ――ッ!」

 ◆ ◆ ◆ ◆

 一方、装甲を装着したきり、そのまま立ち続けるだけだったZ2にも、騎馬兵の一隊が襲い掛かる。

「我らは、あの小さい方を討ち取るぞ! 見たところ、丸腰だ! 妙な真似をする前に、間合いの外から攻撃をかけるのだ!」
「……ふぅん」

 隊の中央にいる、指揮官らしき兵がそう指示を出すのを聞いたZ2は、仮面の下で口元を歪めた。

「まあ……確かに、あの頭おかしげな戦闘狂と殺り合うよりは、ボクの方が楽そうだよね。……でも」

 彼はそう呟くと、脚を半歩ずらし、やや前屈みの姿勢を取った。

「――君たち、覚えておいた方がいいよ」

 押し殺した声で独り言つと、仮面の下で、その幼い顔に似合わない凄惨な笑みを浮かべる。

「……『人は見かけによらない』って言葉をねッ!」

 そう叫ぶと同時に、Z2は地を蹴り、上空高く跳躍した。
 脚力だけで十五メートル程も飛び上がったZ2は、最高点に到達するやクルリと身体を回転させ、右脚をまっすぐに伸ばして、両手を水平に伸ばす。

「Z2十字架キ――ック!」

 Z2が甲高い声で技名を叫び、一直線に上空から滑降してくる。その身体を深紅のオーラが覆い、まるで風に煽られた炎の様に揺らめいた。

「おおおおおおおっ!」

 猫獣人兵は、自分目がけて一直線に降りてくる、火の玉のようなZ2を迎え撃とうと、手にした長剣を振り上げるが、

 バキィッ

 という甲高い音を立てて、長剣は真っ二つに折れる。
 そして、その事に驚く間もなく、彼はZ2の凄まじい蹴撃を胸に受けてしまう。

「がはああ……っ!」

 彼の断末魔の声は、途中で途切れた。Z2十字架キックの直撃を受けた彼の胸部が、文字通り血霧と化したからだ。
 ボトリと音を立てて、彼の胸から上だけが、まるで熟れ過ぎた果実の様に、草の上に無造作に落ちる。

「…………っ!」

 それを見た猫獣人たちの顔が、一気に恐怖で引き攣った。

「……怖いのかい?」
「――ッ!」

 抑揚のない声で紡がれた言葉に、猫獣人たちの毛皮が逆立つ。
 彼らは、慌てて己の得物を掲げ、声のした方に視線と殺気を向けた。

「ふふ……面白いね。意外と人間っぽい顔で怖がるんだね、君たち」
「う……撃てぇーッ! 矢をは、放てぇーっ!」

 上ずった声で、指揮官が命じる。その命令に従って、兵たちが馬の上で矢を番え、目の前の小柄な悪魔に向かって一斉に放った。
 風切り音と共に、真っ直ぐZ2に向かって飛ぶ無数の矢。
 が――、

「――遅いよ」

 まるで、幼子をからかうような口ぶりで呟くと、Z2は再び地を蹴る。
 だが今度は、上ではなく、に向かって跳んだ。
 そのまま、頭を下げ、姿勢を低くして、飛ぶ矢の下を潜る様に地面スレスレを跳んだZ2は、密集する騎馬の間を巧みにすり抜け、いとも容易く、指揮官の乗る馬の傍らに辿り着く。
 そして、お道化た仕草で、ペコリと頭を下げた。

「こんばんは」
「――ッ!」
「さっきから、みんなに指示を出していたから、多分君がこの中で一番偉い人なんだよね?」
「あ、あああああっ! 死ねッ!」

 恐慌に駆られた指揮官は、手に持った長剣をブンブンと振り回す。
 が、

「おやおや、危ないなぁ。――よっと」

 のんきな口ぶりと共に、スッと伸ばしたZ2によって、その刀身はアッサリと捉えられてしまった。

「――ひぃっ!」
「……ねえ、知ってるかい?」

 恐怖で顔を歪ませる指揮官に向かってZ2は、まるで世間話でもするかのような口ぶりで言葉を紡ぐ。
 そして、身軽な動作でジャンプすると、音も無く指揮官の乗る馬の背の上に着地した。

「な――?」
「こういう、集団と戦う時の鉄則ってさ……頭を先に潰す事なんだってさ!」
「がッ――ぐぶっ……!」

 指揮官の驚きの声は、途中から水の中のあぶくが湧くような奇妙な音に代わる。

「あ、ごめん。喉を潰されたら返事も出来ないか」

 爪先を踏んだくらいの口調で謝るZ2。その伸ばした腕は指揮官の喉元まで伸び、鋭い手刀と化した指先が、深々と彼の茶色い毛皮に覆われた首を深々と刺し貫いていた。

「はい、ご苦労様」

 Z2は、涼しい声で既に事切れた指揮官に向けて言うと、無造作にその亡骸を放り投げる。
 その身体が、ドシャっという音を立てて草原の上に落ちると同時に、猫獣人兵たちの間に、津波のように恐怖が広がった。
 動揺で隊列を大きく乱す猫獣人たちを、馬の背の上で睥睨しながら、Z2は愉快そうな笑い声を上げる。

「うん、確かに効果的みたいだ。……まあ結局は、君たちを皆殺しにするつもりなんだけどね、ボクたちはさ」
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