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第三章 豺狼が手を伸ばすのは、人か、猫か
第三章其の壱拾伍 巨象
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「……ぞ、象の装甲戦士――!」
シーフは、眼前に現れたテラの新しい姿を前にして、思わずたじろいだ。
その灰色の装甲は、先ほどまで纏っていたタイプ・ウィンディウルフとは打って変わり、正に象の皮膚を彷彿とさせる分厚さと重厚さで、全身をびっしりと覆っている。
更にその下には、強化人造筋肉が全身隈なく張り巡らされていた。
その為、タイプ・マウンテンエレファントは、シャープなウィンディウルフの時とは全く違う、マッシブなシルエットになっている。
――更に印象的なのは、その仮面だ。
象をモチーフにした仮面からは、湾曲した長い牙のような突起が突き出し、面の中央には象の一番の特徴である長い鼻が付いていて、腰のあたりまで垂れている。
その異形ともいえる姿から圧倒的な威圧感がひしひしと伝わってきて、シーフは思わず後ずさりした。
と、巨象と化したテラが静かに口を開く。
「……来ないのか?」
「……」
「さっきまでの威勢が嘘のようだな」
「……チッ!」
テラの挑発にも、シーフは憎々しげに舌を打つだけだ。
そんなシーフに、テラはフンと鼻を鳴らすと、
「なら……こっちからいくぞ!」
そう叫び、分厚い装甲に覆われた、巨木のような右脚を高く上げた。
そして、
「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」
荒れ狂う巨獣の咆哮を上げると、渾身の力を込めた右脚を、床に叩きつける。
すると、叩きつけた脚を中心にして、石畳に巨大なクレーターが出来た。
それに伴って発生した衝撃が伝わり、周囲はまるで激しい地震に見舞われたかのように激しく揺れる。
「う――うおっ!」
揺れに足を取られかけたシーフは、慌てて重心を落とし、転倒しまいとバランスを取った。そのせいで一瞬だけ敵への注意が逸れる。
「――!」
彼が、頭上を過る影に気付いた時には、もう遅かった。
頭上から躍りかかってきたテラの巨大な拳が、彼の顔面目掛けて振り下ろされる。
「グッ――!」
すんでのところで初撃を躱したシーフだったが、鼻先すれすれを掠めた拳が鳴らした風切り音に恐怖を感じた。
彼は、咄嗟に後ろに飛びすさび、テラから距離を取ろうとする。
が、それは叶わない。
「――逃がすか!」
テラは、そう叫ぶや大きく頭を振った。その仮面のビッグ・ノーズが、まるで鎌首を持ち上げた蛇のように動いて、シーフの左腕に絡みついた。
「な……!」
驚愕の声を上げるシーフ。慌てて腕に巻き付いた鼻を引き剥がそうと必死にもがくが、象の怪力の前には無駄だった。
「は……放せ……放せッ!」
「……『そう言われて放すバカは、装甲戦士なんてやってられない』――確か、自分でそう言ってたよな?」
「く……くそが……ああああああああ!」
シーフの叫びを余所に、ビッグ・ノーズは、どんどんと締め付けを増していく。
「あ……ああああああああ!」
シーフの口から、苦悶の叫びが上がる。
あまりの激痛に、意識が朦朧としながらも、右手に握ったG・セイバーを振り上げたシーフは、
「く、そおおおおっ!」
渾身の力を振り絞って、その刃をビッグ・ノーズに叩きつけた。
シーフの必死の一撃に、彼の腕に巻き付いた鼻の締め付けが僅かに弱まる。
「フンッ!」
その隙を逃さず、シーフは腕を引っこ抜いた。そして、もう一度G・セイバーを振り上げ、素早くテラの脳天目がけて振り下ろす。
ガギィッ!
周囲に、金属がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。
「……く、くそっ! ば……化け物か……!」
刀身が粉々に砕けたG・セイバーの柄を茫然と見つめながら、シーフは、絶望と嫉妬と忿怒に満ちた声を漏らした。
一方、彼が渾身の力と殺意を叩きつけたはずのテラの仮面には、傷一つ付いていない。
テラはゆっくりと立ち上がると、対照的に身を小さくして膝をついているシーフを見下ろしながら言った。
「お前のG・セイバーも折れた。ゴエモン・ザ・ラフネックはパワータイプのフォームだが、このタイプ・マウンテンエレファントの力はそれ以上だという事が分かっただろう?」
「……何が言いたいんでさ?」
憎々しげに言葉を吐くシーフに、スッと手を差し伸べながら、テラは言葉を継いだ。
「降参しろ。これ以上やっても、お前に勝ち目は無いぞ」
「……は?」
テラの提案に、シーフは呆気にとられた。
「何を……言ってるんで?」
「何をって……そのままの意味だが」
問い返されたテラは、戸惑うような素振りを見せて言い淀む。
それを見たシーフは、小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「へっ! 本当にアンタは、考えがガキくせえなぁ! 降参なんぞできますかってん――だ!」
「――!」
シーフが叫ぶと同時に、空手になったはずの右手を上げた。
――その手にはいつの間に、黒光りする銃――G・シューターが握られている。
「食らいな! マサゴ・インフィニティ・シュートォっ!」
次の瞬間、シーフは引鉄を引いた。
銃口から飛び出た白光が、無数に分散して、テラを襲う。
「ッ!」
一瞬不意を衝かれたテラだったが、即座にビッグ・ノーズを扇風機の様に回転させた。無数の弾丸は、高速回転する鼻によって、全て叩き落される。
――が、それは陽動だった。
マサゴ・インフィニティ・シュートを放つと同時に、G・シューターを投げ捨てたシーフは地を蹴り、テラの頭上へと高々と飛び上がる。
そして、両手を組み合わせると、上空で身体を大きく仰け反らせる。
組み合わせた両手に、炎のような赤いエネルギー塊が発生する。
「食らいなせえ! ゴエモン・ハンマーストライクッ!」
シーフは叫ぶと、テラに向かって、深紅のエネルギー塊に覆われた両手を振り下ろ――せなかった。
「――畜生。この手も通じねえか……参ったねェ」
シーフは、どこか他人事のような口調で呟く。
――振り下ろそうとした両手首は、クロスしたテラの仮面の両牙によってガッシリと受け止めてられていた。
「……!」
次の瞬間、テラのビッグ・ノーズが伸び、シーフの胴体に巻き付く。
「くっ……!」
「――これで、終わりだ!」
そう叫んだテラは、拘束したシーフを鼻一本で上空に放り投げ、続いて自分自身も飛び上がった。
ひねりを加えて投げられたシーフの体は激しく回転している。すさまじい遠心力が体を縛り、シーフは身じろぎも出来ない。
テラは、中空で激しく回転しているシーフの体を強靭な両腕で抱きかかえると、くるりと体勢を反転させた。
そして、シーフの体ごと激しく横回転したまま、どんどんと降下スピードを上げていく。
「デブリ・フロー・フォールズ!」
テラが高らかに技名を叫び、
シーフは、脳天を石床に激しく叩きつけられた――!
シーフは、眼前に現れたテラの新しい姿を前にして、思わずたじろいだ。
その灰色の装甲は、先ほどまで纏っていたタイプ・ウィンディウルフとは打って変わり、正に象の皮膚を彷彿とさせる分厚さと重厚さで、全身をびっしりと覆っている。
更にその下には、強化人造筋肉が全身隈なく張り巡らされていた。
その為、タイプ・マウンテンエレファントは、シャープなウィンディウルフの時とは全く違う、マッシブなシルエットになっている。
――更に印象的なのは、その仮面だ。
象をモチーフにした仮面からは、湾曲した長い牙のような突起が突き出し、面の中央には象の一番の特徴である長い鼻が付いていて、腰のあたりまで垂れている。
その異形ともいえる姿から圧倒的な威圧感がひしひしと伝わってきて、シーフは思わず後ずさりした。
と、巨象と化したテラが静かに口を開く。
「……来ないのか?」
「……」
「さっきまでの威勢が嘘のようだな」
「……チッ!」
テラの挑発にも、シーフは憎々しげに舌を打つだけだ。
そんなシーフに、テラはフンと鼻を鳴らすと、
「なら……こっちからいくぞ!」
そう叫び、分厚い装甲に覆われた、巨木のような右脚を高く上げた。
そして、
「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」
荒れ狂う巨獣の咆哮を上げると、渾身の力を込めた右脚を、床に叩きつける。
すると、叩きつけた脚を中心にして、石畳に巨大なクレーターが出来た。
それに伴って発生した衝撃が伝わり、周囲はまるで激しい地震に見舞われたかのように激しく揺れる。
「う――うおっ!」
揺れに足を取られかけたシーフは、慌てて重心を落とし、転倒しまいとバランスを取った。そのせいで一瞬だけ敵への注意が逸れる。
「――!」
彼が、頭上を過る影に気付いた時には、もう遅かった。
頭上から躍りかかってきたテラの巨大な拳が、彼の顔面目掛けて振り下ろされる。
「グッ――!」
すんでのところで初撃を躱したシーフだったが、鼻先すれすれを掠めた拳が鳴らした風切り音に恐怖を感じた。
彼は、咄嗟に後ろに飛びすさび、テラから距離を取ろうとする。
が、それは叶わない。
「――逃がすか!」
テラは、そう叫ぶや大きく頭を振った。その仮面のビッグ・ノーズが、まるで鎌首を持ち上げた蛇のように動いて、シーフの左腕に絡みついた。
「な……!」
驚愕の声を上げるシーフ。慌てて腕に巻き付いた鼻を引き剥がそうと必死にもがくが、象の怪力の前には無駄だった。
「は……放せ……放せッ!」
「……『そう言われて放すバカは、装甲戦士なんてやってられない』――確か、自分でそう言ってたよな?」
「く……くそが……ああああああああ!」
シーフの叫びを余所に、ビッグ・ノーズは、どんどんと締め付けを増していく。
「あ……ああああああああ!」
シーフの口から、苦悶の叫びが上がる。
あまりの激痛に、意識が朦朧としながらも、右手に握ったG・セイバーを振り上げたシーフは、
「く、そおおおおっ!」
渾身の力を振り絞って、その刃をビッグ・ノーズに叩きつけた。
シーフの必死の一撃に、彼の腕に巻き付いた鼻の締め付けが僅かに弱まる。
「フンッ!」
その隙を逃さず、シーフは腕を引っこ抜いた。そして、もう一度G・セイバーを振り上げ、素早くテラの脳天目がけて振り下ろす。
ガギィッ!
周囲に、金属がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。
「……く、くそっ! ば……化け物か……!」
刀身が粉々に砕けたG・セイバーの柄を茫然と見つめながら、シーフは、絶望と嫉妬と忿怒に満ちた声を漏らした。
一方、彼が渾身の力と殺意を叩きつけたはずのテラの仮面には、傷一つ付いていない。
テラはゆっくりと立ち上がると、対照的に身を小さくして膝をついているシーフを見下ろしながら言った。
「お前のG・セイバーも折れた。ゴエモン・ザ・ラフネックはパワータイプのフォームだが、このタイプ・マウンテンエレファントの力はそれ以上だという事が分かっただろう?」
「……何が言いたいんでさ?」
憎々しげに言葉を吐くシーフに、スッと手を差し伸べながら、テラは言葉を継いだ。
「降参しろ。これ以上やっても、お前に勝ち目は無いぞ」
「……は?」
テラの提案に、シーフは呆気にとられた。
「何を……言ってるんで?」
「何をって……そのままの意味だが」
問い返されたテラは、戸惑うような素振りを見せて言い淀む。
それを見たシーフは、小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「へっ! 本当にアンタは、考えがガキくせえなぁ! 降参なんぞできますかってん――だ!」
「――!」
シーフが叫ぶと同時に、空手になったはずの右手を上げた。
――その手にはいつの間に、黒光りする銃――G・シューターが握られている。
「食らいな! マサゴ・インフィニティ・シュートォっ!」
次の瞬間、シーフは引鉄を引いた。
銃口から飛び出た白光が、無数に分散して、テラを襲う。
「ッ!」
一瞬不意を衝かれたテラだったが、即座にビッグ・ノーズを扇風機の様に回転させた。無数の弾丸は、高速回転する鼻によって、全て叩き落される。
――が、それは陽動だった。
マサゴ・インフィニティ・シュートを放つと同時に、G・シューターを投げ捨てたシーフは地を蹴り、テラの頭上へと高々と飛び上がる。
そして、両手を組み合わせると、上空で身体を大きく仰け反らせる。
組み合わせた両手に、炎のような赤いエネルギー塊が発生する。
「食らいなせえ! ゴエモン・ハンマーストライクッ!」
シーフは叫ぶと、テラに向かって、深紅のエネルギー塊に覆われた両手を振り下ろ――せなかった。
「――畜生。この手も通じねえか……参ったねェ」
シーフは、どこか他人事のような口調で呟く。
――振り下ろそうとした両手首は、クロスしたテラの仮面の両牙によってガッシリと受け止めてられていた。
「……!」
次の瞬間、テラのビッグ・ノーズが伸び、シーフの胴体に巻き付く。
「くっ……!」
「――これで、終わりだ!」
そう叫んだテラは、拘束したシーフを鼻一本で上空に放り投げ、続いて自分自身も飛び上がった。
ひねりを加えて投げられたシーフの体は激しく回転している。すさまじい遠心力が体を縛り、シーフは身じろぎも出来ない。
テラは、中空で激しく回転しているシーフの体を強靭な両腕で抱きかかえると、くるりと体勢を反転させた。
そして、シーフの体ごと激しく横回転したまま、どんどんと降下スピードを上げていく。
「デブリ・フロー・フォールズ!」
テラが高らかに技名を叫び、
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