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第三章 豺狼が手を伸ばすのは、人か、猫か
第三章其の壱拾肆 節理
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シーフは、左手に掴んだテラの体を、より一層高く持ち上げ、右手を僅かに引いた。
G・セイバーの折れた刀身が狙う先には、気を喪ったテラの喉元がある。
シーフの赤い瞳がギラリと光った。
「ヒヒヒ……、さっき顔を合わせたばっかりですが、もうサヨナラですねェ。――さよなら、新入りさんッ!」
そう叫びながら、右手の段平でテラの首を掻き切ろうとした――その時、
「止めてぇ――ッ!」
絶叫と共に、素早く飛び込んできた白い影が、シーフの太い腕にしがみついてきた。
「は……ハヤテ様は殺させない! その手を放してぇっ!」
「ヒヒヒッ……、これは勇敢なお嬢ちゃんだ。この装甲戦士シーフに、物怖じせずにじゃれてくるとはねェ。そこで立派な武器を構えたまま、ぶるぶる震えている野良猫どもより、ずっと度胸が据わってますねェ」
シーフは、自分の腕を抱えて、必死の形相で爪と牙を立てるフラニィを見下ろしながら、愉快そうに言う。
「――ですが」
と、フラニィがしがみつく腕を易々と振り上げたシーフは、
「生憎と、あっしは猫が嫌いでしてね!」
そう言い放つや、その腕を激しく振った。
「きゃ――ッ!」
シーフ・ゴエモン・ザ・ラフネックの怪力によって容易く体を振り払われたフラニィは、悲鳴を上げながら宙を舞い、石壁に激しく体を打ちつけられると、力無く床に倒れ伏す。
「フン! そう死に急ぎなさんな! この新入りを殺して、光る板を頂戴したら、“ルパン・ザ・ムッシュー”でたっぷり遊んでさしあげやすか――」
シーフが上げた嘲り声は、不意に途切れた。
伸ばした左腕に鈍い衝撃を感じたからだ。鋭い痛みに、思わず左手の握力が緩む。
「や……めろ……! フラニィたちに……手を出すな!」
「……ちぃっ! お目覚めですかい」
意識を取り戻したテラに思い切り拳を叩きつけられた左手を摩りながら、シーフは舌打ちをした。
一方、シーフの手から逃れたテラは、その場で膝をつき、激しく肩を上下させている。
受けたダメージは抜け切ってはいないものの、その眼を爛々と光らせ、シーフをまっすぐに睨みつけている。
その姿を冷ややかに見下ろしながら、シーフはフンと鼻を鳴らした。
「……やれやれ、見上げた根性ですが、もう半死半生じゃねえですかい」
そう呟くと、シーフはフルフルと首を横に振る。
「――それにしても、分からねえなぁ」
「……何が――だ?」
「決まってるじゃねえですかい」
そう言うとシーフは、床に蹲るフラニィを指さした。
「何で、あっしらと同じ“人間”で“オチビト”のアンタが、あんなケダモノどもの味方になって、仲間のはずのあっしらと敵対してるのか、がですよ」
「……それは」
ゆらりと立ち上がりながら、テラは応える。
「……力で虐げられようとしている弱いものの代わりに戦う――それが、装甲戦士だからだ……」
「へっ! ヒーローごっこに夢中な小学生ですかい、アンタ?」
テラの言葉を鼻で笑いながら、シーフは声を荒げた。
「――なら、なんですかい? あっしらは悪者ですかい? いきなりこんなけったいな世界に飛ばされちまったから、必死で元の世界に戻ろうとしているだけのあっしらが?」
「だ……だからといって、普通に生きているだけの者たちを傷つけ、殺していい理由にはならない!」
「ヒャハハハハッ! それがガキくせえって言ってるんでさ!」
シーフは、テラの主張を一笑に付す。
「そもそも、今のあっしらがやろうとしている事は、何も特別な事じゃねえ! 古今東西の人類サマが、自分が生き残る為に、他の生き物や同じ人間を相手にやってきた行為と、何ら変わらねえでしょうが!」
そう叫ぶや否や、シーフは折れたG・セイバーを頭上高く振り上げた。
「そんな乳臭えキレイ事をぬかして、あっしらの邪魔をするんじゃねえええ!」
そして、怒りを込めた一撃を、眼下のテラ目がけて叩きつける。
重たい斬撃が床にめり込み、石畳を粉々に砕いた。
――が、テラの姿はそこには無い。
「チッ、ちょこまかと! あの野郎はどこに――!」
「――ここだ!」
風を纏って、瞬く間にシーフの背後へ回ったテラは、その背中に組み付いた。そして、そのままバックドロップで投げようと両腕に力を込めるが、ゴエモン・ザ・ラフネックとなったシーフの体は重く、スピードタイプであるウィンディウルフの力では持ち上げられない。
「だから、今のあっしとアンタじゃ、パワーがダンチだって言ってるでしょうが!」
「ぐッ……!」
シーフの背中にしがみついたテラだったが、いとも容易くシーフに引き剥がされた。彼の身体は、ゴロゴロと床を転がり、瓦礫の山に背を打ちつけてようやく止まる。
「……く」
痛みに呻きながら、よろよろと立ち上がるテラ。
その口から、小さな声が漏れた。
「……さっき」
「――ん?」
その姿に、シーフは違和感を覚えた。
(――何だ? 何か妙な予感がする)
無意識に身構えるシーフを前に、テラは顔を俯かせながら言葉を継ぐ。
「お前……さっき言ってたよな? ――『空の光る板に力を込めれば、そいつの装甲アイテムに変える事ができる』って」
「……ッ! まさか……!」
テラの言葉に、シーフは血相を変えた。慌てて身体をまさぐるが――、
「……な、無い!」
「……探し物は……これか?」
狼狽するシーフに向けて、テラは手に持った“光る板”を見せた。
それを見たシーフは、ギリギリと歯噛みする。
「……クソ! さっき、背中に組み付いた時か――!」
シーフはそう吐き捨てるや、
「返せ! それは、あっしのモンだ!」
光る板を取り返そうと躍りかかった。だが、テラは風に乗ってシーフの攻撃を躱す。
次の瞬間、テラが手にした光の板が一際眩い光を放った。
「――もう遅い」
そう、勝ち誇った口調で言ったテラの手には、茶色いレーベル面の直径十二センチの円盤が――!
「これはもう――俺のコンセプト・ディスクだ!」
そう叫んだテラは、胸の赤いコンセプト・ディスク・ドライブを取り外し、イジェクトボタンを押した。
そして、排出されたウィンディウルフディスクの代わりに、新しく顕現した茶色いディスクをディスクトレイに乗せ、本体内に押し込む。
液晶窓に、『Now Loading』の文字が表示された。
「装着ッ!」
テラがコンセプト・ディスク・ドライブを再び胸に圧しつけた瞬間、七色の光がドライブから溢れ出し、丸く収斂しながら、その身体を覆い尽くす。
「く……ッ!」
一足飛びにテラに斬りかかろうとしたシーフだったが、その光の目映さに、思わず目を押さえてたじろいだ。
――そして、テラの身体を包み込んでいた光の奔流が弾け散る。
「……ちぃっ!」
翳していた手を下ろしながら、シーフは臍を噛んだ。
彼の目の前には、堅牢な灰色の装甲に身を包み、象の顔を模った仮面の戦士が颯爽と立っている。
胸部装甲に嵌め込まれたコンセプト・ディスク・ドライブが、高らかにその名を言祝いだ――!
『――装甲戦士テラ・タイプ・マウンテンエレファント、完装ッ!』
G・セイバーの折れた刀身が狙う先には、気を喪ったテラの喉元がある。
シーフの赤い瞳がギラリと光った。
「ヒヒヒ……、さっき顔を合わせたばっかりですが、もうサヨナラですねェ。――さよなら、新入りさんッ!」
そう叫びながら、右手の段平でテラの首を掻き切ろうとした――その時、
「止めてぇ――ッ!」
絶叫と共に、素早く飛び込んできた白い影が、シーフの太い腕にしがみついてきた。
「は……ハヤテ様は殺させない! その手を放してぇっ!」
「ヒヒヒッ……、これは勇敢なお嬢ちゃんだ。この装甲戦士シーフに、物怖じせずにじゃれてくるとはねェ。そこで立派な武器を構えたまま、ぶるぶる震えている野良猫どもより、ずっと度胸が据わってますねェ」
シーフは、自分の腕を抱えて、必死の形相で爪と牙を立てるフラニィを見下ろしながら、愉快そうに言う。
「――ですが」
と、フラニィがしがみつく腕を易々と振り上げたシーフは、
「生憎と、あっしは猫が嫌いでしてね!」
そう言い放つや、その腕を激しく振った。
「きゃ――ッ!」
シーフ・ゴエモン・ザ・ラフネックの怪力によって容易く体を振り払われたフラニィは、悲鳴を上げながら宙を舞い、石壁に激しく体を打ちつけられると、力無く床に倒れ伏す。
「フン! そう死に急ぎなさんな! この新入りを殺して、光る板を頂戴したら、“ルパン・ザ・ムッシュー”でたっぷり遊んでさしあげやすか――」
シーフが上げた嘲り声は、不意に途切れた。
伸ばした左腕に鈍い衝撃を感じたからだ。鋭い痛みに、思わず左手の握力が緩む。
「や……めろ……! フラニィたちに……手を出すな!」
「……ちぃっ! お目覚めですかい」
意識を取り戻したテラに思い切り拳を叩きつけられた左手を摩りながら、シーフは舌打ちをした。
一方、シーフの手から逃れたテラは、その場で膝をつき、激しく肩を上下させている。
受けたダメージは抜け切ってはいないものの、その眼を爛々と光らせ、シーフをまっすぐに睨みつけている。
その姿を冷ややかに見下ろしながら、シーフはフンと鼻を鳴らした。
「……やれやれ、見上げた根性ですが、もう半死半生じゃねえですかい」
そう呟くと、シーフはフルフルと首を横に振る。
「――それにしても、分からねえなぁ」
「……何が――だ?」
「決まってるじゃねえですかい」
そう言うとシーフは、床に蹲るフラニィを指さした。
「何で、あっしらと同じ“人間”で“オチビト”のアンタが、あんなケダモノどもの味方になって、仲間のはずのあっしらと敵対してるのか、がですよ」
「……それは」
ゆらりと立ち上がりながら、テラは応える。
「……力で虐げられようとしている弱いものの代わりに戦う――それが、装甲戦士だからだ……」
「へっ! ヒーローごっこに夢中な小学生ですかい、アンタ?」
テラの言葉を鼻で笑いながら、シーフは声を荒げた。
「――なら、なんですかい? あっしらは悪者ですかい? いきなりこんなけったいな世界に飛ばされちまったから、必死で元の世界に戻ろうとしているだけのあっしらが?」
「だ……だからといって、普通に生きているだけの者たちを傷つけ、殺していい理由にはならない!」
「ヒャハハハハッ! それがガキくせえって言ってるんでさ!」
シーフは、テラの主張を一笑に付す。
「そもそも、今のあっしらがやろうとしている事は、何も特別な事じゃねえ! 古今東西の人類サマが、自分が生き残る為に、他の生き物や同じ人間を相手にやってきた行為と、何ら変わらねえでしょうが!」
そう叫ぶや否や、シーフは折れたG・セイバーを頭上高く振り上げた。
「そんな乳臭えキレイ事をぬかして、あっしらの邪魔をするんじゃねえええ!」
そして、怒りを込めた一撃を、眼下のテラ目がけて叩きつける。
重たい斬撃が床にめり込み、石畳を粉々に砕いた。
――が、テラの姿はそこには無い。
「チッ、ちょこまかと! あの野郎はどこに――!」
「――ここだ!」
風を纏って、瞬く間にシーフの背後へ回ったテラは、その背中に組み付いた。そして、そのままバックドロップで投げようと両腕に力を込めるが、ゴエモン・ザ・ラフネックとなったシーフの体は重く、スピードタイプであるウィンディウルフの力では持ち上げられない。
「だから、今のあっしとアンタじゃ、パワーがダンチだって言ってるでしょうが!」
「ぐッ……!」
シーフの背中にしがみついたテラだったが、いとも容易くシーフに引き剥がされた。彼の身体は、ゴロゴロと床を転がり、瓦礫の山に背を打ちつけてようやく止まる。
「……く」
痛みに呻きながら、よろよろと立ち上がるテラ。
その口から、小さな声が漏れた。
「……さっき」
「――ん?」
その姿に、シーフは違和感を覚えた。
(――何だ? 何か妙な予感がする)
無意識に身構えるシーフを前に、テラは顔を俯かせながら言葉を継ぐ。
「お前……さっき言ってたよな? ――『空の光る板に力を込めれば、そいつの装甲アイテムに変える事ができる』って」
「……ッ! まさか……!」
テラの言葉に、シーフは血相を変えた。慌てて身体をまさぐるが――、
「……な、無い!」
「……探し物は……これか?」
狼狽するシーフに向けて、テラは手に持った“光る板”を見せた。
それを見たシーフは、ギリギリと歯噛みする。
「……クソ! さっき、背中に組み付いた時か――!」
シーフはそう吐き捨てるや、
「返せ! それは、あっしのモンだ!」
光る板を取り返そうと躍りかかった。だが、テラは風に乗ってシーフの攻撃を躱す。
次の瞬間、テラが手にした光の板が一際眩い光を放った。
「――もう遅い」
そう、勝ち誇った口調で言ったテラの手には、茶色いレーベル面の直径十二センチの円盤が――!
「これはもう――俺のコンセプト・ディスクだ!」
そう叫んだテラは、胸の赤いコンセプト・ディスク・ドライブを取り外し、イジェクトボタンを押した。
そして、排出されたウィンディウルフディスクの代わりに、新しく顕現した茶色いディスクをディスクトレイに乗せ、本体内に押し込む。
液晶窓に、『Now Loading』の文字が表示された。
「装着ッ!」
テラがコンセプト・ディスク・ドライブを再び胸に圧しつけた瞬間、七色の光がドライブから溢れ出し、丸く収斂しながら、その身体を覆い尽くす。
「く……ッ!」
一足飛びにテラに斬りかかろうとしたシーフだったが、その光の目映さに、思わず目を押さえてたじろいだ。
――そして、テラの身体を包み込んでいた光の奔流が弾け散る。
「……ちぃっ!」
翳していた手を下ろしながら、シーフは臍を噛んだ。
彼の目の前には、堅牢な灰色の装甲に身を包み、象の顔を模った仮面の戦士が颯爽と立っている。
胸部装甲に嵌め込まれたコンセプト・ディスク・ドライブが、高らかにその名を言祝いだ――!
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