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第三章 豺狼が手を伸ばすのは、人か、猫か
第三章其の肆 光板
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「何と……。その様な事が――」
“森の悪魔”に関するハヤテの話を聞き終えたアシュガト二世は、とても信じられぬとばかりにフルフルと頭を振った。
「すると何か? ……森に潜む悪魔どもは、この世界ではない“ニホン”とかいう場所からやって来たというのか? ――貴殿も含めて?」
「……はい」
王の問いに、ハヤテは小さく頷く。
アシュガト二世は、深々とかけていたソファから身を乗り出し、ハヤテの顔をまじまじと見つめた。
「一体、どうやって――?」
「それは……俺にも分かりません」
ハヤテは困ったように頭をワシワシと掻きながら言った。
「どうやら……今の俺には、ここに来る前の記憶がすっぽりと抜け落ちているようで……、この世界に堕ちる前に、何をしていたのか、どうしてここに来る事になったのか――全く思い出せないんです」
そう言うと、彼は表情を曇らせる。
「牛島……森の奴らの一人です――は、俺がこの世界に“転移”する際に心と身体にズレが生じた事によって記憶が消えてしまったようだ……と言っていました」
「転移……か」
ハヤテの説明に、王は難しい顔をして小さく唸った。
「そして、悪魔どもがこの世界に降り立った時に持っていたのが、光を放つ不思議な板二枚だったと……そう申しておったのだな?」
「はい」
王の問いかけに大きく頷いたハヤテは、自信に満ちた顔で言葉を継ぐ。
「それは、俺もこの世界に堕ちた直後に見たので間違いありません。確かに十センチ四方――ええと、大体これくらいの……」
彼はそう言いながら、手枷を嵌められた両手を苦労して動かし、指で大きさを示した。
「――金色に光る板でした。……それが、突然光を強めたかと思うと、コンセプト・ディスク・ドライブとコンセプトディスク……装甲戦士への装甲アイテムに形を変えたんです」
「ふむ……」
王は、ハヤテの言葉に唸りながら、頬から伸びるヒゲを撫でる。
そして、青い目を細めながら懐に手を入れた。
「ひょっとして、その光る板というのは――」
そう言いながら、懐から手を抜いたアシュガト二世は、重ねた2枚のそれをハヤテに見せながら、いたずらっぽい笑みを浮かべてみせる。
「――コレかね?」
「あ――ッ」
ハヤテは思わず声を上げ、目を丸くした。
王の手の中にあったのは、紛れもなく、彼が森の真ん中で目を覚ました時からカーゴパンツのポケットに入っていた二枚の“光る板”と同じものだった。
板が仄かに放つ光に顔を照らされながら、ハヤテは驚きを露わにして王に尋ねる。
「た……確かに、その板です! しかし……なぜ、それをあなたが持っているんですか?」
「――数ヶ月前、悪魔どもの一派が我が領内への侵入を企てた際に、その内のひとりを討ち取った。これは、その者が持っていたものだ」
「オチビトを……討ち取った……! あなた達が、装甲戦士を……?」
圧倒的な戦闘力を有する装甲戦士と目の前に居並ぶ猫獣人が戦い、その内のひとりを討ち取った――。
信じられないという表情を浮かべるハヤテに、王は眉間に皺を寄せる。
「……もちろん、こちらの損害も少なくなかった。六名の兵士が斃れ、二十四名が四肢のどれかを失った……。それだけの犠牲を払って、ようやく悪魔をひとり……斃したのだ」
「……失礼しました」
「いや、良い」
失言を詫びるハヤテに、鷹揚に頷くと、王は手に持った光る板に目を落とす。
「……もっとも、最初はハヤテ殿の金属製の筺と七色に光る円盤と同様、奇妙な鎧姿に身を変える魔具だったのだがな。コレを持っていた悪魔が事切れると同時に、この光る板へと形を変えてしまったらしい」
「事切れる――死ぬと同時に……?」
今度は、ハヤテが眉を顰める番だった。
一体、その事実は、何を示しているのだろうか……?
ハヤテは、その目を決意の光で満たし、王に向かって口を開いた。
「王様……お願いがあります」
「――何かな?」
ハヤテの表情に並々ならぬものを感じ取ったアシュガト二世は、その表情を引き締める。
王に向かって軽く頭を下げたハヤテは、オズオズと言った。
「どうか……その光る板に触らせて下さい。俺の推測が正しければ――」
「ならぬ」
「……!」
自分の申し出に対するアシュガト二世のハッキリとした拒絶の言葉に、ハヤテは思わず言葉を詰まらせる。
王は、そんなハヤテの表情も意に介さず、光る板を懐に仕舞い直しながら言葉を継いだ。
「……すまぬな。貴殿が何を考えてその提案をしたのかはおおよそ察しがつくし、先ほどの話を聞くに、恐らく貴殿の考えた通りなのだろう。――しかし」
そこで一旦言葉を止めた王は、ハヤテをじっと見据えて、再び口を開く。
「何が起こるのか全くの未知数のものを、この場で試すのはあまりに危険。……それに、いかにフラニィが世話になったといえど、今ここで顔を合わせたばかりのお主に、まだそこまで気を許す事は出来ぬ故な」
「それは……確かにそうですね」
やはり、自分はまだ完全に信用されてはいないようだ。
ハヤテは、王の言葉に納得して頷くも、一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。
――と、王がその表情を引き締める。
「しかし……こんな板切れなどよりもずっと重大なのは、悪魔達がこのキヤフェを執拗に狙う理由が分かった事だ……」
アシュガト二世は、そう呟くと、憂いの表情を浮かべた。
「まさか、よりにもよって――“石棺”の破壊が目的だったとは……!」
“森の悪魔”に関するハヤテの話を聞き終えたアシュガト二世は、とても信じられぬとばかりにフルフルと頭を振った。
「すると何か? ……森に潜む悪魔どもは、この世界ではない“ニホン”とかいう場所からやって来たというのか? ――貴殿も含めて?」
「……はい」
王の問いに、ハヤテは小さく頷く。
アシュガト二世は、深々とかけていたソファから身を乗り出し、ハヤテの顔をまじまじと見つめた。
「一体、どうやって――?」
「それは……俺にも分かりません」
ハヤテは困ったように頭をワシワシと掻きながら言った。
「どうやら……今の俺には、ここに来る前の記憶がすっぽりと抜け落ちているようで……、この世界に堕ちる前に、何をしていたのか、どうしてここに来る事になったのか――全く思い出せないんです」
そう言うと、彼は表情を曇らせる。
「牛島……森の奴らの一人です――は、俺がこの世界に“転移”する際に心と身体にズレが生じた事によって記憶が消えてしまったようだ……と言っていました」
「転移……か」
ハヤテの説明に、王は難しい顔をして小さく唸った。
「そして、悪魔どもがこの世界に降り立った時に持っていたのが、光を放つ不思議な板二枚だったと……そう申しておったのだな?」
「はい」
王の問いかけに大きく頷いたハヤテは、自信に満ちた顔で言葉を継ぐ。
「それは、俺もこの世界に堕ちた直後に見たので間違いありません。確かに十センチ四方――ええと、大体これくらいの……」
彼はそう言いながら、手枷を嵌められた両手を苦労して動かし、指で大きさを示した。
「――金色に光る板でした。……それが、突然光を強めたかと思うと、コンセプト・ディスク・ドライブとコンセプトディスク……装甲戦士への装甲アイテムに形を変えたんです」
「ふむ……」
王は、ハヤテの言葉に唸りながら、頬から伸びるヒゲを撫でる。
そして、青い目を細めながら懐に手を入れた。
「ひょっとして、その光る板というのは――」
そう言いながら、懐から手を抜いたアシュガト二世は、重ねた2枚のそれをハヤテに見せながら、いたずらっぽい笑みを浮かべてみせる。
「――コレかね?」
「あ――ッ」
ハヤテは思わず声を上げ、目を丸くした。
王の手の中にあったのは、紛れもなく、彼が森の真ん中で目を覚ました時からカーゴパンツのポケットに入っていた二枚の“光る板”と同じものだった。
板が仄かに放つ光に顔を照らされながら、ハヤテは驚きを露わにして王に尋ねる。
「た……確かに、その板です! しかし……なぜ、それをあなたが持っているんですか?」
「――数ヶ月前、悪魔どもの一派が我が領内への侵入を企てた際に、その内のひとりを討ち取った。これは、その者が持っていたものだ」
「オチビトを……討ち取った……! あなた達が、装甲戦士を……?」
圧倒的な戦闘力を有する装甲戦士と目の前に居並ぶ猫獣人が戦い、その内のひとりを討ち取った――。
信じられないという表情を浮かべるハヤテに、王は眉間に皺を寄せる。
「……もちろん、こちらの損害も少なくなかった。六名の兵士が斃れ、二十四名が四肢のどれかを失った……。それだけの犠牲を払って、ようやく悪魔をひとり……斃したのだ」
「……失礼しました」
「いや、良い」
失言を詫びるハヤテに、鷹揚に頷くと、王は手に持った光る板に目を落とす。
「……もっとも、最初はハヤテ殿の金属製の筺と七色に光る円盤と同様、奇妙な鎧姿に身を変える魔具だったのだがな。コレを持っていた悪魔が事切れると同時に、この光る板へと形を変えてしまったらしい」
「事切れる――死ぬと同時に……?」
今度は、ハヤテが眉を顰める番だった。
一体、その事実は、何を示しているのだろうか……?
ハヤテは、その目を決意の光で満たし、王に向かって口を開いた。
「王様……お願いがあります」
「――何かな?」
ハヤテの表情に並々ならぬものを感じ取ったアシュガト二世は、その表情を引き締める。
王に向かって軽く頭を下げたハヤテは、オズオズと言った。
「どうか……その光る板に触らせて下さい。俺の推測が正しければ――」
「ならぬ」
「……!」
自分の申し出に対するアシュガト二世のハッキリとした拒絶の言葉に、ハヤテは思わず言葉を詰まらせる。
王は、そんなハヤテの表情も意に介さず、光る板を懐に仕舞い直しながら言葉を継いだ。
「……すまぬな。貴殿が何を考えてその提案をしたのかはおおよそ察しがつくし、先ほどの話を聞くに、恐らく貴殿の考えた通りなのだろう。――しかし」
そこで一旦言葉を止めた王は、ハヤテをじっと見据えて、再び口を開く。
「何が起こるのか全くの未知数のものを、この場で試すのはあまりに危険。……それに、いかにフラニィが世話になったといえど、今ここで顔を合わせたばかりのお主に、まだそこまで気を許す事は出来ぬ故な」
「それは……確かにそうですね」
やはり、自分はまだ完全に信用されてはいないようだ。
ハヤテは、王の言葉に納得して頷くも、一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。
――と、王がその表情を引き締める。
「しかし……こんな板切れなどよりもずっと重大なのは、悪魔達がこのキヤフェを執拗に狙う理由が分かった事だ……」
アシュガト二世は、そう呟くと、憂いの表情を浮かべた。
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