装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜

朽縄咲良

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第一章 異世界に堕ちし者は、何を目指すのか

第一章其の壱拾参 目的

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 「……第三の共通点――?」
「ああ……」

 緊張に強張るハヤテの顔を見ながら、牛島は小さく頷き、言葉を継いだ。

「第三の共通点……それは、オチビト全てがこの世界に堕ちてきた時点で、ここで生き、戦う為の共通の目的を既に知覚している――って事だ」
「……?」
「あー、つまり。この、わざとらしく勿体ぶった回りくどい言い回しが大好きな、面倒くさいエロ小説家のおっさんが言いたいのはね……」

 牛島の言葉の意味が掴めず、キョトンとした顔をするハヤテを見かねて、健一が口を挟んだ。

「――ボクたちは皆、このヘンテコな異世界に堕とされた時点で、何をしたらいいのかを知っている――って事なんだ。……より正確に言うならば、意識の深いところに“刷り込まれてる”って感じかな?」
「……『何をしたらいいのかを知っている』?……『刷り込まれてる』――?」

 健一の説明を鸚鵡返しに呟いたハヤテは、眉を顰めながら頭を抱えた。
 そんなハヤテの様子に、怪訝な表情を浮かべる健一。

「――キミは違うようだね。本当に覚えていないのかい? ボクたちの果たすべき“目的”を……」
「……」

 健一の問いかけに対して、苦悩の表情を浮かべて、無言で首を横に振るハヤテ。
 そんな彼の肩に手を置いた牛島は、優しい声をかけた。

「……無理もないかもしれないね。今の疾風くんは、自分の素性すら忘れてしまっているのだから。……ひょっとすると、身体が異世界ここに転移される時に、魂的なものが身体とズレを起こしてしまったからかもしれない」
「転移って……トンデモ論じゃない?」

 牛島の推測に、健一は首を傾げる。そして、頬を紅潮させながら、己の持論を披露する。

「ボクは、宇宙人に攫われて、脳をいじられたんだと思うんだけど! ロボトミー手術みたいにさ! ボクたちが“目的”を知っているのも、宇宙人がボクたちを攫った時に、“空飛ぶ円盤”の中でチップか何かを脳の中に埋め込んだからなんだ! ほら、そう考えれば、全部辻褄が合うんじゃないかな?」
「あぁ? んな事ある訳ねえだろうが! ハハッ! これだからお子様はよぉ!」

 健一が自信満々で披露した推論を、薫は一笑に付した。
 笑い飛ばされた健一は、ムッとして薫を睨みつける。

「何さ! じゃあ、カオルは何だと思うんだよ?」
「……え? お、オレは……」

 問い返された薫は、目を丸くして、鯉のように口をパクパクと動かしていたが、やがて顔を赤くして、小さな声で答えた。

「そ……そりゃ、その……神様か……女神様みたいなのが、オレらの魂を抜いて天国に連れてきて、アレだ……」
「……ぷっ!」

 薫の答えに、健一は思わず吹き出し、

「ッるせえっ、クソガキッ!」
「――いっでえ!」

 顔を真っ赤にした薫にゲンコツを食らった。
 すぐさま取っ組み合いのケンカを始めようとするふたりを、牛島は苦笑いを浮かべながら制止する。

「まあまあ、ふたりとも落ち着き給え。結局、どっちが正しいのか、それともどっちも正しくないのかも今の時点では分からないのだから、今言い争いをしても仕方がないだろう?」
「「……」」

 牛島の言葉に、ふたりはふくれっ面を浮かべながらも、素直にお互いから手を引いた。
 ふたりの従順な態度に、牛島は満足そうに頷き、言葉を継ぐ。

「あ、因みに私は、この異世界は壮大な仮想現実バーチャルリアリティゲームの舞台で、我々は、そこに放り込まれたプレイヤーだという説を推すね――」
「「いや、それは無いと思う」」

 牛島の仮説を否定する、薫と健一の声が見事にハモった。
 自説を言下に否定された牛島は、ムッとした表情を浮かべるが、呆然として三人のやり取りを呆然と見ているハヤテに気が付くと、慌てて苦笑いで表情を上書きした。

「ああ、すまないね、疾風くん。些か話が脱線してしまったようだ」

 そう謝ると、彼は咳払いをひとつして、話を本筋に戻す。

「私達が知覚している共通の“目的”はね――『ミアン王国の王都・キヤフェの中心に存在する、ある石棺を破壊する』……というものなんだ」
「石棺を……破壊する……」
「ああ」

 牛島は大きく頷いた。

「……その石棺とやらが、どのくらいの大きさなのか、どういう形をしているのか、どんな材質の石なのか――その辺りは、オチビトの誰も知らないし、そもそも『どうして石棺を破壊しなければならないのか?』という問いに対して、誰も答えられない」
「……」
「――でもね」

 そう続けると、牛島は真顔になって、自分の頭を指さした。

「私の――の脳の中には、ハッキリと刻み込まれているんだ。――『石棺を破壊すれば、私達は元の世界に戻る事が出来る』ってね。そして、それが正しい事も解る。――まあ、それは理屈じゃなくて本能で……としか言えないがね」

 牛島の言葉に対し、誰も口を開かなかった。ガランとした小屋の中に、重苦しい沈黙が垂れ込める。
 ――その沈黙を破ったのは、ハヤテだった。

「……アンタ達の“目的”が何なのかは分かった。――多分、俺が忘れてしまった“目的”というのも、アンタ達と同じなんだろう。……だが」
「……“だが”、何だい?」

 ハヤテの言葉の最後に付け加わった一言に、牛島は眉を上げる。
 そんな彼の目を真っ直ぐに見据えて、ハヤテは静かに尋ねた。

「だが――それと、フラニィをはじめとした猫獣人の一行を襲った事が、俺の中で繋がらないんだ。……何故だ? 何故襲った? ……しかも、フラニィ以外を皆殺しにして――?」
「……何故? そんなの、分かり切っているじゃないか?」

 ハヤテの投げかけた問いに、牛島は眉ひとつ動かさずに答える。

「それは当然――フラニィという名の猫王国の王女様が我々には必要で、それ以外の猫たちは以外の何者でも無かったからだよ。それだけさ」
「な……?」

 牛島があっさりと口走った答えに、ハヤテは思わず言葉を失った――。
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