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第一章 異世界に堕ちし者は、何を目指すのか
第一章其の陸 苦戦
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ツールズの左手のツールサムターンが告げたフォーム名に、樹の幹に凭れて荒い息を吐いていたテラは、ハッとした。
「――パイオニアリングソースタイル……だと!」
思わず漏れ出た呟きには、焦燥が滲む。
――装甲戦士ツールズ・パイオニアリングソースタイルとは、ツールズの中間フォームである。
シャープネイルスタイルや、グラウンドハンマースタイルといった基本フォームでは、力を増していく敵を倒し切る決定力に欠けており、徐々に劣勢に立たされる事が増えていった。
それを解消する為に開発されたのが、基本フォーム以上の圧倒的な制圧力と攻撃力を備えた中間フォーム――パイオニアリングソースタイルである。
それを知っているテラは、仮面の下で歯噛みする。
(まずい……。テラの基本フォームじゃ、中間フォーム相手は厳しいぞ……)
しかも、今装着している“ウィンディウルフ”は、パイオニアリングソースタイルのようなパワータイプの敵とは相性が悪い。
パイオニアリングソースタイルは、中間フォームの為、その防御力も基本フォームに劣っているのだ。風を操り、速さを利用したヒットアンドアウェイが基本であるウィンディウルフの攻撃力では、パイオニアリングソーの厚い装甲を抜き、その中身にダメージを与えるのは至難の業である。
(せめて、タイプ・マウンテンエレファントかタイプ・フレイムライオンなら、まだ戦い方もあるんだが……)
そうは言っても、彼が現在所持しているコンセプト・ディスクは、ウィンディウルフディスクのみ……。
無い袖は振れないという奴だ。
テラは、身体に刺さった最後の釘を引き抜くと、ツールズの動向を確認する為、大木の幹からゆっくりと顔を出そうとし――、
ギュルルルルルルルルゥーッ!
「――ッ!」
突如、空気を振るわせ始めた“チェーンソー”――『ツールズ・トゥーサイデッド・ソー』の駆動音を耳にした瞬間、急いで頭を地に伏せた。
「ハハッ! 真っ二つになっちまえぇっ!」
次の瞬間、不気味な風切り音と共に、駆動音が急激に大きくなり、テラが身を隠していた大木が、ガリガリという耳障りな摩擦音を立てながら、激しく震え始める。
“チェーンソー”の回転刃が、身体を地面に伏せたテラの頭のすぐ上を高速で回転しながら、大木の堅い幹を削り斬っていく。
――そして、
二抱えはあった巨大な幹が、バリバリという断末魔を挙げながらふたつに折れ、地響きを上げて地面に転がった。――先ほど、ハヤテとフラニィが洞に潜んでいた大木が倒れたのと同じ様に。
舞い上がる土煙の中、地面に横たわる大木を呆然と見つめるテラだったが、
「……くっ!」
再び上がったおぞましい風切り音を耳にするや、咄嗟にその場から飛び退く。
数瞬後、テラの居た地面に、巨大な“チェーンソー”の刃がめり込み、夥しい土砂を巻き上げた。
「……見つけたぜ」
「……っ!」
凄惨な響きを帯びたツールズの声に、テラの背筋に寒気が走る。
暗闇の中で、ツールズのアイユニットが真っ赤に輝き、その右腕から伸びた“ツールズ・トゥーサイデッド・ソー”の回転刃が、月の光を反射してギラギラと光っていた。
ツールズは、蹲るテラを蔑むように見下しながら、その口を開く。
「ハハッ! ブザマだなぁ、負け犬! さっきまでの偉そうな口は、もう利かねえのか?」
「……っ」
「……つうかよぉ」
無言を貫くテラに、憎々しげに舌打ちをすると、ツールズは剣呑さを増した声で言った。
「てめえ……何でさっき、手を止めた?」
「――さっき?」
「とぼけんじゃねえッ!」
訊き返したテラに怒声を浴びせ、ツールズは大きく右腕を振った。
“ツールズ・トゥーサイデッド・ソー”に切り払われた大木が、また一本地に倒れる。
「――ッ!」
「さっき――てめえがオレの背後を取った時! 何で首への攻撃を止めたッ?」
そう叫びながら、ツールズは右腕を振り上げ、テラに襲いかかった。
テラは、自分目がけて振り下ろされるチェーンソーの刃を間一髪のところで避ける。
その度に穴だらけの全身が悲鳴を上げ、気が遠くなるような痛みがテラを苛んだ。
一方のツールズは、すっかり激昂して右腕のトゥーサイデッド・ソーを滅茶苦茶に振り回す。その度に、ソーチェーンに切り裂かれた木々の葉や草が辺りを舞い散る。
「あの瞬間……てめえ、オレに情けをかけただろう! 攻撃が当たればオレがタダじゃすまねえとでも、勝手に思いやがってなぁ!」
「そ……それは当然だろう!」
必死でツールズの間合いから距離を取ろうとするテラだったが、負傷した身体は満足に動かない。焦りを感じながら、彼はツールズに怒鳴り返す。
「あのまま、お前の首にウルフファング・ウィンドを打ち込んだら、その首は――」
「それがナメてるって言ってるんだ、クソがァッ!」
「グッ!」
更に怒りを増したツールズの蹴撃が、テラの胸部装甲にヒットした。
テラは冗談のように吹き飛び、大きな岩に、その身を強く打ちつけられる。
「が……ハッ……!」
背中を強かに打ち、呼吸もままならないテラは、力無くその場に蹲った。
「てめえ……自分が今やってる事が、どんな事だか解ってんのか! “テレビ”の中の生温い戦いごっこなんかじゃねえんだ! 生きるか死ぬかの、殺し合いってのをしてるんだよ、オレたちはよぉ!」
「……な、何……を……」
ヨロヨロと起き上がりながら、テラは訝しげな声を上げた。
衝撃でひしゃげ、無数のヒビが走った仮面を被った顔をツールズに向け、呆然としながら言う。
「何を……言っているんだ? て……“テレビ”の中……?」
「……」
「こ……殺し合い? ――違うだろ? 俺たちは、正義の戦士として、同じ様に――」
「チッ! ……もういい」
ツールズは、大きく舌打ちをするや、右腕のトゥーサイデッド・ソーを頭上高く振り上げた。
「……どうやら、マジで創作と現実の区別もつかねえサイコ野郎らしいな、てめえ。――確かに、『“オチビト”はできる限り保護して仲間に加えろ』とは言われちゃいたが――」
そう呟くと、ツールズは嗜虐に満ちた声を張り上げた。
「……碌に戦力になりもしねえ、気が触れたゴミは、さっさと処分しといた方がいいよなぁ!」
「……ッ!」
目の前のツールズの全身から膨れ上がった殺気を感じ、テラは己の死を直感した。
――その時、
「――やめてっ!」
突然、何か白い影が飛び出したかと思うと、テラとツールズの間を遮るように立ち塞がる。
それが何かを察したテラは、仮面の奥で目を見開いた。
「ふ――フラニィ! な……何で逃げなかったんだ……?」
声を上ずらせた彼は、激しく首を左右に振る。
「――いや、そうじゃない! 君は早く逃げろ! 俺の事は構わずに……」
「逃げません!」
フラニィは、両手を大きく広げた態勢のまま、顔だけをテラの方に向けると、断固とした声で叫んだ。
「さっきは、あたしがハヤテ様に助けられたんです! だから今度は、あたしがハヤテ様を助ける番――」
「や……止めろ! 俺の為に、君が危険を冒す事は無い……! いいから逃げ――」
「あー、もういい加減にしてくれねえかなぁ!」
ふたりのやり取りを苛ただしげに遮ったのは、右腕を振り上げたツールズだった。
「この期に及んで、日曜朝お馴染みのお涙頂戴シーンを見せるんじゃねえよ! ……そこまで言うなら、てめえらふたり纏めて“伐採”してやらあッ!」
そう絶叫したツールズは、ツールズ・トゥーサイデッド・ソーの刃の回転数を最大限に上げた。
目まぐるしい勢いで回転するソーチェーンが赤熱し、徐々にエネルギーを迸らせ始める。
(あれは――ツールズ・パイオニアリングソースタイルの必殺技……!)
テラは、その必殺技の威力を知っていた。
――アレを食らったら、自分とフラニィはタダでは済まない!
そう直感したテラは、せめてフラニィだけでも救おうと、最後の力を振り絞ってその肩に手を伸ばす。
――その時、
「ふたりとも、止めたまえ」
突然、彼の背後で落ち着いた低い声が上がった。
それと同時に、
「――グッ!」
テラの背後から伸びた腕が、彼の首に素早く巻き付く。
「ぐ……が……っ!」
テラは、何とか拘束から逃れようと必死の思いで藻掻くが、首に回った両腕はビクとも動かなかった。
裸絞めに締め上げられ、脳への血液供給を止められたテラの意識は、すぐに朦朧としてくる。
「いかんな。すぐに頭に血が上って冷静さを喪うのは、君の悪い癖だぞ」
「――るせえよ、“ジュエル”……」
そんな会話を、遠ざかる意識の中で聞きながら、彼の視界は暗転していった……。
「――パイオニアリングソースタイル……だと!」
思わず漏れ出た呟きには、焦燥が滲む。
――装甲戦士ツールズ・パイオニアリングソースタイルとは、ツールズの中間フォームである。
シャープネイルスタイルや、グラウンドハンマースタイルといった基本フォームでは、力を増していく敵を倒し切る決定力に欠けており、徐々に劣勢に立たされる事が増えていった。
それを解消する為に開発されたのが、基本フォーム以上の圧倒的な制圧力と攻撃力を備えた中間フォーム――パイオニアリングソースタイルである。
それを知っているテラは、仮面の下で歯噛みする。
(まずい……。テラの基本フォームじゃ、中間フォーム相手は厳しいぞ……)
しかも、今装着している“ウィンディウルフ”は、パイオニアリングソースタイルのようなパワータイプの敵とは相性が悪い。
パイオニアリングソースタイルは、中間フォームの為、その防御力も基本フォームに劣っているのだ。風を操り、速さを利用したヒットアンドアウェイが基本であるウィンディウルフの攻撃力では、パイオニアリングソーの厚い装甲を抜き、その中身にダメージを与えるのは至難の業である。
(せめて、タイプ・マウンテンエレファントかタイプ・フレイムライオンなら、まだ戦い方もあるんだが……)
そうは言っても、彼が現在所持しているコンセプト・ディスクは、ウィンディウルフディスクのみ……。
無い袖は振れないという奴だ。
テラは、身体に刺さった最後の釘を引き抜くと、ツールズの動向を確認する為、大木の幹からゆっくりと顔を出そうとし――、
ギュルルルルルルルルゥーッ!
「――ッ!」
突如、空気を振るわせ始めた“チェーンソー”――『ツールズ・トゥーサイデッド・ソー』の駆動音を耳にした瞬間、急いで頭を地に伏せた。
「ハハッ! 真っ二つになっちまえぇっ!」
次の瞬間、不気味な風切り音と共に、駆動音が急激に大きくなり、テラが身を隠していた大木が、ガリガリという耳障りな摩擦音を立てながら、激しく震え始める。
“チェーンソー”の回転刃が、身体を地面に伏せたテラの頭のすぐ上を高速で回転しながら、大木の堅い幹を削り斬っていく。
――そして、
二抱えはあった巨大な幹が、バリバリという断末魔を挙げながらふたつに折れ、地響きを上げて地面に転がった。――先ほど、ハヤテとフラニィが洞に潜んでいた大木が倒れたのと同じ様に。
舞い上がる土煙の中、地面に横たわる大木を呆然と見つめるテラだったが、
「……くっ!」
再び上がったおぞましい風切り音を耳にするや、咄嗟にその場から飛び退く。
数瞬後、テラの居た地面に、巨大な“チェーンソー”の刃がめり込み、夥しい土砂を巻き上げた。
「……見つけたぜ」
「……っ!」
凄惨な響きを帯びたツールズの声に、テラの背筋に寒気が走る。
暗闇の中で、ツールズのアイユニットが真っ赤に輝き、その右腕から伸びた“ツールズ・トゥーサイデッド・ソー”の回転刃が、月の光を反射してギラギラと光っていた。
ツールズは、蹲るテラを蔑むように見下しながら、その口を開く。
「ハハッ! ブザマだなぁ、負け犬! さっきまでの偉そうな口は、もう利かねえのか?」
「……っ」
「……つうかよぉ」
無言を貫くテラに、憎々しげに舌打ちをすると、ツールズは剣呑さを増した声で言った。
「てめえ……何でさっき、手を止めた?」
「――さっき?」
「とぼけんじゃねえッ!」
訊き返したテラに怒声を浴びせ、ツールズは大きく右腕を振った。
“ツールズ・トゥーサイデッド・ソー”に切り払われた大木が、また一本地に倒れる。
「――ッ!」
「さっき――てめえがオレの背後を取った時! 何で首への攻撃を止めたッ?」
そう叫びながら、ツールズは右腕を振り上げ、テラに襲いかかった。
テラは、自分目がけて振り下ろされるチェーンソーの刃を間一髪のところで避ける。
その度に穴だらけの全身が悲鳴を上げ、気が遠くなるような痛みがテラを苛んだ。
一方のツールズは、すっかり激昂して右腕のトゥーサイデッド・ソーを滅茶苦茶に振り回す。その度に、ソーチェーンに切り裂かれた木々の葉や草が辺りを舞い散る。
「あの瞬間……てめえ、オレに情けをかけただろう! 攻撃が当たればオレがタダじゃすまねえとでも、勝手に思いやがってなぁ!」
「そ……それは当然だろう!」
必死でツールズの間合いから距離を取ろうとするテラだったが、負傷した身体は満足に動かない。焦りを感じながら、彼はツールズに怒鳴り返す。
「あのまま、お前の首にウルフファング・ウィンドを打ち込んだら、その首は――」
「それがナメてるって言ってるんだ、クソがァッ!」
「グッ!」
更に怒りを増したツールズの蹴撃が、テラの胸部装甲にヒットした。
テラは冗談のように吹き飛び、大きな岩に、その身を強く打ちつけられる。
「が……ハッ……!」
背中を強かに打ち、呼吸もままならないテラは、力無くその場に蹲った。
「てめえ……自分が今やってる事が、どんな事だか解ってんのか! “テレビ”の中の生温い戦いごっこなんかじゃねえんだ! 生きるか死ぬかの、殺し合いってのをしてるんだよ、オレたちはよぉ!」
「……な、何……を……」
ヨロヨロと起き上がりながら、テラは訝しげな声を上げた。
衝撃でひしゃげ、無数のヒビが走った仮面を被った顔をツールズに向け、呆然としながら言う。
「何を……言っているんだ? て……“テレビ”の中……?」
「……」
「こ……殺し合い? ――違うだろ? 俺たちは、正義の戦士として、同じ様に――」
「チッ! ……もういい」
ツールズは、大きく舌打ちをするや、右腕のトゥーサイデッド・ソーを頭上高く振り上げた。
「……どうやら、マジで創作と現実の区別もつかねえサイコ野郎らしいな、てめえ。――確かに、『“オチビト”はできる限り保護して仲間に加えろ』とは言われちゃいたが――」
そう呟くと、ツールズは嗜虐に満ちた声を張り上げた。
「……碌に戦力になりもしねえ、気が触れたゴミは、さっさと処分しといた方がいいよなぁ!」
「……ッ!」
目の前のツールズの全身から膨れ上がった殺気を感じ、テラは己の死を直感した。
――その時、
「――やめてっ!」
突然、何か白い影が飛び出したかと思うと、テラとツールズの間を遮るように立ち塞がる。
それが何かを察したテラは、仮面の奥で目を見開いた。
「ふ――フラニィ! な……何で逃げなかったんだ……?」
声を上ずらせた彼は、激しく首を左右に振る。
「――いや、そうじゃない! 君は早く逃げろ! 俺の事は構わずに……」
「逃げません!」
フラニィは、両手を大きく広げた態勢のまま、顔だけをテラの方に向けると、断固とした声で叫んだ。
「さっきは、あたしがハヤテ様に助けられたんです! だから今度は、あたしがハヤテ様を助ける番――」
「や……止めろ! 俺の為に、君が危険を冒す事は無い……! いいから逃げ――」
「あー、もういい加減にしてくれねえかなぁ!」
ふたりのやり取りを苛ただしげに遮ったのは、右腕を振り上げたツールズだった。
「この期に及んで、日曜朝お馴染みのお涙頂戴シーンを見せるんじゃねえよ! ……そこまで言うなら、てめえらふたり纏めて“伐採”してやらあッ!」
そう絶叫したツールズは、ツールズ・トゥーサイデッド・ソーの刃の回転数を最大限に上げた。
目まぐるしい勢いで回転するソーチェーンが赤熱し、徐々にエネルギーを迸らせ始める。
(あれは――ツールズ・パイオニアリングソースタイルの必殺技……!)
テラは、その必殺技の威力を知っていた。
――アレを食らったら、自分とフラニィはタダでは済まない!
そう直感したテラは、せめてフラニィだけでも救おうと、最後の力を振り絞ってその肩に手を伸ばす。
――その時、
「ふたりとも、止めたまえ」
突然、彼の背後で落ち着いた低い声が上がった。
それと同時に、
「――グッ!」
テラの背後から伸びた腕が、彼の首に素早く巻き付く。
「ぐ……が……っ!」
テラは、何とか拘束から逃れようと必死の思いで藻掻くが、首に回った両腕はビクとも動かなかった。
裸絞めに締め上げられ、脳への血液供給を止められたテラの意識は、すぐに朦朧としてくる。
「いかんな。すぐに頭に血が上って冷静さを喪うのは、君の悪い癖だぞ」
「――るせえよ、“ジュエル”……」
そんな会話を、遠ざかる意識の中で聞きながら、彼の視界は暗転していった……。
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