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第一章 異世界に堕ちし者は、何を目指すのか
第一章其の肆 対峙
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「ほう……」
横倒しになった大木の幹に足をかけた仮面の男は、ハヤテの呟きを耳にして、感嘆の声を上げた。
「兄ちゃん……この姿が装甲戦士ツールズだと知っているのかい? ますます面白え」
「……」
正確に言えば、ハヤテはツールズを覚えてはいない。自分自身についての大部分の事と同様に、今日、この深い森の中で目覚める前の記憶の殆どは、未だに脳内に立ち込める深い霧の中にある。
……だが、
(――俺は、この男が、装甲戦士ツールズと呼ばれる戦士である事を知っている。……自分が装甲戦士テラである事を知っているように!)
彼は、確信を持っていた。
……だが、目の前に立つ男の佇まいに、何とも言えない違和感を感じるのも、また確かだった。
ハヤテは、愉快そうにクックッと声を上げて笑うツールズを、無言のまま睨みつける。
「……『お目当ての子猫ちゃん』とは、フラニィの事か? じゃあ、フラニィ達を襲ってきたというのは――」
「へぇ、その白猫はフラニィという名前なのかい。オレぁ、あの忌々しい猫動物園の王女様だとしか聞いてねえから、名前は初めて知ったわ」
そう無感動に言うと、仮面の男は小さく頷いた。
「――ああ、そうだぜ。お前の言う通りだ。そこの子猫ちゃんを大事そうに護ってた、クソ猫共を駆除してやったのは、他ならぬオレたちだ。――それがどうした?」
「――何故だッ!」
しれっと、涼しい顔で言ってのけたツールズに向かって、思わず声を荒げるハヤテ。
「装甲戦士ツールズは、俺――装甲戦士テラと同じ、弱きを助け、強きを挫く正義の戦士だろう! 人の姿では無いとはいえど、こんなか弱い少女を襲う行いは――!」
「ハハッ! 正義の戦士ッ? お前、ソレ自分で言ってて恥ずかしくねえか、オイ!」
ハヤテの怒号を嘲笑で返すツールズ。そんな相手の態度を前に、ハヤテは眦を上げて胸を張った。
「恥ずかしい? そんな筈が無いだろう! 装甲戦士とは、そういう者だ! その信条を誇りに感じる事はあっても、恥ずかしいなどと思う事など、あるはずも無いッ!」
「……オイオイ。お前、ソレはマジで言ってんのかよ?」
ハヤテの真剣な声に、ツールズの声色が変わった。嘲笑から、忌避の感情を帯びたそれに――。
「やれやれ、勘弁してくれよ。せっかく新しい“オチビト”を見付けたと思ったら、“テレビ”のお子様番組のテンプレお題目を獣人にも当て嵌めてくるクソサイコ野郎だとはな……」
「て……テンプレ? ――お、お前こそ、何を言っているんだ?」
呆れ果てたとばかりに、フルフルと首を振るツールズを、信じられない者を見るような目で凝視しながら、ハヤテは呆然としながら言った。
「ほ……本当のお前は、そんな奴じゃ無かっただろう? 弱い者の危機には必ず駆けつけて、その身を挺して助ける……それが怪人の姿をした者であっても……そういう男だったじゃないか、お前は!」
「……イカレてんのかお前? それとも、ラリッてんのか? ――本気で気色悪いぞ、テメエ」
ハヤテの声に、ツールズはあからさまに不機嫌そうな声を上げ、左腕を上げた。
「……どうやら、そこまでオレの事を知ってるって事は、オレよりも後の年の奴なんだろうが、狩りの邪魔をするってんなら容赦しねえ!」
そう叫ぶと、ツールズは右手を自分の腰に伸ばし、ベルトに挿した金具を摘まみ取る。
小さな金具だったが、ハヤテはそれが何かなのかを知っていた。
あれは……扉に付いている錠前の“サムターン”を模したガジェット――“ツールサムターン”!
「チィッ!」
それを見止めた瞬間、ハヤテも行動を起こす。“コンセプト・ディスク・ドライブ”のイジェクトボタンを押してディスクトレイを出し、右手に持った『ウィンディ・ウルフ』の“コンセプト・ディスク”を乗せ、すぐさま挿入する。
そして、液晶窓に『Now Loading』の文字が灯り始めた“コンセプト・ディスク・ドライブ”を掲げるように持ち、勢いよく左胸に押しつけた。
「……ほう」
その様子を倒木の上から見下ろしながら、ツールズは上げた左手の甲をゆっくりと返す。
手甲に既に嵌まっていた“ツールサムターン”を親指と薬指で外し、人差し指と中指の間に挟んだ新しい“ツールサムターン”を嵌め込むと、そのつまみを回し、左手を固く握り締めた。
「装甲戦士、装着ッ!」
「……アームド・ツール、換装」
殆ど同時に叫んだふたりから発せられた光の奔流が、激しく渦巻き、融け合い、ぶつかり合う。
その光は、辺りを真昼のように照らし出した。
「きゃ――っ!」
ハヤテの背中の陰に隠れていたフラニィは、ふたりの体から放たれた光のあまりの眩しさに、思わず目を瞑る。
そして――、
『装甲戦士テラ・タイプ・ウィンディウルフ・完装ッ!』
『装甲戦士ツールズ・シャープネイルスタイル、スタート・オブ・ワーク!』
ふたつの光が弾け散るようにして消えた後、そこには異形の鎧に身を包んだふたりの戦士が立っていた。
蒼き狼を模した面の戦士と、工具を寄せ集めて形どった様な、歪な面の戦士――ふたりは、暫しの間睨み合い、お互いの様子を探り合う。
――と、
「……やっぱり、見た事のない姿だ。どうやら、てめえはマジでオレの後輩らしいな」
「俺は……その姿を知っている」
首を傾げるツールズとは反対に、テラは大きく頷いて言った。
「装甲戦士ツールズ・シャープネイルスタイル……。ツールズの基本フォーム。実体化した光の釘でオールレンジな攻撃が出来る……」
「ふん、さすが後輩! 当たりだよッ!」
ツールズは、テラの呟きに鼻を鳴らすと、右手を大きく掲げる。次の瞬間、彼の右手に白い光が凝集し、銃身の短い拳銃のようなシルエットを形作った。
「! マルチプル・ツール・ガン……!」
それを見たテラは、仮面の下の表情を変え、背後で体を震わせているフラニィに向けて叫んだ。
「フラニィ! 君は、木の影に隠れてっ!」
「は……ハヤテ様……!」
「いいから! 俺は大丈夫――」
「そんなバケ猫の心配をしてる場合か、テメエはよぉッ!」
フラニィの身を気遣うテラに向けて、ツールズは苛立たしげな怒号を浴びせる。
そして、一切の躊躇なく、手にしたマルチプル・ツール・ガンの引金を引いた――!
横倒しになった大木の幹に足をかけた仮面の男は、ハヤテの呟きを耳にして、感嘆の声を上げた。
「兄ちゃん……この姿が装甲戦士ツールズだと知っているのかい? ますます面白え」
「……」
正確に言えば、ハヤテはツールズを覚えてはいない。自分自身についての大部分の事と同様に、今日、この深い森の中で目覚める前の記憶の殆どは、未だに脳内に立ち込める深い霧の中にある。
……だが、
(――俺は、この男が、装甲戦士ツールズと呼ばれる戦士である事を知っている。……自分が装甲戦士テラである事を知っているように!)
彼は、確信を持っていた。
……だが、目の前に立つ男の佇まいに、何とも言えない違和感を感じるのも、また確かだった。
ハヤテは、愉快そうにクックッと声を上げて笑うツールズを、無言のまま睨みつける。
「……『お目当ての子猫ちゃん』とは、フラニィの事か? じゃあ、フラニィ達を襲ってきたというのは――」
「へぇ、その白猫はフラニィという名前なのかい。オレぁ、あの忌々しい猫動物園の王女様だとしか聞いてねえから、名前は初めて知ったわ」
そう無感動に言うと、仮面の男は小さく頷いた。
「――ああ、そうだぜ。お前の言う通りだ。そこの子猫ちゃんを大事そうに護ってた、クソ猫共を駆除してやったのは、他ならぬオレたちだ。――それがどうした?」
「――何故だッ!」
しれっと、涼しい顔で言ってのけたツールズに向かって、思わず声を荒げるハヤテ。
「装甲戦士ツールズは、俺――装甲戦士テラと同じ、弱きを助け、強きを挫く正義の戦士だろう! 人の姿では無いとはいえど、こんなか弱い少女を襲う行いは――!」
「ハハッ! 正義の戦士ッ? お前、ソレ自分で言ってて恥ずかしくねえか、オイ!」
ハヤテの怒号を嘲笑で返すツールズ。そんな相手の態度を前に、ハヤテは眦を上げて胸を張った。
「恥ずかしい? そんな筈が無いだろう! 装甲戦士とは、そういう者だ! その信条を誇りに感じる事はあっても、恥ずかしいなどと思う事など、あるはずも無いッ!」
「……オイオイ。お前、ソレはマジで言ってんのかよ?」
ハヤテの真剣な声に、ツールズの声色が変わった。嘲笑から、忌避の感情を帯びたそれに――。
「やれやれ、勘弁してくれよ。せっかく新しい“オチビト”を見付けたと思ったら、“テレビ”のお子様番組のテンプレお題目を獣人にも当て嵌めてくるクソサイコ野郎だとはな……」
「て……テンプレ? ――お、お前こそ、何を言っているんだ?」
呆れ果てたとばかりに、フルフルと首を振るツールズを、信じられない者を見るような目で凝視しながら、ハヤテは呆然としながら言った。
「ほ……本当のお前は、そんな奴じゃ無かっただろう? 弱い者の危機には必ず駆けつけて、その身を挺して助ける……それが怪人の姿をした者であっても……そういう男だったじゃないか、お前は!」
「……イカレてんのかお前? それとも、ラリッてんのか? ――本気で気色悪いぞ、テメエ」
ハヤテの声に、ツールズはあからさまに不機嫌そうな声を上げ、左腕を上げた。
「……どうやら、そこまでオレの事を知ってるって事は、オレよりも後の年の奴なんだろうが、狩りの邪魔をするってんなら容赦しねえ!」
そう叫ぶと、ツールズは右手を自分の腰に伸ばし、ベルトに挿した金具を摘まみ取る。
小さな金具だったが、ハヤテはそれが何かなのかを知っていた。
あれは……扉に付いている錠前の“サムターン”を模したガジェット――“ツールサムターン”!
「チィッ!」
それを見止めた瞬間、ハヤテも行動を起こす。“コンセプト・ディスク・ドライブ”のイジェクトボタンを押してディスクトレイを出し、右手に持った『ウィンディ・ウルフ』の“コンセプト・ディスク”を乗せ、すぐさま挿入する。
そして、液晶窓に『Now Loading』の文字が灯り始めた“コンセプト・ディスク・ドライブ”を掲げるように持ち、勢いよく左胸に押しつけた。
「……ほう」
その様子を倒木の上から見下ろしながら、ツールズは上げた左手の甲をゆっくりと返す。
手甲に既に嵌まっていた“ツールサムターン”を親指と薬指で外し、人差し指と中指の間に挟んだ新しい“ツールサムターン”を嵌め込むと、そのつまみを回し、左手を固く握り締めた。
「装甲戦士、装着ッ!」
「……アームド・ツール、換装」
殆ど同時に叫んだふたりから発せられた光の奔流が、激しく渦巻き、融け合い、ぶつかり合う。
その光は、辺りを真昼のように照らし出した。
「きゃ――っ!」
ハヤテの背中の陰に隠れていたフラニィは、ふたりの体から放たれた光のあまりの眩しさに、思わず目を瞑る。
そして――、
『装甲戦士テラ・タイプ・ウィンディウルフ・完装ッ!』
『装甲戦士ツールズ・シャープネイルスタイル、スタート・オブ・ワーク!』
ふたつの光が弾け散るようにして消えた後、そこには異形の鎧に身を包んだふたりの戦士が立っていた。
蒼き狼を模した面の戦士と、工具を寄せ集めて形どった様な、歪な面の戦士――ふたりは、暫しの間睨み合い、お互いの様子を探り合う。
――と、
「……やっぱり、見た事のない姿だ。どうやら、てめえはマジでオレの後輩らしいな」
「俺は……その姿を知っている」
首を傾げるツールズとは反対に、テラは大きく頷いて言った。
「装甲戦士ツールズ・シャープネイルスタイル……。ツールズの基本フォーム。実体化した光の釘でオールレンジな攻撃が出来る……」
「ふん、さすが後輩! 当たりだよッ!」
ツールズは、テラの呟きに鼻を鳴らすと、右手を大きく掲げる。次の瞬間、彼の右手に白い光が凝集し、銃身の短い拳銃のようなシルエットを形作った。
「! マルチプル・ツール・ガン……!」
それを見たテラは、仮面の下の表情を変え、背後で体を震わせているフラニィに向けて叫んだ。
「フラニィ! 君は、木の影に隠れてっ!」
「は……ハヤテ様……!」
「いいから! 俺は大丈夫――」
「そんなバケ猫の心配をしてる場合か、テメエはよぉッ!」
フラニィの身を気遣うテラに向けて、ツールズは苛立たしげな怒号を浴びせる。
そして、一切の躊躇なく、手にしたマルチプル・ツール・ガンの引金を引いた――!
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