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番外編
◎リスを探して
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その日も変わらない朝だった。
綺麗に晴れ渡った青空に眩しい太陽、心地よい風も吹いていて絶好のお出かけ日和だった。
森に持って行くお昼ご飯をセツと一緒に用意して、ついでに朝ごはんも食べる。
「今日はどの辺りまで行こうか?何が描きたい?」
「んー。ぼく小さいどうぶつが見たい」
「小さいのか。鹿ならその辺にいるけどリスとかイタチとかか。小さい動物は警戒心が強いから隠れるのが上手いんだ」
「どうぶつとかくれんぼ?がんばって見つける!」
「ハハッ。そうだなかくれんぼだな!じゃあどっちが早く見つけられるか競争するか?」
「する!なんか今日はたくさん見つかる気がするんだ!」
「そうか?俺なんてさっきリスの鳴き声が聞こえたぞ?俺の事を呼んでたのかもな?」
「いつ?ぼく聞こえなかった!」
「ああ、ほら話に夢中になるから口の端に食べカスが付いて…クソッ!可愛いな」
「?」
セツの口元を綺麗に拭って足の上に落ちた欠片を自分の口に放り込みながら少し観察してみる。
今日もよく眠れたみたいだな。
ああ、寝癖がまだ少しついてるから出掛ける前にもう一度手入れをするか。
機嫌が良さそうに両足を揃えて前後に振って一生懸命口を動かしている。
はぁ、可愛いの塊か。
これ以上可愛い生き物なんていないだろう。
「よーし!お昼もおやつも持ったし、セツもお絵描きの道具は全部持ってるか?」
「もった!はやく行こう!何だかリスがよんでる気がする」
「ああ、そうだな。俺もさっきそこの窓から鹿が見えたから今日は色んな動物を見られると思うぞ」
セツと手を繋いで森に入るといつもの場所に荷物を置く。
「何度も来てるから迷子にはならないと思うけど、あんまり遠くまでは行くんじゃないぞ」
「わかってる。イノシシとかもいるからこのへんでさがす!」
「そうだな。セツはちゃんと約束が守れて偉いな!」
この辺ならよく来ているし、動物の方からも近寄ってくる事はないだろう。
安全の為とは言えセツから友達を取り上げて、森の近くで生活させている事に少し申し訳なさも感じている。
せめて人が来ない森の中では自由に遊ばせてやりたいが、自然には別の脅威も存在している。言葉の通じる人間と言葉は通じないが力で捻じ伏せられる動物、どちらの方がより危険なのか…言葉が通じる分人間の方が厄介だろうな。
「じゃあ小動物を見付けた方が呼ぶんだぞ」
「わかった!来るときはにげちゃうから、しずかに来てね」
「ああ。動物もセツも驚かさないように気をつける」
「もう!ぼくはそんなに怖がりじゃないよ」
いつも来ている森でも新しい楽しみを見つけて新鮮な発見をする。葉っぱや花をじっくりと観察している時もあるセツは案外町で暮らすよりもこういう生活の方が向いているのかもしれない。
高い木の上の方がガサガサと揺れているのを見て、リスかと思えば鳥がいただけだった。
リスがいるのを見付けたら、それとなくセツを近くに呼んで見つけさせようと思ったが中々上手くはいかないようだ。
セツを視界に入るようにしながら小動物を探していく。
探していない時には見つかるのに、探している時には全く見つからない。
その時視界の端に素早く移動する何かがいた。枝を伝って素早く移動していた感じから今度こそ鳥ではないと確信して目を凝らす。地面に落ちているドングリを投げて驚かせてもいいが、セツに酷い人間だと思われる事は避けたい。
しばらく見ていると、葉の隙間から顔を覗かせたリスが見えた。
「セツ、そっちはどうだ?いたか?いないならこっちの方を見てみるのはどうだ?」
セツのいる場所を振り返ってみると、忽然と消えていた。
つい先程まですぐ近くで熱心にリスを探していたはずだ。
そう思って幹の太い木をぐるりと周り、後ろにセツがいないか確認する。
「セツ!どこだ?1回中止して休憩しないか?」
大声で呼び掛けてみたものの、返事はない。
本当に数秒前まではそこにいたはずだ。
嫌な予感に襲われて冷や汗をかきながら、今まで以上に必死で目を凝らす。
「セツ!返事をしてくれ!どこにいる?」
動物に襲われたとしても音はするはずだし、人が来たとしても音がする。
どちらにしても気が付かない訳がない。
ましてリスを探していたといっても、セツを放置してまで没頭していた訳ではない。
何だ?また誰かの悪意でセツに何かが降り掛かるのか?
そんな事は認められない。何としても探し出す。
「ゴート!セツがいなくなった!居場所が分かるか?」
呼び掛けると直ぐに姿を表したゴートにホッとした。
「魔王様、少々お待ち下さい」
ゴートが魔法でセツを探しているのを見守っているが、無事かどうかだけでも分からないものか。こんなに近くにいたのに、みすみす拐われるなんて間抜けもいい所だ。
「お前の部下も総動員して何としてでも無傷で直ぐに見つけろ」
「私以外は大して戦力にはなりませんが、人探しなら人数が多い方がいいですね。畏まりました」
ゴートは指示通りに悪魔達にセツを無傷で見つけろと手下に連絡を入れながらも、捜索の魔法を使用している。
「セツが無事かどうかだけでも確認出来ないか?」
「申し訳ありません。害する事や惑わす事は得意ですが、あまり平和的な魔法は習得しておりません」
「はぁ、悪魔の魔法も万能という訳ではないのだな」
魔法が使えないとなれば、自分の目で探すしかないだろう。
兎に角無事であってくれと願いながら森の中を探していった
綺麗に晴れ渡った青空に眩しい太陽、心地よい風も吹いていて絶好のお出かけ日和だった。
森に持って行くお昼ご飯をセツと一緒に用意して、ついでに朝ごはんも食べる。
「今日はどの辺りまで行こうか?何が描きたい?」
「んー。ぼく小さいどうぶつが見たい」
「小さいのか。鹿ならその辺にいるけどリスとかイタチとかか。小さい動物は警戒心が強いから隠れるのが上手いんだ」
「どうぶつとかくれんぼ?がんばって見つける!」
「ハハッ。そうだなかくれんぼだな!じゃあどっちが早く見つけられるか競争するか?」
「する!なんか今日はたくさん見つかる気がするんだ!」
「そうか?俺なんてさっきリスの鳴き声が聞こえたぞ?俺の事を呼んでたのかもな?」
「いつ?ぼく聞こえなかった!」
「ああ、ほら話に夢中になるから口の端に食べカスが付いて…クソッ!可愛いな」
「?」
セツの口元を綺麗に拭って足の上に落ちた欠片を自分の口に放り込みながら少し観察してみる。
今日もよく眠れたみたいだな。
ああ、寝癖がまだ少しついてるから出掛ける前にもう一度手入れをするか。
機嫌が良さそうに両足を揃えて前後に振って一生懸命口を動かしている。
はぁ、可愛いの塊か。
これ以上可愛い生き物なんていないだろう。
「よーし!お昼もおやつも持ったし、セツもお絵描きの道具は全部持ってるか?」
「もった!はやく行こう!何だかリスがよんでる気がする」
「ああ、そうだな。俺もさっきそこの窓から鹿が見えたから今日は色んな動物を見られると思うぞ」
セツと手を繋いで森に入るといつもの場所に荷物を置く。
「何度も来てるから迷子にはならないと思うけど、あんまり遠くまでは行くんじゃないぞ」
「わかってる。イノシシとかもいるからこのへんでさがす!」
「そうだな。セツはちゃんと約束が守れて偉いな!」
この辺ならよく来ているし、動物の方からも近寄ってくる事はないだろう。
安全の為とは言えセツから友達を取り上げて、森の近くで生活させている事に少し申し訳なさも感じている。
せめて人が来ない森の中では自由に遊ばせてやりたいが、自然には別の脅威も存在している。言葉の通じる人間と言葉は通じないが力で捻じ伏せられる動物、どちらの方がより危険なのか…言葉が通じる分人間の方が厄介だろうな。
「じゃあ小動物を見付けた方が呼ぶんだぞ」
「わかった!来るときはにげちゃうから、しずかに来てね」
「ああ。動物もセツも驚かさないように気をつける」
「もう!ぼくはそんなに怖がりじゃないよ」
いつも来ている森でも新しい楽しみを見つけて新鮮な発見をする。葉っぱや花をじっくりと観察している時もあるセツは案外町で暮らすよりもこういう生活の方が向いているのかもしれない。
高い木の上の方がガサガサと揺れているのを見て、リスかと思えば鳥がいただけだった。
リスがいるのを見付けたら、それとなくセツを近くに呼んで見つけさせようと思ったが中々上手くはいかないようだ。
セツを視界に入るようにしながら小動物を探していく。
探していない時には見つかるのに、探している時には全く見つからない。
その時視界の端に素早く移動する何かがいた。枝を伝って素早く移動していた感じから今度こそ鳥ではないと確信して目を凝らす。地面に落ちているドングリを投げて驚かせてもいいが、セツに酷い人間だと思われる事は避けたい。
しばらく見ていると、葉の隙間から顔を覗かせたリスが見えた。
「セツ、そっちはどうだ?いたか?いないならこっちの方を見てみるのはどうだ?」
セツのいる場所を振り返ってみると、忽然と消えていた。
つい先程まですぐ近くで熱心にリスを探していたはずだ。
そう思って幹の太い木をぐるりと周り、後ろにセツがいないか確認する。
「セツ!どこだ?1回中止して休憩しないか?」
大声で呼び掛けてみたものの、返事はない。
本当に数秒前まではそこにいたはずだ。
嫌な予感に襲われて冷や汗をかきながら、今まで以上に必死で目を凝らす。
「セツ!返事をしてくれ!どこにいる?」
動物に襲われたとしても音はするはずだし、人が来たとしても音がする。
どちらにしても気が付かない訳がない。
ましてリスを探していたといっても、セツを放置してまで没頭していた訳ではない。
何だ?また誰かの悪意でセツに何かが降り掛かるのか?
そんな事は認められない。何としても探し出す。
「ゴート!セツがいなくなった!居場所が分かるか?」
呼び掛けると直ぐに姿を表したゴートにホッとした。
「魔王様、少々お待ち下さい」
ゴートが魔法でセツを探しているのを見守っているが、無事かどうかだけでも分からないものか。こんなに近くにいたのに、みすみす拐われるなんて間抜けもいい所だ。
「お前の部下も総動員して何としてでも無傷で直ぐに見つけろ」
「私以外は大して戦力にはなりませんが、人探しなら人数が多い方がいいですね。畏まりました」
ゴートは指示通りに悪魔達にセツを無傷で見つけろと手下に連絡を入れながらも、捜索の魔法を使用している。
「セツが無事かどうかだけでも確認出来ないか?」
「申し訳ありません。害する事や惑わす事は得意ですが、あまり平和的な魔法は習得しておりません」
「はぁ、悪魔の魔法も万能という訳ではないのだな」
魔法が使えないとなれば、自分の目で探すしかないだろう。
兎に角無事であってくれと願いながら森の中を探していった
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