11 / 21
◎秋
しおりを挟む
秋になった。秋と言えば、森は実りの季節だが、そんな事よりも誰もが気にしているのは町の一大イベントの祭りである。
小さな町なので、準備や費用がかかる祭りは年に一度しかない。この日の為に住人は街の飾り付けを用意したり、屋台で売るものを用意する。この祭り目当てに来る旅人も多くはないがいるにはいるのだ。そんなカモに不格好な手作りの置物などを販売すると、独特の味わいがあっていい。とそこそこ売れるらしい。
大人も子供もこの日の為に色々な準備があって忙しくなる季節だ。
「セツ、お祭りに興味はあるか?秋に毎年祭りをやるんだ」
「おまつり?行ってみたい!」
「そうか、じゃあ祭りが始まったら一緒に行こうな」
「うん!たのしみだなあ」
楽しそうなセツを見ながら、やっぱりお祭りは行きたいよなあと考える。
ゴートの魔法でセツが戻って来てから町に行った事は無かった。俺は少しでもセツの側にいたかったし、町に行ってセツを知ってる奴に会うのも嫌だったから用事があれば両親に町に行くついでに頼んでおいた。セツを死に追いやった奴らには絶対に会わせたくはないが、こんなにも嬉しそうにしているセツをお祭りに連れて行かない選択肢はない。
(まあ、人も多いし出くわす事もないだろう)
この祭りは元々は宗教行事で、最終日には教会に行き神に祈りを捧げて締め括るので、悪魔と契約している俺はなんとなく最終日は祭りに行かない事に決めていた。
最終日以外は特に趣旨は関係なく皆が思い思いに楽しめる。祭りは3日間開催されるし2日もあれば子供でも十分回れるだろう。
本来なら普段の街の様子と祭りの様子の違いを見せた方がいいだろうが、セツにはなるべく町に近づいて欲しくない。セツも祭りには興味があるようだが、町に行きたいと言わないからわざわざ行かなくてもいいと思う事にした。
秋も深まり、朝晩は寒くなってきた頃に祭りの日がやってきた。
この日は珍しく朝から全員で朝食を食べていた。
「セツ君、町には怖い人も沢山いるからイクスから離れないように気を付けるのよ」
「そうだぞ。セツ君みたいに可愛い子はすぐに誘拐されちゃうぞ」
両親は初めて人混みの中に行くセツが心配でたまらない様子だ。
「おまつりってこわい…ぼくどうしよう?」
両親が脅しすぎたせいでセツは祭りに行く前に不安になってしまったみたいだった。
「セツ大丈夫だ。俺が肩車で移動してやるから悪い奴はセツに手が届かないぞ!俺の上は高かっただろう?」
セツはハッとして俺の方を見た。
「イクスのかたぐるまなら大丈夫だね!よかったぁ。ぼくおまつりに行けないかとおもった」
「フフッ。ちょっと脅かしすぎちゃったみたいね。イクスがいれば大丈夫よ。安心して楽しんできてね」
「そうだな。お祭りは普段売ってない特別なお菓子もあるぞ」
「おじさんとおばさんはいかないの?」
「おじさんは人混みが好きじゃないから、セツ君がお祭りで見てきた事を教えてくれたら嬉しいな」
「おばさんもセツ君が代わりに行って来てくれたら嬉しいわ」
「そっか。じゃあちゃんとお話できるようにみてくるね!」
両親はこの日の為に小銭を沢山用意していたのか、小袋にぎっしりと入ったお金を俺に持たせた。
「欲しい物があったらイクスに言って何でも買っておいで」
このやり取りを見ていたセツは申し訳無さそうにしている。
「あのぼく、みるだけでいい。ほしいものないし…」
母親はセツに目線を合わせて頭を撫でて言った。
「このお金は普段セツ君にお世話になっているお礼だからちゃんと使ってね」
「そうだぞ。どうせその金が余ったっておじさんがお酒を買っちゃうからな。そうなったらおばさんに怒られるんだぞ」
親父もセツの頭をくしゃくしゃに撫でて遠慮するなと言った。
「でもぼく何にもおてつだいしてないよ?」
「そんな事ないわ。セツ君が淹れてくれるハーブティーは毎日飲みたいし、夕食に皆で集まる時間も気に入っているの。これはセツ君がいなかった時には無かったものよ」
「そうだな。あのハーブティーのおかげで二日酔いになる事も無くなったし、おばさんに怒られずに済んでいるんだぞ?」
「じゃあ、ぼくおみやげ買ってくる!ほしいものある?」
両親はセツが選んでくれた物なら何でも嬉しいと言って、それぞれセツをハグして名残惜しそうに仕事をしに行った。
「良かったな。これで屋台の美味しい物が何でも買えるぞ」
「帰ってきたら、おじさんとおばさんにたくさんお話しないと」
セツは遠慮しながらも両親に懐いているのが分かる。
少しでもセツの心の隙間を埋めてあげられているのだろうか?時を戻す前もセツは泣き言を言わなかった。
今もそれは変わらず、まだまだ親に甘えたい年頃だろうに寂しいとも言わないセツだが時々寝ている時に泣いてる事がある。単に怖い夢を見ているだけなのかは分からない。
そういう時にはセツを抱きしめて背中を擦ってやると縋るように体を寄せて安心したように穏やかに眠り始める。
セツが失った物を少しでも俺が埋められればいい。
こういう夜は心の中で何度もセツに詫ながら眠りにつく。
小さな町なので、準備や費用がかかる祭りは年に一度しかない。この日の為に住人は街の飾り付けを用意したり、屋台で売るものを用意する。この祭り目当てに来る旅人も多くはないがいるにはいるのだ。そんなカモに不格好な手作りの置物などを販売すると、独特の味わいがあっていい。とそこそこ売れるらしい。
大人も子供もこの日の為に色々な準備があって忙しくなる季節だ。
「セツ、お祭りに興味はあるか?秋に毎年祭りをやるんだ」
「おまつり?行ってみたい!」
「そうか、じゃあ祭りが始まったら一緒に行こうな」
「うん!たのしみだなあ」
楽しそうなセツを見ながら、やっぱりお祭りは行きたいよなあと考える。
ゴートの魔法でセツが戻って来てから町に行った事は無かった。俺は少しでもセツの側にいたかったし、町に行ってセツを知ってる奴に会うのも嫌だったから用事があれば両親に町に行くついでに頼んでおいた。セツを死に追いやった奴らには絶対に会わせたくはないが、こんなにも嬉しそうにしているセツをお祭りに連れて行かない選択肢はない。
(まあ、人も多いし出くわす事もないだろう)
この祭りは元々は宗教行事で、最終日には教会に行き神に祈りを捧げて締め括るので、悪魔と契約している俺はなんとなく最終日は祭りに行かない事に決めていた。
最終日以外は特に趣旨は関係なく皆が思い思いに楽しめる。祭りは3日間開催されるし2日もあれば子供でも十分回れるだろう。
本来なら普段の街の様子と祭りの様子の違いを見せた方がいいだろうが、セツにはなるべく町に近づいて欲しくない。セツも祭りには興味があるようだが、町に行きたいと言わないからわざわざ行かなくてもいいと思う事にした。
秋も深まり、朝晩は寒くなってきた頃に祭りの日がやってきた。
この日は珍しく朝から全員で朝食を食べていた。
「セツ君、町には怖い人も沢山いるからイクスから離れないように気を付けるのよ」
「そうだぞ。セツ君みたいに可愛い子はすぐに誘拐されちゃうぞ」
両親は初めて人混みの中に行くセツが心配でたまらない様子だ。
「おまつりってこわい…ぼくどうしよう?」
両親が脅しすぎたせいでセツは祭りに行く前に不安になってしまったみたいだった。
「セツ大丈夫だ。俺が肩車で移動してやるから悪い奴はセツに手が届かないぞ!俺の上は高かっただろう?」
セツはハッとして俺の方を見た。
「イクスのかたぐるまなら大丈夫だね!よかったぁ。ぼくおまつりに行けないかとおもった」
「フフッ。ちょっと脅かしすぎちゃったみたいね。イクスがいれば大丈夫よ。安心して楽しんできてね」
「そうだな。お祭りは普段売ってない特別なお菓子もあるぞ」
「おじさんとおばさんはいかないの?」
「おじさんは人混みが好きじゃないから、セツ君がお祭りで見てきた事を教えてくれたら嬉しいな」
「おばさんもセツ君が代わりに行って来てくれたら嬉しいわ」
「そっか。じゃあちゃんとお話できるようにみてくるね!」
両親はこの日の為に小銭を沢山用意していたのか、小袋にぎっしりと入ったお金を俺に持たせた。
「欲しい物があったらイクスに言って何でも買っておいで」
このやり取りを見ていたセツは申し訳無さそうにしている。
「あのぼく、みるだけでいい。ほしいものないし…」
母親はセツに目線を合わせて頭を撫でて言った。
「このお金は普段セツ君にお世話になっているお礼だからちゃんと使ってね」
「そうだぞ。どうせその金が余ったっておじさんがお酒を買っちゃうからな。そうなったらおばさんに怒られるんだぞ」
親父もセツの頭をくしゃくしゃに撫でて遠慮するなと言った。
「でもぼく何にもおてつだいしてないよ?」
「そんな事ないわ。セツ君が淹れてくれるハーブティーは毎日飲みたいし、夕食に皆で集まる時間も気に入っているの。これはセツ君がいなかった時には無かったものよ」
「そうだな。あのハーブティーのおかげで二日酔いになる事も無くなったし、おばさんに怒られずに済んでいるんだぞ?」
「じゃあ、ぼくおみやげ買ってくる!ほしいものある?」
両親はセツが選んでくれた物なら何でも嬉しいと言って、それぞれセツをハグして名残惜しそうに仕事をしに行った。
「良かったな。これで屋台の美味しい物が何でも買えるぞ」
「帰ってきたら、おじさんとおばさんにたくさんお話しないと」
セツは遠慮しながらも両親に懐いているのが分かる。
少しでもセツの心の隙間を埋めてあげられているのだろうか?時を戻す前もセツは泣き言を言わなかった。
今もそれは変わらず、まだまだ親に甘えたい年頃だろうに寂しいとも言わないセツだが時々寝ている時に泣いてる事がある。単に怖い夢を見ているだけなのかは分からない。
そういう時にはセツを抱きしめて背中を擦ってやると縋るように体を寄せて安心したように穏やかに眠り始める。
セツが失った物を少しでも俺が埋められればいい。
こういう夜は心の中で何度もセツに詫ながら眠りにつく。
51
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる