君に捧ぐ

ゆのう

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◎秋

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秋になった。秋と言えば、森は実りの季節だが、そんな事よりも誰もが気にしているのは町の一大イベントの祭りである。
小さな町なので、準備や費用がかかる祭りは年に一度しかない。この日の為に住人は街の飾り付けを用意したり、屋台で売るものを用意する。この祭り目当てに来る旅人も多くはないがいるにはいるのだ。そんなカモに不格好な手作りの置物などを販売すると、独特の味わいがあっていい。とそこそこ売れるらしい。
大人も子供もこの日の為に色々な準備があって忙しくなる季節だ。

「セツ、お祭りに興味はあるか?秋に毎年祭りをやるんだ」
「おまつり?行ってみたい!」
「そうか、じゃあ祭りが始まったら一緒に行こうな」
「うん!たのしみだなあ」
楽しそうなセツを見ながら、やっぱりお祭りは行きたいよなあと考える。
ゴートの魔法でセツが戻って来てから町に行った事は無かった。俺は少しでもセツの側にいたかったし、町に行ってセツを知ってる奴に会うのも嫌だったから用事があれば両親に町に行くついでに頼んでおいた。セツを死に追いやった奴らには絶対に会わせたくはないが、こんなにも嬉しそうにしているセツをお祭りに連れて行かない選択肢はない。
(まあ、人も多いし出くわす事もないだろう)

この祭りは元々は宗教行事で、最終日には教会に行き神に祈りを捧げて締め括るので、悪魔と契約している俺はなんとなく最終日は祭りに行かない事に決めていた。
最終日以外は特に趣旨は関係なく皆が思い思いに楽しめる。祭りは3日間開催されるし2日もあれば子供でも十分回れるだろう。
本来なら普段の街の様子と祭りの様子の違いを見せた方がいいだろうが、セツにはなるべく町に近づいて欲しくない。セツも祭りには興味があるようだが、町に行きたいと言わないからわざわざ行かなくてもいいと思う事にした。

秋も深まり、朝晩は寒くなってきた頃に祭りの日がやってきた。
この日は珍しく朝から全員で朝食を食べていた。
「セツ君、町には怖い人も沢山いるからイクスから離れないように気を付けるのよ」
「そうだぞ。セツ君みたいに可愛い子はすぐに誘拐されちゃうぞ」
両親は初めて人混みの中に行くセツが心配でたまらない様子だ。
「おまつりってこわい…ぼくどうしよう?」
両親が脅しすぎたせいでセツは祭りに行く前に不安になってしまったみたいだった。
「セツ大丈夫だ。俺が肩車で移動してやるから悪い奴はセツに手が届かないぞ!俺の上は高かっただろう?」
セツはハッとして俺の方を見た。
「イクスのかたぐるまなら大丈夫だね!よかったぁ。ぼくおまつりに行けないかとおもった」
「フフッ。ちょっと脅かしすぎちゃったみたいね。イクスがいれば大丈夫よ。安心して楽しんできてね」
「そうだな。お祭りは普段売ってない特別なお菓子もあるぞ」
「おじさんとおばさんはいかないの?」
「おじさんは人混みが好きじゃないから、セツ君がお祭りで見てきた事を教えてくれたら嬉しいな」
「おばさんもセツ君が代わりに行って来てくれたら嬉しいわ」
「そっか。じゃあちゃんとお話できるようにみてくるね!」

両親はこの日の為に小銭を沢山用意していたのか、小袋にぎっしりと入ったお金を俺に持たせた。
「欲しい物があったらイクスに言って何でも買っておいで」
このやり取りを見ていたセツは申し訳無さそうにしている。
「あのぼく、みるだけでいい。ほしいものないし…」
母親はセツに目線を合わせて頭を撫でて言った。
「このお金は普段セツ君にお世話になっているお礼だからちゃんと使ってね」
「そうだぞ。どうせその金が余ったっておじさんがお酒を買っちゃうからな。そうなったらおばさんに怒られるんだぞ」
親父もセツの頭をくしゃくしゃに撫でて遠慮するなと言った。
「でもぼく何にもおてつだいしてないよ?」
「そんな事ないわ。セツ君が淹れてくれるハーブティーは毎日飲みたいし、夕食に皆で集まる時間も気に入っているの。これはセツ君がいなかった時には無かったものよ」
「そうだな。あのハーブティーのおかげで二日酔いになる事も無くなったし、おばさんに怒られずに済んでいるんだぞ?」
「じゃあ、ぼくおみやげ買ってくる!ほしいものある?」
両親はセツが選んでくれた物なら何でも嬉しいと言って、それぞれセツをハグして名残惜しそうに仕事をしに行った。

「良かったな。これで屋台の美味しい物が何でも買えるぞ」
「帰ってきたら、おじさんとおばさんにたくさんお話しないと」
セツは遠慮しながらも両親に懐いているのが分かる。
少しでもセツの心の隙間を埋めてあげられているのだろうか?時を戻す前もセツは泣き言を言わなかった。
今もそれは変わらず、まだまだ親に甘えたい年頃だろうに寂しいとも言わないセツだが時々寝ている時に泣いてる事がある。単に怖い夢を見ているだけなのかは分からない。
そういう時にはセツを抱きしめて背中を擦ってやると縋るように体を寄せて安心したように穏やかに眠り始める。
セツが失った物を少しでも俺が埋められればいい。
こういう夜は心の中で何度もセツに詫ながら眠りにつく。
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