君に捧ぐ

ゆのう

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◎ピクニック

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新しく発見した事や、見た事もない大きな鳥がいた事、リスが目の前を走って行った事、色々な話をセツが顔を輝かせながら話している。それから少し声を小さくして秘密を教えてくれるように口を手で囲って言った。
「でもね、ぼく虫は嫌いなんだ」
そういえば昔、町の奴らとよく虫採りに行っていた時にセツだけ1匹も虫が採れずに俺が無理矢理渡していたなと思い出した。
(セツは虫が嫌いだから採れなかったのか。それを今更知るなんてな。俺は良かれと虫を渡していたが、それも嫌だっただろう)
本当に町の奴らが関わると碌な事にならないな。
「イクスは?嫌いなものってある?」
「俺は…自分かな」
セツが目を丸くして見て来たから、わざと乱暴に髪の毛をくしゃくしゃにかき混ぜて誤魔化した。

「セツは虫のどこが嫌いなんだ?」
「えっとねー、飛んでるところとか、足がたくさんあるところとか、ふわふわじゃないところ」
小さい指を折って話すのがたまらなく可愛い。少し意地悪をしたくなってつい聞いてしまった。
「ふわふわな虫もいるぞ。毛虫とか」
「うわあああ!毛虫が一番嫌いだよ!あんなのふわふわじゃない!ネコちゃんみたいなふわふわがいいの!」
「ハハハッ!そうか、毛虫じゃ駄目だったか。確かにネコは可愛いもんな」
予想通りのリアクションに思わず笑ってしまった。セツは無邪気で可愛い。どうかこのまま大人になって幸せな人生を歩んで欲しいと心から願う。その為に俺の事が邪魔になるまでは俺の人生をお前に捧げさせて欲しい。

フルーツも食べ終わってそろそろまた観察に戻ろうかと思っていたが、セツの頭が少しフラフラとしている。
「セツ、ちょっと膝の上に来ないか?お腹いっぱいになったし、少しゆっくりしよう」
セツの脇の下に両手を入れて、向かい合わせに俺の膝の上に座らせる。
「本当に今日はいい天気だなぁ。こんな日は昼寝でもしたいな」
セツの体を左右に少し揺らしながら背中を優しくトントンとしていると、頭を支えられなくなったのか俺の胸に重みがかかった。そのまま待っているとすぐに寝息が聞こえてきた。
(セツはまだ小さいからな。ちゃんと昼寝もさせてやらないと)
小さいけれどしっかりした重みと、セツの優しい香りがふわっと風に乗って届く。
こういう時間がかけがえのない幸せなんだろう。
セツを起こさないように木陰に入って俺も少し目を閉じる。
時折森の中を爽やかな風が吹いて気持ちがいい。
お腹がいっぱいになったせいか、気がついたら少し寝てしまっていたようだ。
太陽の傾きからそんなに時間は経っていないようだった。
(そういえば、もう少し歩いた先に花畑があったな)

セツが目覚めた時に花畑が目の前にあったら喜ぶかもしれないと荷物を持って花畑の方へ歩いて行った。
「あ…ごめんなさい。ぼくねてたみたい」
「子供は寝るのも大事な仕事だぞ。偉いな」
セツの頭を撫でて下に降ろしてやる。
「わあ!ここだけすごく花がたくさんさいてる!きれいだねー」
「ああ。ここは蝶々もお気に入りみたいで沢山飛んでるから色がたくさんあって綺麗だな」
「ぼく絵をかきたい!イクスといっしょに見たって後からおもいだせるように!」
「それはいい考えだな!完成したら部屋に飾ろう」
「ほんとに?ぼくがんばってかくね!」
セツは嬉しそうに花畑の絵を描いている。少しの時間でも記憶喪失の事を忘れて楽しんでくれればいいと見守っていた。

花畑の下絵が完成した頃には家に帰る時間になっていた。
「セツ、そろそろ帰ろうか。日が暮れると足元が見えなくて危ないし」
セツは花畑を目に焼き付けるようにじっと見つめた後に駆け寄って手を繋いだ。
「わかった。またここに来れる?」
「ああ。そう遠くもないし、いつでも来られるぞ」
「そっか、よかった!」
今日はピクニックに誘って良かった。
セツもだが、俺も無邪気なセツに随分と癒やされてしまった。
「今日はちょっと歩いたけど、足は痛くないか?」
「ほとんど座ってたから大丈夫だよ」
「痛くなったらすぐに言うんだぞ。セツくらいなら背負って帰れるからな」
「ありがとう。イクスはつかれてないの?」
「俺はこれくらいじゃ疲れないな。普段鍛えてるしな!」
片腕に力を入れて筋肉をアピールしてみるとセツは、凄い!力持ちだ!と褒めてくれた。セツは本当に可愛い。

褒められたからという訳ではないが、セツを家まで肩車して帰った。セツは少し怖いのか、頭にしがみついて聞いて来た。
「イクスはいつもこんなたかい所から見てるんだね。こわくない?」
「急にこんなに大きくなった訳じゃないからな。俺も昔はセツくらいの身長だったんだぞ」
本当はもう少し大きかったが、セツも大きくなりたいだろうと答えた。
「ほんとう?ぼくごはんたくさん食べてイクスより大きくなるね!」
「ああ。楽しみにしてる!」
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