君に捧ぐ

ゆのう

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◎セツと植物

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俺の部屋には店から持ち帰ってきた鉢植えが置かれてセツの店のような落ち着くハーブの香りがするようになった。昔からセツもほんのりとハーブの香りがしていたし、これからは俺もその香りを纏えると思うと少し嬉しくなった。
持ち帰った手帳をセツに渡してみると、興味深そうにページを捲っていった。手帳に書かれている挿し絵とハーブを見比べたり、匂いを嗅いだり手で触ったりして確かめている。セツほど上手く淹れられないが、昔セツから聞いたハーブティーの配合でお茶を出してみる事にした。
「お茶でも飲むか?淹れるのはあまり上手くはないけどな」
セツは手帳から目を上げて頷くと、ハーブを千切る俺の隣に寄って来た。大分大雑把な手順で作ってしばらく置いたお茶を飲むと、とても飲めたものではなかった。
「うわ、にっが!渋いし不味い!セツこれはやめておけ」
止めるのが1足遅かったらしく、セツも顔をしわしわにしていた。
「うっ…すごくにがい」
「ごめんな。飲む専門だったから久し振りに淹れたんだ」
水を渡してやりながら言い訳を呟いた。
「ぷはっ…だいじょうぶ。ねえ、ここにハーブティーがのってるよ。やってみてもいい?」
セツはハーブティーの美味しい淹れ方が書かれているページを開いて聞いてきた。
「ああ。火傷しないように気をつけろよ?」

セツは手帳を見ながら慎重に時間や温度を調整して、ぎこちない手つきでお茶を淹れてくれた。
「書いてあったとおりにやってみたよ」
顔を近づけて香りを嗅いでみると、さっきとは違った爽やかな香りがしている。そのまま一口飲んでみると美味しかった。
「これ美味いな。とても同じ素材から出来たとは思えない。セツさえよければまたお茶を淹れてくれないか?」
セツも一口飲んでホッと息を吐いていた。
「うん。なんかたのしかった。ほかにも色々あるからまたやってみるね」
セツは楽しそうに手帳を捲っては真剣に見ていた。
(記憶は無くなっても、やっぱりセツはセツなんだな)


そういえば明日は日曜だった。日曜日には大人も子供も教会に行く。俺はゴートと契約しているし、町の奴らに会ったら殺意が湧くから教会に行く気はない。でもセツは友達が欲しいんだろうか?本当なら行って欲しくはないが、セツからこれ以上奪いたくはないし喜ぶなら何だってしてやりたい気持ちはある。
「なあセツ、読み書きはもう出来るだろう?日曜日に教会に行かなくてもいいんじゃないか?やっぱり友達が欲しいか?」
「ぼく、しらない人はあまり好きじゃないかも」
セツは過去の嫌な思い出を忘れてはいるが根底にあるのか、それとも人付き合いに苦手意識があるのかとても嫌そうだった。
「それなら教会なんて行かなくてもいいな!」
今の所セツの事を覚えているのは俺だけだが、万が一町の奴らがセツを覚えていたりしたら厄介だ。顔を合わせないのが一番いい。それにセツの友達は俺だけで十分だ。

「じゃあ明日は森にでも行ってみるか?薬草とか生えてるぞ」
「ほんと?ぼく手帳に書いてあったやつ見てみたい!」
何度もセツに付き合って薬草の生えている場所には行った事があった。迷うような事もないし、教会に行くよりも有意義に過ごせそうだ。
「じゃあ、明日はサンドイッチでも持ってお昼は外で食べよう」
「わあ!ピクニックみたいだね。ぼく初めてだ!」
それからサンドイッチの具は何にするか、デザートのフルーツに何を持って行きたいかと楽しい事を計画していった。

翌日は晴天に恵まれて雲一つない、いい天気になった。
「セツ!見てみろピクニック日和だぞ!」
窓を全開にしてセツを呼んでみると、すぐ隣に寄ってきた。
「おはようイクス。ピクニックたのしみだね!」
「おはようセツ。ああ、きっとセツがいい子にしてたからだな」
セツを抱き上げて頭を撫でると照れたように下を向いた。
「ぼ、ぼくまだハーブにお水あげてなかった!」
セツが足をパタパタとさせたので床に降ろしてやると、すぐに水をやりに道具を取りに行った。
(セツをもっともっと甘やかして俺に心を開いてくれたらいいな)

お昼ご飯をバスケットに入れてセツと手を繋いで家を出た。
「足元が悪いから手を離さないように気を付けるんだぞ」
「わかった」
セツはぎゅっと手を握って早く行こうとそわそわしている。
「よし、じゃあ行こうか」
森に入るとセツは座り込んで花や植物をじっくりと観察して、新しく渡した手帳に書き込んでいる。まだ森に入ってすぐの位置にいるが、とても活き活きとしていて楽しそうにしている。
(こういう所もセツそのままなんだな。本物のセツだ)
俺は俺でセツを観察して密かに感動をしていると、あっという間にお昼になった。
「セツ。キリがついたらそろそろお昼にしないか?」
「うん。もうちょっとだけ待って」
少し離れた所に丁度座れそうな朽ちた倒木がある。そこで食べようと決めてセツを見守る。
丁寧に絵を描いて、そこに手触りや大きさなどの情報も書き込んでいる。このまま見守っても良かったが、セツはまだ子供で食べる事も大事だろうと再び声をかけた。
「おーい、セツー?そろそろ食べないとお腹がくっついちゃうぞ」
セツはすっかり忘れてたとばかりにハッと顔を上げて謝った。
「ごめんなさい。イクスおなかすいたよね?」
荷物ごとセツを抱き上げて頭を撫でてやった。
「ハハッ。それだけ楽しそうにしてるなら俺も嬉しい。セツがお腹が空いて倒れたら可哀想だからご飯はちゃんと食べような」
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