君に捧ぐ

ゆのう

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バッドエンド

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町の子供達との不仲は年々悪化していき、イクスが良かれと思ってやる事が全て裏目に出て、益々僕は浮いた存在になっていった。
イクスも14歳になると、町の女の子は全員初恋はイクスにすると言われる程に爽やかで優しく頼れる青年に成長していた。宿屋の仕事も本格的に教えて貰うようになっていた。
僕は相変わらず客の少ない薬屋で店番をする日々が続いている。午後からも店にいてポーションや虫除けを作る事もあるが、基本的に自由でのんびりとした生活をしていた。イクスが薬屋を訪れる時は短時間だけお茶を飲みに来たり、仮眠しに来たりとかなり忙しいようだった。

そんなある日、珍しく町の子供達が僕を誘いに薬屋に来た。
「お前って午後からは暇なんだろ?ちょっと付き合えよ」
こちらの都合はお構いなしに合意が得られるものと話は進んでいく。
「これからダンジョンに行くからちょっとポーション持って来いよ」
「え?ダンジョンなんて子供だけで行ったらダメだよ」
僕は驚いて拒否した。ダンジョンは冒険者がしっかりと装備を整えた上でパーティを組んで挑むものであって、間違っても子供だけで行っていいものではない。町の近くにダンジョンがあるので、大人達も子供には絶対にダンジョンに入ったらいけないと何度も言い聞かせている。当然だがダンジョンの中にはモンスターだっている事は子供でも知っている。
「何だよ怖いのか?そうだよな。いつもイクスの後ろにいるもんな。嫌な事は全部イクスにやってもらえるしな」
蔑んだ顔で僕を見てから、まあいいや。とポーションの確認だけをして店から連れ出された。本当にダンジョンに行くのかとオドオドしながら後を付いていくと、ダンジョンの前に見た顔の子供達がいた。
「あんたがダンジョンの中に入って、奥にある石を取ってこれたら認めてあげるわ」
この子はイクスの事が好きで、僕によく意地悪をしてくる子だ。
「そうそう。俺の兄貴がダンジョンの1層の奥に石を置いてきたから、それを取って来いよ」
この子もイクスに構ってほしくてよく勝負を仕掛けている子だ。
「1層なんてスライムしかいないらしいし、棒でも倒せるってよ」
薬屋に呼びに来た子がその辺で拾った棒を投げてきた。こんな棒でダンジョンの奥まで入るなんて無理に決まってる。でも今そんな事を言ってもきっと聞いて貰えない。1度静かに入って入り口付近でこの子達が帰るのを待った方がいいのかもしれない。
「おい。早く拾って行けよ。ダッシュすればすぐ出て来れるんじゃね?」
その場にいた子供達は笑いながら急かしてきた。足元の棒を拾い、重い足取りでダンジョンの入り口まで来ると何とも言えない生ぬるい風が中から吹いているのを感じた。思わず足を止めると、後ろから思いっきり背中を押されて1歩入ってしまった。

ダンジョンは不思議な事に外からも中からも景色は見えない。振り返ってもダンジョンの外は真っ暗になっているが、今外に出たら子供達にまた押し込まれるだろう。諦めてダンジョンを見てみると、薄暗くて天井は見えないし、どれくらい奥まであるのか見通せない。まるで別の空間に来たかのように気温まで違う気がする。近くに生物はいないようでとても静かだった。ひとまず安心して入り口の隣に座ろうとしたけれど、足元が泥濘んでいて座ったら服が汚れてしまいそうだった。どうしたものかと周りを見ていると、奥の方で何かが薄っすらと光っていた。動くのも怖いし、気にしないようにしていたけれどどうにもその光が気になって仕方がない。なるべく音を立てないように、ゆっくりと移動していくと水辺があった。
あまりに薄暗いので水が綺麗なのか汚いのか分からなかったが、絶対に入る事は無いと思った。光の正体は水辺の中心に小さな陸地があって、その陸地に光る玉のような物があった。頼りない光り方でもう消えそうな雰囲気にも感じられるが、見ているとどうしても手を伸ばしたくなる不思議な感覚があった。

水辺のギリギリまで移動してもう少しよく見えないかと近づくと、急に水の中からスライムが飛び出してきた。驚いて尻餅をつくと、スライムは僕の手の上に乗った。途端に焼けるような痛みが走って何とか剥がそうと両手でスライムに触ると、ズブズブとスライムの中に沈み込んで抜けなくなってしまった。

「うわっ!誰かっ!助けて!!」

パニックになりながらも不味いと思って体を使ってなんとかスライムを引き剥がそうとしていたら、もう一体スライムが湧いた。地面に寝そべっていた僕の顔にスライムが張り付くと息が出来なくなった。
皮膚が溶かされるような痛みと、息が出来ない苦しさの中で
こんな目に合う程の悪い事を僕はしてしまったんだろうか?
もしもっと幼い頃に町の子供達と上手く付き合えていたらこんな死に方はしなかったんだろうか?

後悔している間に意識は遠くなっていった。
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