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栗拾い
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店番をしながら店内に置いてある鉢植えからハーブを千切ってお湯を沸かすとその中に放り込んだ。沢山ある鉢植えの様子を見ながらそろそろいいかとカップにハーブティーを注いだ。爽やかな香りが立ち昇り、それだけでリラックスできていく。ハーブティーを片手にずっしりと重みのある古い手帳を開いた。そこにはご先祖様が森でスケッチしたイラストと薬草の名前や、それに似ている有害な薬草の特徴など注意点や見分けるポイント、どういう状態の物を採取したらいいのかと細かく記載されている。これは代々我が家でポーション販売をするのに重宝してきた手帳だと言う。ポーションと虫除け専門の我が家みたいな弱小店は、鮮度に拘ってなるべくいい品質の物を提供していかなければあっという間に潰れてしまう。だから僕も次代の店主として勉強の毎日だ。それでも商品は2種類しかないので内容は覚えている。
ご先祖様も暇だったのかポーションに関係ない草花の事も詳細に書かれていて、それを読むのも楽しかった。でもこんなに詳しいなら薬の種類を増やせばいいのに。と何度も思ったが、こういう図鑑を作るような作業の方が好きだったのかもしれない。
手帳を読んでいると、あっという間にお昼になったのか、入り口のドアの鈴が鳴った。
「セツ!お店終わった?」
「もうお昼になってたんだ。手帳を読んでいたから気付かなかった」
イクスはドアプレートを閉店にしてくれて店内に入ると、イクス用に置いてある椅子に座りながら聞いてきた。
「また読んでいたのか。お、ハーブティーか?」
「うん。イクスも飲む?」
すっかり冷めてしまったハーブティーを傾けながら聞いてみた。
「いや、今日は栗を拾いに森に行こう」
「もう栗が成ってるんだ。焼いて食べたら美味しいよね!」
「ああ。宿の客が森で栗が沢山落ちてたって話してるのを聞いたら無性に食べたくなったんだ」
手早く食器を片付けると、薬草を入れる籠を持って来た。
「お待たせ。栗拾いに行こうか」
栗の木がある場所に行くと、見覚えのある子供が何人かいた。
「あれ?お前達も栗拾いに来たのか?」
「イクス!俺達親に栗拾って来いって言われたんだよ」
「ハハッ!皆考える事は一緒だな」
イクスはすぐに皆の中心に入り、栗拾いの成果を見せて貰っていた。
「あんたまたイクス君といたんだ。今日も無理矢理くっついて来たの?」
この前いた女の子が小声で話しかけてきた。
僕は聞こえないふりをして地面に落ちている栗を靴で押さえて取る。取り敢えずこの作業に集中していればこの時間も過ぎるだろう。
「イクス今日は今から栗を拾った数で競争しようぜ」
「栗拾いは競ってやるもんじゃないと思うけど、負ける気はしねえな」
「よっしゃ!じゃあ今からスタートな!」
イクスはこっちを振り向いてにこりと笑った。
「セツも一緒に競争するぞ」
こうやって毎回自然と僕も仲間に入れてくれる所が彼等の気に入らない所なのだろう。イクスの興味を引く為か、わざと大きな声で見つけたと報告している。
「イクスほら見ろ!こんなにでっかい栗拾ったぞ!」
イクスが振り返った瞬間に女の子が僕をぐっと押した。バランスを崩して手を付いた所に小さな枝が掌に刺さった。
全員競争しているので、ほどよくバラけて拾っている隙に少し遠くまで行って掌を確認すると少し血が出ていた。この位の怪我は日常茶飯事だが、悪意を持ってやられるとやっぱり辛い。イクスが僕を気に掛け続ける限りこれは無くなる事はないだろう。どうしたものかと考えるけれど、イクスが僕を蔑ろにするなんて考えられないし誰にも相談できず八方塞がりだった。
(はぁ。僕は静かに過ごせればそれでいいのになぁ)
ぼんやりと考えながら栗を探していると、イクスが近づいてきた。
「どうだ?ちゃんと拾えているか?」
「イクス。うーん、あんまりかも?」
そう答えると、自分の籠に入っていた栗を全て僕の籠の中に入れてきた。驚いてイクスを見上げると、皆には内緒だぞ。と何事もない顔をして去っていった。
それからしばらく時間が経ち、そろそろ帰ろうかという頃にまた全員が集まって籠を出した。中を見てみると、僕の籠が一番多くの栗が入っているようだった。
「ハハッ!セツやったな!お前が一番だ!」
イクスは自分の事のように嬉しそうに笑って僕の頭をくしゃくしゃにした。その時、隣にいた女の子が軽蔑した顔で僕を見て言った。
「私、イクス君がセツの籠に自分の栗を全部入れるのを見たわ」
「嘘だろ?こんな事でズルしたのか?」
全員が僕を白い目で見て来たので、思わず下を向いた。
「違う。あれは俺が勝手にやっただけでセツは悪くない」
「でもそれなら、籠を出した時点で言うだろう。言わなかったセツが悪いと思う」
イクスはフォローしてくれていたけれど、皆の僕に対する印象は益々悪くなったようだった。
数年が経ち僕達もイクスの友人達も覚える事が増えていき、いつまでも遊んでばかりいる訳にもいかなくなっていた。大抵は家業を継いで親から仕事を習うけれど、三男にもなると外に出て自分で職場を探さなければいけない。稀に冒険者になるという夢を持つ者もいるけれど大抵は町の店等で仕事に就く。冒険者は体一つで出来る反面、体を壊すとどうにもならなくなる。それにお宝を発見出来る事はほとんど無いとてもリスクの高い仕事だ。
イクスの友人はそれぞれ仕事を手伝いながら、それでも週に一度は集まって近況報告や遊びに行っていると聞いていた。
ご先祖様も暇だったのかポーションに関係ない草花の事も詳細に書かれていて、それを読むのも楽しかった。でもこんなに詳しいなら薬の種類を増やせばいいのに。と何度も思ったが、こういう図鑑を作るような作業の方が好きだったのかもしれない。
手帳を読んでいると、あっという間にお昼になったのか、入り口のドアの鈴が鳴った。
「セツ!お店終わった?」
「もうお昼になってたんだ。手帳を読んでいたから気付かなかった」
イクスはドアプレートを閉店にしてくれて店内に入ると、イクス用に置いてある椅子に座りながら聞いてきた。
「また読んでいたのか。お、ハーブティーか?」
「うん。イクスも飲む?」
すっかり冷めてしまったハーブティーを傾けながら聞いてみた。
「いや、今日は栗を拾いに森に行こう」
「もう栗が成ってるんだ。焼いて食べたら美味しいよね!」
「ああ。宿の客が森で栗が沢山落ちてたって話してるのを聞いたら無性に食べたくなったんだ」
手早く食器を片付けると、薬草を入れる籠を持って来た。
「お待たせ。栗拾いに行こうか」
栗の木がある場所に行くと、見覚えのある子供が何人かいた。
「あれ?お前達も栗拾いに来たのか?」
「イクス!俺達親に栗拾って来いって言われたんだよ」
「ハハッ!皆考える事は一緒だな」
イクスはすぐに皆の中心に入り、栗拾いの成果を見せて貰っていた。
「あんたまたイクス君といたんだ。今日も無理矢理くっついて来たの?」
この前いた女の子が小声で話しかけてきた。
僕は聞こえないふりをして地面に落ちている栗を靴で押さえて取る。取り敢えずこの作業に集中していればこの時間も過ぎるだろう。
「イクス今日は今から栗を拾った数で競争しようぜ」
「栗拾いは競ってやるもんじゃないと思うけど、負ける気はしねえな」
「よっしゃ!じゃあ今からスタートな!」
イクスはこっちを振り向いてにこりと笑った。
「セツも一緒に競争するぞ」
こうやって毎回自然と僕も仲間に入れてくれる所が彼等の気に入らない所なのだろう。イクスの興味を引く為か、わざと大きな声で見つけたと報告している。
「イクスほら見ろ!こんなにでっかい栗拾ったぞ!」
イクスが振り返った瞬間に女の子が僕をぐっと押した。バランスを崩して手を付いた所に小さな枝が掌に刺さった。
全員競争しているので、ほどよくバラけて拾っている隙に少し遠くまで行って掌を確認すると少し血が出ていた。この位の怪我は日常茶飯事だが、悪意を持ってやられるとやっぱり辛い。イクスが僕を気に掛け続ける限りこれは無くなる事はないだろう。どうしたものかと考えるけれど、イクスが僕を蔑ろにするなんて考えられないし誰にも相談できず八方塞がりだった。
(はぁ。僕は静かに過ごせればそれでいいのになぁ)
ぼんやりと考えながら栗を探していると、イクスが近づいてきた。
「どうだ?ちゃんと拾えているか?」
「イクス。うーん、あんまりかも?」
そう答えると、自分の籠に入っていた栗を全て僕の籠の中に入れてきた。驚いてイクスを見上げると、皆には内緒だぞ。と何事もない顔をして去っていった。
それからしばらく時間が経ち、そろそろ帰ろうかという頃にまた全員が集まって籠を出した。中を見てみると、僕の籠が一番多くの栗が入っているようだった。
「ハハッ!セツやったな!お前が一番だ!」
イクスは自分の事のように嬉しそうに笑って僕の頭をくしゃくしゃにした。その時、隣にいた女の子が軽蔑した顔で僕を見て言った。
「私、イクス君がセツの籠に自分の栗を全部入れるのを見たわ」
「嘘だろ?こんな事でズルしたのか?」
全員が僕を白い目で見て来たので、思わず下を向いた。
「違う。あれは俺が勝手にやっただけでセツは悪くない」
「でもそれなら、籠を出した時点で言うだろう。言わなかったセツが悪いと思う」
イクスはフォローしてくれていたけれど、皆の僕に対する印象は益々悪くなったようだった。
数年が経ち僕達もイクスの友人達も覚える事が増えていき、いつまでも遊んでばかりいる訳にもいかなくなっていた。大抵は家業を継いで親から仕事を習うけれど、三男にもなると外に出て自分で職場を探さなければいけない。稀に冒険者になるという夢を持つ者もいるけれど大抵は町の店等で仕事に就く。冒険者は体一つで出来る反面、体を壊すとどうにもならなくなる。それにお宝を発見出来る事はほとんど無いとてもリスクの高い仕事だ。
イクスの友人はそれぞれ仕事を手伝いながら、それでも週に一度は集まって近況報告や遊びに行っていると聞いていた。
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