ずっとふたりで

ゆのう

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◎兄と弟

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カインと暮らすようになってから何をするのも一緒の毎日で、その度にカインの鈍臭さが目に付くようになった。初めはただ見ていたものの、少し手を貸せば未然に防げる場合も多かった。食卓でも塩を取ろうとして手を伸ばしたら、その手前のコップが目に入っておらずに倒す事が何度もあった。今ではカインが席につく前にカインの使いやすい配置に変えてから座らせている。アルバートの定位置はカインの服の端を掴んでいる為に少し後ろにいる。これはカインがいきなり走り出して面倒や怪我やを阻止する為の苦肉の策だ。これではどちらが兄なのか分からないなと常々思ってはいるが、カインは兄としての立場が気に入っているようなのでそっとしている。

カインは日々両親に今日の弟なるものを披露している。
こんな事が出来た、僕よりも沢山採れた、自慢の弟だと言っているが、普通は同じくらいの歳の子供が自分よりも優秀だと嫉妬しないのだろうか?もしもアルバートに急に弟ができて、その子供が優秀だったらきっとカインみたいには接してあげられないだろうと思った。
カインは鈍くさいが本当によく面倒を見てくれようとする。カインが興味のない釣りにも毎回付き合ってくれる優しい兄だ。
だからアルバートも仕方なく全く面白くもない遊びにも付き合っている。その日はかくれんぼがしたいと言い出したので付き合う事にした。かくれんぼはこれまで何度か遊んだが、二人でやっても全く面白くはない。一番最初に遊んだ時は、カインがアルバートを全然見つけられないので、カインが来る方向に移動したり、音を出したりして見つかるようにした。そもそもカインは鈍くさいのでアルバートが本気で隠れたら夕飯が出来る頃にもまだ見つけられないでいるだろう。それに危険な崖の方や洞窟にまで探しに行ったら大変だと思ってアルバートは毎回バレバレの場所に隠れている。
カインの独り言を聞いていると、どうやらアルバートの事を隠れるのが下手だと本気で思っているようでアドバイスをしてくれた。納得はいかないが、カインのプライドを傷付けない為に黙って聞いていた。

アルバートはカインが隠れる時には30秒では足りない事を分かっている。30秒数えて探しにいくと高確率でキョロキョロしながら隠れ場所を探しているからだ。この日も数は数えずに適当にぼーっとしていると、家の方からカインの焦った声が聞こえた後に泣き声が聞こえてきた。何が起きたのかと走って見に行くと、鶏小屋の中にいるカインの前で蛇が鶏に巻き付いていた。素早く中に入って蛇の頭を持って少し遠くに移動してから地面に踏み付けた。カインの元に走って戻ると腕から血が流れていた。咄嗟に血を吸い出して押さえた。カインは相当怖かったのか、泣きながら抱きついてきた。怖かったと震えながら訴えるのを見て思わず抱きしめて背中を撫でていた。しばらくそうしていると、カインも落ち着いたのか震えも涙も治まったようだった。カインから体を離すと、下を向いてモゴモゴと話しかけてきた。いつもはアルバートの目を見ながら話すので、とても珍しい事だった。顔を見てほしくてわざと声に出して一言「ん」と返事をするとカインはいつものように笑って話しかけてきたのでホッとした。

その日の夕飯の時にもまた今日のアルバートが始まった。
カインは蛇に襲われた時に颯爽と現れたアルバートがいかに強くて、応急処置の知識もあって優しいかを力説していた。ちなみにカインが号泣した事は一言も触れられていなかった。
その後カインの父親が蛇の見た目を聞いてきて、毒がない蛇だと判明して安心した。この出来事をきっかけにアルバートはカインの父親にもっと狩りや森の知識を教えて貰おうと決意した。きっとこのままではいつかカインは森で大怪我をしてしまう。最近はカインの両親もアルバートにカインの事を任せられると思ったのか、注意事項等はアルバートの目を見て言ってくる。それに元気よく返事をするのはカインだが。

こうして気が付いたらいつの間にかカインの事を守らなくてはと思うようになっていた。カインは手がかかる癖にアルバートの面倒を見たがる。アルバートの方が罠を仕掛けるのが上手くなってもきちんと褒めてくれるし、危険な事はまず自らやろうとする。アルバートから見ていると気が気ではないが、カインはアルバートの兄なんだから進んでやらなくてはと強く思っているらしい。なんだかんだ言って、アルバートが一切訂正しないのは、自らもカインが甘やかしてくれる弟というポジションが非常に居心地が良かったからだった。
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