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◎アルバート
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俺には両親がつけたアルバートという名前がある。
両親は行商人をしていて馬に繋いだ荷車でいつも何処かへ移動している。色々な場所に行って買い付けた商品を載せ、行く先々で販売。またその場所でいい品があれば買い付けて次の場所に行くという生活をしていた。両親が買い付けに行っている間に俺が少しの間店番をする事もあった。この生活に必要な計算や、それぞれの地域の物価や需要、商売に必要な愛想も実践しながら身につけていった。両親もこの地域は乾燥するから、南の地域に生えているネバネバする植物が売れるんだ。この地域は寒さが厳しいから高地の動物の毛で織られた服を持ってくるといい。と将来困らないように沢山の事を教えてくれていた。
その日もいつもと変わらない旅の道中だった。急に止まったと思ったら天地がひっくり返った。何事かと思って外に出ると、馬が熊に襲われていた。父は護身用の短剣を抜いて母と俺を守ろうとしていて今まさに熊と対峙をしていた。熊は2頭もいて、いつ馬に気を取られている熊が此方を襲ってくるか分からなかった。父は母に背中を見せずにゆっくりと後ろへ下がって逃げろと指示をだした。母は俺を背中に庇いながらゆっくりと少しずつ遠ざかっていった。熊が少しでも母の方へ気を取られると、父が威嚇をして熊の気を引いていた。しかし痺れを切らした熊は父に襲いかかった。勝ち目はないと察したが、父はせめて威嚇だけでもと大声で熊に短剣を突き出していた。
「ほら!こっちだ!お前達の相手は私1人で十分だ!どうしたこっちだ!」
鋭い爪と大きな牙にやられて、父の声は聞こえなくなった。すると母は背中に隠していた俺を抱き込んでしゃがみこんだ。
じっと息を殺していたが、興奮した熊は近づいて母も襲った。
あまりの恐怖にガタガタと震えて、自分ももう死ぬんだと思った時に、ヒュンッ!という音が聞こえた。その直後に熊は大声で唸った。立て続けにヒュンッ!と音が聞こえて暴れていた熊は倒れて動かなくなった。辺りを見回すと、動かない両親と馬と熊、荷車も原型を留めていなかった。試しに母を揺すってみたが反応はなく、父も生きているとは思えなかった。
その後弓矢を持った男が現れて色々と聞かれた気がしたが、もう何も考える事は出来なかった。
男に連れられるままに歩いてしばらくすると小さな家があった。家に入ると、そこには俺と同じくらいの歳の少年がいた。
この家で男と少年は暮らしているのだろうと思ったら無性に苛立った。俺は何もかにも無くしてしまったのに、この少年は全てを持っていると思ったからだろうか。
少年は俺に名前を聞いたが答えなかった。両親がつけてくれた名前を大事にしたくて他人に教えたくないと思った。ぼーっと話を聞いていると、どうやら適当な名前を付けられずに済んだようだ。俺の名前を教えるのも嫌だが、勝手に名前を付けられるのはもっと嫌だった。それからはもうどうでもいいと考える事をやめた。
それからこの家で暮らすようになると、カインはあれこれと世話をしてくれた。はじめは馴れ合う気はないと思っていたが、カインはどこに行くにも俺の手を握り連れ出した。森での知識を色々と教えてくれるが、見ているとどうにも危なっかしい。この葉っぱは触るとかぶれるから絶対に触ったら駄目だと言い、自分によく見えるようにと不用意に葉っぱを千切って手がかぶれたり、兎の罠を設置して危ないから近づいたら駄目だと言って下がった拍子に、うっかり自分で踏んだりした。カインの事を気にしないようにすればするほど何故か目が離せなくなっていった。
その日は川で釣りをしようと誘われて岩の上でじっと魚がかかるのを待っていた。しばらくすると隣から寝息が聞こえてきて、見ると岩の上で丸くなって眠っているカインがいた。目が開いている時は常に世話を焼いて、俺が反応しなくても話しかけてくるカインが静かにしていると少しだけ不安に感じた。竿の先が少し動いているのを感じてカインの腕をつついてみた。ゆっくりと綺麗な瞳が開かれて行くのを見ていたが、慌てて釣り竿の先に視線を戻した。
(べつにカインの寝起きの顔を見ていた訳じゃない)
自分に言い訳をしてカインの指示通りに、ゆっくりと釣り竿を上げていった。魚は釣れなかったが結構楽しい時間だった。カインは釣りはあまり好きではなさそうだが、俺はこういう静かに待つのも結構いい時間だと思った。
両親は行商人をしていて馬に繋いだ荷車でいつも何処かへ移動している。色々な場所に行って買い付けた商品を載せ、行く先々で販売。またその場所でいい品があれば買い付けて次の場所に行くという生活をしていた。両親が買い付けに行っている間に俺が少しの間店番をする事もあった。この生活に必要な計算や、それぞれの地域の物価や需要、商売に必要な愛想も実践しながら身につけていった。両親もこの地域は乾燥するから、南の地域に生えているネバネバする植物が売れるんだ。この地域は寒さが厳しいから高地の動物の毛で織られた服を持ってくるといい。と将来困らないように沢山の事を教えてくれていた。
その日もいつもと変わらない旅の道中だった。急に止まったと思ったら天地がひっくり返った。何事かと思って外に出ると、馬が熊に襲われていた。父は護身用の短剣を抜いて母と俺を守ろうとしていて今まさに熊と対峙をしていた。熊は2頭もいて、いつ馬に気を取られている熊が此方を襲ってくるか分からなかった。父は母に背中を見せずにゆっくりと後ろへ下がって逃げろと指示をだした。母は俺を背中に庇いながらゆっくりと少しずつ遠ざかっていった。熊が少しでも母の方へ気を取られると、父が威嚇をして熊の気を引いていた。しかし痺れを切らした熊は父に襲いかかった。勝ち目はないと察したが、父はせめて威嚇だけでもと大声で熊に短剣を突き出していた。
「ほら!こっちだ!お前達の相手は私1人で十分だ!どうしたこっちだ!」
鋭い爪と大きな牙にやられて、父の声は聞こえなくなった。すると母は背中に隠していた俺を抱き込んでしゃがみこんだ。
じっと息を殺していたが、興奮した熊は近づいて母も襲った。
あまりの恐怖にガタガタと震えて、自分ももう死ぬんだと思った時に、ヒュンッ!という音が聞こえた。その直後に熊は大声で唸った。立て続けにヒュンッ!と音が聞こえて暴れていた熊は倒れて動かなくなった。辺りを見回すと、動かない両親と馬と熊、荷車も原型を留めていなかった。試しに母を揺すってみたが反応はなく、父も生きているとは思えなかった。
その後弓矢を持った男が現れて色々と聞かれた気がしたが、もう何も考える事は出来なかった。
男に連れられるままに歩いてしばらくすると小さな家があった。家に入ると、そこには俺と同じくらいの歳の少年がいた。
この家で男と少年は暮らしているのだろうと思ったら無性に苛立った。俺は何もかにも無くしてしまったのに、この少年は全てを持っていると思ったからだろうか。
少年は俺に名前を聞いたが答えなかった。両親がつけてくれた名前を大事にしたくて他人に教えたくないと思った。ぼーっと話を聞いていると、どうやら適当な名前を付けられずに済んだようだ。俺の名前を教えるのも嫌だが、勝手に名前を付けられるのはもっと嫌だった。それからはもうどうでもいいと考える事をやめた。
それからこの家で暮らすようになると、カインはあれこれと世話をしてくれた。はじめは馴れ合う気はないと思っていたが、カインはどこに行くにも俺の手を握り連れ出した。森での知識を色々と教えてくれるが、見ているとどうにも危なっかしい。この葉っぱは触るとかぶれるから絶対に触ったら駄目だと言い、自分によく見えるようにと不用意に葉っぱを千切って手がかぶれたり、兎の罠を設置して危ないから近づいたら駄目だと言って下がった拍子に、うっかり自分で踏んだりした。カインの事を気にしないようにすればするほど何故か目が離せなくなっていった。
その日は川で釣りをしようと誘われて岩の上でじっと魚がかかるのを待っていた。しばらくすると隣から寝息が聞こえてきて、見ると岩の上で丸くなって眠っているカインがいた。目が開いている時は常に世話を焼いて、俺が反応しなくても話しかけてくるカインが静かにしていると少しだけ不安に感じた。竿の先が少し動いているのを感じてカインの腕をつついてみた。ゆっくりと綺麗な瞳が開かれて行くのを見ていたが、慌てて釣り竿の先に視線を戻した。
(べつにカインの寝起きの顔を見ていた訳じゃない)
自分に言い訳をしてカインの指示通りに、ゆっくりと釣り竿を上げていった。魚は釣れなかったが結構楽しい時間だった。カインは釣りはあまり好きではなさそうだが、俺はこういう静かに待つのも結構いい時間だと思った。
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