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【42】終わらせない
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また煩わしい声が聞こえる。耳を塞いでも目を逸らしても届いてしまう。
逃げても逃げても逃げても、どこまでも纏わり付いて追いかけてくる。
「ああ、なんて事だ。聖女の産んだ子が……『これ』か?」
「やっぱり親が無能だと子も出来損ないしか生まれないのねぇ」
「ここまで何も出来ない奴だったとは……我らの血の恥だな…」
我が子であるロビンが貶される毎日。
いや、違う。きっと『無能な聖女』が『ロビンの母親』だから悪く言われてしまうのだ。
自分のせいでロビンまで一緒に不幸になってしまう。ロビンまで一生出来損ないだと言われてしまう。
自分が母親である限り───…
リゼッタは気付けばロビンを視界に入れる事すら己の罪のように感じていた。
(あの子は私のようだった)
見ていられなかった。惨めで、可哀想で、悲しくて。
だから目の届かないところに放置した。
そうすれば自分で自分にがっかりしなくて済む。ロビンも無能な母に愛情を抱かないで済む。
「あの子から少しでも離れたいの」
(どうかこんな駄目で愚かな母の元から離れてちょうだい)
「あの子が煩わしくて仕方がないわ」
(私のことを少しの情もなく嫌っていいのよ)
「知らないところで勝手に生きててくれないかしら。私が死ぬときにあの子の顔を見たくないもの」
(僅かな憂いも残さないように、けしてあの子の目に触れないところで死にたい)
ロビンの中から母という存在を消し去って、そうして全部、終わりにしたかった。
「漸く、終わりにできるのね………」
ぐしゃり、と屋根がひしゃげたと思うと、耐えきれないとばかりに上から瓦礫が降ってくる。
轟音と共に崩れ行く教会の内部は、まるで世界がばらばらに砕けて消える瞬間のようにも思えた。
悲鳴は恐ろしいほどどこからも聞こえて来ない。
終わりとは、こういう事を言うのだろう。
ガツンッ──ゴンッ、バラバラバラ────…
遠くから、近くから、上から、横から。もはやどこから音が鳴り響いているかもわからない。
身体はいつしか地面に倒れ伏していた。
投げ出された腕や足に感覚はない。どくどくと血脈の音が耳元で聞こえる。
薄らと開いた視界は砂埃と禍々しい瘴気に覆われて、まともに何かを捉える事はできそうになかった。
ふっ、と笑みが浮かぶ。
聖女としても母親としても、無能で、無価値な人生だった。
自分ほど生きていて無意味な存在はないのだから、死んでもきっと無意味なのだろう。
(もしもあの聖職者のように、特別な存在であったなら、少しは救われたかもしれないけれど)
さようならロビン。
愛したかった、私たちの子。
そうしてリゼッタは消え行く命と共に瞼を下ろした。
「母親の勝手で、終わらせようとするんじゃないよ」
ジュッと何かが焦げるような、滲みるような音が間近で聞こえたと思うと、目の前の瓦礫らしきものが徐ろに退かされた。
隙間からきらりと光が差し込む。
「俺が救う。だから責任をもって子供と向き合え。勝手に諦めるな、勝手に死ぬな、勝手に終わるな」
声色からはとてもそう感じないが、まるで祈りのように紡がれていくそれは一体誰に対するものだ。
もう二度と開ける事はないと思っていた瞼が、まるで無理矢理目覚めさせられるかのような感覚で持ち上がっていく。
「あの子は死に際に『たすけて』って言ったんだよ。ずっとひとりで待ち続けて、ひとりで耐えて。そんな子が俺に願ったんだよ、君たちを助けてくれって。母親としてロビンを思う気持ちが欠片でも残ってるなら、俺が何を言いたいのかわかるでしょ」
───あの子はずっと、誰の助けを待っていたんだ?
辺りに眩い光が弾ける。
何が起きているのか、光の粒子があまりに眩く目を細める事しかできない。
それでも暖かく、確かに身体が軽くなる思いがした。
(………助け?)
言葉をゆっくりと理解して、リゼッタの指が小さく震える。
(嘘よ)
ひくりと、喉が痞える。
ずっとロビンを遠ざけてきた。
ずっとロビンから目を逸らしてきた。
嫌ってきた。嫌われてきた。それなのに─────
(あの子はずっと、待っていたって言うの…?)
そんな事実を簡単に理解する事などできなかった。
ただ、光の向こうで随分と懐かしい我が子が泣いている、そんな気がした。
◇◇◇
グリファートが駆けつけた時、そこは惨憺たる景色と化していた。
聖壁によって保たれていた建物はまるで芯を失ったかのように次々に崩壊を始めている。
あちこちで湧き上がる瘴気によって腐ってしまった大地に足を取られそうになりながらも、グリファートはひたすらに教会を目指した。
「…ッ、」
グリファートは教会前へとやってきて、その光景に思わず息を飲んだ。
教会が見るも無惨に崩壊している。
教会の外に逃げ出したような人影は見えない。グリファートの心臓はどくどくと嫌な音を立てていた。
(───っ、まだだ、諦めるな)
教会は崩壊しているが、まだ希望はある。息さえあれば助かる道がそこにあるのだ。
だがグリファートの身はひとつである。
全員を救助するにはここで死ぬ気で魔力を使い果たし、周辺の浄化と共に人々に治癒を施すしかない。根本的な話をするならば瘴気の大元である鉱山を何とかしないといけないが、今は時間も魔力もないのだ。ここにいる人々をどうにかして学舎付近まで避難させる事が、最も優先すべき事である。
その一時凌ぎで良い。
魔力をすべて使い切る。核が壊れても。
そうして踏み込んだ先、聞こえてきた声に気付けばグリファートは反射で声を掛けていた。
諦めたような、でもどこかホッとしたようなその声を遮る。
諦めるな、死のうとするな、終わろうとするな。
自分の手が瘴気で爛れる感覚を味わいながらも、グリファートは夢中で目の前の瓦礫を退かしていく。
『どうせ自分は用なしになるだとか、自分はどうなってもいいだとか、そんなふうに思ってるなら』
不意にレオンハルトの言葉が頭を過ぎった。
もしかしたら、自分の事を棚に上げるなと言われるかもしれない。
(……そんな投げやりな気持ちじゃないから、許してくれないかな)
これは決して村にいた頃のような諦めではない。他人事のような感覚でもない。
グリファートは、今度こそ救ってみせる、ただその一心だった。
辺りが浄化の光に包まれる。
教会にいるすべての人を救い治癒するだけの恵みを齎せるには、一体どれほどの瘴気を体内に吸い込めばいいのだろう。
考えたところで意味などない。だが、この世のありと凡ゆる痛みと苦しみとはきっとこうなのだろうな、とグリファートはまるで他人事のように思って笑った。
パキパキと身体の芯にある大事な何かがひび割れていくような感覚と、そして─────小さく砕ける音がした。
逃げても逃げても逃げても、どこまでも纏わり付いて追いかけてくる。
「ああ、なんて事だ。聖女の産んだ子が……『これ』か?」
「やっぱり親が無能だと子も出来損ないしか生まれないのねぇ」
「ここまで何も出来ない奴だったとは……我らの血の恥だな…」
我が子であるロビンが貶される毎日。
いや、違う。きっと『無能な聖女』が『ロビンの母親』だから悪く言われてしまうのだ。
自分のせいでロビンまで一緒に不幸になってしまう。ロビンまで一生出来損ないだと言われてしまう。
自分が母親である限り───…
リゼッタは気付けばロビンを視界に入れる事すら己の罪のように感じていた。
(あの子は私のようだった)
見ていられなかった。惨めで、可哀想で、悲しくて。
だから目の届かないところに放置した。
そうすれば自分で自分にがっかりしなくて済む。ロビンも無能な母に愛情を抱かないで済む。
「あの子から少しでも離れたいの」
(どうかこんな駄目で愚かな母の元から離れてちょうだい)
「あの子が煩わしくて仕方がないわ」
(私のことを少しの情もなく嫌っていいのよ)
「知らないところで勝手に生きててくれないかしら。私が死ぬときにあの子の顔を見たくないもの」
(僅かな憂いも残さないように、けしてあの子の目に触れないところで死にたい)
ロビンの中から母という存在を消し去って、そうして全部、終わりにしたかった。
「漸く、終わりにできるのね………」
ぐしゃり、と屋根がひしゃげたと思うと、耐えきれないとばかりに上から瓦礫が降ってくる。
轟音と共に崩れ行く教会の内部は、まるで世界がばらばらに砕けて消える瞬間のようにも思えた。
悲鳴は恐ろしいほどどこからも聞こえて来ない。
終わりとは、こういう事を言うのだろう。
ガツンッ──ゴンッ、バラバラバラ────…
遠くから、近くから、上から、横から。もはやどこから音が鳴り響いているかもわからない。
身体はいつしか地面に倒れ伏していた。
投げ出された腕や足に感覚はない。どくどくと血脈の音が耳元で聞こえる。
薄らと開いた視界は砂埃と禍々しい瘴気に覆われて、まともに何かを捉える事はできそうになかった。
ふっ、と笑みが浮かぶ。
聖女としても母親としても、無能で、無価値な人生だった。
自分ほど生きていて無意味な存在はないのだから、死んでもきっと無意味なのだろう。
(もしもあの聖職者のように、特別な存在であったなら、少しは救われたかもしれないけれど)
さようならロビン。
愛したかった、私たちの子。
そうしてリゼッタは消え行く命と共に瞼を下ろした。
「母親の勝手で、終わらせようとするんじゃないよ」
ジュッと何かが焦げるような、滲みるような音が間近で聞こえたと思うと、目の前の瓦礫らしきものが徐ろに退かされた。
隙間からきらりと光が差し込む。
「俺が救う。だから責任をもって子供と向き合え。勝手に諦めるな、勝手に死ぬな、勝手に終わるな」
声色からはとてもそう感じないが、まるで祈りのように紡がれていくそれは一体誰に対するものだ。
もう二度と開ける事はないと思っていた瞼が、まるで無理矢理目覚めさせられるかのような感覚で持ち上がっていく。
「あの子は死に際に『たすけて』って言ったんだよ。ずっとひとりで待ち続けて、ひとりで耐えて。そんな子が俺に願ったんだよ、君たちを助けてくれって。母親としてロビンを思う気持ちが欠片でも残ってるなら、俺が何を言いたいのかわかるでしょ」
───あの子はずっと、誰の助けを待っていたんだ?
辺りに眩い光が弾ける。
何が起きているのか、光の粒子があまりに眩く目を細める事しかできない。
それでも暖かく、確かに身体が軽くなる思いがした。
(………助け?)
言葉をゆっくりと理解して、リゼッタの指が小さく震える。
(嘘よ)
ひくりと、喉が痞える。
ずっとロビンを遠ざけてきた。
ずっとロビンから目を逸らしてきた。
嫌ってきた。嫌われてきた。それなのに─────
(あの子はずっと、待っていたって言うの…?)
そんな事実を簡単に理解する事などできなかった。
ただ、光の向こうで随分と懐かしい我が子が泣いている、そんな気がした。
◇◇◇
グリファートが駆けつけた時、そこは惨憺たる景色と化していた。
聖壁によって保たれていた建物はまるで芯を失ったかのように次々に崩壊を始めている。
あちこちで湧き上がる瘴気によって腐ってしまった大地に足を取られそうになりながらも、グリファートはひたすらに教会を目指した。
「…ッ、」
グリファートは教会前へとやってきて、その光景に思わず息を飲んだ。
教会が見るも無惨に崩壊している。
教会の外に逃げ出したような人影は見えない。グリファートの心臓はどくどくと嫌な音を立てていた。
(───っ、まだだ、諦めるな)
教会は崩壊しているが、まだ希望はある。息さえあれば助かる道がそこにあるのだ。
だがグリファートの身はひとつである。
全員を救助するにはここで死ぬ気で魔力を使い果たし、周辺の浄化と共に人々に治癒を施すしかない。根本的な話をするならば瘴気の大元である鉱山を何とかしないといけないが、今は時間も魔力もないのだ。ここにいる人々をどうにかして学舎付近まで避難させる事が、最も優先すべき事である。
その一時凌ぎで良い。
魔力をすべて使い切る。核が壊れても。
そうして踏み込んだ先、聞こえてきた声に気付けばグリファートは反射で声を掛けていた。
諦めたような、でもどこかホッとしたようなその声を遮る。
諦めるな、死のうとするな、終わろうとするな。
自分の手が瘴気で爛れる感覚を味わいながらも、グリファートは夢中で目の前の瓦礫を退かしていく。
『どうせ自分は用なしになるだとか、自分はどうなってもいいだとか、そんなふうに思ってるなら』
不意にレオンハルトの言葉が頭を過ぎった。
もしかしたら、自分の事を棚に上げるなと言われるかもしれない。
(……そんな投げやりな気持ちじゃないから、許してくれないかな)
これは決して村にいた頃のような諦めではない。他人事のような感覚でもない。
グリファートは、今度こそ救ってみせる、ただその一心だった。
辺りが浄化の光に包まれる。
教会にいるすべての人を救い治癒するだけの恵みを齎せるには、一体どれほどの瘴気を体内に吸い込めばいいのだろう。
考えたところで意味などない。だが、この世のありと凡ゆる痛みと苦しみとはきっとこうなのだろうな、とグリファートはまるで他人事のように思って笑った。
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