無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一

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【20】教会へ

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「モランたちにちょっと聞きたい事があったんだった」
「うん?」
グリファートの言葉に後ろにいたレオンハルトも気付いたようでこちらへ近付いてくる。
「どうした聖職者様」
「ほら、馬小屋の時に。帰ったら話すって言ってた話だよ」
言われてレオンハルトも思い出したのか、ああと頷いた。
「実は君らより少し歳下くらいの若い子に会ってね。身長は俺と同じくらいで、痩せ型で、こう…敬語なんだけどちょっと口が悪そうって言うか、ニヒルって言うか……そんな子に心当たりない?」
グリファートができる限りの特徴と印象を告げれば、すぐにそれらしい人物に思い当たったのかレオンハルトとモランが同時に顔を合わせる。
「もしかして、キースじゃないか?なあ、レオン」
「そうだな」
レオンハルトも同じ人物を思い描いていたらしい。モランの言葉にこくりと頷いてみせた。
「でもキースは確か教会にいた筈だけどな」
「え」
そうなの、とグリファートを驚いたが、思えば彼の物言いや態度には棘があった。馬を浄化した事でそれも和らいだが、なるほど教会側の子だったのかと思えば納得がいく。

「アンタなあ……そういう事は早く言え」

レオンハルトからじとりと視線を向けられ、グリファートは「うっ…」と言葉に詰まった。
「んで?そのキースがどうしたんだ?」
「あ、ああ。そうそう。その子、もしかしたら一緒に避難してくれるんじゃないかなと思ってね」
キースはあの時『今は』避難できないと言っていた。教会に身を置いているとなると未だグリファートに抵抗があるかもしれないが、それでも聖壁までの道のりを浄化した今ならば、馬と共に避難する事も吝かではない筈だ。
「…アンタ、まさかそのためにあんな無茶な浄化をしたのか」
「いや別に無茶のつもりは……」
「実際『あんな事』になったんだから無茶だろ」
「………」
それにはぐうの音も出ない。
押し黙るグリファートを見下ろして腕を組むレオンハルトは、表情からして相当怒っているようだ。
グリファートとしては本当に無茶をしたつもりは無いのだが、結果的に倒れ、魔力の飢えを起こし、あまつさえあんな醜態を晒してレオンハルトをも巻き込んでしまったのだから彼が怒りを露わにするのも当然ではある。
だがグリファート自身、あんな状態になるとは思ってもみなかったのだ。
昨夜の事を思い出し、また頬が熱くなりそうになるのを誤魔化してグリファートは言葉を続けた。

「俺のことは信用できなくても、馬と一緒なら来てくれるかなって思ったんだよ。そのためならちょっと魔力を消費するくらい安いかなってさ……」
「はあ……」

グリファートの言葉にレオンハルトは顔を手で覆うとぐったりと項垂れた。
その態度に自分の行動はそこまで呆れさせるものだったかとグリファートは思わずたじろぐ。聖職者としてはそれほど悪い事をしたつもりはなかったのだが。
「ちょっと……君、すぐそうやってため息吐くのはどうかと思うよ」
「あー…これはグリフの兄さんが悪いな」
「なんで!?」
グリファートが解せない思いを抱いていれば、モランは小さく「レオンも気が気じゃないなあ」と呟いて苦く笑った。



それからモランとレオンハルトと共にオルフィスの様子を見て回った。ジョフの言っていた通り、皆復興に前向きのようで互いに手を取り合いながら本来の街並みを少しずつ取り戻していっている。
まだ何もかもが快適なわけではないが、それでも澄み渡る青空の下で生きる人々の顔は活気に溢れていた。
修繕作業の続きをするらしいモランとは途中で別れ、グリファートはレオンハルトと共に学舎へと戻ってくる。今日もレオンハルトは聖壁の方へ顔を出すと言うので、グリファートも着いていく意思を見せた。
「今日、あの子に会えたらいいんだけどな」
「キースにか?」
レオンハルトの言葉に頷けば思案するような顔を向けられる。キースに会うとなれば、恐らく教会に赴く事になるだろう。
馬の様子を見に外に出ている可能性もあるが、もしもそこで会えなければ結局は教会に行かなければならない。
「まあ、いつかは教会の人たちも避難させなきゃいけないわけだしね」
「…それは、そうだな」
遅かれ早かれ教会にいる人々とは顔を合わせる事になる。石を投げられるのでは…という恐怖が払拭された訳ではないが、初めて聖壁に訪れた時を思えば気持ちは随分と楽だ。キースの棘が僅かながらでも和らいだように、『もしかしたら』という期待があるせいかもしれない。

「それに、ロビンの両親もいるんでしょ?」

これはグリファートの中でも気に掛かってはいた事だった。ロビンと両親の間には何かしらがある、それを自分の目で判断するためにも教会にいる人々とは対峙せねばならないような気がするのだ。
これがオルフィスに来たばかりの、『無能な聖職者』としてただ寄越されただけの自分であったならそんな事を考えもしなかったように思う。
どうせ相手にされない、頼りにされない、救わせても貰えない、とそんな諦めが心を支配していたからだ。
だが今は違う。
胸の内にあるものが愛着なのか、聖職者としての本能を取り戻したからなのかはわからないが、手を差し伸べたいと思っているのだ。

「…………。…わかった、ただしアンタは俺が良いって言うまで教会には入ってくるなよ」

レオンハルトの真剣な雰囲気にグリファートが目を合わせる。本当に石を投げられる、かはさておきそれだけ慎重にならざるを得ないという事か。
「俺が頼んだ事とは言え、アンタを無意味に悪意の中に晒したくはないからな」
そう告げるレオンハルトの表情は、珍しくもほんの少しの緊張を孕んでいたように思えた。
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