20 / 47
【20】教会へ
しおりを挟む
「モランたちにちょっと聞きたい事があったんだった」
「うん?」
グリファートの言葉に後ろにいたレオンハルトも気付いたようでこちらへ近付いてくる。
「どうした聖職者様」
「ほら、馬小屋の時に。帰ったら話すって言ってた話だよ」
言われてレオンハルトも思い出したのか、ああと頷いた。
「実は君らより少し歳下くらいの若い子に会ってね。身長は俺と同じくらいで、痩せ型で、こう…敬語なんだけどちょっと口が悪そうって言うか、ニヒルって言うか……そんな子に心当たりない?」
グリファートができる限りの特徴と印象を告げれば、すぐにそれらしい人物に思い当たったのかレオンハルトとモランが同時に顔を合わせる。
「もしかして、キースじゃないか?なあ、レオン」
「そうだな」
レオンハルトも同じ人物を思い描いていたらしい。モランの言葉にこくりと頷いてみせた。
「でもキースは確か教会にいた筈だけどな」
「え」
そうなの、とグリファートを驚いたが、思えば彼の物言いや態度には棘があった。馬を浄化した事でそれも和らいだが、なるほど教会側の子だったのかと思えば納得がいく。
「アンタなあ……そういう事は早く言え」
レオンハルトからじとりと視線を向けられ、グリファートは「うっ…」と言葉に詰まった。
「んで?そのキースがどうしたんだ?」
「あ、ああ。そうそう。その子、もしかしたら一緒に避難してくれるんじゃないかなと思ってね」
キースはあの時『今は』避難できないと言っていた。教会に身を置いているとなると未だグリファートに抵抗があるかもしれないが、それでも聖壁までの道のりを浄化した今ならば、馬と共に避難する事も吝かではない筈だ。
「…アンタ、まさかそのためにあんな無茶な浄化をしたのか」
「いや別に無茶のつもりは……」
「実際『あんな事』になったんだから無茶だろ」
「………」
それにはぐうの音も出ない。
押し黙るグリファートを見下ろして腕を組むレオンハルトは、表情からして相当怒っているようだ。
グリファートとしては本当に無茶をしたつもりは無いのだが、結果的に倒れ、魔力の飢えを起こし、あまつさえあんな醜態を晒してレオンハルトをも巻き込んでしまったのだから彼が怒りを露わにするのも当然ではある。
だがグリファート自身、あんな状態になるとは思ってもみなかったのだ。
昨夜の事を思い出し、また頬が熱くなりそうになるのを誤魔化してグリファートは言葉を続けた。
「俺のことは信用できなくても、馬と一緒なら来てくれるかなって思ったんだよ。そのためならちょっと魔力を消費するくらい安いかなってさ……」
「はあ……」
グリファートの言葉にレオンハルトは顔を手で覆うとぐったりと項垂れた。
その態度に自分の行動はそこまで呆れさせるものだったかとグリファートは思わずたじろぐ。聖職者としてはそれほど悪い事をしたつもりはなかったのだが。
「ちょっと……君、すぐそうやってため息吐くのはどうかと思うよ」
「あー…これはグリフの兄さんが悪いな」
「なんで!?」
グリファートが解せない思いを抱いていれば、モランは小さく「レオンも気が気じゃないなあ」と呟いて苦く笑った。
それからモランとレオンハルトと共にオルフィスの様子を見て回った。ジョフの言っていた通り、皆復興に前向きのようで互いに手を取り合いながら本来の街並みを少しずつ取り戻していっている。
まだ何もかもが快適なわけではないが、それでも澄み渡る青空の下で生きる人々の顔は活気に溢れていた。
修繕作業の続きをするらしいモランとは途中で別れ、グリファートはレオンハルトと共に学舎へと戻ってくる。今日もレオンハルトは聖壁の方へ顔を出すと言うので、グリファートも着いていく意思を見せた。
「今日、あの子に会えたらいいんだけどな」
「キースにか?」
レオンハルトの言葉に頷けば思案するような顔を向けられる。キースに会うとなれば、恐らく教会に赴く事になるだろう。
馬の様子を見に外に出ている可能性もあるが、もしもそこで会えなければ結局は教会に行かなければならない。
「まあ、いつかは教会の人たちも避難させなきゃいけないわけだしね」
「…それは、そうだな」
遅かれ早かれ教会にいる人々とは顔を合わせる事になる。石を投げられるのでは…という恐怖が払拭された訳ではないが、初めて聖壁に訪れた時を思えば気持ちは随分と楽だ。キースの棘が僅かながらでも和らいだように、『もしかしたら』という期待があるせいかもしれない。
「それに、ロビンの両親もいるんでしょ?」
これはグリファートの中でも気に掛かってはいた事だった。ロビンと両親の間には何かしらがある、それを自分の目で判断するためにも教会にいる人々とは対峙せねばならないような気がするのだ。
これがオルフィスに来たばかりの、『無能な聖職者』としてただ寄越されただけの自分であったならそんな事を考えもしなかったように思う。
どうせ相手にされない、頼りにされない、救わせても貰えない、とそんな諦めが心を支配していたからだ。
だが今は違う。
胸の内にあるものが愛着なのか、聖職者としての本能を取り戻したからなのかはわからないが、手を差し伸べたいと思っているのだ。
「…………。…わかった、ただしアンタは俺が良いって言うまで教会には入ってくるなよ」
レオンハルトの真剣な雰囲気にグリファートが目を合わせる。本当に石を投げられる、かはさておきそれだけ慎重にならざるを得ないという事か。
「俺が頼んだ事とは言え、アンタを無意味に悪意の中に晒したくはないからな」
そう告げるレオンハルトの表情は、珍しくもほんの少しの緊張を孕んでいたように思えた。
「うん?」
グリファートの言葉に後ろにいたレオンハルトも気付いたようでこちらへ近付いてくる。
「どうした聖職者様」
「ほら、馬小屋の時に。帰ったら話すって言ってた話だよ」
言われてレオンハルトも思い出したのか、ああと頷いた。
「実は君らより少し歳下くらいの若い子に会ってね。身長は俺と同じくらいで、痩せ型で、こう…敬語なんだけどちょっと口が悪そうって言うか、ニヒルって言うか……そんな子に心当たりない?」
グリファートができる限りの特徴と印象を告げれば、すぐにそれらしい人物に思い当たったのかレオンハルトとモランが同時に顔を合わせる。
「もしかして、キースじゃないか?なあ、レオン」
「そうだな」
レオンハルトも同じ人物を思い描いていたらしい。モランの言葉にこくりと頷いてみせた。
「でもキースは確か教会にいた筈だけどな」
「え」
そうなの、とグリファートを驚いたが、思えば彼の物言いや態度には棘があった。馬を浄化した事でそれも和らいだが、なるほど教会側の子だったのかと思えば納得がいく。
「アンタなあ……そういう事は早く言え」
レオンハルトからじとりと視線を向けられ、グリファートは「うっ…」と言葉に詰まった。
「んで?そのキースがどうしたんだ?」
「あ、ああ。そうそう。その子、もしかしたら一緒に避難してくれるんじゃないかなと思ってね」
キースはあの時『今は』避難できないと言っていた。教会に身を置いているとなると未だグリファートに抵抗があるかもしれないが、それでも聖壁までの道のりを浄化した今ならば、馬と共に避難する事も吝かではない筈だ。
「…アンタ、まさかそのためにあんな無茶な浄化をしたのか」
「いや別に無茶のつもりは……」
「実際『あんな事』になったんだから無茶だろ」
「………」
それにはぐうの音も出ない。
押し黙るグリファートを見下ろして腕を組むレオンハルトは、表情からして相当怒っているようだ。
グリファートとしては本当に無茶をしたつもりは無いのだが、結果的に倒れ、魔力の飢えを起こし、あまつさえあんな醜態を晒してレオンハルトをも巻き込んでしまったのだから彼が怒りを露わにするのも当然ではある。
だがグリファート自身、あんな状態になるとは思ってもみなかったのだ。
昨夜の事を思い出し、また頬が熱くなりそうになるのを誤魔化してグリファートは言葉を続けた。
「俺のことは信用できなくても、馬と一緒なら来てくれるかなって思ったんだよ。そのためならちょっと魔力を消費するくらい安いかなってさ……」
「はあ……」
グリファートの言葉にレオンハルトは顔を手で覆うとぐったりと項垂れた。
その態度に自分の行動はそこまで呆れさせるものだったかとグリファートは思わずたじろぐ。聖職者としてはそれほど悪い事をしたつもりはなかったのだが。
「ちょっと……君、すぐそうやってため息吐くのはどうかと思うよ」
「あー…これはグリフの兄さんが悪いな」
「なんで!?」
グリファートが解せない思いを抱いていれば、モランは小さく「レオンも気が気じゃないなあ」と呟いて苦く笑った。
それからモランとレオンハルトと共にオルフィスの様子を見て回った。ジョフの言っていた通り、皆復興に前向きのようで互いに手を取り合いながら本来の街並みを少しずつ取り戻していっている。
まだ何もかもが快適なわけではないが、それでも澄み渡る青空の下で生きる人々の顔は活気に溢れていた。
修繕作業の続きをするらしいモランとは途中で別れ、グリファートはレオンハルトと共に学舎へと戻ってくる。今日もレオンハルトは聖壁の方へ顔を出すと言うので、グリファートも着いていく意思を見せた。
「今日、あの子に会えたらいいんだけどな」
「キースにか?」
レオンハルトの言葉に頷けば思案するような顔を向けられる。キースに会うとなれば、恐らく教会に赴く事になるだろう。
馬の様子を見に外に出ている可能性もあるが、もしもそこで会えなければ結局は教会に行かなければならない。
「まあ、いつかは教会の人たちも避難させなきゃいけないわけだしね」
「…それは、そうだな」
遅かれ早かれ教会にいる人々とは顔を合わせる事になる。石を投げられるのでは…という恐怖が払拭された訳ではないが、初めて聖壁に訪れた時を思えば気持ちは随分と楽だ。キースの棘が僅かながらでも和らいだように、『もしかしたら』という期待があるせいかもしれない。
「それに、ロビンの両親もいるんでしょ?」
これはグリファートの中でも気に掛かってはいた事だった。ロビンと両親の間には何かしらがある、それを自分の目で判断するためにも教会にいる人々とは対峙せねばならないような気がするのだ。
これがオルフィスに来たばかりの、『無能な聖職者』としてただ寄越されただけの自分であったならそんな事を考えもしなかったように思う。
どうせ相手にされない、頼りにされない、救わせても貰えない、とそんな諦めが心を支配していたからだ。
だが今は違う。
胸の内にあるものが愛着なのか、聖職者としての本能を取り戻したからなのかはわからないが、手を差し伸べたいと思っているのだ。
「…………。…わかった、ただしアンタは俺が良いって言うまで教会には入ってくるなよ」
レオンハルトの真剣な雰囲気にグリファートが目を合わせる。本当に石を投げられる、かはさておきそれだけ慎重にならざるを得ないという事か。
「俺が頼んだ事とは言え、アンタを無意味に悪意の中に晒したくはないからな」
そう告げるレオンハルトの表情は、珍しくもほんの少しの緊張を孕んでいたように思えた。
108
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説


義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
名もなき花は愛されて
朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。
太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。
姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。
火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。
断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。
そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく……
全三話完結済+番外編
18禁シーンは予告なしで入ります。
ムーンライトノベルズでも同時投稿
1/30 番外編追加
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる