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魔法が使える世界は不安定な世界

家族

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 その夜、大漁の魚をメイドたちが、さばいているとき、メイド長のマグダラが珍しく長時間職場を離れた。もちろん、みんな、その理由を知っているので、誰も追及しない。それより、マグダラとルターが、どうなったのか知りたい。マルタが、報告に来て、マグダラがつらそうな顔をしていると言って来た。こちらでは、全く状況が読めない話にやきもきさせられることになる。そして、一夜明けた。屋敷の庭には、昨日モルツ湖で獲って来た魚の一夜干しが、見事に並んでいた。今朝は、旨そうな魚のおじやが出るに違いない。

「ふぁー、おはようマルタ。父上は?」
「ルターを連れて教練に、お出かけになりました」
「もう?それで、マグダラは」
「上の空です」
「うん?」
「あんなマグダラを見たことがありません。仕事は、慣れているから、勝手に体が動いているの。でも」
「あー、そっか、もしルターが聖騎士に戻ることになると、メイドを辞めないといけないのか。うちは、サラがいるから、仕事的には、問題ないけど。メイも、ずいぶん慣れたし」
「私もいます。でも」
「なんだよ、歯切れの悪い」
「まだ、メイド長には、いろいろ教わりたいのよ」

 マルタは、おれの話し相手と、メイドをちゃんと使い分けれなくなっている。メイド長が落ち着かないと、下も大変だね。

「ちょっとマグダラと話してこようか?」
「お願い。今は庭にいると思うの」

 この屋敷で一番おれに厳しいのがマグダラだ。礼儀作法も。でも、その分、今だったら、王宮に行っても、困ることはないだろう。
 は~、おれ、まだ朝ご飯を食べていない

 お茶が飲める小さな休憩所がある庭には、現在、干し魚で一杯だ。天日干しだけでは、長期に保存できないので、大半を燻製にする。庭師のペドロが、燻製小屋にチップを敷き終わった。そこに、ルツとアンナがせっせと魚を吊るしに行っている。ペドロも追加の紐を張っている。そんな中、マグダラが、ぼーっと、庭の百日草を見ていた。

 こりゃ、重症だな
 おれは、マグダラと並んだ。マグダラは、おれが横に並んだのに気づかない。おれは、おもむろに昨日のルターの話をした。

「昨日さ、おれ、モルツ湖の真ん中に落ちたんだよ。それをルターが助けてくれたんんだ」

 マグダラが、ビクッとした。たぶん、話の内容じゃなく、ルターの名前に反応したんだと思う。おれは、かまわず話を続けた。

「ルターが、全快していたのは、知ってたんだ。それを隠していたのもさ。それなのに、昨日、おれを助けに聖騎士の力を全開にしてくれた。でも、それでよかったと思う。ルターの話を聞いたんだろ。決めたのかい」

「わたくしは、聖騎士団の中でも、十指に入るルター様が、馬屋番になったことが、当時、信じられませんでした。旦那様は、ルターは、我が家の馬屋番になったんだから、敬語を使うなと厳しいお達し。当時は、ずいぶん戸惑いました」

「まさか、マグダラの所為だったなんて、思わなかったんでしょ」

「はーーー。その通りでございます」

「一つだけ、話させてよ。父上がルターの話をセバスとしていたのを横で聞いていただけなんだけど、長期に家を空けた時に、セバスに、何かあったらルターを頼れって言ってたんだ。セバスはその時、当たり前だと言う顔をして、心得ておりますって答えていたよ。ルターは、もう、ラルク家の家族だよ」

 マグダラは、今度は家族という言葉に反応した。
「ありがとうございます。家族を一人にさせるわけにはいきませんね」

 マグダラは、何か決めたようだった。急に元気になって、魚をガッとつかんで、燻製小屋に走って行った。そこに、アリア姉さんがやってきて、元気になったマグダラを見て目を丸くしていた。

「あらーメイド長、元気になっちゃって。タカシ、どんな魔法をメイド長に掛けたの?」
「ルターが、ラルク家の家族だって言っただけですよ」
「へぇ、さすが我が弟。それより、メイが困っているわよ。朝食まだなんでしょ」
「今行きます。腹減ったー」

 アリア姉さんも嬉しそうに魚をガッとつかんで、燻製小屋に走った。その日、屋敷の敷地内に、家人の家を建てる話が持ち上がった。どうやら、昨日のルターとの対戦。ルターがおれに勝ったら、何か褒美をやると言われていたみたいだ。つまり、父上も、ルターとマグダラを祝福することになった。アリア姉さんは、嫁ぐ前に、先輩の結婚式を見ることになった。
 実はこの時、おれとマルタは、物凄く慌てた。なぜなら、結婚式のプレゼントが、アリア姉さん、マグダラ、ルターと、当初の3倍になったからだ。1つでもちゃんと作れるかチャレンジなのに、ホーロー鍋を二つ作らないといけなくなった。最悪ルターは、この際後回しにしてでも、急いで、ホーロー鍋作りに挑戦しなくてはいけない。アリア姉さんにだけ、いい顔をすることはできない。


 おれたちは、その日の午後、クナの里にある鍛冶屋に出かけた。
 クナの里にあるサンダー将軍の邸宅と言うのは、もちろん本宅なのだが、公には別宅扱いとなっている。それと言うのも、ちょっと高台にあり、他の領主の町のように、町の中心部にある豪華な屋敷という感じではない。だからと言って、他と見劣りするような屋敷もはない。なので、広いは広いのだが屋敷の後ろは崖になってて目の前には小さな池。まるで天然の要塞といった趣なのだ。将軍は、これを気に入って住まいにするようになった。
 その屋敷の見の前に広がるクナ草原は、実は、何もないところだった。しかし、サンダー将軍がいれば、安心だと平民が住み着くようになり、村になり、今では立派な町になった。サンダー邸の池から流れる小川を大切に使い。井戸を掘り、サンダー将軍が遠征している時の防護のために、町は高い塀で囲まれている。立派な町だ。魔獣は、サンダー将軍が狩っているのでほとんど見かけないが、野生動物は、その限りではないが、いずれにしても、ここは平和な土地なのだ。

 クナの町に行くと自警団のロイが、さっと立ち上がって駆け寄ってきた。ロイたち自警団は、ルターに鍛えられていて、とても精悍だ。

「マルタ、坊ちゃん、今日は歩きなんですか?。ルター様はどうされました。今朝の教練に来ないんです」

 あちゃー、でも、そうだよね。ルターにそんな余裕無かったよ。ペドロ〈庭師〉に言っときゃよかったのに、しかたないか。
 おれとマルタは、目を合わせて、「マルタが答えてよ」、「そこはタカシ様でしょ」、と、説明するのをなすり合った。なんせ、この場合、ルターとマグダラより先に、結婚の話をしないと、いけないと勝手に思い込んでいたからだ。

「今日は、父上と聖騎士の朝練に行ったよ。体が全快したみたいなんだ」
「じゃあ、復帰なさるんで」
 ロイの不安そうな顔。そう思うよね。
「そんなことないです。屋敷の中に、ルターの家が建つことになると思うし」
 マルタのばか、それを言っちゃあ・・・
「へっ、ルター様、結婚なさるんで」
「ごめん、まだ、内緒なんだ。この話は内密にね。とにかく、たまに父上に付き合わないといけなくなったけど、自警団の教練は、今まで通りしてくれると思うから」
「そうですかー、こうしちゃいられない」
 おいロイ!おれの話しを聞け!
 ロイは、門番そっちのけで、衛視室に駆け込んだ。おれたちは呆れた顔をして、足早にホグの鍜治場に向かった。これ以上、結婚話をしたら二人に怒られる。
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