碧の幻獣使い

星村直樹

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風竜シップウ

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 城の中庭に出て、ヒロと合流した。物凄い数の妖精が集まっていた。その中には、整然と並んでいる軍隊や近衛兵。虫の背中に乗ったビースト兵がいる。女王には、近侍の者がついている。一緒に庭に出たエイブラハムには、知識人と、裏方の人達の表役が付き従った。

「よう、あんたが、ミランダか。一緒に龍王城まで行こうぜ」

 中庭の中央には、体長8メートルはある風竜が、簡単な座席を背負って待機していた。

 一目見て分かった。シップウだ。風竜最速の竜

「ダメよ、シップウ」
「ミランダ、こいつ無茶言うんだ。龍王城まで、おれたちを連れて行くと言うんだ」
「あなたでも無理です。火竜飛翔隊が、そんなこと、許すはずありません」

「任せとけって。これは、おれ単独の話だろ。龍族同士の戦争にはならない。それに、防衛線を軽く突破されたなんて、恥ずかしくて、上に報告できないさ」

「あの! 話がよく見えないんだけど」

「そら乗れ、行くぞ」
 そう言ってシップウは長い首をミランダに回した。
「首に捕まれ、背中に乗せるから。あんちゃんも乗れ。男は、エスコートしないぞ」

 シップウの尖った顔は、とてもうれしそうにしているように見える。竜の表情は、分かりにくい。


 話は、3分前にさかのぼる。
 おれとフルーレ女王は、そろそろ、ミランダも着替えて、中庭の大広場に来る頃だろうと、王家のプライベートな庭から、シップウがいる大広場に移動した。中庭では、話も弾んで、ミランダの使命の話をしながら、ここに到着した。

 ミランダの使命の話は、周りが味方だらけだから、隠す話でもなかったが、そんなに大きな声で話してはいなかったはずだ。

「ミランダの計画だと、風の国に亡命して。そこから人の足で、エリシウム山を目指す予定だったのですが、今回の支援は、破格ですね」

「ええ、それだけ危急だということです。やれることはすべてやりました」

「それでも、きわどいって、ヌエが言ってました。やっぱり、ヌエの支援は、受けられないのですか」

「彼女が、いろいろアドバイスしてくれただけでも、破格だと思うわ。私たちの星は、私たちで守るしかない。ヒロも手つだってくれるのでしょう」

「ミランダを守ります。何とか馬を調達できればいいんですか」

「あの子は、王族ですが、物怖じしません。そこは、自分で切り開くでしょう。とにかく急ぎです。シップウには、行ける所まで、行ってもらいましょう」


 この話をシップウが、ピクンとしながら聞いていた。シップウは、嬉しそうに、長い首をまわして、おれの鼻先に尖った顔を向けた。

「よう、ヒロ。急ぎなんだって」

「シップウよ」
「ヒロだ。そうなんだ。行けるところまで行ってくれ」

「エリシウム山か。龍王城は、麓にある。わかった。城まで連れて行ってやる。オッ、お嬢ちゃんも来たな。よう、あんたが、ミランダか。一緒に龍王城まで行こうぜ」

 今度は、ミランダに首を回した。ものすごく嬉しそうだ。

「ダメよ、シップウ」
「ミランダ、こいつ無茶言うんだ。エリシウム山の麓まで、おれたちを連れて行くと言うんだ」
「あなたでも無理です。火竜飛翔隊が、そんなこと、許すはずありません」

「任せとけって。これはおれ単独の話だろ。龍族同士の戦争にはならない。それに、防衛線を軽く突破されたなんて、恥ずかしくて、上に報告できないさ」

「あの! 話がよく見えないんだけど」

「そら乗れ、行くぞ」
 そう言ってシップウは長い首をミランダに回した。
「首に捕まれ、背中に乗せるから。あんちゃんも乗れ。男は、エスコートしないぞ」


「フルーレさん!」
「仕方ありません。いざというときがすぐきそうですね」
「まいったな」
「自信を持ちなさい。がんばって」

 おれは、覚悟して、空の旅に挑むことにした。

「エイブラハム。ゴーグルとマスクはどうした」

「すまん、最後に、また、ミランダと話したいから渡していない。ミランダ、我々も、シップウも風のまじないは掛けているんだ。だけど、シップウは、その上を行く。飛ばされるなよ」

 そう言って、ミランダとおれに、ゴーグルとマスクをくれた。

 民衆の中に、パグーとユウを見つけた。おれは、思いっきり手を振って、風の妖精たちと別れた。



 シップウは、風の国の中を飛翔する。でも、まじないの範囲で飛んでいるのだろう。地上を眺める余裕がある。それで、フルーレ女王とのお茶の席のことを思い返していた。ミランダは、エルフを目指したいとコンピューターに、はっきり言った。コンピューターは、碧の幻獣使いのエルフがどのようなものであるかレクチャーしているようだった。おれは、今回、龍王城でコンピューターを出し抜かなくてはいけない。そのパズルに火龍王が入っているのは間違いない。フルーレ女王は、博学だ。何かヒントをくれていると思う。

 お茶の席で、フルーレ女王陛下に、なぜ、龍族は、テリトリーを犯されるのを極端に嫌うのか聞いた。それは、4大属性の力が拮抗したまま現在を迎えているからだと言っていた。

「数百年拮抗しているだけなら、変化があるでしょうが、これが何千年と続いているのです。テリトリーが、鎖国的に強くなるのは致し方ありません。今あなたに、こんな期待をかけるのは、迷惑なことでしょうが、この鉄のような均衡を破るのは、あなたです。私などは、新たな風が吹くと期待していますのよ」

「おれですか?・・」
 せっかく、この星の知識人と対話しているのだ。もう少し柔軟な対応をして話を続けることも出来たのだろうが、「そんなの無理だ」を、露骨に表情に出してしまった。

「ごめんなさい。夫に影響されたのかしら。最近変な所で、軽口が出てしまいます。気にしないでくださいね」

 そう言われたが、気にしないわけにはいかない。コンピューターに、「龍王を相手にした場合、属性の違いによる、こちらの優位性は、何か」と聞くと、力が違い過ぎるから、そんなの関係ない。と、あっさり言われた。120レベル換算だとそうなるというが、それがどういうものか解説してもらえていないので、とても実感しにくい。確かにこいつは、答えを出すのが早い。でも、人間は、オッズの低い方にかけることもあるのだ。この辺が、会話になるには、まだまだ、時間がかかるのだろう。

 地上は、郷愁をそそるような牧歌的な風景が続く。

 4属性の魔法文化が特化して発展した世界。魔導士ヨウメイは、その、閉ざされた世界で、権力欲を膨らませてしまったんだろうな。でも、ミランダは、水の魔法でとどめを刺されている。もっと複雑なことがあるのかもしれない。

 確か闇魔法は、火の魔法に対抗できるんじゃなかったか
― フリーズだろ。水魔法と一緒じゃないとどうかな。どうせヒロは、水魔法を使えないだろ
 水じゃなくていいだろ、反物質の方が効果的だ。闇魔法だけで爆発的な攻撃ができる
― 反物質が出せないだろ。レベル10無いんだぞ。それより、なにか触媒は、いるだろうが。電場を逆回転させる光の魔法と合わせてインスタントな盾を作った方がいい。一瞬で凍るから実用的だ

 おっ、話し方を変えたら、いいこと言うじゃないか。じゃあ、着ている服を盾に出来るんだな。憶えておくよ

― 龍王の火圧で、吹っ飛ばされて、火力ですぐ焼かれると思うぞ。まあ、火龍王は120レベル換算だけどな

 一回耐えてるじゃないか、それだと、逃走できるんじゃないか

― 本当だ、1秒延命している

 1秒かい

― ヌエが言っていた私を出し抜くとは、火龍王の事じゃないだろ。あまりにも現実離れしている

 そうだが、魔導士ヨウメイも火属性だろ。どうしても、対策を立てたくなるさ。ささいなことでも、なんでもいい。なんかあったら知らせてくれ

― ミランダは、エルフのことを聞きたがっているが、そうだな。ちょっと話してみる


 シップウは、ずっと、風の国のローカル観光をしてくれている。あそこの家の女の子が、自分になついているだとか。あの、大きな木には、シュドという、大型の鳥がいて、最近卵を産んだとか、そんな、たわいもない話ばかりだ。でも、そんな話が、永遠に続くので、シップウの行動範囲の広さに驚いた。
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