碧の幻獣使い

星村直樹

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常春の城

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 薬草の関係で、今朝もボイル家で、朝食を頂けることになった。スーザンの飯は、泣けるほど旨い。ついでに、パグーとユウも、ご相伴にあずかっていた。チーズは、お餅じゃないかって言うぐらい、餅っち餅ちしていたし、ベーコンは、厚切りでボリューム満点。目玉焼きにしても、パンにしても、愛情が、たっぷり入っていると感じた。

 昨夜、ミランダから聞いた話によると。サラマンダー家の後継者には、竜の力を宿して生まれてくるそうだ。しかし、ミランダにその能力はない。コンピューターが、ミランダの尻をたたいて、その能力を開花させると豪語していた。「だったらいいな」と、ミランダの目は、とても遠かった。ミランダが、自分のリアリティを獲得するには、相当時間が掛かりそうだ。

 朝食が終わって薬草作りになった。

「じゃあ、いいっすか。ボイルさんも聞いててくださいね」

 ご夫婦とも真剣に頷いた。

「昨晩、麒麟の森で摘んできた薬草です。これで、薬湯と薬丸を作ります。自分たちも、持っていたいので、ここに有る材料は、全部使いたいと思います」
 そう言って、昨日摘んだ薬草を並べて見せた。ボイル家に、すり鉢があったのは幸いだ。スーザンは、これを全部メモした。そして、ボイルが、自分で作ってみた。

 そうして、分からないように、スーザンの薬湯に自分の血を一滴落とした。スーザンの薬湯に、ナノマシンが入ったわけだ。このナノマシンは、スーザンだけに機能するようプログラムされている。やっていることは、ちょっと呪術っぽいと思ったが仕方ない。

 薬丸は、7個作れた。今回、火龍王の所では、とても厳しい局面が待っていると、麒麟のヌエに言われている。スーザン達には悪いけど、見本を1つだけ残して、6つ、こちらが貰った。

「そうだ、剣を抜いてみなさい」

 自分の場合は、剣を抜いたら中段に構える。

「だめだ。剣を抜いたらこうだ」

 ボイルは、剣を抜いて、片手で、いきなり上段にかかげた。

「実戦で中段は、受けの構えだ。それに、風の国で『剣を抜いてみろ』と、言われたら、こうしなさい。喜ばれるから」

 言われるままにそうしたら、ボイルがとても嬉しそうな顔をして喜んでいる。おれって、碧の幻獣使いだと、剣は、とても弱い設定だ。リアルで強くなるしかない。剣の振り方も教えてもらって、女たちをあきれさせた。

「どうだヒロ。もう、ひと晩泊って行くか?」
「すいません、さすがに、ミランダに怒られそうです。また来てもいいですか」
「そうしなさい」
 ボイルは、とても残念そうな顔をした。

「男同士の話は、終わった? 山に行くのは急ぎだと言ったでしょ」
 ミランダが、腰に手を当てて憤慨していた。これから、風の妖精王に会いに行く。

 でもなー、そこで何があるかわからないんだから、付け焼刃でも、何か習得したいよ と、心で思ったが、本当に付け焼刃すぎるので言えなかった。

 剣のことで、後ろ髪をひかれながら、見送りをしてくれているボイル夫妻に手を振ってお別れした。

 パグーとユウにナビしてもらいながら、風の妖精王がいる居城を目指す。麒麟の森の中に有るその居城は、周りを別次元の壁に覆われていて、普通、人は、辿りつくことができない。二人は、風の妖精王に謁見できるのだ。これは、破格の扱いである。
 そのうえ、女王は、風竜にお願いして、ミランダを火龍王の住まう龍王城の、できるだけ近くまで送ってもらおうと言っている。
 これは、ミランダにとって、奇跡のショートカットになる。本当は、風の国に亡命して、風の国の中を人の足で進む計画だった。

 逆に言うと、火龍王のタマゴの件は、とても危急なことなのだろうと推察できる。今回、これだけのことをしてもらっても、タマゴが盗まれるであろうと麒麟のヌエに言われた。しかし、絶対ではないとも言っていた。だから、ミランダに、ヌエの話は、しなかった。

「なんか、いつもの池の方に向かってないか」

「そうだよ。きれいな池がある所に、お城があるに決まっているじゃない」

「えー、そんなの見なかったぞ」
「私も」

「普通は、見えるわけないわよ。でも、ミランダは特別よ」
「ついでに、ヒロもね」

「おれは、ついでか」


「はい、ここ。水の上を歩いてね」

 きたー、パーソナルリアリティの獲得

「あれっ? 沈むぞ」

「もう、今回は、特別よ」

 ユウがミランダに。パグーがおれについてくれた。

「見えない橋を渡るんだ」

・・・・・・、驚いた。池の上を歩いている。

 人のふり見てなんとやら。おっかなびっくりのおれと違って、後ろから来ているミランダの足取りは、しっかりしていた。

「さすが、ミランダは、優秀ね」

「おれのことは、開拓者と呼んでもらいたいね。初めて何かをやり遂げる奴は、いつも孤独さ」

「はい、はい。ミランダは、お姫様なのよ。ヒロは、ちゃんとミランダのナイトをやるのよ」

 ユウにそう言われたが、ここは異世界だ。なんとなく、「中世、姫様、城か」と、ぼんやり思うしかなかった。

 池の上を歩いていると、もやがかかってきて、周りが見えなくなった。その靄が晴れると、目の前に立派な城が現れた。風の妖精たちが飛び交う水上の城だ。
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