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プロローグ

プロローグ はじまり

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もう春だというのに、風が冷たい午前10時の薄暗い店舗の中で忙しなく働いている一人の女性がいる。彼女の名前は、日比野しおり。容姿は、すらりとした体型で頭の上の方で結んだ一本の長い髪が肩甲骨あたりまで垂れ下がっている。そんな彼女をいち早く見つけド派手に店内にやってきた男がいた。

「やぁやぁやぁ!君が新しく来てくれた店員かぁ!僕はこの骨董店の主、篠原琢二というものさ!」
「はぁ。ではオーナー、一つ聞きたいんですが、隣は何なんですか?」
「え?あぁ、隣?この骨董店に併設されてる喫茶店だよ。このご時世骨董店だけやってても儲からないしさぁ、管理はここのビルオーナーがしてるけど仲良くね。」
「そうですか。じゃぁ何故隣の客が勝手にここの骨董品を無断で持ち帰ったり、支払い頂いた現金を持っていったりするんですかね?」

二人の間に、一瞬時が止まったような間が空いた。

「え?え!?えええええ!?何でそんなことなっての!?それ、窃盗じゃん!?にーしーむーらーくーん!?一体これはどういうことなのかなー!?」

赤茶色に染めた髪を揺らし、慌てて隣に駆け込んでいく骨董店の主にため息をつきながら、骨董店の扉に「所用で隣にいます、御用の方は隣の喫茶~HOUSE~まで」と書かれた札をかけて、あとを追った。

「あ、篠原さん帰ってこられたんですねー。どうしましたー?」
「どうしたもこうしたも、この喫茶店の客が勝手にうちの店の品物持っていこうとするらしいじゃないか、一体どうしたらそ・・んな・・・ことに・・・・・。ねぇ、にしむらくん。これは何かな?」

琢二は、喫茶店のレジカウンターに置かれた小さな黒板を持って、若干の怒気を含ませた声で、喫茶店副店長の西村一弥に詰め寄った。
店内は、何だ何だとざわめきだったが、次の琢二の言葉で背筋が凍る思いをしたものが中にはいた。

「ねぇ、ここに『隣の骨董店にあるケースの中身は無償となっております。お好きにお持ち帰りください』って書いてあるんだけど、ねぇ、これ、何かな?何勝手に無償とか書いてくれてるの?うちはね、他の骨董店とかリサイクルショップから譲り受けたり、お客様から曰く付きで持ってられないからどうにかしてくれって言われたものを買い取って、行くべき人のところに行く時まで保管したりしているものが大半だし、何より全部値札無くても値段ついてるからね!?」

「大半というか全部曰く付きですよね。オーナー。あと、誰が動かしたかわからないんですけど、店奥にあったはずのどでかいヴィーナス像が無くなってるんですけど、オーナー売りました?」

ゆっくりと首を向けつつ青い顔をした琢二は、しおりに確かにこう言った。
「しおちゃん?今何て?ヴィーナス像無いって言った?うちの店で一番っていうか最たる曰く付きの物品だよ!?僕が売るわけないじゃん!?何の為に店おくに置いてあると思ってんの!?ていうかあれ無いの!?」

「どんな呪いか知らないっすけど、派手めの女子大生っぽいのが、あ、でも最近来てないな。彼氏にプレゼントする!って言って男連れて持って帰っちゃいましたよー?」

「持って帰っちゃいました。じゃなくて、貴方、窃盗教唆っとして警察に突き出されるか、今すぐその黒板を外すかしなさい?まぁどちらにせよ既に無くなっているものに関しては、盗難届出してますし、反省して戻してくれるかどうかですよね」

しおりは、さっきまでガヤガヤとしていた今はシーンとなっている店内を見回してそう言った。この店内の中に見知った顔を見つけて言い出してくれるだとろうということを見越して。

「あ、それからにしむらくん。うちの店の売上金。君のとこのお客さんが盗んでったらしいから、責任とって君が代わりに支払ってね。このことは三島さんにも話しておくから、多分半年はただ働きになるんじゃない?」
「え!?」
「何驚いているんです?まさか無償って自分で書いたからって大した金額じゃ無いとか思ってたんですか?軽く数百万盗られているようなのでそのつもりで。」

くるりと踵を返して、優雅に立ち去ろうとしたしおりだったが、数歩歩いて立ち止まると、琢二にいい笑顔でこう言った。

「オーナー。ここの隣接しているこのスペースに扉をつけましょう。人が昼寝をしている間に勝手に入ってきて、家探しを始められると困るので。」
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