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ある英雄の叙事詩~千の名前を持つもの~
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コナモン歴24XX年、世界は破滅の危機に陥った。
アレな世界ゆえに天災や人災は幾度も起きていたが、その度まともな人々が必死に災禍に立ち向かい解決して来ていたが今回の厄災は桁違いのものであった。
色々な名で呼ばれていたが、その無慈悲さと力の強大さから彼の者はおもに《死神》と呼ばれていた。
死神は多種多様な魔術を行使したが、特に恐れられた力は昔一世を風靡した某少年漫画の如く、対象の名を本名から綽名まで全て唱えると即座に相手を死に至らしめるという物であった。
おまけにやはり某漫画よろしくそいつは肉眼で捉えた物の綽名から真名に至るまですぐに解析し把握してしまうという凶悪な力も持ち合わせており、故に死神を討とうと対峙した者達は皆すぐに名を唱えられ絶命させられてしまった。
数百数千人でまとめてかかっても、死神は強固な結界術や相手を硬直させたり動きを著しく鈍らせる術も心得ていたため、結局時間をかけて屍の山を築かれるだけであった。
RPGのボスとして出て来たら間違いなくバランス崩壊もののクソ敵認定されていただろうが、現実はバランス調整やアプデ対応など無く非情であった。
世界の大半は瞬く間に死神の手に落ち、人々は絶望しあんな奴に殺されるならいっそと自ら命を絶つ者も出始めた。
そんな時、英雄は現れた。
その若者のようにも年配者のようにも見える不思議な親しみやすさを持った男は、私は遠き東の地より死神を討つ為にやって来た、永き時を生きる内に私は非常に多くの名で呼ばれるようになったため、然しもの死神も自分の名は唱えきれないだろう。
彼奴が私の名を全て唱えきる前に、奴を討ち果たしてみせようと生き残った人々の前で高らかに宣言した。
見た事の無い男の宣言に人々は半信半疑だったが、当時の英雄達もほとんど死に絶えたため藁にも縋る思いで彼に一縷の望みを託した。
そうして、男は鎧と弓矢、剣を持ち死神へと立ち向かった。
―まだ私に歯向かう愚か者がいたか、すぐにお前の名など全て調べて唱えてみせようと死神はほくそ笑んだ。
だがその直後、名を調べる魔眼を行使した死神の顔色が変わった。
―貴様、いったいどれ程の名を持っているのだ。貴様は一体何者だと死神は慌てふためいた。
お前のような厄災に名乗る名など無いと一蹴し、男はそれきり死神の詠唱も無視し剣で斬りかかり、幾度も矢を射かけた。
一発一発は蟻が一噛みしたような微々たる傷だったが、幾度も蓄積するうちさしもの死神も消耗して来た。
死神は初めての感情、困惑と恐怖を覚えながら男の名を必死に唱え続けたが、それでも男の名は尽きる事が無かった。
そうしてとうとう、矢が無数に刺さりサボテンのようになった死神の脳天に男は深々と剣を突き刺し、止めに天変地異を起こす呪文を唱えた。
天地を裂くような大きな稲妻が死神に刺さった剣目掛け落ち、黒焦げになった死神はとうとう息絶えた。
死神はちょうど男の名を九百九十九唱えたところであった。
遠巻きに死闘を見守っていた人々は歓声を上げ男の勝利を歓び、すぐに男は世界を救った英雄として祭り上げられた。
生き残った某国の賢王や学者などが一体あなたは何者なのですかと問うと、男は自分は遥か昔に東の国で生まれたとある食物の化身だと語った。
自分はその生まれた国の様々な地域で親しまれていたが、地域によりその名は全く違っており、その名の違いにより諍いや小競り合いが起きる事も多々あったという。
数十年、早ければ数年に一度の頻度でその名はどんどんと増えてゆき、次第に永き時を経てその概念は肉体を得るに至ったそうだ。
今もその名は増え続け、ついに千になったという。
それゆえ死神の能力にも数の暴力で打ち勝つことが出来たのだと語った。
それから男はまた、何処へと共なく去って行った。
そうして世界に再び平穏が訪れた。
生き残った人々は感謝を込めて世界各地に男の像を造り、傍らに男の名を全て書き記した巨大な石碑を建てた。
その石碑に書かれた男の名は、オーバン・イマガワ・カイテン・ゴザソウロウ・ベイクドモチョチョ・パンセポンセ・(中略)・スッペンビロレンチョ・ハツコイノアジ・ナンカアマイヤツ・レイノアレ・センノナヲモツモノときっちり一千通り記されている。
だが、その男の名は今もきっと増え続けているのだろう。
《参考文献》
コナモン記第三節・死神降誕と討伐まで
千の名を持つ英雄譚~吟遊詩人泣かせ~
歴史を紐解く・彼の者は実在したのか
世界の美味しいお菓子~餡子派とクリーム派の仁義なき戦い~
※世界史ではその名前の多さから受験生にめちゃめちゃ恨まれている。
アレな世界ゆえに天災や人災は幾度も起きていたが、その度まともな人々が必死に災禍に立ち向かい解決して来ていたが今回の厄災は桁違いのものであった。
色々な名で呼ばれていたが、その無慈悲さと力の強大さから彼の者はおもに《死神》と呼ばれていた。
死神は多種多様な魔術を行使したが、特に恐れられた力は昔一世を風靡した某少年漫画の如く、対象の名を本名から綽名まで全て唱えると即座に相手を死に至らしめるという物であった。
おまけにやはり某漫画よろしくそいつは肉眼で捉えた物の綽名から真名に至るまですぐに解析し把握してしまうという凶悪な力も持ち合わせており、故に死神を討とうと対峙した者達は皆すぐに名を唱えられ絶命させられてしまった。
数百数千人でまとめてかかっても、死神は強固な結界術や相手を硬直させたり動きを著しく鈍らせる術も心得ていたため、結局時間をかけて屍の山を築かれるだけであった。
RPGのボスとして出て来たら間違いなくバランス崩壊もののクソ敵認定されていただろうが、現実はバランス調整やアプデ対応など無く非情であった。
世界の大半は瞬く間に死神の手に落ち、人々は絶望しあんな奴に殺されるならいっそと自ら命を絶つ者も出始めた。
そんな時、英雄は現れた。
その若者のようにも年配者のようにも見える不思議な親しみやすさを持った男は、私は遠き東の地より死神を討つ為にやって来た、永き時を生きる内に私は非常に多くの名で呼ばれるようになったため、然しもの死神も自分の名は唱えきれないだろう。
彼奴が私の名を全て唱えきる前に、奴を討ち果たしてみせようと生き残った人々の前で高らかに宣言した。
見た事の無い男の宣言に人々は半信半疑だったが、当時の英雄達もほとんど死に絶えたため藁にも縋る思いで彼に一縷の望みを託した。
そうして、男は鎧と弓矢、剣を持ち死神へと立ち向かった。
―まだ私に歯向かう愚か者がいたか、すぐにお前の名など全て調べて唱えてみせようと死神はほくそ笑んだ。
だがその直後、名を調べる魔眼を行使した死神の顔色が変わった。
―貴様、いったいどれ程の名を持っているのだ。貴様は一体何者だと死神は慌てふためいた。
お前のような厄災に名乗る名など無いと一蹴し、男はそれきり死神の詠唱も無視し剣で斬りかかり、幾度も矢を射かけた。
一発一発は蟻が一噛みしたような微々たる傷だったが、幾度も蓄積するうちさしもの死神も消耗して来た。
死神は初めての感情、困惑と恐怖を覚えながら男の名を必死に唱え続けたが、それでも男の名は尽きる事が無かった。
そうしてとうとう、矢が無数に刺さりサボテンのようになった死神の脳天に男は深々と剣を突き刺し、止めに天変地異を起こす呪文を唱えた。
天地を裂くような大きな稲妻が死神に刺さった剣目掛け落ち、黒焦げになった死神はとうとう息絶えた。
死神はちょうど男の名を九百九十九唱えたところであった。
遠巻きに死闘を見守っていた人々は歓声を上げ男の勝利を歓び、すぐに男は世界を救った英雄として祭り上げられた。
生き残った某国の賢王や学者などが一体あなたは何者なのですかと問うと、男は自分は遥か昔に東の国で生まれたとある食物の化身だと語った。
自分はその生まれた国の様々な地域で親しまれていたが、地域によりその名は全く違っており、その名の違いにより諍いや小競り合いが起きる事も多々あったという。
数十年、早ければ数年に一度の頻度でその名はどんどんと増えてゆき、次第に永き時を経てその概念は肉体を得るに至ったそうだ。
今もその名は増え続け、ついに千になったという。
それゆえ死神の能力にも数の暴力で打ち勝つことが出来たのだと語った。
それから男はまた、何処へと共なく去って行った。
そうして世界に再び平穏が訪れた。
生き残った人々は感謝を込めて世界各地に男の像を造り、傍らに男の名を全て書き記した巨大な石碑を建てた。
その石碑に書かれた男の名は、オーバン・イマガワ・カイテン・ゴザソウロウ・ベイクドモチョチョ・パンセポンセ・(中略)・スッペンビロレンチョ・ハツコイノアジ・ナンカアマイヤツ・レイノアレ・センノナヲモツモノときっちり一千通り記されている。
だが、その男の名は今もきっと増え続けているのだろう。
《参考文献》
コナモン記第三節・死神降誕と討伐まで
千の名を持つ英雄譚~吟遊詩人泣かせ~
歴史を紐解く・彼の者は実在したのか
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※世界史ではその名前の多さから受験生にめちゃめちゃ恨まれている。
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