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人外魔境でお世話になってる先生が漫画描いてみる事になっただるまっ子
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僕がアレ気味だけど基本は善良な先生に引き取られ、人外魔境の暮らしにもすっかり慣れたある日の事。
「あ、先生お帰りなさい。…あら、そんなに困った顔してどうしたの?」
「え、馴染みの編集さんと打ち合わせされて来たんですよね。本当に先生がそんなに困ってるの珍しいですね」
「…ううむ、ちょっと無理難題を押し付けられてだね。どうした物かと思ってね」
「えー、先生大概の事は出来る完璧超人だし、基本猟奇的でアレ気味だけど割と作風も幅広いのに。どんな無理難題を課せられたんですか」
「…いや、それがだね。小説じゃなくて、特別企画で読み切り漫画を描いてみないかといきなり言われてね」
「ま、漫画ですか」
「あらあら、それはまた急な企画ね」
「うん、確かに私漫画も大好きだし、小学生の頃の夢は漫画家でそれなりに描いたりはしていたが。正直画伯とはいかないまでも私絵はさほど上手く無いし、趣味ならともかくとてもプロとして商業雑誌に載せられるようなレベルの代物は作れないからすぐに断ろうと思ったのだがね。…この前原稿落としかけて編集長に土下座して締め切り1週間延ばしてもらったの忘れたんですか、と目が笑ってない笑顔で言われたら断り切れなくてねえ」
「う、うわあ。確かにそれは断り辛いですね」
「ああ、あの編集さん普段温厚だけど怒らせると相当怖いものね。昔アレな人数名鋼線で絞め殺してるらしいし」
「こ、怖い」
「まあそういう訳で大事な取引相手だし断る訳にも行かなくてね。全くどうしようかねえ」
「大変ですねー。でも先生小説家なのになんでいきなり漫画の企画なんですかね?」
「うん、何でもその編集さんの出版社で出してる漫画雑誌で連載中の作家さんが突然殺されちゃったらしくてね。幸い原作担当者はあてがあって、作画もアシスタントの人達が引き継いで連載継続する事になったんだがやっぱり準備に少しかかるし、その間代原で数週埋めないといけなくなったんだが、そういう訳で私が描いてみないかと言われてね」
「ああ、そういえば数日前ニュースになってたわね。この近所に住んでた漫画家さんで、アレ過ぎる熱狂的ファンが押しかけてアニオリ展開が酷すぎるってブチ切れて惨殺されちゃったんですってね」
「う、うっわー。アレ過ぎるとはいえファンなら作者さん殺っちゃだめでしょ。アニオリが酷いなら原作者さんに罪は無いし」
「まあ確かにそうだよね。だが私もニュースで気になって、どれだけアニオリが酷いか原作と見比べてみたんだが。…申し訳無いが私としては、原作よりアニメの方が遥かにクオリティ高いように思えたんだよね」
「ええ、私も新作アニメは割とチェックする方だからその作品見てたわ。それでアニメは普通に面白かったけど、こういうこと言っちゃ悪いけど原作漫画は相当にアレだったわね。正直良くアニメ化まで行けたなーと思うくらいに」
「…そ、そうなんですか。奥さんがそこまで言うって事は相当にアレなんでしょうね」
「ええ。漫画アプリで無料配信分だけ読んだから実質ノーダメだったけど、もしお金出して単行本買ってたら燃やしたくなるレベルでアレだったわね」
「お、奥さんがそれ程に言うレベルのアレさって逆にちょっと気になって来ました」
「いやあ、確実に時間を無駄にしたと後悔するし最悪頭痛くなるから止めた方が良いと思うよ」
「…せ、先生もかなり言いますね。ってか人外魔境に慣れたとはいえ、近所にそんなアレな奴いるの怖いなあ」
「ああ、その先生を機関銃でハチの巣にした後チェーンソーでバラバラにしてとどめに硫酸ぶっかけてオーバーキルした厄介ファンは即捕まって、過去に相当やらかしてるしもう間もなく処刑されるそうだよ。ほら少し前の人魚事件で聞き込みをした、仮釈放中の危ない男がやっぱりやらかしたそうだ」
「ひ、ひええ。例の明らかにヤバいピエロ風メイクのあいつですか。でもこの町銃火器ショップとか普通にあるとはいえ厳重な監視が付いてたのに、よくそんな凶器入手して乗り込めましたね」
「うーむ、私もそれは少し不審に思うんだがね。アレな町とはいえ流石にそれ程危ない奴にはそうそう危険物は渡らないようになっているはずだが。まあ倫理観のアレ気味なマッドサイエンティストとかいるし、人間にさほど詳しくないが強力な武器を作れる妖怪とかもいるしね。工夫すればどうとでも調達できるだろう」
「…な、なるほど。慣れたとはいえやっぱこの町怖い」
「まあ当然処刑されたくないからだろうが、その男自分はやっていないと言い張っているらしいがね。初めから頭がおかしい奴だし信憑性は無いだろうね。…で、何となく推理作家としてのカンなんだが。この事件の真相は明らかにしない方が良いと思うんだよね」
「そ、そうなんですか」
「うん、まあ警察に協力してる身としてそういう事言うのも良くないと思うけど。時には知らない方が皆幸せになるという事もあるしね」
「う、うーん確かに。イヤミスとかもそういう結末のあったりしますもんね」
「ええ、時にはそういう事もあるわよね。倫理的にはアレだけど」
「で、企画の話に戻るんだけど。当然プロじゃないから若干アレなクオリティでも大丈夫ですよとは言われたが、それにしてもあまりに残念な物を載せる訳にもいかないし困ってね」
「うーん、ですよね。でもいきなりアシスタントさんとか募集して来てくれますかねえ」
「まあ、どうしても困ったらその編集さんが紹介してくれるとは言ったが。あんまり残念な原稿を他人に見られるのもどうにも気恥ずかしくてね。仕事柄基本共同作業とかしないから勝手が良く分からないしね」
「あー、確かにそうですよね」
「ああ、じゃあメイン作画は私が担当するわ。私もプロじゃないし相当ブランクあるけど」
「え、奥さん漫画描けるんですか?」
「ええ、ちょっと恥ずかしいけど中学の頃から大学時代まで同人誌描いてて。オリジナルもあるけど大半は二次の要するに男の子がアレな感じのやつを。まあ当然18歳以下の時はアレ過ぎる物は控えてたけどね」
「…な、なるほどそう言う系の女子でしたか。だから僕のお世話それ程抵抗なかったんですね」
「うん、そういう事。そんな訳で似たような趣向や性癖の先生とも速攻で意気投合してね。自分で言うのもアレだけど全盛期はそれなりの大手サークルだったわ。80年代からサザエさん時空な訳でその更に前だからSNSとかデータ販売とか一切無い紙の本のみの時代だったけど」
「…そ、その頃からサザエさん時空って事はそうなりますよね」
「ああ、彼女の作品はなかなかの物だよ。流石にだるま君みたいなキャラは滅多にいないものの性癖と作風なかなかに尖ってたし」
「…め、滅多にって事はたまにはいたんですか。本当お似合いのご夫婦ですね」
「ええ、出会った時にこれは運命だと感じたわ」
「ああ、まさにディスティニーだと私も思うね」
「そ、それは良かったです。うーん、僕も何かお手伝いしたい所ですが手足がこれなんで何も出来ずすみません」
「ああ、好きで手足アレになった訳じゃ無いしそれは気にしないで良いよ。ただ作業中はしばらくお散歩等は行けなくなるかもしれないが済まないね。締め切り1か月半後だからあまり余裕が無いし」
「ええ、それは仕方ないと思ってますし、家にいるだけでも十分楽しいんで大丈夫ですよ。お気遣いなく」
「それで先生、ストーリーはどうするの?やっぱり編集さん的にはいつもみたいなアレ気味な作風を期待しているのかしら」
「ああ、青年誌とはいえあまりにアレすぎる描写は控えて欲しいとの事だったが、やはりいつものような感じでお願いしたいと言われたね。だから人気のあるシリーズの中の、比較的アレな描写の少ない1篇を漫画化しようと思ってね」
「ええ、良いと思いますよ」
「じゃあ原作は大丈夫として、とりあえずラフで良いからネームを描いてくれるかしら。そうしたら私が清書するから」
「ああ、分かったよ。なるべく急いで描くからまってておくれ」
「先生、頑張って下さいねー」
そんな訳で5日くらい後。
「…ふう、ネームとはいえ案外難しい物だねえ。待たせてごめんね、どうにか完成したよ」
「先生、お疲れ様。じゃあ読ませてもらうわね」
「ええ、僕も昔落書きみたいな物だけど描いた事ありますが数ページでも結構大変ですものね。お疲れ様でした」
そして少し後。
「うん、内容は良いと思うわ。もう少しコマ割りやカットをこうした方が良いかしらみたいなところは、後で伝えるわね」
「ああ、君の方が漫画については玄人だから頼むよ」
「じゃあ早速私も描き始めるわね。文房具屋さんで画材や原稿用紙も買って来たから」
「おー、さすが手際が良いですね」
「スクリーントーンとかは内容を見ないとどんなものが要るか分からないから殆ど買ってないけどね。適宜必要になったら買い足すわ」
そうして奥さんは早速原稿用紙に下書きを始めた。
そんなこんなでアマチュアとはいえ熟練のアレ女子な奥さんのおかげでスムースに線画は出来ていき、線画が完成してからは先生も消しゴム掛けやベタ、トーン等を分業で手伝いつつ本格的にペン入れが始まった。
しかし、熟練の奥さんも(※サザエさん時空での)ブランクが長いせいかなかなか制作には難航している様子だった。
そうして気付けばアレ編集さんから提示された締め切り日まで半月を切るくらいになっていた。
「…ぜえぜえ。ええと、君。あと何ページで完成だっけ」
「…はあはあ。…えーっと、あと24ページ弱ね…」
「は、半月後締め切りにしてはなかなか絶望的なページ数ですね…」
「…いや、君本当に安請け合いして済まなかった。まさか漫画をきちんと描くのがこんなに労力の要る事だったとは。…今からでも編集さんに土下座して、この企画は無かったことにしてもらおうかね…いやそうするとリアルな意味で私の首が危ないかもしれないが」
「そ、それもそれで怖いし大変ですよね…」
「…ううん、私もかつての壁サーアレ女子としてここまで頑張ったのに落としたくは無いし、先生の首がリアルで飛ぶのは絶対に阻止しないとだし。…じゃあ先生には申し訳無いのだけれど、今からでも急遽アシスタントさんを雇えないかしら。一人居てくれるだけでも私がその分だるま君のお世話とかに回れるし、すごく助かるのだけど」
「…うーむ、分かったよ。今もう年末近いから急遽雇えるか難しいが、どうにか都合がつかないかアレ編集さんに聞いてみるよ」
「ええ、悪いのだけどお願い。…ああ、気が付いたらもうこんな時間。だるま君もごめんなさいね、お腹空いたでしょう。手抜きで悪いんだけど、今日はインスタントラーメンとかでいいかしら」
「はい、構いませんよ。こんな修羅場でちゃんとしたご飯作ってたら大変ですものね。いつも僕のお世話もあるしすみません。流石にトイレとかは尊厳失いたくないんでアレですが、なんならお風呂とか冬場だし一日二日くらいパスしちゃってもいいですよ?」
「いや、それは気の毒すぎるし、だるまとはいえ君は立派な家族だから。修羅場とはいえそんな扱いは出来ないよ。じゃあ大急ぎでこれから編集さんにアシさんの都合がつかないか聞いてみるから、悪いがそれまで数日は頑張ってくれるかい」
「ええ、分かったわ。先生も急かして悪いのだけどお願いね」
そうしてその日も僕はしっかりお風呂に入れてもらい、若干手抜きながら美味しいご飯もきちんと与えられ、翌日。
「…うむむ。君、本当に済まない。やはり年末進行でどこも修羅場なようで、率直に言って今からアシさんを雇うのは難しいようだ。…私の見通しが甘いのがいけなかった。本当に申し訳ない」
そう先生は今までで初めて見るくらい申し訳なさそうに、奥さんにぺこぺこと頭を下げていた。
「…ええ、まあ正直覚悟はしていたわ。プロとしてやった事は無いけれど、同人でもプロでもこの時期は本当にどこも修羅場なのはよく分かるしね。…しかしそうなると困ったわね…」
「…うーん、僕本当に手足アレなんで何もお役に立てずすみません。なんか超都合よく魔法の力に目覚めて魔法少年に変身して魔法でちゃちゃっと全部解決とか、超すごい万能AIの相方がいてどうにかしてくれるとかのご都合展開があれば良かったんですが」
「うーん、気持ちは嬉しいけれどそれはご都合展開すぎてアレだから話としては頂けないねえ」
「ええ、世界線が違うでしょうしね」
「…じゃあ、まあもう藁にもすがる思いで家の前にアシスタント募集の張り紙をしてみようか。あと一応、ダメ元でアレ編集さんにもなんとか臨時アシをやってくれる人が居ないかを探して貰っているから、奇跡的に見つかるよう祈りつつ僕達二人でどうにか頑張るしかないね」
「ええ、そうね。泣き言を言っていても始まらないし。頑張りましょう」
そうして手書きの切羽詰まった感満載の漫画アシスタント募集の張り紙を数部急遽コピーして印刷し、家の門扉や家周辺のフェンスや電柱に役所の許可を貰って先生が貼って回った。
「…うーん、我ながらこんな切羽詰まった感満載の素人チラシで来てくれるか不安だが。冷やかし以外で来てくれる物好きな人が現れるのを祈ろう」
だが、それから二日ほど後の事。
(ピーンポーン)
「…あれ、こんな夜近くに誰だろう。君、今日は出前頼んでないはずだよね?」
「ええ。昨日宇宙人さんのやってる宅配ピザ頼んだから、今日は頼んで無いわよ」
「…あ、あの。表の張り紙を見て来た者ですが。…良かったら、数日で良いので雇ってくださいませんか」
「「えっ」」
玄関を開けると、そこにはベレー帽をかぶり分厚い眼鏡にマフラーと厚手のセーターで口元を隠し素顔はよく見えないが、おそらく若めと思しき女性がおずおずと立っていた。
「…えと、お呼びでないようでしたら、帰りますが。…すみません」
「とと、とんでもない。まさかあんな素人感満載のチラシで来て下さる方がいらっしゃると思わなかったので驚きまして。大歓迎です、さあ上がって上がって」
「え、そ、そんな良いんですか、ちょ」
取るものもとりあえずその女性に上がってもらい、即採用したい所だが取り急ぎ面接を行う事にした。
「…ええと、G県出身の朽野咲子さん、二十二歳…ですか」
「は、はい。実家から何か一旗揚げたいと出てきたは良いものの、何のつても無いので途方にくれていたところで表の募集チラシが目に入りましたのでつい。あ、漫画は好きで昔からよく描いてます」
「ああ、そうですか。では何かラフでいいのでこの紙に書いてみて頂けますか。もし完成原稿やイラストがあれば見せて頂けると助かりますが」
「わ、わかりました。では失礼して…。あと、恥ずかしいですがこれが自作画像を上げているお絵描きSNSのアカウントです」
「分かりました。絵の心得のある妻にも見せて参りますね。少々失礼します」
すかさず私は別室で控えていた妻とだるま君に彼女のSNSアカウントと、さっと描いてもらったラフ画を見せた。
「私はなかなか上手いと思うのだが、君、どう思うかね」
「ええ、私も上手いと思うわ。全体的な画力は少し粗削りだけど、躍動感のある良い線を描く人だと思うわ」
「うーん、さすが奥さん。僕は普通に上手いとしか思えませんでした。でも、アシスタントさんが見つかって良かったですね」
「ええ、若い女性なら安心できるしね。男性でも先生がいてくれれば安心だとは思うけど、見ず知らずの人を自宅に長時間上げるのはアレな町とはいえちょっとだけ抵抗あったし」
「あー、確かに」
「じゃあ採用という事で声をかけてくるが、いいかね」
「ええ、良いと思うわよ。お賃金の面は先生が直接相談してね」
「ああ、そうするよ」
そうしてその女性、朽野さんはさっそく採用され(流石に寝泊まりは別途宿泊費を支給して近場で宿をとってもらう事になった)、臨時アシスタントを務める事になったのだが。
「…え、アシスタント作業中は誰も見ないでほしい…?」
「…はい、大変申し訳ないのですが。…素顔を見られると緊張してしまうもので。まるで鶴の恩返しのようで不便で申し訳ございませんが、どうかよろしくお願いします」
「…う、うーむ。まあ、分かったよ。事情があるのだろう、仕方が無い」
そうして納得したように、先生は朽野さんを一人作業部屋に置いて隣の居間に戻って来た。
「…うーん。君、だるま君。これはどう考えても見ろというフリだよね?」
「はい、話の流れ的にもそうでしょうね」
「ええ、こういう流れで見るなと言って本当に見ない事には話が進展しないしね」
「…だよねえ。まああの外見や名前もアレだし、だいたいどういう事か想像は付くが。…約束を破りたくはないが、話の流れ的にも仕方ないかね」
そんな訳で先生は話の流れ上仕方なさげにガラガラと隣室の襖を開けた。
(ガラガラガラ)
「…あ、ああっ。見ないでって言ったのにいいいい」
「…ああ、やっぱりそういう事かい」
朽野さんの素顔は、耳近くまで口が裂けていた。
「…もう見られたからにはここにいられません。お給料はいいので出て行かせて頂きます」
「あーここ君みたいな妖怪や怪異そこら中うようよしてる人外魔境だし君みたいな人見慣れてるから驚かないよ。出て行かなくていいから仕事終わるまでここにいてくれたまえ、今君に出て行かれると困ってしまうよ」
「…え、ええっ???」
「ええ、貴女故郷から出て来たばかりだから知らないでしょうけど、うちそういう人達見慣れてるし。ほらこのだるま君も人間だけど貴女とある意味似たようなものだし。だから逃げなくて大丈夫よ」
「…た、確かにそうですけどそう言われるとなんか複雑…」
「…え、ええと。故郷ではこの顔を見られるたび叫んで逃げられていたので、そんな対応をされたのは初めてです。…でも、ありがとうございます」
「まあ、普通の地域ではそうだろうがね。口裂け女程度この辺じゃありふれてるから大丈夫だよ」
「ええ、誰も気にしないから隠さなくて平気よ」
「ええ、僕ももはやこの程度では平気になりました」
そんな訳で早々にネタバレしもはや隠す必要も無くなった朽野さんの連日のアシスタントのもと、どうにか締め切りギリギリにだが漫画原稿は無事完成したのだった。
「いやあ、間に合って本当に良かった。君、だるま君に朽野さん。みんなの協力のおかげだよ。本当にありがとう」
「はい、先生の原稿をお手伝い出来て光栄でした」
「先生に皆さん、本当にお疲れ様でしたー」
「ええ、私も大変だったけど久々に漫画が描けて楽しかったわ」
「はい、確かに原稿お預かりしました。いやあ、無茶なお願いでしたが聞いて下さってありがとうございました。珍しく締め切りにも間に合ったし」
「…い、いやあハハハ……」
(うわー、この人が先生も怖がるアレ編集さんか。確かに目が笑ってないの怖い)
「さあ、皆に朽野さんも。数日早いけどもうすぐ大晦日だし、よかったら年越しそば食べて行って下さいな」
「わーい、ありがとうございます。僕お蕎麦好きだから嬉しいです」
「こ、こんな口裂け女の私にまで、どうもありがとうございます」
「ああ、皆で食べるお蕎麦は美味しいからね」
そうして無事皆でちょっと早い年越しそばを美味しく頂き、先生の初めての漫画原稿はどうにか無事完成したのだった。
先生の漫画原稿はなかなか好評で掲載誌の売れ行きも好調のようで、義肢の購入費用の大きな助けになりそうとの事で僕も嬉しかった。
朽野さんはその後もこの人外魔境が気に入ったようで近所のアパートに住むようになり、たまにスーパー等で顔を合わせるご近所さんになった。
「あ、先生お帰りなさい。…あら、そんなに困った顔してどうしたの?」
「え、馴染みの編集さんと打ち合わせされて来たんですよね。本当に先生がそんなに困ってるの珍しいですね」
「…ううむ、ちょっと無理難題を押し付けられてだね。どうした物かと思ってね」
「えー、先生大概の事は出来る完璧超人だし、基本猟奇的でアレ気味だけど割と作風も幅広いのに。どんな無理難題を課せられたんですか」
「…いや、それがだね。小説じゃなくて、特別企画で読み切り漫画を描いてみないかといきなり言われてね」
「ま、漫画ですか」
「あらあら、それはまた急な企画ね」
「うん、確かに私漫画も大好きだし、小学生の頃の夢は漫画家でそれなりに描いたりはしていたが。正直画伯とはいかないまでも私絵はさほど上手く無いし、趣味ならともかくとてもプロとして商業雑誌に載せられるようなレベルの代物は作れないからすぐに断ろうと思ったのだがね。…この前原稿落としかけて編集長に土下座して締め切り1週間延ばしてもらったの忘れたんですか、と目が笑ってない笑顔で言われたら断り切れなくてねえ」
「う、うわあ。確かにそれは断り辛いですね」
「ああ、あの編集さん普段温厚だけど怒らせると相当怖いものね。昔アレな人数名鋼線で絞め殺してるらしいし」
「こ、怖い」
「まあそういう訳で大事な取引相手だし断る訳にも行かなくてね。全くどうしようかねえ」
「大変ですねー。でも先生小説家なのになんでいきなり漫画の企画なんですかね?」
「うん、何でもその編集さんの出版社で出してる漫画雑誌で連載中の作家さんが突然殺されちゃったらしくてね。幸い原作担当者はあてがあって、作画もアシスタントの人達が引き継いで連載継続する事になったんだがやっぱり準備に少しかかるし、その間代原で数週埋めないといけなくなったんだが、そういう訳で私が描いてみないかと言われてね」
「ああ、そういえば数日前ニュースになってたわね。この近所に住んでた漫画家さんで、アレ過ぎる熱狂的ファンが押しかけてアニオリ展開が酷すぎるってブチ切れて惨殺されちゃったんですってね」
「う、うっわー。アレ過ぎるとはいえファンなら作者さん殺っちゃだめでしょ。アニオリが酷いなら原作者さんに罪は無いし」
「まあ確かにそうだよね。だが私もニュースで気になって、どれだけアニオリが酷いか原作と見比べてみたんだが。…申し訳無いが私としては、原作よりアニメの方が遥かにクオリティ高いように思えたんだよね」
「ええ、私も新作アニメは割とチェックする方だからその作品見てたわ。それでアニメは普通に面白かったけど、こういうこと言っちゃ悪いけど原作漫画は相当にアレだったわね。正直良くアニメ化まで行けたなーと思うくらいに」
「…そ、そうなんですか。奥さんがそこまで言うって事は相当にアレなんでしょうね」
「ええ。漫画アプリで無料配信分だけ読んだから実質ノーダメだったけど、もしお金出して単行本買ってたら燃やしたくなるレベルでアレだったわね」
「お、奥さんがそれ程に言うレベルのアレさって逆にちょっと気になって来ました」
「いやあ、確実に時間を無駄にしたと後悔するし最悪頭痛くなるから止めた方が良いと思うよ」
「…せ、先生もかなり言いますね。ってか人外魔境に慣れたとはいえ、近所にそんなアレな奴いるの怖いなあ」
「ああ、その先生を機関銃でハチの巣にした後チェーンソーでバラバラにしてとどめに硫酸ぶっかけてオーバーキルした厄介ファンは即捕まって、過去に相当やらかしてるしもう間もなく処刑されるそうだよ。ほら少し前の人魚事件で聞き込みをした、仮釈放中の危ない男がやっぱりやらかしたそうだ」
「ひ、ひええ。例の明らかにヤバいピエロ風メイクのあいつですか。でもこの町銃火器ショップとか普通にあるとはいえ厳重な監視が付いてたのに、よくそんな凶器入手して乗り込めましたね」
「うーむ、私もそれは少し不審に思うんだがね。アレな町とはいえ流石にそれ程危ない奴にはそうそう危険物は渡らないようになっているはずだが。まあ倫理観のアレ気味なマッドサイエンティストとかいるし、人間にさほど詳しくないが強力な武器を作れる妖怪とかもいるしね。工夫すればどうとでも調達できるだろう」
「…な、なるほど。慣れたとはいえやっぱこの町怖い」
「まあ当然処刑されたくないからだろうが、その男自分はやっていないと言い張っているらしいがね。初めから頭がおかしい奴だし信憑性は無いだろうね。…で、何となく推理作家としてのカンなんだが。この事件の真相は明らかにしない方が良いと思うんだよね」
「そ、そうなんですか」
「うん、まあ警察に協力してる身としてそういう事言うのも良くないと思うけど。時には知らない方が皆幸せになるという事もあるしね」
「う、うーん確かに。イヤミスとかもそういう結末のあったりしますもんね」
「ええ、時にはそういう事もあるわよね。倫理的にはアレだけど」
「で、企画の話に戻るんだけど。当然プロじゃないから若干アレなクオリティでも大丈夫ですよとは言われたが、それにしてもあまりに残念な物を載せる訳にもいかないし困ってね」
「うーん、ですよね。でもいきなりアシスタントさんとか募集して来てくれますかねえ」
「まあ、どうしても困ったらその編集さんが紹介してくれるとは言ったが。あんまり残念な原稿を他人に見られるのもどうにも気恥ずかしくてね。仕事柄基本共同作業とかしないから勝手が良く分からないしね」
「あー、確かにそうですよね」
「ああ、じゃあメイン作画は私が担当するわ。私もプロじゃないし相当ブランクあるけど」
「え、奥さん漫画描けるんですか?」
「ええ、ちょっと恥ずかしいけど中学の頃から大学時代まで同人誌描いてて。オリジナルもあるけど大半は二次の要するに男の子がアレな感じのやつを。まあ当然18歳以下の時はアレ過ぎる物は控えてたけどね」
「…な、なるほどそう言う系の女子でしたか。だから僕のお世話それ程抵抗なかったんですね」
「うん、そういう事。そんな訳で似たような趣向や性癖の先生とも速攻で意気投合してね。自分で言うのもアレだけど全盛期はそれなりの大手サークルだったわ。80年代からサザエさん時空な訳でその更に前だからSNSとかデータ販売とか一切無い紙の本のみの時代だったけど」
「…そ、その頃からサザエさん時空って事はそうなりますよね」
「ああ、彼女の作品はなかなかの物だよ。流石にだるま君みたいなキャラは滅多にいないものの性癖と作風なかなかに尖ってたし」
「…め、滅多にって事はたまにはいたんですか。本当お似合いのご夫婦ですね」
「ええ、出会った時にこれは運命だと感じたわ」
「ああ、まさにディスティニーだと私も思うね」
「そ、それは良かったです。うーん、僕も何かお手伝いしたい所ですが手足がこれなんで何も出来ずすみません」
「ああ、好きで手足アレになった訳じゃ無いしそれは気にしないで良いよ。ただ作業中はしばらくお散歩等は行けなくなるかもしれないが済まないね。締め切り1か月半後だからあまり余裕が無いし」
「ええ、それは仕方ないと思ってますし、家にいるだけでも十分楽しいんで大丈夫ですよ。お気遣いなく」
「それで先生、ストーリーはどうするの?やっぱり編集さん的にはいつもみたいなアレ気味な作風を期待しているのかしら」
「ああ、青年誌とはいえあまりにアレすぎる描写は控えて欲しいとの事だったが、やはりいつものような感じでお願いしたいと言われたね。だから人気のあるシリーズの中の、比較的アレな描写の少ない1篇を漫画化しようと思ってね」
「ええ、良いと思いますよ」
「じゃあ原作は大丈夫として、とりあえずラフで良いからネームを描いてくれるかしら。そうしたら私が清書するから」
「ああ、分かったよ。なるべく急いで描くからまってておくれ」
「先生、頑張って下さいねー」
そんな訳で5日くらい後。
「…ふう、ネームとはいえ案外難しい物だねえ。待たせてごめんね、どうにか完成したよ」
「先生、お疲れ様。じゃあ読ませてもらうわね」
「ええ、僕も昔落書きみたいな物だけど描いた事ありますが数ページでも結構大変ですものね。お疲れ様でした」
そして少し後。
「うん、内容は良いと思うわ。もう少しコマ割りやカットをこうした方が良いかしらみたいなところは、後で伝えるわね」
「ああ、君の方が漫画については玄人だから頼むよ」
「じゃあ早速私も描き始めるわね。文房具屋さんで画材や原稿用紙も買って来たから」
「おー、さすが手際が良いですね」
「スクリーントーンとかは内容を見ないとどんなものが要るか分からないから殆ど買ってないけどね。適宜必要になったら買い足すわ」
そうして奥さんは早速原稿用紙に下書きを始めた。
そんなこんなでアマチュアとはいえ熟練のアレ女子な奥さんのおかげでスムースに線画は出来ていき、線画が完成してからは先生も消しゴム掛けやベタ、トーン等を分業で手伝いつつ本格的にペン入れが始まった。
しかし、熟練の奥さんも(※サザエさん時空での)ブランクが長いせいかなかなか制作には難航している様子だった。
そうして気付けばアレ編集さんから提示された締め切り日まで半月を切るくらいになっていた。
「…ぜえぜえ。ええと、君。あと何ページで完成だっけ」
「…はあはあ。…えーっと、あと24ページ弱ね…」
「は、半月後締め切りにしてはなかなか絶望的なページ数ですね…」
「…いや、君本当に安請け合いして済まなかった。まさか漫画をきちんと描くのがこんなに労力の要る事だったとは。…今からでも編集さんに土下座して、この企画は無かったことにしてもらおうかね…いやそうするとリアルな意味で私の首が危ないかもしれないが」
「そ、それもそれで怖いし大変ですよね…」
「…ううん、私もかつての壁サーアレ女子としてここまで頑張ったのに落としたくは無いし、先生の首がリアルで飛ぶのは絶対に阻止しないとだし。…じゃあ先生には申し訳無いのだけれど、今からでも急遽アシスタントさんを雇えないかしら。一人居てくれるだけでも私がその分だるま君のお世話とかに回れるし、すごく助かるのだけど」
「…うーむ、分かったよ。今もう年末近いから急遽雇えるか難しいが、どうにか都合がつかないかアレ編集さんに聞いてみるよ」
「ええ、悪いのだけどお願い。…ああ、気が付いたらもうこんな時間。だるま君もごめんなさいね、お腹空いたでしょう。手抜きで悪いんだけど、今日はインスタントラーメンとかでいいかしら」
「はい、構いませんよ。こんな修羅場でちゃんとしたご飯作ってたら大変ですものね。いつも僕のお世話もあるしすみません。流石にトイレとかは尊厳失いたくないんでアレですが、なんならお風呂とか冬場だし一日二日くらいパスしちゃってもいいですよ?」
「いや、それは気の毒すぎるし、だるまとはいえ君は立派な家族だから。修羅場とはいえそんな扱いは出来ないよ。じゃあ大急ぎでこれから編集さんにアシさんの都合がつかないか聞いてみるから、悪いがそれまで数日は頑張ってくれるかい」
「ええ、分かったわ。先生も急かして悪いのだけどお願いね」
そうしてその日も僕はしっかりお風呂に入れてもらい、若干手抜きながら美味しいご飯もきちんと与えられ、翌日。
「…うむむ。君、本当に済まない。やはり年末進行でどこも修羅場なようで、率直に言って今からアシさんを雇うのは難しいようだ。…私の見通しが甘いのがいけなかった。本当に申し訳ない」
そう先生は今までで初めて見るくらい申し訳なさそうに、奥さんにぺこぺこと頭を下げていた。
「…ええ、まあ正直覚悟はしていたわ。プロとしてやった事は無いけれど、同人でもプロでもこの時期は本当にどこも修羅場なのはよく分かるしね。…しかしそうなると困ったわね…」
「…うーん、僕本当に手足アレなんで何もお役に立てずすみません。なんか超都合よく魔法の力に目覚めて魔法少年に変身して魔法でちゃちゃっと全部解決とか、超すごい万能AIの相方がいてどうにかしてくれるとかのご都合展開があれば良かったんですが」
「うーん、気持ちは嬉しいけれどそれはご都合展開すぎてアレだから話としては頂けないねえ」
「ええ、世界線が違うでしょうしね」
「…じゃあ、まあもう藁にもすがる思いで家の前にアシスタント募集の張り紙をしてみようか。あと一応、ダメ元でアレ編集さんにもなんとか臨時アシをやってくれる人が居ないかを探して貰っているから、奇跡的に見つかるよう祈りつつ僕達二人でどうにか頑張るしかないね」
「ええ、そうね。泣き言を言っていても始まらないし。頑張りましょう」
そうして手書きの切羽詰まった感満載の漫画アシスタント募集の張り紙を数部急遽コピーして印刷し、家の門扉や家周辺のフェンスや電柱に役所の許可を貰って先生が貼って回った。
「…うーん、我ながらこんな切羽詰まった感満載の素人チラシで来てくれるか不安だが。冷やかし以外で来てくれる物好きな人が現れるのを祈ろう」
だが、それから二日ほど後の事。
(ピーンポーン)
「…あれ、こんな夜近くに誰だろう。君、今日は出前頼んでないはずだよね?」
「ええ。昨日宇宙人さんのやってる宅配ピザ頼んだから、今日は頼んで無いわよ」
「…あ、あの。表の張り紙を見て来た者ですが。…良かったら、数日で良いので雇ってくださいませんか」
「「えっ」」
玄関を開けると、そこにはベレー帽をかぶり分厚い眼鏡にマフラーと厚手のセーターで口元を隠し素顔はよく見えないが、おそらく若めと思しき女性がおずおずと立っていた。
「…えと、お呼びでないようでしたら、帰りますが。…すみません」
「とと、とんでもない。まさかあんな素人感満載のチラシで来て下さる方がいらっしゃると思わなかったので驚きまして。大歓迎です、さあ上がって上がって」
「え、そ、そんな良いんですか、ちょ」
取るものもとりあえずその女性に上がってもらい、即採用したい所だが取り急ぎ面接を行う事にした。
「…ええと、G県出身の朽野咲子さん、二十二歳…ですか」
「は、はい。実家から何か一旗揚げたいと出てきたは良いものの、何のつても無いので途方にくれていたところで表の募集チラシが目に入りましたのでつい。あ、漫画は好きで昔からよく描いてます」
「ああ、そうですか。では何かラフでいいのでこの紙に書いてみて頂けますか。もし完成原稿やイラストがあれば見せて頂けると助かりますが」
「わ、わかりました。では失礼して…。あと、恥ずかしいですがこれが自作画像を上げているお絵描きSNSのアカウントです」
「分かりました。絵の心得のある妻にも見せて参りますね。少々失礼します」
すかさず私は別室で控えていた妻とだるま君に彼女のSNSアカウントと、さっと描いてもらったラフ画を見せた。
「私はなかなか上手いと思うのだが、君、どう思うかね」
「ええ、私も上手いと思うわ。全体的な画力は少し粗削りだけど、躍動感のある良い線を描く人だと思うわ」
「うーん、さすが奥さん。僕は普通に上手いとしか思えませんでした。でも、アシスタントさんが見つかって良かったですね」
「ええ、若い女性なら安心できるしね。男性でも先生がいてくれれば安心だとは思うけど、見ず知らずの人を自宅に長時間上げるのはアレな町とはいえちょっとだけ抵抗あったし」
「あー、確かに」
「じゃあ採用という事で声をかけてくるが、いいかね」
「ええ、良いと思うわよ。お賃金の面は先生が直接相談してね」
「ああ、そうするよ」
そうしてその女性、朽野さんはさっそく採用され(流石に寝泊まりは別途宿泊費を支給して近場で宿をとってもらう事になった)、臨時アシスタントを務める事になったのだが。
「…え、アシスタント作業中は誰も見ないでほしい…?」
「…はい、大変申し訳ないのですが。…素顔を見られると緊張してしまうもので。まるで鶴の恩返しのようで不便で申し訳ございませんが、どうかよろしくお願いします」
「…う、うーむ。まあ、分かったよ。事情があるのだろう、仕方が無い」
そうして納得したように、先生は朽野さんを一人作業部屋に置いて隣の居間に戻って来た。
「…うーん。君、だるま君。これはどう考えても見ろというフリだよね?」
「はい、話の流れ的にもそうでしょうね」
「ええ、こういう流れで見るなと言って本当に見ない事には話が進展しないしね」
「…だよねえ。まああの外見や名前もアレだし、だいたいどういう事か想像は付くが。…約束を破りたくはないが、話の流れ的にも仕方ないかね」
そんな訳で先生は話の流れ上仕方なさげにガラガラと隣室の襖を開けた。
(ガラガラガラ)
「…あ、ああっ。見ないでって言ったのにいいいい」
「…ああ、やっぱりそういう事かい」
朽野さんの素顔は、耳近くまで口が裂けていた。
「…もう見られたからにはここにいられません。お給料はいいので出て行かせて頂きます」
「あーここ君みたいな妖怪や怪異そこら中うようよしてる人外魔境だし君みたいな人見慣れてるから驚かないよ。出て行かなくていいから仕事終わるまでここにいてくれたまえ、今君に出て行かれると困ってしまうよ」
「…え、ええっ???」
「ええ、貴女故郷から出て来たばかりだから知らないでしょうけど、うちそういう人達見慣れてるし。ほらこのだるま君も人間だけど貴女とある意味似たようなものだし。だから逃げなくて大丈夫よ」
「…た、確かにそうですけどそう言われるとなんか複雑…」
「…え、ええと。故郷ではこの顔を見られるたび叫んで逃げられていたので、そんな対応をされたのは初めてです。…でも、ありがとうございます」
「まあ、普通の地域ではそうだろうがね。口裂け女程度この辺じゃありふれてるから大丈夫だよ」
「ええ、誰も気にしないから隠さなくて平気よ」
「ええ、僕ももはやこの程度では平気になりました」
そんな訳で早々にネタバレしもはや隠す必要も無くなった朽野さんの連日のアシスタントのもと、どうにか締め切りギリギリにだが漫画原稿は無事完成したのだった。
「いやあ、間に合って本当に良かった。君、だるま君に朽野さん。みんなの協力のおかげだよ。本当にありがとう」
「はい、先生の原稿をお手伝い出来て光栄でした」
「先生に皆さん、本当にお疲れ様でしたー」
「ええ、私も大変だったけど久々に漫画が描けて楽しかったわ」
「はい、確かに原稿お預かりしました。いやあ、無茶なお願いでしたが聞いて下さってありがとうございました。珍しく締め切りにも間に合ったし」
「…い、いやあハハハ……」
(うわー、この人が先生も怖がるアレ編集さんか。確かに目が笑ってないの怖い)
「さあ、皆に朽野さんも。数日早いけどもうすぐ大晦日だし、よかったら年越しそば食べて行って下さいな」
「わーい、ありがとうございます。僕お蕎麦好きだから嬉しいです」
「こ、こんな口裂け女の私にまで、どうもありがとうございます」
「ああ、皆で食べるお蕎麦は美味しいからね」
そうして無事皆でちょっと早い年越しそばを美味しく頂き、先生の初めての漫画原稿はどうにか無事完成したのだった。
先生の漫画原稿はなかなか好評で掲載誌の売れ行きも好調のようで、義肢の購入費用の大きな助けになりそうとの事で僕も嬉しかった。
朽野さんはその後もこの人外魔境が気に入ったようで近所のアパートに住むようになり、たまにスーパー等で顔を合わせるご近所さんになった。
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